応援到着まで待機せよ
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──応援到着まで待機せよ
「こちら第543特殊空中突撃師団スカーレット大隊所属の天竜湊准尉。国連人類防護軍特別権限ウルトラオメガにて支援を要請する。最寄りの部隊は応答せよ。どうぞ」
これで支援が来なかったら泣くしかない。
『こちら国連人類防護軍太平洋艦隊所属艦“瑞鳳”。再度通知されたし』
「こちら第543特殊空中突撃師団スカーレット大隊所属の天竜湊准尉。国連人類防護軍特別権限ウルトラオメガにて支援を要請している」
『了解。そちらの権限を確認した。どのような支援を必要としている?』
「輸送手段を求めている。こちらは沖縄に運ぶべき国連人類防護軍の重要な装備を預かっている。可能か?」
『艦載機をそちらに派遣する。コールサインはペリカン・ゼロ・ツーだ』
「助かる。到着を待つ」
『ペリカン・ゼロ・ツーの
オーケー。これでこのクソみたいな場所からとんずら出来るぞ。
『警告。複数の高脅威悪魔が接近中』
「おい。勘弁してくれよ。後は輸送機に乗って沖縄に行くだけだぜ?」
どうやら悪魔は俺のことがよっぽど好きらしい。過激なファンには困るぞ。
「君を追いかけているのか。それともデルタを追いかけているのか。いずれにせよ、悪魔は君たちを危険視している。絶対に殺そうとする」
「マジか。そいつは困った。デルタは今はまだただのクソガキだしな」
「悪魔の力を得た人間と悪魔でありながら人間の味方である悪魔。どちらも異端だ。異端とは常に攻撃に晒される。人間も悪魔も自分と違うものを恐れ、憎む」
「悪魔に親近感が湧いて来たぜ。人間に似てるとはね」
ラルが言うのに俺は基地に残されていた弾薬を回収してSER-95にマガジンを叩き込む。タクティカルベストもお小遣いをもらった子供が駄菓子屋に行ったみたいに銃弾と爆薬をたっぷり詰め込んだ。
「友軍到着までの耐久戦だ。派手にやるぞ」
「頑張って。応援してる!」
「女神の応援とは嬉しいね」
ラルがにやりと笑うのに俺はそう返して悪魔どもを迎撃するために建物の屋上に向かう。市街地戦の基本は高所の確保だ。
「不細工どもが醜いツラを晒して行進してやがる」
ブルが3体。ゴリアテが5体。マインドワームが2体。マリオネットが20体以上。それからヘルハウンドが30体以上。
まさに大軍勢だ。
「ODIN。使えそうなものは?」
『通知。戦術オプションを提示。使用可能な火砲が存在します』
「どういう種類だ? 口径120ミリの迫撃砲程度じゃあ、ブルとゴリアテを相手にするにはちとばかり威力不足だぞ」
『使用可能な火砲はAMAR口径227ミリロケット砲。電子励起炸薬を弾頭とした単弾頭ロケット弾が使用可能です』
「そいつはいい。遠隔操作は可能か?」
『可能です』
「目標を指示する。ぶち込め」
SER-95の多目的熱光学照準器には連動するレーザー照射装置がある。それを使って国連人類防護軍のC4ISTARたる統合作戦リンクに目標を指示できる。
俺はブルの豚みたいなツラにレーザーを照射し、目標を指示。
『ロケット弾、発射』
後方で爆音が響くと数秒後に重量のある物質が落下してくる音がした。
『弾着、今』
口径227ミリの単弾頭ロケット弾がブルに襲い掛かり、電子励起炸薬が戦術核並みの爆発を引き起こした。人類の英知がいかんなく発揮され、悪魔どもが薙ぎ払われる。
「イエス。第一波は凌いだ」
第一波は、だ。
もう次が来てやがる。
ブルとゴリアテ。そして、無数のマリオネットとヘルハウンド。
「ODIN。ロケット砲の残弾は?」
『ありません。使用不能』
「クソ。何かいい提案は?」
『基地内に高威力の小火器が存在。使用を推奨します』
「案内してくれ」
俺は屋上から基地の中に戻り、ODINが使用を推奨した小火器を探す。
「こいつか。ほうほう、これはご機嫌な代物だぜ」
ODINが提示した装備は口径40ミリ電磁散弾銃だ。名称はをHAS-40S。オートマチック式でフルオート射撃が可能な代物である。こいつを食らって無事な悪魔はいない。
「連中に銃弾をごちそうしてやろう。パーティーの始まりだぞ」
俺はSER-95を背中に背負ってHAS-40Sを握って基地を出る。
建物の隙間を抜け、悪魔どもが進軍してくる方向に向かう。だが、正面には出ず連中の後ろを狙うのがコツだ。悪魔どもは偵察衛星やドローンを持っていないから、索敵能力は人類に劣る。
「いるな。クソ悪魔どもがぞろぞろと。さあ、ふっ飛ばしてやるよ」
俺はブルの背後を取ると背後から頭部に向けて散弾を叩き込む。口径40ミリという超大口径弾の威力は凄まじいに尽きる。
第二次世界大戦初期の戦車砲より大口径のこのHAR-40Sが叩き込む散弾はブルの頭部を一瞬で消滅させる。ブルは頭部を失って倒れ込み、俺は次の獲物に銃口を向けた。
「いたな! おぞましい人間め! 死ぬがいい!」
難点は射程が恐ろしく短いってことだ。こいつを正確に叩き込むにはかなりの近距離に接近しなければならない。馬鹿力を見せる悪魔を相手に近接戦で勝利した人類ってのは意外と少ないんだぜ。
「さあ、ごちそうだぜ、クソ野郎」
ブルの真正面から散弾を叩き込む。ブルの口から上が吹っ飛び、消滅。ブルはそのまま頭のない状況でこん棒を振るったのちビルに突っ込んで果てた。
「殺せ! あの化け物を始末しろ!」
「殺セ! 殺セ! あの気持チ悪い、化ケ物を殺セ!」
ゴリアテとグレムリンが通りを突進してくる。射程は短いのでSER-95の感覚で撃つと弾の無駄になる。ここでこっちも敵に向けて突撃するのが正解だ。
「HAS-40Sを広域拡散モードに変更。ぶっぱなつぞ」
グレムリンどもだろうとこのデカい武器は使える。腰だめに構えてドカンと一発ぶち込めば散弾が広域に撒き散らされてグレムリンどもを薙ぎ払う。
「雑魚どもが! 使えん奴らだ! 俺が殺してやる!」
グレムリンが肉体を引きちぎられて皆殺しになり、ゴリアテだけが進んでくる。手には巨大な斧。そんな代物をどこで買ったんだ? 通販か?
「来いよ、でくの坊。ふっ飛ばしてやるよ。地の果てまでな」
「死ね、人間!」
斧を振り下ろすゴリアテの一撃をするりと回避し、ゴリアテが乗り出した上半身に向けて散弾を発射。ゴリアテの首から上が消滅し、前のめりになったまま倒れ、そのままくたばった。
「ひゅー! アドレナリンがたまらねえぜ。こいつはイカしてる」
群がる悪魔どもももはや射的の的にしか見えない。殺し放題ということに無性に興奮しちまう。戦闘時における気分の高揚ってのは古代からの文化だ。
殺して、殺して、殺して、殺す。悪魔どもをミンチにしていく。
「逃げロ! 逃げロ! 化け物ダ!」
「おのれ、人間……!」
ブル、ゴリアテ、グレムリン、マリオネット、マインドワーム。そいつら全てに散弾を叩き込み、珍しく連中が撤退を始めた。
そこでODINが通信があると通知してきた。
『こちらペリカン・ゼロ・ツー。通信基地に向かっている。
「オーケー。こっちも通信基地に向かう。後、ついでと言っちゃ悪いが、上空援護機は連れてきてないか?
『無人戦闘機が援護についてる。いくつか爆弾を下げているが地上攻撃は予定にない』
「了解。目標を指示するからぶら下げてる爆弾を全部叩き込んでくれ。帰りの荷物は少ない方がいいだろ?」
『無人戦闘機のコールサインはシャドウ・ワン・ゼロ、シャドウ・ワン・ワン。統合作戦リンクで目標を指示せよ』
「さあて、悪魔どもにプレゼントだ。たっぷり楽しめ」
ここでHAS-40Sの多目的熱光学照準器に連動したレーザー照準器を使い、悪魔の群れをマーク。このデータを統合作戦リンクにアップロードする。
さあ、料理してくれ。
『シャドウ・ワン・ゼロより地上部隊。爆撃を実施する。警戒せよ』
国連人類防護軍所属の無人戦闘機が上空に飛来し、誘導爆弾を投下して離脱。地上に落ちた誘導爆弾が殺戮の限りを尽くし、市街地ごと悪魔どもをふっ飛ばした。
「サンキュー、シャドウ・ワン・ゼロ、シャドウ・ワン・ワン。支援に感謝する」
俺は悪魔どもがほぼ散ったのを確認すると通信基地に向けて戻る。
「化け物はまだ生きているぞ! 探して殺せ! ここから逃がすな!」
「グレムリンとマリオネットどもを隅々まで送り込め!」
ああ。クソッタレ。ブルが残ってやがる。そんでもって雑魚を周囲にけしかけてる。さっさと輸送機と合流しなきゃならんのに。
「ODIN。こいつらに発見されずに通信基地に戻れる可能性は?」
『ほぼ0%です』
「分かったよ。蹴散らすぞ。初手は奇襲で決める。熱光学迷彩起動」
俺はODINに熱光学迷彩の使用を命じると背後からブルに近づく。
さて、こんにちは。死ね!
ブルの頭部が消し飛び、周囲の悪魔が驚いて目を見開く。
「敵だ! あの化け物に違いない! 探せ! そして殺せ!」
「どこだ! どこにいる!」
ブルとゴリアテが叫び、グレムリンたちが飛び回る。マリオネットは奇声を上げながら周囲をのたうち回り、俺の位置を掴もうとしていた。
「グレネード」
グレムリンとマリオネットの群れは吹き飛ばすに限る。
「ギャッ!」
「ワあッ! 死んダ! 仲間、死んダ! 怖イ!」
グレネードがグレムリンをより賑やかにしてくれる。内臓を撒き散らしたグレムリンがのたうち逃げ回る。
マリオネットも概ね排除。さあ、残りだ。
「ここだぞ、間抜け」
熱光学迷彩を解除し、スーパースプリント機能でブルに瞬時に肉薄。思いっきり飛びあがって上から散弾を連続発射し、タングステンの雨を浴びせてやった。
「いたぞ! その頭を捻じ切って、肉は犬の餌にしてくれるわ!」
「愛犬にはもっといいものやれよ。お前の肉で作ったジャーキーとかな」
落下しながらさらに散弾を乱射。面白いようにブルとゴリアテがくたばる。
このご機嫌なHAS-40Sのもうひとつの弱点がここて露呈しちまった。そいつはこいつは発射レートの割に装弾数が少ないってことだ。調子に乗って乱射してればあっという間に弾切れになっちまう。
俺の持っているのも弾切れ寸前だ。
「最後に派手にかますぜ。ぶち抜け」
射線に3体のゴリアテを収めて引き金を引く。
放たれた散弾がまとめて3体のゴリアテの頭を吹き飛ばしていき、一斉に連中が地面に倒れる。ざまあみろ。
「補給が受けれることを祈って手当たり次第にお見舞いしてやる」
HAS-40Sを背中に回し、SER-95と入れ替える。同時にSER-95を連続射撃モードに変更して
「おらおら。くたばれ、クソ野郎」
『ペリカン・ゼロ・ツーは間もなく
「すぐに行くよ、ペリカン・ゼロ・ツー!」
俺は悪魔の相手はほどほどにして通信基地を目指す。
「ラル! デルタを連れてきてくれ。逃げるぞ」
「了解!」
ラルがデルタを連れて俺の後ろから通信基地の屋上に駆けのぼる。
「来た、来た。お出迎えだ」
国連人類防護軍の標準的なパワード・リフト輸送機ハミングバードが屋上にアプローチしていた後部ランプが下ろされ、着陸してくる。
「あんたが救助対象か!?」
「そうだ! 沖縄にちょいと旅行に行きたい!」
「よし! 乗れ!」
ハミングバードのクルーが俺の搭乗を許可し、俺はラルとデルタの手を取ってハミングバードの兵員室に押し込む。
「悪魔が来たぞ! 急いで離陸しろ!」
『ペリカン・ゼロ・ツー、離陸する』
「クソ。来やがった。撃て!」
離陸する瞬間まで悪魔どもは追いすがった。マリオネットたちが津波のように押し寄せ、ハミングバードのドアガンナーが後部ランプに設置された大口径電磁機関銃でマリオネットを掃射。
「オーケー。これで一安心」
ハミングバードは無事に通信基地から離陸し、母艦を目指して飛行していった。
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