要救助者
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──要救助者
銃を持って俺を狙うグレムリンどもと斧を構えて進んで来るゴリアテ。
景気のいいパーティーだ。楽しもうじゃないか。
「テキ! テキ! ニンゲン、殺せ!」
「撃テ、撃テ!」
警察が使用する自動小銃の銃弾は昔ながらの口径5.56ミリNATO弾。
犯罪者が重武装化し、ボディーアーマーを装備して、威力のある重火器を見に付け始めたときに、軍では既に射程不足と威力不足になっていたこの銃弾が警察に渡った。
口径5.56ミリNATO弾は軍用ボディーアーマーには無力だが、犯罪者が入手可能なボディーアーマーなら貫通可能だ。アメリカの警察は早い時期から軍用弾を使う自動小銃を装備しており、日本もそれに倣った。
そう、治安のよかった日本は年寄りの回顧話だ。
で、巡り巡ってその銃と銃弾が地球外の侵略者たる悪魔の手に渡った。
グレムリンどもが自動小銃を腰だめで乱射している。この小鬼どもはせっかくついてる光学照準器を全く使わない低能だ。俺たちの脅威ではない。
特に統合特殊作戦コマンドの
「そらよ。銃ってのはこういう風に使うんだぞ、忌々しいチビども。サイトを覗き、ちゃんと狙って引き金を引く。そうすりゃあ、こうなる」
俺が多目的熱光学照準器を覗き、グレムリンの犬以下の脳みそしか入ってない頭に狙いをつけ、大口径ライフル弾を叩き込む。
グレムリンの頭が派手に弾け、頭部が完全に消滅した。
「撃たレタ! 撃たレタ! 仲間、死んダ!」
「クソ! 殺せ! アイツ、撃っテ殺せ!」
グレムリンどもがよく騒ぐ。こいつらは毎日楽しそうで羨ましいほどの知性だ。
「寂しくないように全員殺してやるよ。感謝しな」
SER-95は従来の軍用小火器がそうであるように多目的使用が可能だ。
もっとも戦時量産の兵器であるからにして、やたら弄り回すと故障の原因だ。特殊作戦仕様のものでも同様。
兵器というはとにかく頑丈で、シンプルであることが望まれる。確かに技術は進歩したが、戦場の過酷さは変わっていない。ハイテク兵器もいざという場合はこん棒代わりに振り回すのが戦場の兵士って奴だ。
「死んダ! 仲間、一杯死んダ! 死にタくナイ!」
「逃げルナ! 弱虫、弱虫! 馬鹿!」
味方の頭が次々に弾け飛ぶのに怖気づいたグレムリンが逃げようとし、仲間たちから罵られる。こういうところは化け物らしくなくて面白い。
「そう逃げるなよ。たっぷりとタングステンの味を味わっていけ」
逃げようとするグレムリンの膨れた腹部を口径25ミリ高性能ライフル弾でぶち抜く。内臓が撒き散らされてからもグレムリンは生きており、手足をばたばたさせて藻掻いた。
「怖イ! コイツ、怖イ!」
「馬鹿! 戦エ!」
味方がミンチなれば士気が落ちるってもんだ。あるいは味方への仕打ちに怒りを燃やすか。冷静になることはまずない。
もっとも俺のような統合特殊作戦コマンドの
「退け、雑魚ども! 役立たずめ! 我々があのおぞましい化け物を殺す!」
グレムリンを斧で弾き飛ばしてゴリアテたちが前に出た。グレムリンは武器を捨ててそそくさと逃げていく。
「大歓迎だ、不細工ども。脳天吹き飛ばしてくたばりやがれ」
グレムリンを銃撃するのに使っていた
多目的熱光学照準器のレティクルにゴリアテの頭部をしっかりと収め、引き金をゆっくりと絞る。電気の弾ける音が僅かに響き、大口径ライフル弾が放たれた。
「ぐおっ……! おのれ! その首をねじ切って、脊髄の液を啜ってくれよう!」
頭が半分吹っ飛んでも平然と動くのが悪魔の恐ろしいところだ。
「どうするの? 今回は爆薬もないみたいだけど?」
「可能な限り狙撃で減らす。それからはちょっとしたお楽しみだ、ラル」
ラルが退屈そうに尋ねるのに俺はゴリアテへの狙撃を続ける。
ゴリアテも完全に頭がふっ飛ばされれば倒れる。それまで銃弾を叩き込み続ければいいだけだ。いくらデカブツでもゴリアテは近接兵器しか持っていないので狙撃に対抗することはできない。
「殺せっ! あの忌まわしき化け物を殺すのだ! 惨たらしい死を与えてやれ!」
「化け物め! 人間でありながら悪魔の力を使う化け物めが!」
ゴリアテが威勢よく叫びながら突撃してくる。
「そろそろ頃合いか。派手にやろう」
再び
さらにはSER-95標準のMK24熱切断銃剣を装着。これで準備完了だ。
「さあ、踊ろうぜ、醜いツラのデカブツども」
「血と臓腑を撒き散らせ、人間!」
銃剣突撃は男のロマン。今も昔も敵が近くにいるのにスコープ覗いて撃ち合いはしない。銃で狙いを定めて引き金を引くより、ぶんなぐって、突き刺した方が速い。
スーパースプリント機能は人工筋肉の出力を短時間最大に発揮させ、超人的な身体能力をユーザーに与える。こいつもポンコツ
俺は遮蔽物から飛び出すと一気にゴリアテに肉薄。
「死ね、人間!」
「殺してみろよ」
連中が振り回す斧を躱し、地面を蹴って飛びあがるとスーパースプリントを起動させておけば、ゴリアテを上から見下ろすぐらいには飛び上がれる。
後は重力というものを活用するだけだ。
「喰らいな。お前らの大好きな血の味がするぜ」
MK24熱切断銃剣は文字通り熱によって鉄すらも切断する。近接戦闘におけるとっておきの武器である。
そいつをを下に構えてゴリアテの頭部に降下し、刃を突き立てる。深々と銃剣はゴリアテの頭に突き刺さり、ゴリアテが不明瞭な言葉を発した。
「あの世にゴーだ。地獄行きの片道切符をプレゼント!」
銃剣を突き立てた状態で引き金を引き、大口径ライフル弾をゴリアテの脳みそに叩き込む。連続して叩き込まれた銃弾によってゴリアテの頭が弾け、脳みそが辺りに飛び散って周囲をグロテスクに彩る。
「イエイ! 100点満点!」
「イエス。派手にやったぜ。次だ!」
ラルが歓声を上げ、俺がテンポを上げる。
「忌々しい人間めが! 貴様の血と肉で腹を満たそう!」
「そのメニューは高くつくぜ?」
スーパースプリント機能は暫くは使えない。こいつはポンコツ
だが、俺にはスーパースプリントを使わなくともゴリアテを料理できる。
「跪け、デカブツ」
SER-95で正確にゴリアテの膝を撃ち抜く。膝頭を砕かれたゴリアテが膝を突き、さらにもう一方の膝頭も破壊されて血に倒れる。
「クソ! 人間っ! 血を流せ!」
「やなこった。てめえがひとりで流してろ」
倒れたゴリアテが伸ばして来た巨大な手を射撃して押しのけ、倒れたゴリアテの頭に銃剣を突き立てると連続射撃モードのSER-95で
「あがあっ……」
「死んでろよ」
ボロボロになったゴリアテの頭を蹴り飛ばすと首が転がっていく。
「信じられん……。本当に人間なのか……。おぞましい……」
最後に生き残っていたゴリアテが士気を失い、後ずさりしている。
「おいおい。逃げるってのはなしだぜ。ちゃんと死んでくれよ」
「クソ。ならばやってやろう! 人間よ! その肉と骨を噛み砕いてくれる!」
ゴリアテが覚悟を決めて突進してきた。
「オーケー。お前もあの世にご招待だ。こいつを食らいな!」
ここで
口径25ミリのSER-95で使用するフレシェット弾はナノマシンで製造された恐ろしく細いタングステンの針で構成されており、敵に驚くほど惨い傷を負わせる。これがかつては人間相手に使われてたってのが恐ろしいところだ。
「があっ! この、おのれっ!」
とは言え、相手は悪魔だ。時として口径120ミリの戦車砲弾にすら耐えやがる連中がそう簡単にくたばってくれるはずもない。
フレシェット弾で脇腹を完全に抉られたゴリアテが歩みを止めずに進んで来る。
「その不細工なツラをこれ以上見せてくれるな」
だが、当たり所によっては致命傷だ。顔面にこいつを食らえば愉快なことになる。
フレシェット弾の針がゴリアテの顔面を滅茶苦茶に仕上げた。眼球が破裂し、鼻が消滅し、顔面の肉が削がれる。
「おおっ! おおっ! クソッ! 人間めがあっ!」
「どこ狙ってやがる。こっちだぞ」
視覚を喪失したゴリアテを料理するのは容易い。一気に肉薄し、銃剣で足の腱を切断して地面に押し倒す。それから他と同様に頭に銃弾を詰め込んでやるだけだ。
「クリア」
「上出来だね。見てて爽快だよ。まさに血湧き肉躍るって奴かな?」
「ついでに臓物も撒き散らしたぜ」
ラルが楽しそうに言うのに俺は消滅しつつあるゴリアテの死体を眺めた。
悪魔が死んだ後にどうなるかを知ってる人間はいない。人間だって死んだ後にどうなるかは分からんのだからな。
「さて、本来の仕事に戻ろう。救助だ」
俺は墜落した輸送機の残骸を見渡す。国連人類防護軍の空輸部隊が装備する
機体は何とか不時着に成功したようで破損は少ないが、炎上した痕跡があった。バッテリーの火災と思われる。戦時量産の軍用バッテリーは炎上しやすい。
「ODIN。まだ民間人をマークしているな?」
『はい。非戦闘員を
「お使いを済ませよう」
俺は墜落した輸送機に踏み込む。
後部ランプは先客だった悪魔たちによってこじ開けられており、輸送機の中に入るのは簡単だった。人の焼ける臭いのする輸送機内に入り、中を確認する。
「ちいと遅かったな。食われてる。生き残りは少なそうだ」
輸送機が運んでいたのは老人が多かったらしく悪魔どもに食い殺されていた。腹を裂かれて内臓を貪られた死体が転がっている。悪魔でも特にグレムリンどもは人間の内臓が大好物だ。
「ODIN。生体反応を探せ。死体に用はない」
『スキャン中。生体反応を検知。1名です』
「参ったな。ひとり助けるために国連人類防護軍が迎えを寄越してくれるかね」
俺はかなり絶望的な気分になりながらもODINが検知した生体反応の方向に向かう。
「ここだ……!」
そこで絞り出したような声が響いた。
「これは。失礼、閣下。救出に参りました」
いたのはアメリカ海軍中将の階級章を付けた初老の女性将官だ。
「統合特殊作戦コマンドか。この地獄にも神はいるものだな」
「ええ。救援部隊が来ています。負傷の程度は?」
「不時着時に肋骨が折れて肺に刺さった。ナノマシンが修復しようとしているが出血が止まらない。私は助からないだろう」
「クソ。あいにく友軍に医療部隊はいません。4桁師団ですから」
「大丈夫だ、准尉。そもそも君たちに発された救出命令は我々を救助するためのものではない。この子を沖縄に連れて行くことが任務だ」
そこで負傷したアメリカ海軍中将の後ろからODINの生体反応スキャンで検知できなかった少女が現れる。年齢は9歳ほどだろう。かなり銀に近い金髪を三つ編みにしており、手術着のような薄いワンピースを着ている。
「娘さんですか?」
「違う。検体だ。そして、人類の希望だ」
「なんですって?」
「准尉。いいか。君の果たす役割次第でこの地獄は終わる。人類の勝利でな。今、君の端末に私が与えられる権限を与えた。国連人類防護軍のあらゆる部隊が最優先で君を支援する。だから、この子を沖縄に連れて行くんだ」
「了解です、閣下」
どうあれこいつは必要なようだ。何を意味するかは分からんが。
「君にこのことを伝えたことで私の義務は終わった。准尉、嫌な役割を押し付けることになるが。頼む。楽にしてくれ……」
「ええ」
俺はホルスターからSOEP-45を抜くと敬意を込めて引き金を引き、アメリカ海軍中将の苦痛を終わらせた。
「さて、お嬢ちゃん。一緒に来てくれるか?」
「うん」
少女は小さくうなずくと俺の方に寄ってきた。
お使いはようやく終わりそうだ。
……………………
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