第7章

 ミズーリオはシンメン・サトリの命に変わるものを探していた。シンメン・サトリはショクシティにいる仙人から教えを授かった。

「ずばり『無の境地』じゃ!」

「むのきょうち…」

「そうじゃ。これは初歩の教えであり、どの武器、どの技にも、ましてや生活においても活きる。昔、刀国に沢庵和尚と呼ばれる人がいた。その著作『不動智神妙録』の中でこう言っている。“心を何処に置こうぞ。敵の身の働きに心を置けば、敵の身の働きに心を取らるるなり。敵の太刀に心を置けば、敵の太刀に心を取らるるなり。敵を切らんと思うところに心を置けば、敵を切らんと思うところに心を取らるるなり。我太刀に心を置けば、我太刀に心を取らるるなり。我切られじと思うところに心を置けば、我切られじと思うところに心を取らるるなり。人の構えに心を置けば、人の構えに心を取らるるなり。とかく心の置き所はない”と。つまり、心を無にすることが最善。般若心経というお経にも“空”の大切さを述べている。空というのは無と同じこと。それに至るのは簡単なことじゃない。だが、無理なわけでもない。その方法はある。それは“無の境地”これを知ること。無は有の反対、つまり、何もかも捨て去って自分が全く空っぽの状態になったことを想像する。そこからは、もう自然に身を任せる。自分がまるで透明の空気のように感じた時、“無の境地”に達したといえよう。それでいて、行動するのは、容易ではない。ましてや戦闘をするなんて考えられないこと。仙人のわし位であればできなくもないがな。とまあ、簡単に言えば、精神を研ぎ澄ます事で極限まで集中力を高める技じゃ」

「長かった…」

「危なく意識が途切れる所でした」

「で、爺さん、それはどう使うんだ?」

「お前さん、既に今が『無の境地』に至っとる。わしの話を静かに聞けていた、それが何よりの証拠じゃ」

「そうか、これが無の境地なんだ」

サトリと仲間たちは、旅の目的の一つだったワスプ・シャウトの子孫であるワスト・シャウトと出会った。ソングの隊員ロニョという人物はゼラチン族という獣と合成させられており、その犯人がワスト博士と知り探していた。旅の途中、サトリと仲間たちはワスト博士の四人の部下と戦ってきた。

「私は狂気の科学者だ。興味の湧く事を突き詰める事が仕事だ。巨大化、洗脳、獣化そして融合。どれも興味が湧き、実験をしたくて堪らなかった。そうだ、私がゼラチン族と人間の融合実験を行ったよ」

「…戻る方法は?」

「そんなものはない。私の実験は不可逆実験だからね」

「…分かった」

サトリの仲間、クリスが刀を抜き、ワストの腕を斬った。

「う、腕が!何をする!」

「…今までひどいものを見た。ひどいことをしたのはそっちだ」

ワストはマシンに乗り込み逃げた。その時、サトリが母から預かったネックレスを見て、ワストはサトリを捕らえた。

「それは、かつて世界を滅ぼしかけた女が身に着けていたものだ。それを持つ君は、私と同じ狂気の科学者の子孫だ」

着いた研究室でワストはサトリを仲間に誘った。

「僕はお前を仲間とは思わない!」

「はっはっは…君は正直者だ。正直者の君にはすでに仲間がいるんだろう。それは、困った時に助けてくれる、相談したら答えてくれる、困難な時には手を取り助け合えるね!なら、仲間はもういらないな、必要な仲間は揃っているからね!」

「…そんなことはない」

「だったら!私を仲間にできるかね?」

「それはできない」

「矛盾している!いつも私はのけ者だ…。まあ、仕方ないか。私は狂気の科学者だからね。これで私達は絶交だ。今後永遠に。最後に別れの挨拶だ。さようなら」

ワストが改造した自分の胸のボタンを押し、巨大化した。研究施設は崩れた。仲間によって救出されたサトリに対し、巨大化したワストは突如現れたゴーレムに殴り倒された。空を飛ぶ鳥は眺めながら思った。(強い仲間たち、生き別れた妹、それとも仙人の教え。どれも大切なものだ。一体どれが命に変わるほど大事なものなのだろうか?)その後、世界は統一国家に反対する敵組織との戦争に入った。世界各地でソングの隊員と敵組織の手下の戦いが行われた。ソングでも敵組織でもない強者も戦いに巻き込まれた。敵組織の手下、寒太郎は少女を連れた強者、又三郎と出会った。

「ここも寒うござんす」

寒太郎が一言呟き、又三郎は少女を後ろに隠すように立った。吹雪が吹き付ける中、二人は互いに駆け出した。

「“百花繚乱桜吹雪”」

「“燕返し”」

寒太郎が倒れ、又三郎は剣を収めた。膝を折った又三郎の元に少女が駆け寄り、又三郎はその頭を撫でた。その時、ラック・ゴールドは強者である又三郎に狙いを定めた。

「ヘルセブンが一人、デビル。又三郎、その命頂戴する」

倒れたはずの寒太郎が再び起き上がり、又三郎に一撃を浴びせた。又三郎が被った笠が二つに割れた。同じ時、同じ名前を持つマタ・サブロウは現実で倒れていた。彼は救急車で運ばれていた。その傍に、ゴショガワラ・ヒナギクが心配そうに見つめていた。ヒナギクはサブロウの手を取り、強く握りしめた。

「私も、お腹の子も、あなたの無事を祈ってるわ。だから、必ず生きて・・・」

ヒナギクと同じように少女は祈った。その祈りは、特殊な石“奇石”に届き、又三郎は息を吹き返した。

「私は、必ず生きる!」

又三郎の意思は、割れた笠を仮面に変えた。仮面を被り、又三郎は名乗った。

「私は、願いを叶える為に戦う、仮面セイバー」

「俺も地獄巡りに戻りたくはない。手加減はしない」

ラックの意思と又三郎の意思がぶつかり合った。

「“百花繚乱雛菊吹雪”」

「“燕返し=ゴールディウムカッター”」

寒太郎と又三郎は相打ちになり、同時に倒れた。駆け寄る少女の頭を又三郎は撫でた。仮面は粉々に壊れていた。同じ時、サブロウは目を覚ました。泣くヒナギクを見て、その頭を撫でた。

「どうして泣いてるの?」

「だって、あなたが急に倒れるから…でも、良かった」

その頃、寺を荒らしまわる敵組織の手下、ヴァスヴァンドゥと元ヘルセブンのアシュラが戦った。

「誰だか知らねえが、少しは歯が立ちそうだ。この俺、修行僧ヴァスヴァンドゥの修行相手としてはな」

「貴様がどれだけ強かろうと、このアシュラと同じ修行僧を名乗る資格はない。直ちにその名を剥奪させて頂く」

アシュラは刀を構えた。

「おい、剣が六本に見えるぜ、幻覚か?」

「否、幻覚にあらず。厳格な罰にありけり。慈悲が及ばず。我、本体、<憤怒>。この怒りの全身全霊をかけて、貴様に裁きを与える。覚悟!“阿修羅・六文斬り”」

ヴァスヴァンドゥの身体が六つに分かれた。

「是にて、我が魂の定めを果たしたり。我、自ら帰還せん」

その頃、ソング本部では、サトリと仲間たちの他隊員たちが集められた。総司令官グレートが台に立った。

「皆、急きょの呼びかけによく集まってくれた。もう知っている通り、SONGは宣戦布告を受けた。これに対して、SONGは真っ向から応戦する。現在、支部との連絡が取れず、状況が分からない。危機的状況に陥っている可能性もある。その場合を考慮して、一部の者には支援に向かってほしい。残りの者は要である本部を守ってほしい。編成はこの後伝える。それから奇石を各部隊に配布する。奇石を使用すればネアと呼ばれる自然の力を発動でき大幅に戦力が増加する。ネアの発動にはコツがある。カリュードが出会った仙人から教えを受けたのが、“無の境地”だ。簡単に言えば、精神を研ぎ澄ます事で極限まで集中力を高める技だ。敵組織が奇石を使用する事も考えられる。敵より適確なネアを発動して、勝利してほしい。これは、SONG全部隊を投入する最大の作戦“トッカータとフーガ”である。全員で作戦成功させる。以上だ。皆の健闘を祈る」

空を飛ぶ鳥は、意思を固めた。(考えても命に変わるものが分からない。だが、間違いなく今これだけは壊されてはいけないはずだ。奇石とかいうこの石に願えば自然の力が使えるらしい。)空を飛ぶ鳥は、石に願った。すると、巨大な竜巻が巻き起こり、ソング本部を破壊し始めた。総司令官の側近、近衛衆とタブラ・ラサが対処に当たった。しかし、閻魔王であるミズーリオの願いが込められた竜巻は通常の竜巻に比べて防御力においても攻撃力においても格段に高かった。

「何だこれは・・・敵組織の攻撃だとしたら恐ろしいものを敵にしてしまった」

「総司令官様。僕が止めてみせます」

シンメン・サトリは覚悟を決めた表情で、石に願った。すると、凄い勢いでソング本部の方に飛んで行った。

「サトリ君!」

数分後、竜巻は収まった。しかし、その場所にシンメン・サトリは倒れ、動くことはなかった。空を飛ぶ鳥は半壊したソング本部の上をぐるぐると飛んでいた。(嘘だ・・・シンメン・サトリが死んでしまった。これでは物語に支障が出る可能性がある。あの和尚様なら蘇生できるがこの時代にはいない。どうすればいいのか。)空を飛ぶ鳥は様子を見守った。世界各地で戦いは進んだが、ソング本部に敵組織の首領、グボアギ・ドゥブグフェが飛空艇に乗って現れた時だった。グボアギは自然の力、ネアを操る能力を持ち、ソング本部を一人で襲った。グボアギは策略でわざと捕らえられようとしていたが、サトリを失った責任を感じた総司令官、グレートは判断を誤った。グボアギは溶岩を本部の上に持ち上げた。

「これで本部は終わりだ!!」

「そうはさせない!」

グレートは土の気を操り、地面を伸ばして溶岩を叩き落とした。伸びた地面を移動させたが、少しの隙が出来てしまい、グボアギは逃げた。空を飛ぶ鳥は思った。(逃げたが、いいのか?)

「あの男に逃げられては行けない。捕らえるのだ」

空を飛ぶ鳥は驚いた。ソング本部の屋上にシンメン・サトリがいたからだった。(君は、メフィラスか?)

「そうだ。とにかく急ぐのだ」

空を飛ぶ鳥はグボアギの頭上に飛びながら石に願った。すると、激しい雷が落ちた。

「ぐぼあぎ!」

グボアギは倒れ、空を飛ぶ鳥はシンメン・サトリの元に戻った。

「それでいいのだ。あとは任せるのだ」

シンメン・サトリことメフィラスは腕を伸ばし、空を飛ぶ鳥ことミズーリオは意識を失った。


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