12章 12人の子供達と1。


 あの事件以降、日本国内とオゼキたちにとって怒涛の1ヶ月がだった。


 オゼキが目を覚ましたのベッドの上だった。時計を見ると、朝の8時だった。目覚めたことに気づいた看護婦が医者を呼び、医者はオゼキに軽い質問をして終わった。

 それから1時間しない内に、警部のフジオカと相棒の刑事を引き連れてやって来た。恐らく相棒の刑事が悪い刑事役なのだろう。終始威圧的にオゼキの事を見ていた。

 オゼキはどう説明しようか迷った。オゼキの語彙能力では説明できないし、語彙能力が有って説明しても頭がおかしいと思われるのが関の山だ。

「オゼキさん。大変でしたね。よく生き残りましたね」

「自分でも驚いている」

「しかし、まだ東京に不発弾があるとはね」とフジオカ。

「不発弾だと?」

 フジオカの話によると、例の爆発が起きる前に震度3の首都直下型地震が起きたのが原因で地下50メートルに在った旧日本軍の軍事基地に眠っていた1トンの不発弾の信管が刺激を受けて爆発して地下のガス管に引火したことも重なりニュー帝都ホテルと周囲、400メートルは内の建物は全壊、700m内は建物は半壊、1キロ以内は窓ガラスが割れる被害だったそうだ。フジオカはiPadで現場の写真を見せてくれた。ニュー帝都ホテルの地面が大きく陥没して周囲のビルが瓦礫と化していた。

 オゼキは爆心地から600メートル離れた場所の高さ10メートルの木の上で引っかかている所を発見されたそうだ。

「最初はテロか、ドコかの国からのミサイルが飛んできたかと思いましたよ。だけど、犯行声明もないし、自衛隊も米軍も韓国軍も台湾軍も中国軍もロシア軍も北朝鮮軍もレーダー上にミサイル発射された形跡はないと発表してるし、この規模の爆発だと1トンの火薬が必要らしいです。この1週間は一触即発でしたよ。それに、テロリストの爆弾だとしてもニュー帝都ホテルを全壊できるのがやっとですからね。1キロ四方も破壊できないでしょう」

「それで、生存者は?」

「なんだ、新聞読んでないんですか?オゼキさんの部下は全員生きてますよ。ナカノさんとカトウさん。爆発当時、日曜日の夜で運が良い事に金融街にビジネス街ですからね。死者の数は爆発規模の割には少ないです。死者5千人以上。不思議なことにニュー帝都ホテルの従業員も、全壊と半壊した建物に居た人間も奇跡的に助かったですよ。不思議ですよ」

「子供達は?」

「11人が爆心地近くで発見されました。皆怪我してますが、命に別状はないようです」

「そうか」フジオカのiPadで新聞記事を読んだ。見出しに「ニュー帝都ホテル不発弾事件」と書かれていて爆心地の写真をを見た。ニュー帝都ホテルの周囲に在った証券ビル群がまるで隕石が衝突したみたいに大きなクレーターの様に陥没していた。

「アナタは何をしていたんですか?あの周辺で」とフジオカ連れてきた悪い刑事役男が言った。

「守秘義務で言えない」とオゼキは答えた。

「まあ、不発弾の爆発だからこれ以上オゼキさんに聞くことはないでしょう」とフジオカが言った。「そうだ、おまえ、少し個人的な話があるからお前は外に出ていろ」と言うと、相棒は外に出た。

「オゼキさん。本当は何があったんですか?」

「守秘義務で言えない。それに不発弾の爆発のせいだろう?」

「はい、確かに。旧帝都ホテルの地下50メートルの地点に旧日本軍の軍事基地が存在していたそうです。終戦後、忘れ去られたのでしょう。しかし、爆弾をそのままにしておくとはいい迷惑ですよ。今のところは爆弾の破片は見つかっていませんが瓦礫の量から考えて見つけるのには相当の時間がかかるでしょうね。一応テロの線でも捜査してるみたいですけど、少なくても地下50メートルの地点で1トンの火薬が爆発しないとこんなクレーターのようにはならないとの事です。それと、隕石説もありましたがNASAの発表だと隕石が降ってきた形跡は無いようです」

「そうか、生存者のリストを見せてくれ」とオゼキが言うと、フジカワはiPadでリストを見せてもらった。サクラとリクは生きている。手足の骨折と脳震盪と書かれていた。リストにクレアが居ないのに気づいた。彼女が唯一被害にあったのか。もしかしたら救えたかもしれないのに。

「もう、大変ですよ」とフジオカ。

「それはそうだろう。こんだけの爆発が都内で起こったんだから」

「いや、それもありますけど。あの爆発で、総理大臣も、大物政治家も、警視庁のトップも最高裁のトップまで死にましたからね。証券取引所も吹き飛んで株価は暴落。一部のクレジット会社のビルも崩壊したんですがデータをクラウド化してなかったようで。もうむちゃくちゃですよ」

 フジオカの話によると、やはり、あの会場に居た日本を動かす者たち、他にも資本家大企業の社長に大物官僚や成金に文化人に各マスコミのトップ、右翼と左翼の大物、ヤクザの大物まで3千人以上死んだそうだ。

「身元確認が大変でね。皆、ミンチ状態ですよ。本当に3千人以上なのか、もっと多いのかわかりません。今、鑑識が日本中から集まって死体の身元確認をしていますが。恐らくDNA鑑定を使っても5年はかかるそうです」

「そうか」と言って生存者リストをもう一度見るとイイジマが載っていない事に気づいた。彼も死んだのか。

「先輩、ココだけの話し、これって先輩が追っていたパズメ教会と関係あるんですか?」

「いや、関係ない」とオゼキは嘘をついた。

「それと、不思議な事がありましてね。周囲のニュー帝都ホテルの従業員も全壊、半壊した建物の生存者の何人かが光る人間に助けられたと言うんですよ。20件くらいですけどね。それと、巨大な紫色の発光した怪獣を目撃した人が数十名。何かオゼキさん心当たりありますか?」

「さあな、不思議な事は沢山ある。カメラとかには何も映ってないのか?」

「爆発した時の映像は残っているですけど、紫色の強い光は確認できる映像がネット上で出回ているんですが、専門家の話だと爆発の光が強すぎてそう見えるのではないかとの事です」

「死に際の幻想みたいなものじゃないか?ゴジラじゃあるまいし」

「確かに、そうかもしれませんね」と言ってフジオカは病室を去っていた。

 

 オゼキの怪我はたいした事はなかった。かすり傷だけだったので翌日には退院した。それは、カトウもナカノも同じだった。

 オゼキとカトウとナカノはサクラとリクに会いに行った。そこには母のリカが24時間付き添っていた。依頼主のタマキ夫人とキリタニと一緒に彼女を精神病院に入れたのはその2日後だった。双子は「仕方ない。少なくても半年は必要だ」と言っていた。


 「ニュー帝都ホテル不発弾事故」事件から1日後、内閣府全員死亡したことにより世間やマスコミやネット上で彼らを殉教者のように扱われたが、1週間後、匿名で送った20テラバイトのデータが入った複数のmicroSDカードでCNN、BBC、南ドイツ新聞社、ウィキリークスが日本政府がプロテクトシステムを使っている事と内閣府がカルト教団であるパズメ教会と太いパイプを持っている事に加え、占いの儀式に未成年の少年少女が裸で行われていたと報じると、ネット上は大パニックになった。打って変わって世論は前政権に異を唱える運動が盛んとなった。プロテクトは許容量を超えたらしく、世界中のハッカーがプロテクトを攻撃し、システムはダウン。その3日後、臨時の総理大臣と臨時のIT大臣がプロテクトを使用していた事を公式に認めた。プロテクトを使わないと明言した。各種SNSや通信会社はプロテクトが使用されないように今後監視するとの事だった。

 会場に居なかった、以前、子供達の占いに参加した者たちのリストが報道されると財界の大物、資本家、有名人たちは児童ポルノ法によって一斉に逮捕された。


 プロテクトの事が報じられた同じ日に、コミューンで内ゲバが起きていた。アカギとドクターが死んだ翌日に実質パズメ教会の監視官のスギモトが指揮することになったが、信者の中で意見が割れスギモト派は武器庫から銃を奪い異論を唱えた者を射殺した。コミューンを脱走した50人の子供達と成人の男女120人が警察に通報。

 パズメ教会と警察との銃撃戦へと発展した。アカギ邸に50人からなるスギモト一派が陣取り、警官隊と激しい銃撃戦を行った。3日後アカギ邸にいたスギモトを狙撃銃で射殺したことにより事件は解決した。世間では「パズメ教会内ゲバ事件」と言われた。

 フジオカの話によると、暴走した信者たち呪文を唱えながらバットや包丁で殺し合ってい銃を乱射していたらしい。怖くなった信者たちが集会所に避難し50人近くの子供達と成人の男女120名が気づくと、鉄条網の外の近くにある公園に居たとか。2日後、アカギが名義のスイス銀行や国内外の口座、それにケイマン諸島に持っていた隠し口座からお金が消える事件が発生した。しかも、押収物の大量の赤ノ書、青ノ書、緑ノ書の書き起こしした紙と隠し財産である1000万ドル証拠保管室から消えたらしい。監視カメラには何も映っていなかったらしい。


 3週間後、新政権が発足された。総理や各大臣は若者が多かった。かつての前政権のジジイだらけの様子とは違っていた。ゾンビの様な政治家達はあの不発弾で皆死んだからだ。もしかすると、世の中は少し良くなるのではないかとオゼキは思ったが、実際の所は分からなかった。吉と出る凶とでるか。それは、国民も同じようで、中には「新世界だとの到来」だと言う者も沢山居たが、また同じ様な過ちを繰り返すのではないかと少し不安に思った。そう簡単には世の中は変わりはしないとオゼキは思った。だがおそらく、そこそこ普通の国にぐらいになるのではと。


 4週間後、サクラとリクは無事に退院。他の子供達もだ。他の子供達の両親は子供の看病をしていた事もあり運が良い事に「パズメ教会内ゲバ事件」に巻き込まれることはなかった。

 サクラとリクは依頼主のタマキ夫人に預けられる事になった。母親のリカの洗脳が解けるまでだ。タマキ夫人に預ける前の数時間、オゼキと、ナカノ、カトウは一緒に双子と焼肉を食べることにした。

「今日はオゼキさんのおごりよ。病院食は不味かったでしょ?好きなだけ焼肉を食べてね」とナカノ。

「やった!」と双子は一斉に言った。確かに13歳の子供にとって病院食はマズイのは当たり前か。オゼキはさほど病院食がマズイとは思わなかった。味が薄くてそこそこの料理だと思っていた。

「ねえ、カトウさん、フラれたでしょ」とリクが言った。

「なんで、分かったの?」とカトウ。カトウは今回の件で自信をつけたのか、ケバブ屋で働くフィリピン人の女の子をデートに誘ったらしい。だが、フラれた。

「カトウさん、押しが強いんだよ。もっとさり気なくヤラなくちゃ」とサクラ。

「そうか、僕にも君たちみたいに相手の心を読む力がアレばな」とカトウは笑いながら言った。

「レンくんはナカノさんにまた会えてとてもうれしそうだね」とリク

 ナカノは、レンを日本に呼び戻した。

「あら、そこまでお見通しなの?アナタたち将来探偵になったらいいわ。ねえ?オゼキさん」とナカノ。

「君たちだったら、カトウとナカノより高い給料で雇うよ」とオゼキは言った。本心は違った。双子には普通の生活を送ってほしい。それか、双子達の能力を生かして人々を救うような事をして欲しかった。

「じゃあ、アルバイトでいつでも雇って。もちろん、安くしておくよ」とリクが言った。

「あんた、相変わらずフザケた事しか言えないのね」とサクラ。

「まあ、2人とも元気になってよかった。でも、クレアくんの事は残念だ。時々思うんだ。あのとき一緒にいたら、クレア君の事も救えたんじゃないかって」とオゼキはつい心に思っていることを吐露した。まあ、この双子には隠し事をしても意味はないが。

 すると、サクラとリクはお互いの顔を見合わせてニコッとした。

「クレアは。まあね。」とリク。

「どうゆうこと?」とオゼキは言った。確かに、フジカワからもマスコミのニュースでも死体の特定は難しいと書いてあった。

「クレアは、まあ、この話はするのは止めておく」とサクラ。

「うんそうしよう」とリク。

「そうだ、探偵事務所再開するんだって?」とサクラが言った。明らかに話題を変えたがっているのが手にとるように分かった。

「そうだよ。なにかあったら、連絡してくれれば特別に安くしておくよ。例えば、恋人の浮気調査とか」とオゼキが言った。

「そんなのスグに分かるよ」とリク。

「確かに君たちには探偵は必要無さそうだな」

 それから2時間後、依頼主のキリタニとタマキ夫人がやって来て双子達を預けた。タマキ夫人は「ありがとうございます」と言って深々と頭を下げた。自分たちが見えなくなるまで双子は手を降っていた。


 探偵事務所は以前よりキレイになっていた。竜巻も保険でカバーするプランに入っていたようだ。運がいい。窓ガラスに、パソコンに、デスクに椅子に棚を一新した。

 カトウはカナダ行きをやめたらしい。しばらくはこの探偵事務所で働くそうだ。彼は探偵業にやり甲斐を感じたらしい。彼の中で何か弾けたのだろう。コミューンの潜入前に比べて見違えて大人びた雰囲気を醸し出すようになった。しかし、相変わらず、ケバブ屋兼韓国式ホットドックの女性店員にアタックしているらしい。毎回玉砕しているようだが。そのうち、女性店員がストーカー被害でカトウを訴えるのではないかと、それをみてナカノとオゼキは喫煙所で笑い話のネタとして使わせてもらっている。

 ナカノは、息子のレンの留学が期間が終わると以前のように実家で父と母と一緒に暮らしている。ナカノの父は相変わらず再婚をするようにススメてきたそうだが、彼女は無視することにした。言語学者のスズキと友達になりスズキと一緒にボルダリングを始めたそうだ。

 言語学者のスズキは大学をクビにならずに済んだ。そして前から望んでいた子供を養子に迎えた。養子は「パズメ教会内ゲバ事件」で両親を失った5歳の女の子だった。

 サーディグはケバブ屋を辞めて、オゼキの探偵事務所に就職した。IT関連。特にハッキングが必要な時は彼に任せることにした。もちろん、違法な事はしないと約束の元だが、ハッキング自体が違法ではないか?とサーディグを雇った時に思い出した。しばらくはカトウやナカノが通った道の様にお茶くみから始めて、尾行の仕方と望遠レンズを使った写真の撮り方から教えることにした。

 その後アオキはプロテクトの正体を掴んだの自分だと名乗り出て現在は日本と引き渡し条約のないイギリスのマンチェスターに住んでいる。第2のエドワード・スノーデンと言われ、現在ではイギリスのITセキュリティーソフトウェアの会社に入社が決まったらしい。

 娘のナツキは「パズメ教会内ゲバ事件」で両親を失った子供達の里親探しに忙しく会う暇はなかったが定期的に連絡をとっている。

 オゼキはiPhoneで自分の事務所の評価を見るとホシが2.5から4になっていた。文面からするとあの双子のおかげだろう。2人ともホシを5つけてくれた。


 オゼキ探偵事務所が再開した時、最初に入ってきた依頼内容はストーカー被害に遭っている女性だった。彼女はSNS上で誹謗中傷され、しかも、部屋のポストに人糞を入れられ、憔悴仕切っていた。

「どうぞ、ご安心を。私達が解決します」とオゼキは言った。あんな、異常な依頼内容を解決に導いたのだ。それくらいなんともない。しかし、途中で子供達に違う場所に飛ばされたのだから本当に自分たちが最後まで解決したとまでは言えないが。あの日以来、睡眠薬を飲まずに眠れる日が増えた。沢山の依頼が舞い込んできた。これで、探偵事務所も安泰だと思う反面、それだけ世の中が悪くなっているのかもしれないと思うと喜んでもられない。

 それから、カトウとナカノの給料をちゃんと2重に3重にチェックして給料を支払うことにした。悪気はなかったが、金にルーズなのは良くない。カトウもナカノほど信頼出来る仕事仲間は恐らく見つけられないだろうから。


  2


 クレアは、ロバートが自分の無意識下に潜でいたのを核心したのはニュー帝都ホテルで儀式後にサクラとアスカに起こされた時だった。ロバートはクレアに吹き飛ばされた際に、クレアの無意識下に意識を転送したのだ。その意識の中には昔フィラデルフィアの地下研究所にいた子供達の意識も断片的にだが入っていた。

 ロバートはクレアの無意識の中で必死に呪文を解除していたらしい。「なんで、もっと早く解除してくれなかったんの?」とロバートに聞くと「君は相当深い部分に呪文がへばり付いていた。それにこれはプランBだった。プランAは誰でもいいから12人の子供達の誰かを儀式前に逃がすことだった。クレア君が思っていた以上に強すぎてプランAは失敗したけどね。この作戦を成功させる為には他の子供達にも、それにどうしてもあの探偵達が必要だった。探偵たちにヴィジョンを送るのにも力がいったしね。それとサクラとアスカちゃんの治癒能力が必要だった。」と答えた。


 あの時の事はよく覚えている。他の11人の子供を突き放した時。クレアは一人じゃなかった。ロバートもいたし、それ以外の研究所で死んだ子供達の意識やパワーが。

 死者が出たのは悔しかった。誰も殺したくなかった。例え、どんなクソ野郎な奴であろうとも。でも、あの段階ではクレアにはどうすることもできなかった。だが、周囲にいた関係ない人を11人の子供達が救ってくれたのせめての救いだ。

 パズメをアッチの世界に戻した時、ロバートが再び自分の目の前に現れた。とても不思議だった。目の間で破裂したはずの男が、元通りになっていたからだ。クレアが好奇心から彼の手を触れると、ちゃんと感触があった。

「よく、頑張ったね。ありがとう」とロバートが言った。

「ううん、早く気づかなくってごめん」

「仕方ない。あの呪文は人を狂わす。人によって様々だが、君は特に取り憑かれやすい体質だったようだ」とロバートが言った。そして、感じた。何かして欲しい事があるようだった。

「何が望みなの?」

「1つ目は、フィラデルフィアの実験で死んだ子供達の遺族に会いに行って欲しい。夢の中で登場するだけで良い。そしたら相手はクレア君を死んだ子供だと勘違いする。そして、アカギとドクターと教会の隠し資産から、遺族の口座に振り込んで欲しい。これは、オオキというITセキュリティーの女性に頼めばやってくれる。2つ目は、あの書物を全て破棄して欲しい」

 ロバートが言うにはあの書物は世界中に散らばっているらしい。あらゆる形で紛れ込んでいるらしい。ロバートはパズメ教会に来る前に、それを知り、書物を見つけては燃やしてデータ化されたものは削除していた。だが、時折あの書物はこっちの世界に向こうからやって来るらしい。それを全て破棄しろとの事だった。

「でも出来るかな?」とクレア。

「君なら出来るよ。今の君ならドコにその書物があるか分かるはずだ。それと、警備部のイイジマとITセキュリティーのオオキは何かと使える。それじゃあ、もう会うことはないね。さようなら」

「あの世に行くってこと?」

「違うよ。あの世なんてないよ。幽霊もいないし。悪いけど君の無意識の中で過ごすことにするよ。一度、意識を転送したら外に出れないだ。ごめん。だけど、二度と君の前には現れないし、無意識下で動くつもりもないよ。ただ、眠りにつくのさ」と言ってロバートは消えた。


 クレアが目を覚ました時には、爆風で吹き飛ばされて爆心地から1キロ先にあるビルの上にいた。

 クレアは、ロバートが言ったようにイイジマを助け出し、2人でしばらくビジネスホテルで暮らした。クレアはイイジマを説得してイイジマが死んだことにした。幸いにもイイジマは良い生命保険に入っているらしく、2つ返事で協力してくれた。これで、娘2人は余裕で暮らせる程のお金が彼女たちに入ってくるので生活には困らないだろう。それから、偽造の身分証、マイナンバーカードと日本、韓国、台湾、マレーシア、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアの偽造パスポートを作った。ITセキュリティーのオオキを呼び出し、彼女にアカギとパズメ教会の口座全てからお金を引き出し、フィラデルフィアの事故で死んだ子供達の遺族。それに、クレアがフェーズ5で殺してしまった遺族の口座にお金を振り込んだ。金で解決はできないが、少しでも支えになればと思う。

 それから、フィラデルフィアの実験施設で死んだ子供達の遺族や自分がフェーズ5で殺してしまった遺族や友人や恋人の夢の中に侵入した。クレアを見るなり、人種も性別も違うのに自分の子供だと相手は勘違いして、皆泣いて喜んだ。そして、遺族達の心を楽にするヴィジョンを植え付けた。


 1週間後、コミューンで内ゲバが起きた。予期せぬ事態だった。改めてあの呪文の恐ろしさを知った。監視官のスギモトは特に酷くあの呪文にヤラれていた。信者の子供達50人と120人の成人男女をどうにかして、逃がすのがやっとだった。それで、スギモトと同じく手の施しようがない者たちをアカギ邸に呼び寄せた。後は、警察に任せた。いい結果とは言えないが仕方ない。

 警察の証拠保管室に入るのは簡単だった。だが、あの書物を全て他の場所に移すのは大変な力がいった。そのまま、警察署の一番近いゴミ収集所の焼却炉へ転送した。

 これで、日本国内にある書物は全て焼却した。もし、ロバートが言ったようにもう一度、日本国内にあの書物が現れたら、他の11人の子供達に焼却を頼むようにヴィジョンを送った。みんな、少し戸惑っていたようだが、どうにかしてくれるだろう。特にあの双子なら絶対にやってくれるだろう。


 資金源は大量にあった。アカギは信じられないほど金を持っていた。お布施を使い株やら投資で相当もうけていたらしい。遺族たちに慰謝料を払ってもお釣りが来るくらいだ。なので、先のコミューンの内ゲバで亡くなった遺族にお金を振り込んでも潤沢な資金源を確保した。


 今はイイジマとオオキと共にニューヨークのマンハッタンにいる。今、一番危険な場所だ。今回はあの書物を利用する宗教団体と言うよりは、オカルトにハマった白人至上主義の金持ちと政治家からなる秘密結社みたいなものだ。クレアはどうするべきか考えていた。今は、まだ小さな15人からなる秘密結社だが、そのうちパズメ教会と変わらい程に大きくなる。そして、近い内にあの儀式に気づくはずだ。

「どうしますか?クレアさん」?とイイジマが聞いた。

「今なら、相手は15人。殺す必要もないくらいの汚染度だ。まず、15人のパソコンやスマフォやクラウドにアップされている呪文のデータを削除して、ワタシが奴らの家に行き書物を奪い燃やす」

「わかりました」とオオキが言った。

「うん、よろしく」と言ってクレアはマンハッタンの地上200メートルあるマンションの最上階に浮き上がり。エントランスから部屋に侵入した。警報機をサイコキネシスで壊して机の上のMacBookと金庫に入った書物をカバンの中に入れた。あと、14回はヤラなくちゃいけないのか。とクレアは思った。

 ニューヨークが終われば次は南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、中東、アジア、オセアニア。あらゆる国や地域にあの書物は存在する。全て破棄するのには何年かかるだろうか。パズメはあらゆる形に変身出来るようだ。その土地の文化や宗教によって姿を変えられるらしい。なので探すのが少し厄介だ。だが、やるしかない。全ての人災や虐殺や戦争がパズメのせいでは無いが、ロバートとの約束だし、そうしないと世界が大変な目に遭うからだ。


  終わり

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Paranoid Detective 駄伝 平  @ian_curtis_mayfield

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ