第3話 探偵事務所?
***3***
勝手知ったるあいつの家だけど、私はしつけが良いから勝手にあがりこんだりはしないわ。
どたどたと階段を降りてくるのを玄関の外で待ちながら、アジフライでどれだけ譲歩してくれるかを考える。
重たいドアが開いた。
「こんにちは~」
愛想よく言ってやると、あいつは――くせっ毛を頭のてっぺんでまとめた、黄色いTシャツ姿の
「ホワミー、時間ちょうどね」
あったり前! えへん。
私がタッパーをさし出すと「いつも悪いね」と言いながら玄関へ入れてくれる。
「あがって。今、ラーメンを作って食べようとしてたところ。インスタントだけど」
あ、朝はカップそばだったからインスタントならいらないな。そう思いながら「今日は食べてきたんだ」と言うと、由美はキッチンで一人、プラスチックのレンジ対応の器をもってきて、きれいな塗り箸でラーメンをすすり始めた。
私は洗面所を借りて口をすすぐと、手を拭いてキッチン兼リビングに入る。
由美んちは一人で住むには無駄に広い。だけど、事務所を構えるにはちょっと手狭なアットホーム。ようするに、居心地がいい。だから依頼がこないんだ、『自称・探偵倶楽部』には。名前からして『自称』とか『倶楽部』とかつけてるあたり、おふざけの素養は十分。なのにボスが由美だから。まるで一条ゆかりさんの『有閑倶楽部』みたいよ。
私は味の濃ゆいポテトチップスをかじりつつ、「一口六十回」噛んで飲みこむ。空腹を耐えるために。なにせサイズオーバーし始めたのは梓家に入り浸るようになってからの事。必ず用意してあるジャンクなおやつにやられっぱなしだ。
「アジフライって、おいしい」
と由美。生まれて初めて気づいたの!?
「母が作ってくれたの。マスタードとポン酢をかけるとまたおいしいんだよー」
「へぇ! かけてみるね」
由美はどでかい冷蔵庫まで歩いて行ってばくんと開く。そうそう、調味料ってなぜかどこのうちでも余ってるんだよね。
「アジフライにマスタードっと。うん、この味、新しいね!」
「でしょー」
私はこれまたでっかいソファに横になると、二時まで起こさないでと言い置いて寝る。
助手らしいことをしろって? だったら賃金をお支払いください。やりがい搾取は業界ゴロです、赦しません。
襖を隔ててすぐ隣りの、和室で猫が寝ている。敷きっぱなしの低反発マットと高反発マットのどちらで猫が寝転ぶか、実験でもしているのだろうか。だいたい、由美は低反発と高反発と、どっちがいいの? 相変わらず優柔不断だな。
「たまには干したら?」
親切に忠告したら、「ホワミーがやってぇ」との返事。
*ね、と思った。
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