第10話 証言
***10***
「教えてとは言ったけどさ」
また私なの? 私がその日のうちに偵察に乗りこむわけ?
「じゃ、ホワミー頼んだわね。私はお酒は無理だから、はす向かいのコンビニでコーヒー飲んで待ってるから」
何杯飲む気だろうなあ、コーヒー。
路地に青い看板を掲げてたたずむ、ここ『天然娘々』通称てんむすは、表は居酒屋でも裏はゲイバーという特殊な作りのお店だった。一見さんの私はそうっと居酒屋へ。
北園さんちのお隣さんが働いてるはずなんだけど。
「お席、ご自由にどうぞ」
言われて思わず角をとってしまう、慎重な私。ビビッてなんかいないわよっ。はじっこだと安心するだけ!
しばらくお水を飲みながら、アクリル板ごしに店員さんを観察する。十九時ちょうどだ、よし。ゲイバーの開く時間。
「伊藤英美さん、いらっしゃいますか?」
店長の方に聞く。
うるうるうる。のっぴきならない事情があんのよ、会わせてちょうだい! というシリアス顔をする。
「ひとみちゃんですか、裏にいますよ」
手に矢印を書いたみたいに、すぐそばの黒い遮光カーテンを示す。
裏庭には二羽ニワトリがいますよ、みたいな言い方。
とまれ、私の演技力もまだまだイケてるっ。
奥のドアを進むと、そこは別世界だった。
薄暗いんだけど、ムードは裏社会のバーって感じ。まあ、裏は裏なんだけど、足元は間接照明で、ボックス席が三つ。天井から安っぽい飾りがチカチカ光ってる。カウンター席につく私。始まってすぐだから客の姿はない。いきなり来ちゃって大丈夫なのかな。つうか、伊藤英美と面識あるのは由美なんだから由美がくればいいのに、なんで私が。お酒は最近弱くなったし、場に酔うようにもなった。
そこで私はぐでんぐでんになった。
わかんないんだけど、メモがあるので抜粋していきたい。
――英美証言。
『イアラちゃんとは仲がいいお友だち(自称)。北園母が昼間いないので、よく部屋に遊びに来る』
――疑問。
「死んだんじゃないのが残念って、どういう意味?」
『そんなこと言ってない』
「けど事故と聞いて、残念そうだったよね」
『あれは、ホッとしたんだってば』
「どういう意味でホッとしたの?」
『事件だったら警察がくるでしょう? ごたごたはごめんよ』
――英美証言。
『イアラちゃんのママは家庭第一主義。だけど旦那はひどかったらしい。結婚して五年くらいはおとなしくしてたんだけれど、イアラちゃんが十歳の時に、全財産を競馬で使って大喧嘩になったそう――その年の今頃に、マンションから飛び降りを――警察は事故だって言ってたけどね』
『イアラちゃんのママは資産持ちだから、あのマンションも彼女の名義になってるし、旦那が散財しなければ働かなくたって暮らしてはゆけたの。今は介護のパートタイマーだってことだけど』
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