軍事通信基地
……………………
──軍事通信基地
シェルターから慎重に外に出る。
「クソ。ブルとゴリアテだ。それも数が多い」
ブルが4体とゴリアテが8体。それぞれ巨大な鈍器で武装している。あれなら俺たちが利用している
「ODIN。何か戦術オプションはないか?」
『通知。戦術オプションを提示。付近に稼働する無人戦車があります』
「オーケー。いいニュースだ。そいつはどこだ?」
『ここから4キロ先です。
「微妙に遠いな。遠隔操作は可能か?」
『現在ユーザーが所持している権限では可能です』
「よし。やってくれ。側面から攻撃しろ。俺は連中を正面で引き付ける」
俺はSER-95を長距離射撃モードにし、マガジンを
「そら。お前らの大好きな銃弾だぞ。たっぷり食え」
十分に充電されたSER-95のバッテリーからスーパーキャパシタで口径25ミリ高性能ライフル弾が放たれ、ブルの頭を弾き飛ばした。
「いたぞ! 奴だ! 悪魔でありながら悪魔を食らうもの! おぞましい化け物だ!」
「殺せ! ひき肉にしてやれ!」
ブルどもがこん棒を掲げてシェルターに突撃してくる。
「お前。どうにかなるか?」
「知るかよ。大人しくしてろ、デルタ」
デルタがシェルターの出入り口にいる俺の方に来た。邪魔だ。
「手伝ってやってもいい」
「何ができるんだ?」
「死体を使える」
デルタが少し不気味に笑いながらそう言い放った。
「オーケー。じゃあ、やってくれ。囮にでもなれば幸いだ」
「巻き込まれないようにしろ」
デルタがそう言うとシェルターで死んでいたカルトやその餌食になった人間たちがむくりと不自然に起き上がり、悪魔たちの方に向かい始める。
「おい。まさかマリオネットにしてるのか?」
「そうだ。マインドワームを食った。だから、使える。分かったか、偉くない人間」
「マインドワーム、美味かったか?」
「ミミズの味がした」
「ミミズ食ったことあるのかよ」
デルタがにやっと笑って言うのに俺は呆れながらもマリオネット化した人間たちがブルとゴリアテに突っ込んでいくのを多目的熱光学照準器越しに見た。
マリオネット化した人間の死体が1体のブルに群がる。
「悪魔の力だと……!? どうなっている!」
「ドカン」
マリオネットを振り払おうとブルが暴れるがマリオネットたちはしがみつき、そして爆弾のように炸裂した。ブルの体が爆発によって八つ裂きになり、人間の内臓が花火のように撒き散らされる。
「どうだ?」
「流石は人類の希望だぜ」
「もっと褒めていいぞ、偉くない人間」
「こいつ、すぐ調子に乗りやがる。クソガキだな」
どや顔を披露するデルタに肩をすくめて俺は生き残っている悪魔どもを狙う。
「さあ、敵は大混乱だ。追い打ちをお見舞いしてやろう」
再びSER-95で狙撃。ゴリアテの頭が半分吹き飛び、それでもなお進んで来るのにトドメの一撃。2発喰らっても生き残る奴もいるが、ちゃんと狙えば大抵は2発で済む。もちろん、滅多打ちにしてやるのも楽しいが。
『通知。友軍無人戦車が戦場に侵入します』
「ぶちかませ」
『了解』
ブルとゴリアテの隊列の脇腹から砲弾が飛来。55口径120ミリ電磁戦車砲の砲撃だ。直撃を食らったブルの上半身と下半身が両断されはじけ飛ぶ。
「いいぞ。やっちまえ。皆殺しにしろ」
無人戦車が道路を横断してブルとゴリアテを砲撃しながら走り回る。一か所に留まって砲撃を続けるのは命取りだと分かっているのだ。少なくとも人間同士で戦争をしていた時はそうだった。
「邪魔だ! 退け!」
しかし、相手は悪魔だ。生き残っているブルが無人戦車の砲撃を躱して無人戦車に掴みかかった。そして、重量が43トンある国連人類防護軍の主力戦車AMR85を持ち上げ、俺たちにいるシェルターに向けて投げ飛ばす始末。
「伏せろ!」
無人戦車がシェルターの入り口に落下して、俺がデルタとともに伏せる。シェルターの一部が破壊さコンクリート片が撒き散らされた。
「畜生。クソ野郎め。戦車は投げるもんじゃねーんだよ」
「おい。これをお前は操縦できるのか?」
「ああ? できるぞ。だが、ひっくり返ってる」
デルタが図々しく意見を述べるのに俺が完全にひっくり返った無人戦車を指さす。
「起こしてやるからこれで戦え」
「起こすってどうやって……」
俺がデルタの発言にうんざりした直後、デルタがそのチビの体で戦車を持ち上げ、ドンと元の姿勢に戻した。
「マジかよ。随分とマッチョなんだな、お前」
「羨ましいか、偉くない人間」
「うるせえ、クソガキ」
俺はデルタにそう吐き捨てるとAMR85無人戦車の車長用ハッチを開いて滑り込んだ。
AMR無人戦車はAIによる自律運用を前提にしているが非常時には人間の操作が行えるようになっている。この手の冗長性は軍事兵器には必須だ。いざってときはどんな精密機械だって手動で動かす。
「ODIN。俺の操作を補助しろ。戦車を乗り回すのは久しぶりだ」
『了解』
AMR85無人戦車は戦争が始まってから何度か操縦したことがある。AIがぶっ壊れたり、電子機器がイカれたり、戦況がエンジニアの想定したものではなかった場合に、だ。AIは高度になったが万能じゃない。
「オーケー。主砲は動くし、弾薬もある。バッテリーも十分。弾種、
俺の指示にODINが自動装填装置で戦車砲弾を装填した。
「照準は手動でやるから測定した数値を出せ。ぶっ飛ばしてやる」
俺はこのAMR85無人戦車のシステムにODINがアクセスし、俺の
「発射!」
55口径120ミリ電磁主砲が電磁力によって砲弾を弾き出し、ゴリアテに叩き込む。
同じデカブツでもブルよりも脆いゴリアテは戦車砲弾で八つ裂きにされて爆発した。ざまあみやがれ、クソ野郎。もっとお見舞いしてやるぜ。
「次弾装填。ぶち込むぞ」
自動装填装置の装填速度はかなり速い。昔は自動装填装置を導入した戦車は1台当たりの戦車兵が減って、戦車戦以外の戦争が困難になると不評だった。だが、今ではその手の任務は戦闘用アンドロイドを遠隔操作でやれる。
いい時代だな。効率よく相手を殺せるすばらしい時代だ。
「そら、もう一発!」
主砲が電気の弾ける音を響かせてゴリアテに砲弾を叩き込んで爆砕。
「皆殺しだ」
そのまま戦車で悪魔どもを蹂躙しきろうとしたが、こんなに楽に悪魔が殺せれば人類がここまで追い詰められることもないわけで。
「ふんっ!」
ブルが放たれた戦車砲弾をこん棒で弾き飛ばして迎撃。
「クソが。大人しく死ねよ、不細工」
「愚かな人間めが! このようなのろまな攻撃など通じるものか!」
再びブルが極超音速で放たれる戦車砲弾を叩き落とす。
「あいつで最後なのに片付かんぞ。こうなればとっておきの方法をやる」
俺は主砲の操作から戦車の車体の操作に移る。
「レッツゴー!」
一気に戦車を加速させ、最後のブルに向けて突撃。気分はかの有名なポーランドの騎兵フサリアだ。騎兵突撃ってのはいつの時代もロマンだぜ?
「叩き潰してくれる!」
「食いつけ、薄ノロ。ODIN、現在の進路と速度を維持して遠隔操作だ」
戦車は加速したままブルに突っ込み、俺は戦車を脱出する。
ブルの振り下ろしたこん棒が戦車の複合装甲すらも砕くが、これは計算のうちだ。とっておきはこれからだぜ。
「ODIN。戦車の弾薬とバッテリーを自爆させろ」
『了解』
さあ、たっぷり食えよ。炎と鉄のごちそうをな。
AMR85無人戦車に搭載されている全ての弾薬とバッテリーが自爆する。鹵獲防止のための砲弾の自爆システムが作動し、バッテリーはオーバーロード。戦車は炎を火山が噴火するように撒き散らして、ブルがそれに巻き込まれる。
「人間……! いや、悪魔! よくも──」
「うるせえ。さっさと死ね」
辛うじて生き残ったブルの頭にSER-95から大口径ライフル弾を叩き込んで始末。
「よくやったな、偉くない人間」
「その呼び方はやめろ、クソガキ。頭に拳骨、喰らわせるぞ」
「それは児童虐待だぞ」
「悪魔に人権はねーよ」
デルタが文句を言うのに俺はそう言い返してやった。
「ちょっとした寄り道が大冒険になっちまったぜ。さあ、元の目標に戻るぞ」
「オーケー。急ごう。ボクもそろそろ終わりが見たくなってきたよ」
「ラル。ちょっとデルタを躾けてくれよ」
「ボクには敬意を払ってるよ?」
ラルがそう言ってデルタを見る。
「この人はとても偉い人。頭が上がらない」
「ね?」
デルタが言うのにラルが二ッと笑った。
「マジで性格悪いクソガキだな。大人を馬鹿にするなよ」
「お前は偉くないし」
デルタは鼻で笑いやがった。
「もういいよ。ガキは嫌いだ。臭いし、五月蠅いし」
「私は臭くない」
「いや、臭い」
「臭くない!」
「ラル。デルタを連れてきてくれ。
「臭くないって言え!」
「言わない」
デルタがガキらしく腹を立てているが俺は無視してラルに連れてきてもらった。本当にラルには素直に従いやがる。
「ODIN。ナビを頼むぜ」
『了解』
俺は再び
もう寄り道はなしだ。何があろうと無視して進む。
バッテリーは充電100%で駆動系に異常なし。万事順調に進んでいる。
『通知。間もなく目的地です』
「オーケー。悪魔はいないか?」
俺は
放棄された大量の軍用車両と陣地の跡。どうやら前の客はここでかなり粘ったらしい。となると、撤退した後は悪魔が乗っ取っていてもおかしくない。
『施設内のシステムにアクセス。複数の低脅威悪魔を検知』
「じゃあ、まずはお掃除だな」
俺はそのまま
軍事通信基地は固定基地というわけではなく、大型の軍用通信機材が設置された臨時の前線基地であった。かつてオフィスビルだっただろう建物が基地にされている。こいつを残してくれた前の連中に感謝。
「さあ、乗り込むぞ。ラル、デルタを見ていてくれ」
「はいはい。いってらっしゃい。気を付けてね」
ラルにそう言い残して俺は建物に入る。
「人間ダ! 人間が来タ!」
「倒セ! 倒しテ、肉を食ウ!」
あーあ。建物内はグレムリンだらけ。ここにいた国連人類防護軍の部隊が放棄していった銃火器で武装している。SER-95がグレムリンの手にある。チビなグレムリンにはSER-95はデカすぎるな。
「そいつの使い方を教えてやるよ、チビども」
SER-95を連続射撃モードにして多目的熱光学照準器を覗き込んでグレムリンどもに人類の文明というものを教育してやる。その身で学べよ、チビども。
SER-95の口径25ミリ大口径ライフルは通常の
「喰らエ、人間!」
「馬鹿! 仲間ヲ撃つナ!」
SER-95は案の定、グレムリンどもに扱いこなせず連中は味方を撃ち殺したり、虚空を撃ったり散々であった。こいつら、緊急徴集兵より質が悪いな。
「そらそら、全滅しちまうぞ」
「殺さレル! 逃げロ! 逃げロ!」
グレムリンどもは勝てないと見るや蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「オーケー。ODIN、無人警備システムは生きてるか?」
『アクセス可能』
「そいつにグレムリンどもを追い払わせろ」
『了解』
この手の基地にはリモートタレットの類が設置されるのが常だ。そいつを使って邪魔なグレムリンどもを追い払う。
銃声が何度か響き、グレムリンの悲鳴が聞こえ、そして静かになった。
「悪魔の反応は?」
『反応消失』
「オーケー。お掃除終わりだ」
グレムリンどもが片付いたところで通信機材を探す。
「ODIN。通信機材を
『了解』
こういうときにODINは便利だ。全ての国連人類防護軍装備にはタグが埋め込んであるから簡単に探せる。散らかった部屋で自転車のカギ探すのも簡単ってわけだ。
「こいつだな。どれくらいの範囲に通信できる?」
『沖縄の国連人類防護軍基地とも通信可能です』
「そいつは景気がいい。早速応援を呼ぼうぜ」
俺は通信機に端末を接続して、通信を始めた。
……………………
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