第8話 生と死をわかつもの

***8***


「いやだよ、いやだよ。私のスマホで死体とか、ほんとマジでやめてください、撮らないでっ」

 私は青いアスファルトに足を伸ばして由美に縋りつくけど、そんなの許してくれる相手じゃない。

 なんてったって、由美は『自称・探偵』の名タマゴなのだ。なんでか知らないけれど、高校のときから勉強ばっかりしてるやつだった。その割に成績は私より五つくらい順位が下だったけれど、三年の受験シーズンになったら総合で追い抜かれた。粘り強くしつこくて、結局、誰も由美にはかなわないんだ。

「自殺なら、原因はなにかしら」

 由美がつぶやく。もー、そんなこと言ってる場合か!

「とにかく、行ってみれば近くの人に何か情報もらえるかもだし。うもう、離してよ! ホワミー」

「いやだよ、いやだよぅ。一一九番だけして部屋で温まっていようよう」

「この根性無しっ」

「なんで……すってぇ!」

 むかぁっときた。

「なによ! 由美なんて、自力で初期設定できないからって、ガラケーも放り出したくせに! 5Gだって意味わかんないくせに、私のスマホで死体を撮るなぁあ!」

 とたん、シャッ、シャッと音がして、ご近所のカーテンが閉められた。あたりまえか、死体が出るような事件になんて誰も巻きこまれたくないもんね。私だってそうよ!

 私は由美の腕と足に四肢を絡みつかせ、なんとしてもいかせまいとした。

 だけど、三歩進んで四歩さがり、五歩進んで六歩さがり、としているうちになんだかあたりが騒がしくなってきた。

「イアラちゃん! しっかりして、イアラちゃん!」

 藤岡正美の悲鳴が聞こえた。声がひっくり返っている。

 ついで、救急車のサイレンがした。広い道路から入りこんで由美の家の前を曲がってマンションのある方へ行く様子だ。

「死んでなかったみたい」

 由美は他人事のように言った。

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