艦上戦闘
……………………
──艦上戦闘
空母“瑞鳳”の艦内に鳴り響いたサイレンで俺は目を覚ました。
「おい。ODIN、何の騒ぎだ?」
素早く092式強化外骨格とヘルメットを身に着け、ODINに尋ねる。
『空母“瑞鳳”を旗艦とするタスクフォース-192が海中に存在する巨大悪魔と接敵。悪魔はレヴィアタンと推定されます。現在、タスクフォース-192は全力で交戦中』
「クソ。マジかよ」
レヴィアタンは人類が確認した中でも2番目にデカい悪魔だ。そのデカさたるやロシア海軍最大の原潜であったオスカーII型原潜ベルゴロドを丸呑みにしたと言えば、デカさの想像もつくだろう。
「ラルとデルタと合流する。ODIN、ナビしろ」
『了解』
部屋に放り出していたSER-95とHAS-40Sを即座に回収し、SOEP-45が
さあ、戦闘開始だ。
俺は警報が鳴り響き、警告灯が灯された空母の艦内をODINの案内で進み、ラルとデルタがいる部屋を目指して進む。
「ラル、デルタ!」
「ああ。来たね、天竜。デルタは大丈夫だよ。ボクもね」
ラルとデルタに割り当てられた部屋ではラルが椅子に座っており、デルタはベッドで眠たそうな顔をしていた。
「お前。うるさくて寝れない。どうにしかしろ」
「クソガキのくせに繊細なんだな?」
「私はレディーだぞ。デリカシーを持て、偉くない人間」
「何がレディーだよ」
要らん言葉をよく覚えるのはクソガキあるあるだな。
「ラル。デルタを引き続き見ておいてくれ。俺は戦闘に備える。まずは空母に乗ってる陸戦隊の連中と合流だ」
「ボクたちは付いていかなくていいの?」
「手伝ってくれるのか?」
「もちろん」
「そいつは嬉しい。ついて来てくれ」
ラルはロリじゃなけりゃいい女なんだがな。それから胸がデカいとなおいい。
「私は眠いんだぞ、偉くない人間! 後、お腹減った!」
「後で何でも食わせてやるから大人しくしてろ」
「ううっ!」
デルタにはうんざり。
「でも、君はこの艦で戦闘が起きると思ってるの?」
「ああ。レヴィアタンにコバンザメみたいに引っ付いている悪魔どもが乗り込んでくるのは何度も見た。一度は乗ってた強襲上陸艦を沈められて、ゴムボートで1週間オホーツク海を漂流したぜ」
「それはお気の毒に」
マジで最悪の経験。
そして、俺はラルとデルタを連れて艦内を進む。
「うおっ! 揺れた!」
魚雷でも食らったみたいに艦内が揺れて、乗員たちの悲鳴と指示を叫ぶ声が響く。
今の正規空母ってのは造船技術の発展で馬鹿みたいにデカい。金食い虫の役立たずな戦艦大和がレジャーボートに見えるぐらいだ。
それも当然。今の空母は無人機だけでなく、それらと艦隊を統制する高度軍用AIを搭載し、それを演算するための巨大な量子コンピューターを搭載しているのだ。空母が中核となり、艦隊の戦闘を演算する。
「おい! 統合特殊作戦コマンドの
「そうだぜ。どうなってる、中尉?」
若い男性将校が呼びかけるのに俺が応じる。
「レヴィアタンについて来た悪魔どもが船に侵入した! 撃退しなければならん! 手を貸してくれ!」
「オーケー」
俺は中尉が編成した臨時の陸戦隊部隊とともに艦内を進んだ。
「敵の狙いは分かってるのか?」
「ODINはこの空母“瑞鳳”が搭載しているAIだと分析した。この艦には超高度軍用AIである“FREYJA”を搭載している。そいつが狙われているようだ」
「悪魔どもがAIを?」
「学習したんだろう。俺たちAIなしに戦争はできない。だろ?」
「そうだな」
悪魔どもも馬鹿じゃないってことだな。学習しやがるとは。
『警告。前方に複数の中脅威悪魔が存在』
「いたぞ! 悪魔だ!」
全員の端末に搭載されたODINが報告し、中尉の率いる陸戦隊がSER-95を構える。
「セイレーンだ。気を付けろ、中尉。奴らはマインドワームみたいな精神汚染を使うぞ。向精神剤を使え。オーバードーズするくらいな」
「全員、向精神剤を使え!」
国連人類防護軍の将兵は精神汚染対策に向精神剤を所持している。ナノインジェクターで投与でき、注入孔を皮膚に当て引き金を引けば無痛でダイレクトに薬剤が体に投与されて機能する。
「中尉! 発砲していいですか!?」
「いいぞ! 撃て!」
中尉の編成した臨時の陸戦隊は注意を含めて8名の乗員で編成されておる。全員が094式戦闘防護服とヘルメットを身に着け、SER-95を装備。「
「殺せ!」
ただ練度としては当てにならないようだ。全く、悪魔に銃弾が当たってない。
「ここは任せろ。掃除してやるよ」
SER-95を連続射撃モードにして多目的熱光学照準器を覗くとセイレーンどもにタングステンの
セイレーンの外見は魚のようなぬらぬらした下半身を持ち、その上半身は人間に似ている。だが、そのツラは不細工もいいところで牙がずらりと並ぶ口と死んだ魚のような気味の悪い目をしていた。
「乗艦許可を与えた覚えはないぜ、不細工ども」
SER-95を3発撃って止めることを心掛けて正確にセイレーンどもを屠る。セイレーンたとがばたばたと倒れ、生き残りがこっちに向かって来る。
「来るぞ。精神汚染に気を付けろ」
「ああ! 撃て、撃て!」
中尉が初めてだろう戦闘の指揮を執り、部下たちが投与された向精神薬の影響で思考が制限され、恐怖を感じなくなった状態で射撃を行う。
「さあ、残らずくたばれ」
中尉の陸戦隊が1体悪魔を殺し間に俺は6体の悪魔を殺してる。まあ、艦船乗りに陸戦の技術を求めるのは酷な話だな。
「よし! クリア!」
そして、とりあえず遭遇したセイレーンどもを殲滅。
「次は?」
「
「了解」
第二次世界大戦後半から軍艦は
そして、当然艦艇の頭脳である
「クソ。悪魔どもの数が多い。これは不味いぞ」
「お次はディープワンだ。精神汚染の影響は少ないが純粋タフだぞ」
続いて現れた悪魔は二足歩行の魚頭。ディープワンだ。
こいつはセイレーンのような精神汚染の影響はないが、腕力は強力で、素早く、そして武器を使う。俺たちの前にいるディープワンどもも簡素な槍などで武装している。
「ぶちのめせ!」
「やっちまえ!」
水兵たちがディープワンに口径25ミリ高性能ライフル弾を浴びせる。狙いはとんとダメだが、人数にもの言わせて展開した弾幕でディープワンが撃ち抜かれる。
「────!」
およそ人類に理解不能な叫び声をあげてディープワンが突撃してきた。
「む、向かって来る! どうすればいいんだ!」
「ここはプロに任せときな」
中尉の編成した陸戦隊には練度不足がありありと示されていた。こういうときはこの手の戦闘のベテランである俺が出ないと無駄な死人がでる。
「コイツを食らいな、くそ悪魔」
この空母“瑞鳳”に来てから補充した弾薬。HAS-40Sも弾は十分。思う存分ぶちかましてやるぜ。くたばりな
俺がHAS-40Sの銃口を悪魔に向けて引き金を引くと悪魔どもがミンチになった。
「人間! いや、悪魔だ! 殺せ!」
「ティリリリリリリィ──」
ディープワンどもが叫び、俺たちに突撃してくる。
「弾幕を展開しろ! 近寄らせるな!」
中尉が指示を出し、臨時編成の陸戦隊がSER-95で弾幕を展開。
「クソ。弾が切れた! リロードする!」
「畜生、畜生、畜生! いくら撃っても向かってきやがる!」
ただ、新兵レベルの練度しかない海軍の水兵たちではいくら撃っても敵を仕留めることはできず、むやみやたらに銃弾をばら撒くばかり。
「中尉。俺が前に出る。ここは任せておけ」
「頼りにしてるぞ、准尉!」
俺再び前に出て、ディープワンどもを蹴散らす。
「ちゅ、中尉! 背後からも悪魔どもです! 数は多数!」
「畜生。前方は准尉に任せて、我々は背後の敵だ! 叩きのめせ!」
悪魔どもに挟み撃ちにされながらも俺たちはそいつらをぶち殺して、AIが存在する
『警告。空母内の無人警備システムが作動中です』
「あーあ。面倒なことになったぞ」
普通なら無人警備システムはありがたい代物だが、今の俺は悪魔の反応を出してる。下手すると味方の兵器に撃ち殺されかねん。
『通知。空母“瑞鳳”の艦隊管制AI“FREYJA”からの通信です』
「は? AIが通信してきてんのか?」
『交信を求めています』
「分かった。繋げ」
AIと何をお喋りすりゃいいのか分からんが、一応話は聞いておこう。
『天竜湊准尉ですね。私は“FREYJA”。国連人類防護軍知能システムコマンドが開発した超高度軍用AIです。私の分析では現在、空母“瑞鳳”内でもっとも任務達成率が高いのはあなたであると結論しています』
「やあ、“FREYJA”。そのアバターは趣味か?」
“FREYJA”との通信が繋がると、そこに桜色柄の着物を纏った少女のアバターが表示された。この手のアバターはほとんど趣味で、合理性はない。
『私の開発者であるサミュエル・ハーグリーブス教授の趣味です』
「サミュエル・ハーグリーブス。またそいつか」
『サミュエル・ハーグリーブス教授は国連人類防護軍にてOF-9──大将級の待遇となっています。指揮系統上、あなたの上位に位置する人物です』
「知るかよ。学者に戦争の指揮ができるわけないだろ」
“FREYJA”が言うのに俺はそう返す。
「で、あんたは何がしたいんだ、“FREYJA”? 俺に何をさせたい?」
『サミュエル・ハーグリーブス教授は私を無事に沖縄に運ぶことを求めています。あなたにその任務を依頼したいと思います。私には国連人類防護軍にてOF-7──少将級の権限があります』
「おい。今、この艦が沖縄に向かってるのは知ってるだろ。どうして俺に運べって言うんだ? このまま沖縄に行けよ」
このAI、バグってるのか?
『本艦が沖縄に到達できる可能性は3%未満です』
「マジかよ」
『さらにこの艦で生存の可能性があるのはあなたのみです。あなたの生存確率は49%。無視できない可能性で沖縄に到着できます』
「ちょっと待て。お前、今戦ってる連中が全員死ぬって分析したのか?」
『艦隊の乗員の生存確率、任務達成確率を分析するのは私の任務です』
「あーあ。血の流れてないAI様のご意見はありがたいね。ちょっと同情してやれよ」
『私には人間性を持たせるために感情をシミュレーションするコードが存在します。ですが、このような場合は意味のないものです。よって停止させてあります』
「そうですかい」
こいつと話すの嫌になる。
『私を沖縄を運ぶことは、あなたがデルタ-999を沖縄に運ぶことと同じ有意性があります。すなわち人類の勝利に貢献できます』
「だがな、“FREYJA”。あんたを演算しているのは馬鹿デカい量子コンピューターだろ? あんたのデータもクソみたいにデカいはずだ。俺の端末であんたを運ぶのは無理だぜ。どうするんだ?」
『可能です。あなたの端末をこちらで分析しました。私の分析した結果、あなたの端末は変異しています。悪魔の影響と思われます』
「なんだって? 冗談だろ?」
俺は“FREYJA”に尋ねつつラルを見る。
「まあ、ボクがやったよ。君を悪魔を殺せる存在にするのがボクの目的だったから。そのためには君を支援するものを強化しなくちゃね。君自身の肉体だけでなく」
「すげえな。びっくりだぜ。流石は大悪魔」
「ふふん」
ラルは自慢げだ。
「オーケー。俺の端末であんたを運べるんだな? それでこの状況からどうやって沖縄を目指すつもりだ?」
『艦上輸送機を確保してあります。まず
「操縦は誰が?」
『私です』
「了解。そっちに向かう」
俺としてもこのまま空母と一緒に沈むのはごめん被る。沖縄に行き、そして次は上海に行くんだ。そうやって全部を終わらせる。このクソッタレな戦争を全部。
「中尉! 後ろの敵はどうだ?」
「クソみたいな状況だ、准尉! 空母の無人警備システムが応戦を開始したが、数が多過ぎる! このまま空母が沈むぞ!」
「助かるためには戦うしかない。どうあっても
「ああ! 准尉に続け!」
中尉の率いていた陸戦隊は半数が既に戦闘不能だ。頭がイカれたか、殺されたか。
冷徹な電子の女王“FREYJA”は分析した通り、この空母に乗っている人間が誰も生き残れないのかもしれん。最悪だぜ。
『警告。前方に多数の中脅威悪魔の反応。数、増大中』
「クソッタレ。ぶち抜くぞ」
ODINの警告に俺はHAS-40Sを構えて進む。
前方の封鎖された隔壁が吹き飛び、そこから無数のセイレーンとディープワンが溢れかえって来た。悪魔どもが大歓迎だな、畜生め。
「こっちは忙しいんだよ。失せろ、醜いクソ野郎どもめ」
口径40ミリの散弾を叩き込めば、纏めてミンチだ。
「准尉! 後ろからも来た! 凄い数だ! その上、乗員がマリオネット化してる!」
「クソ。中尉、あんたは逃げろ。部下と一緒に。生き残れ」
「そうはいかん。俺も軍人だ。任務のために死ぬ覚悟はできてる。俺たちがここで食い止めるから、あんたは
「あんたは英雄だよ、中尉。勲章がなくてもな」
「ありがとう。さあ、行け、准尉!」
中尉は後ろから押し寄せる悪魔の大群に数名の陸戦隊で立ち向かった。
俺は前方に駆け抜ける。
そして、後ろで爆発音がした。手榴弾だ。
「この戦争じゃあ、いい男が死に過ぎてる」
「そうだね。だから、君が終わらせるんだ」
本当にこのクソッタレな戦争を終わらせないとな。
……………………
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