第1章

 戦争の時代、寂れた町はずれの道を歩く青年がいた。彼は覚束ない足取りで歩いて、道に横たわる老人に躓いた。

「前を見て歩け!」

「すまない・・・」

彼は放心状態だった。町では、一つの話題で騒いでいた。”キンコウの三剣士”。火の国、風の国、土の国の三国を代表する剣士が象徴となり戦争を終結させた。三人の剣士は特殊な力を持つ石をはめ込んだ聖剣を与えられていた。”キンコウ”とは、聖剣の輝きの意味の”金光”、国を平等にする意味の”均衡”、それから田舎出身の意味の”近郊”の三つの意味があった。

「私も、彼らと同じ志を持ち、同じ道場に通った剣士だった。それなのに、私は・・・」

もともとは、キンコウの三剣士は、キンコウの四剣士だった。三国の他に戦争に参加しておらず、戦争の終結の中心となった水の国があった。水の国を代表とする剣士、ミズーリオ・オーシャンは、その一人だった。しかし、彼は弱かった。彼を守るために、同盟を結んだ四国は敗戦しかけた。その後、彼を除いたキンコウの三剣士が奮闘し、勝利を収めた。ミズーリオは行方をくらました。町はずれの青年こそ彼だった。

「こんな素晴らしい剣を与えられても、私には扱えない。武器商人の貴族ゴールド家に嫁ぎ、武器を授けてくれた姉さんに怒られてしまうな。もっと私に相応しい武器がどこかにあるはず…」

「武器をお探しかな」

彼の心を読んだかのように、一人の露天商が声をかけてきた。

「これなんていかがかな」

露天商が勧めたのは、薄汚れた剣だった。

「一見弱そうだが、抜いた者にとんでもない力を与えるとか。但し、抜ければの話だが」

ミズーリオは興味を持った。

「それはどういうことだ?」

「選ばれた者にしか抜けないということだ」

「選ばれし者・・・」

聖剣を与えられたとき、言われた言葉だった。

「その剣、いくらだ」

「金はいらん。持っていけ」

「いいのか?」

「むしろ、持って行ってほしいのだよ。誰も使えないので返しに来る。もう返さなくていいぞ」

ミズーリオは薄汚れた剣を持ち去った。

「その剣の名は”悪宿剣”。悪魔が宿るといわれる剣。悪さをしなければいいのだが・・・」

ミズーリオが家に帰ると、そこに三剣士の姿があった。ミズーリオは陰から様子を伺った。火の国の剣士、アルフレア・ヴォルケーノはドアをノックした。

「おい。ミズーリオ。いないのか?いたら返事しろ。おい」

「アルフレア。そんな何度もノックしても意味がない。留守なんだろう」

アルフレアに言ったのは、土の国の剣士、クェーク・メガだった。

「何だ。折角三剣士が来たというのに。残念だ」

「あいつ、何を気にしてんだ。行方をくらましたところで、何も変わらないぜ」

アルフレアに言ったのは、風の国の剣士、タイフーン・カルパだった。

「これを見せに来たというのに」

アルフレアの手に握られていた一枚の手形だった。ミズーリオは三人の言葉、そして一枚の手形からある考えに至った。(私を追い出そうとしている?)ミズーリオは飛び出した。

「ミズーリオ!そこにいたか。これを渡したかった」

「そんなものはいらん!」

ミズーリオはアルフレアの手を払った。手形がひらひらと地面に落ちた。タイフーンがミズーリオの胸倉を掴んだ。

「何すんだ。アルフレアに謝れ!」

「それは私への手切れ金だろ」

「お前、弱いからってひねくれるんじゃねえ!」

「・・・どうせ私は弱い」

「お前は道場の頃から変わらねえな。どうせ、どうせ、とひねくれるのは逃げているのと一緒だぜ!」

「ひねくれているわけではない。強くなろうとしても強くなれないのだ」

「強くなりたいなら俺らに勝ってみやがれ!」

クェークが間に入って宥めた。

「まあまあ2人とも。ぐ・・・」

ミズーリオは悪宿剣を抜いていた。

「クェーク!お前、やりやがったな。本気にしやがって、ひねくれ野郎!」

タイフーンが緑に輝く聖剣を抜いた。

「これでも食らいやがれ!”金光(ゴールデン)の竜巻(ヴォルテック)”!!」

聖剣から放たれた凄まじい竜巻がミズーリオを捕らえた。

「少し頭を冷ましやがれ」

直後、竜巻が切り裂かれた。

「馬鹿な・・・俺の必殺技が敗れただと!?あのミズーリオに」

ミズーリオは不敵な笑みを浮かべた。そして、一目散に駆け出した。

「うぐ・・・」

タイフーンが倒れたのを見て、アルフレアが聖剣を徐に抜いた。

「ミズーリオ。お前は仲間に刃を向けた。その行いは許すことは出来ない。覚悟せよ」

赤に輝く聖剣に炎が纏われた。

「”金光(ゴールデン)の業火(ヴォルケーノ)”」

ミズーリオを激しい炎が包んだ。

「これは不可避の炎。とどめを刺すときにのみ使用する技だ。誰も生きてはいられない」

その時、炎が二つに分かれた。

「何・・・そんなはずが・・・」

ミズーリオは不敵な笑みを浮かべた。アルフレアはミズーリオの一撃を受け止めた。

「ぐ・・・なんて力だ。まるで悪魔に憑りつかれたかのように・・・」

直後、ミズーリオは素早い剣戟で、アルフレアを斬った。その場は静まり返った。ミズーリオは敵を失って、意識を失った。数時間後、意識を取り戻した。

「こ、これは・・・私がやったのか?なんて非道いことを・・・許してくれ、許してくれえ・・・」

ミズーリオは頭を地面に付けて謝り続けた。ミズーリオは立ち上がると、定まらない足取りで山奥に入って行った。道は険しくなり、気づくと、目の前に道がなくなっていた。足を踏み出そうとしたところに一人の僧が声をかけた。

「帥、ここは崖。何をしておる」

「・・・私はとんでもないことをしてしまった。もう生きてはいられない」

「何をしたのだ?」

「親友を殺した。それも三人も。私は罪を償わなければならない」

「自害することが償いとは言えない。汝に考えがある。汝が帥の親友を蘇生してみせよう」

ミズーリオは僧の言葉に驚いた。

「それは生き返るということか!?」

「そうだ。交換条件として、帥の持つ剣を預からせてもらう。良いか?」

ミズーリオは了承した。その後、僧は術を使い、三剣士を蘇生した。

「しばらく眠ったままだろう。ついでに、死の直前の記憶を消しておいた。証拠を隠滅すれば帥がしたことは覚えとらんだろう」

「そんなことまで・・・あなたは一体・・・?」

「汝は寺の住職である。古来より伝わる秘術を扱えるよう日々修行に励んでおる」

「私も修行させてください」

僧はミズーリオの目を見た。

「ついてくるがよい」

それから、ミズーリオは厳しい修行にひたすら耐え忍ぶ日々を過ごした。その間、ミズーリオは僧に関する疑問を抱いていた。断食の七日目、ミズーリオは僧に尋ねた。

「一つ尋ねたいのですが、あなたの声と似ていた、私に剣を勧めた露天商は、知りませんか?」

「ふぉっふぉっふぉ。ようやく気付きなすったか。それは私だ」

ミズーリオは身構えた。

「どういうことだ!?あなたは私に剣を勧めて、私が彼らを殺害した後に現れた。まるでこの事を仕組んだかのようだ」

「その通りだ。物語上そうなるようになっているのだ」

「物語・・・一体あなたは何者なんだ?」

「もういいだろう」

僧はミズーリオの方に手を伸ばした。気づくと、白黒の何もない空間にいた。

「ここはどこだ?は!お前は誰だ?」

そこには謎の宇宙人がいた。

「マダ思イ出サナイノカ。中間ノ力、コレデドウダ?」

「中間の力・・・」

ミズーリオは一瞬思考が停止した。そして、記憶を取り戻した。

「お前はメフィラスだな」

「ソウダ。ヤット思イ出シタカ」

「擬態できたんだな」

「少シダガナ」

「三剣士は六使徒のアルフレオ、タイフーン、クェークだった。一体あんなことをさせて何が目的だ?」

メフィラスは宝玉を取り出して見せた。

「コレヲ七ツ集メルノダ」

「それをして何になる?」

メフィラスはほくそ笑んだ。

「ソレハ集メレバワカルコトダ」

「断ったらどうなる?」

「私ハ死ヲ受ケ入レナイ」

ミズーリオは考えた後尋ねた。

「その宝玉はどうやって集める?」

「ヨクゾ聞イタ。答エル前ニ宝玉ハ何ダト思ウ?君ハ既ニ三ツ集メタ」

「三つ・・・まさか三剣士の命・・・」

「ソノマサカナノダ。宝玉ハ君ニトッテ大事ナモノ、ソレヲ君ガ集メルノダ」

「どうしてそんなことを私にさせるんだ?」

「物語ニ戻ル時間ナノダ」

「待て。言わずに行く気か」

「次ハ死後ノ世界デ会オウ。一旦記憶ヲ抜カセテモラウ・・・」

メフィラスが瞬間移動し、ミズーリオの頭に両手で触れた。気づくと、ミズーリオの体を僧が揺り動かしていた。

「・・・おい、大丈夫か。しっかりしなさい!」

「は!あれ?私は一体・・・」

「突然倒れたので驚きましたよ。修行で無理していたのでしょう」

「和尚様。私は悩んでいました。どうしたら罪を償えるのか、と。自分が弱いばかりに命を落とせば償えると思ってました。でも、それは逃げたことと同じだったのです。親友に言われて気づきました」

「ついに気づいたか。罪の償いは罪と向き合うことだ。それを君に気づかせたなら、いい親友を持ったな」

「はい。でも、私は親友に会わせる顔がありません。ここで命を尽きる覚悟です」

「そうか。それほどの覚悟をしたか。それなら、自ら悪宿剣を守ることを任せられるな?」

「それはつまり・・・」

「わしの娘との婚約をお願いしたい」

ミズーリオは婚約を引き受けた。それを聞き付けたミズーリオの姉アナスタシアが結婚式に現れた。

「おめでとう」

「姉さん!?どうして?」

「わしが伝えといた」

「和尚様も隅に置けませんね」

その後もミズーリオは修業に励み続け、闇を払った豊かな表情で死を迎えて行ったという。

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