第4話 毒草が消えた
***4***
なんだったかな。
「ねえ、由美。親友ってね」
「知ってるよ。言いたいのはこうでしょ。九十九パーセントの軽蔑と一パーセントの尊敬からなる関係の事」
「あれ?」
話したことあったっけ。私はさっきの夢で思い出したんだけど。
「よく憶えてるね」
由美はふふん、とスッと通った鼻をますます高くする。
「市立の大学入試の時、長文読解で出たって、ホワミーが言ってたでしょ。記憶力いいんだから、私」
マジか。何十年前のこと憶えてるんだ。
「そうだ、先月貸した千円、返してくれるかな?」と言われ、「おごってくれたんじゃないの?」と聞く。
「割り勘なのに、千円足りないというから、たてかえてあげたじゃん。返して」
木で鼻をくくったような言い方。美人だから鼻につく。
「だからいじめられるんだよ、由美は」
「はぇ?」
「憶えてたって、知らんふりして話に乗ってれば、話題が広がるでしょうに」
「そりゃ悪かったわ」
だからー、物事をいいか悪いかで判断するなよ。雑談しようにも取り付く島もないんだから。
「そうそう」
と由美が珍しく口火を切った。
「最近、近所のマンションの角でハシリドコロを見たの」
「最近て?」
「去年かな。夏に黒っぽい紫の釣り鐘型の花が咲いてて」
言いしれず胸がもやっとした。
「そんな大事なことを、今更言うの?」
こわくて思わず、笑っちゃうんだけど。
「私も危ないなって思ってて、で、今年になって芽が出てるのを見たから、間違って食べちゃったりなんかしたりする人がいないといいなって」
「なんで、毒草を植えてるの、そのマンション」
知らない、と由美は端的に答えて、古いパソコンを立ち上げる。
ハシリドコロっていうのは、某サスペンスドラマでもモチーフになっていた、根茎葉にも花にも実にも、とにかく丸ごと全部が毒成分を含む野草だ。春先になると山菜と間違えて食べてしまう人が多い。嘔吐、下痢などの中毒症状のみならず、幻覚や、あと異常興奮で走り回って死に至るケースが続出。だからハシリドコロっていうの。
「うーん、やっぱり気になる……」
「なにが?」
由美がフェミニンな雰囲気に似合わぬ顔つきで思案気にしているから、真剣に聞くことにした。
「そのハシリドコロがね、昨日見あたらなかったのよ」
「ドロボウした人がいたんじゃない?」
「目的は?」
「……決まってるじゃない、殺人よ」
うは、言っててこわい。
「そんなのだめよ。マンションの管理人に聞いてみよう」
と由美。
あれ? その管理人っていう人は、当の毒草を植えてたんじゃないのかな? そしたら、殺人に使うのはその人なんじゃないのかな。
「へたに首ツッコまないほうがいいと思うよ」
「聞いてみるだけだよ」
「わかった、行ってくる」
「ホワミーが?」
由美はそんなつもりじゃ、とか、悪いから、とか言ってるけど、あんたじゃ無理。コミュニケーション能力が圧倒的に足らない。
ここは私にまかせなさい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます