春の爆弾祭り開催中
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──春の爆弾祭り開催中
俺とラルヴァンダードは軍用サポートAIであるODINが探知した国連人類防護軍の無線通信の発進地点に向かっていた。
地獄からの侵攻が始まってから軍用衛星は次々に撃墜されてしまい、今は成層圏プラットフォームである巨大ドローン“ユリカモメ”が通信の中継から航空偵察、兵器の誘導まで行っていた。
故にそいつが存在しないこの人類完全放棄地帯には便利な衛星の画像などはない。
「こいつは使えそうだ。貰っていこう」
俺は放棄されていた
「まずは友軍との合流かい?」
「UNEの本社施設に行くなら足がいるからな」
俺が所属していた国連人類防護軍極東戦域軍第543特殊空中突撃旅団は各地に残されている核兵器を始めとする兵器の回収を行っていた。
地獄から侵攻してきた悪魔どもによって資源や工業地帯を征服された人類にはもはやまともな工業力はなかったが故に。
そのため日本において日本海軍が横須賀に保有していて、首都圏放棄の際に残された
だが、飛行型悪魔であるペガサスの攻撃を受けてパワード・リフト輸送機は墜落。神奈川と推定される地域のどこかに落ちた。
そして、放棄された首都圏で国連人類防護軍の無線通信が探知されている。
「飛ばすぞ。善は急げだ」
崩壊した恐らくは神奈川県の道路を
悪魔たちは獣のような知性のない相手を食い殺すことしか考えていないもの、人類と同程度かそれ以上のものがいる。
両者に共通のはその残虐性だ。
道路を少し走っただけでも串刺しにされた死体のモニュメントや何十人もの四肢を切断されて首を吊るされた死体を目にすることができる。
「クソ悪魔どもめ。この手のオブジェがあるってことはサル並みの知性がある悪魔がいるな。獣型ならば食い殺して終わりだ」
「悪魔たちにとって人間は奴隷であり家畜であり玩具。特に知性の高い悪魔ほど残酷だ。生きた人間でオブジェを作り、苦しむ人間たちの様子を楽しむ。幼い子供がアリの巣で遊ぶようにね」
「お前はどうなんだ? お前は見るからに知性が高い悪魔だぞ」
「ボクはああいうものには興味はないよ。ボクは人間を自分で傷つけることではなく、人間は人間自ら破滅していくのが好きなんだ」
「ろくでもない野郎だ」
「そうかい? 人間だって悲劇を演劇や映画というエンターテインメントの素材にして楽しんでいる。マスメディアは実際の悲劇をネタにして面白おかしく扱って収益を上げる。ボクたちと何が違うというの?」
「その手の人間は揃ってクソ野郎って言われるんだよ。人間であろうとな」
ラルヴァンダードが茶化すように言うが俺はそう返してやった。
俺たちを乗せた
『警告。前方に複数の低脅威悪魔』
「おっと。悪魔どもだ。あれは憑依型悪魔だな。マリオネットだ」
俺のヘルメットに一体化した
マリオネットは人間の体を悪魔たちが利用したものだ。身体を悪魔に乗っ取られたものが同胞であった人間たちに牙を剥く。
「片付けるか」
俺はマリオネットをマークする。数は14体で国連人類防護軍が撤退に際に放棄した銃火器で武装していた。悪魔に乗っ取られているが、武器を使う脳みそはあるのだ。
「ODIN。熱光学迷彩起動。兵装をステルスモードに」
『了解。熱光学迷彩を起動』
第九世代熱光学迷彩は完全なカモフラージュを兵士に提供してくれる。同時に
俺は超高周波振動ナイフを抜き、同時に特殊作戦部隊の
SOEP-45は45口径高性能拳銃弾を使用するサイドアームだ。弾倉には22発の銃弾が収まっており、SER-95と同じく電磁力で銃弾が放たれる。
装着されたサプレッサーは音を完全に消すため、悪魔たちが気づくこともない。
俺は密かにマリオネットの集団の背後に回り込み、超高周波振動ナイフをマリオネットの首にそっと回し、そのまま喉を掻き切った。マリオネットは所詮は人間をベースにしているためこれで十分。
間抜けなマリオネットたちは仲間が殺されたことに気づかず進み続けている。俺は背後から1体、1体マリオネットの喉を裂き、心臓を貫き、腎臓をめった刺しにして連中を仕留め続けた。
「オオオッ! オオオオッ!」
「ギャッ、ギャッ!」
14体中8体まで倒したところでマリオネットたちがようやく攻撃に気づいた。人間の声帯で獣の雄たけびを上げながらマリオネットたちが周囲を見渡す。
「気づくのが遅いぞ、間抜けが」
俺はSOEP-45の多目的熱光学照準器を覗き込み、慌てるマリオネットの頭に大口径弾を叩き込んでいく。炸裂弾を使用しているためマリオネットの頭がスイカ割りのように弾け飛んだ。
「グギッ! グギギギギッ!」
全く、マリオネットの鳴き声は気持ちが悪い。人間のそれでありながら、獣のそのものの発音をするのだから。まるで狂った人間を相手にしているようだ。
マリオネットレベルの低脅威悪魔が熱光学迷彩を使用している俺たちを探知できることはほぼなく、勝負は一方的なものとなる。すなわち殺すものと殺されるものが決まった虐殺ってところ。
「オーケー。お前で最後だ。くたばりな」
最後のマリオネットの脳天に炸裂弾をぶち込み、脳みそが飛び散った。
「鮮やかなお手並み。流石は熟練の兵士だ。悪魔を殺すのは楽しいかい?」
ラルヴァンダードがマリオネットの死体が散らばる戦場にやってきて尋ねる。
「楽しいぞ。銃を撃って相手が死ぬってのは楽しいものだ。銃は男根の象徴で、すなわちそいつをぶっぱなつのはそういうことだろ。こいつで興奮しない野郎は不能だぜ」
「やれやれ。また随分と古めかしい迷信紛いの心理学の話をするね。けど、楽しいようで何よりだよ。君が楽しいとボクも楽しい。殺戮というのは誰が殺されているかに関わらず、参加している存在が楽しそうであれば面白い」
「そうかい。しかし、マリオネット程度じゃ楽しめないな。こいつらは数が湧くと厄介だがそうでなければゴキブリ以下の脅威だ」
俺はそう言ってマリオネットの死骸を蹴り飛ばした。
「さあ、友軍と合流と行こう。道草食ってる場合じゃない」
再び
「砲声だ」
ODINが国連人類防護軍の無線通信を探知した方角から迫撃砲の砲声が聞こえた。
「どうやらお仲間はパーティーしてるみたいだよ。どうするの?」
「飛び入り参加だ」
「そうでなくっちゃ!」
「随分と楽しそうだが、あいにく俺たちは招待状を持ってない。突っ込めば人間と悪魔でサンドイッチにされちまいかねん。まずは招かれざる客を皆殺しにするぞ」
俺は銃声とは逆の方向にハンドルを回し、推定される敵勢力の背後に向かう。
『警告。前方に複数の高脅威悪魔の反応あり』
「オーケー。突っ込むぞ」
ODINの警告に俺は思わず笑ってしまった。
「不細工どもがその醜いツラを揃えて集まってるな。キメラとクローラー。それから馬鹿みたいにいるマリオネットども。殺し甲斐があるぜ」
生き物のパーツを子供が遊び散らかしたかのようにでたらめにくっつけた5メートルほどの悪魔がキメラ。強酸性の粘液に覆われている巨大なナメクジとした表現しようのないものがクローラー。
キメラは見た限り6体でクローラーは10体。マリオネットは数えるのがうんざりするくらいにたくさんといったところ。悪魔どもの愉快なパーティーパックだ。
その悪魔どもに群れの中に迫撃砲弾が着弾していた。口径120ミリの重迫撃砲の砲撃だ。砲撃の早さからして自動装填装置付きの自走迫撃砲だろう。
悲しいことに悪魔どもは迫撃砲の砲撃で生じる破壊の影響をほとんど受けない。マリオネットはともかくそれ以外を殺すには口径155ミリ以上の榴弾砲が必要だ。
「どうするの?」
「連中を殺す。他にすることあるか?」
「ないね」
俺はSER-95を構えて
「気分はチャールズ・ホイットマン」
SER-95に新しいマガジンを装填し、オプションで付けられている多目的熱光学照準器で狙いをキメラの頭部に定めて引き金を引く。
口径25ミリのこのモンスターに装填されているのは
セミオートモードで銃弾を悪魔に叩き込む。キメラの頭部が爆ぜたと思えば、さらに叩き込まれた銃弾で脳みそが撒き散らされる。
『戦術オプションを提示。近くに爆発物があります』
「そいつは景気がいいな。いただこう」
ODINは国連人類防護軍の装備についたマーカーを探知して
「それは何かな?」
「戦闘工兵用の梱包爆薬がたっぷりだ。こいつを捨てて逃げたとは勿体ない」
「へえ。それは面白いの?」
「イエス。天までぶっ飛ぶくらいにな」
俺は山盛りにされた梱包爆薬に近くに置いてあった
大爆発。
電子励起爆薬で構成される戦闘工兵用の梱包爆薬はマリオネットの四肢をもぎ、クローラーの気持ち悪い体を大きく抉り取った。
「わお! これは楽しいね!」
「イケるぜ。来やがれ、化け物ども。爆弾食べ放題だぞ」
ラルヴァンダードが歓声を上げて飛び跳ね、俺はさらに梱包爆薬を投げる。
「そらよっと。たっぷり味わいな」
今度はキメラが吹っ飛ぶ。
キメラ、クローラー、マリオネット。この手の連中のオツムはよくない。自分たちの仲間が死んでいる原因を分析する能力はない。ただ、数と頑丈さにものを言わせて人類を押して来ただけだ。
「楽しいね! とってもクールだよ!」
ラルヴァンダードはよく分からないステップを踏んで楽し気に踊っている。
『通知。付近の国連人類防護軍部隊との交信が可能。発信元は国連人類防護軍極東戦域軍第9001機械化歩兵師団隷下部隊。応答しますか?』
「もちろん。伝えろ。こっちに友軍がいるから撃つ時はちゃんと相手を見ろってな」
『通知しました。発信元はユーザーとの直接通信を求めています』
「今、忙しい。後にしろ」
俺はODINにそう返すと群がる悪魔どもにありったけの爆弾をお見舞いしてやった。
『警告。高脅威悪魔が接近中』
「おーおー。ブルがお出ましだ」
キメラとクローラーが爆弾でコテンパンにされたのちに現れたのはイノシシのような頭部を有し、10メートルはある巨大な悪魔だ。通称ブル。
こいつが同じ巨体のゴリアテと別種になっているのは、ゴリアテよりも鈍重な代わりにその力はゴリアテより何倍の上だから。防御力の面においても、攻撃力の面でもブルはゴリアテより上だ。
連中が技術のかけらもない斧やハンマーで第七世代の主力戦車をあっさりと撃破するのを見て来た。文字通りの人類にとっての悪魔である。
「お前、人間ではないな? 悪魔の臭いがする。悪魔がどうして同じ悪魔を殺す?」
「お前らが嫌いだからだよ。殺したいぐらいにな。だから、死ねよ」
最後の梱包爆薬を俺は掴めるだけ掴むと屋上からブルの巨体に向けて大きく跳ねて、飛び掛かった。ブルが上空を見上げて手に持ったスレッジハンマーを構えて俺を迎撃しようとするのに俺はブルの口を狙って梱包爆薬を投擲。
092式強化外骨格は人工筋肉によって人体の力を数百倍に引き上げ、あらゆる脅威から防衛する。その
「クソ! 忌々しい人間であることを止めた化け物め! なぶり殺してくれる!」
「やってみろよ、醜い化け物め。俺を殺せるものなら殺してみろ。お前が狩る側だったのはもう終わった。今度はお前らは狩られる側だ」
ブルがスレッジハンマーを振るえば俺が立て籠もっていた廃墟が折り紙のように脆く破壊され、完全に倒壊する。
「腕力だけはある低能の猿が」
飛び散る廃墟の瓦礫を
「死ね! 化け物となった人間が! 悪魔でありながら悪魔を狩る外道め!」
「てめえがさっさと死ねよ。この不細工なでくの坊風情め」
俺は地上に降りて梱包爆薬のダメージで一時的に視力を喪失したブルを相手にSER-95から大口径ライフル弾を正確にブルの頭部に浴びせる。
「人間! 舐めるなよ! たとえ悪魔の力を得てもお前はただの飴細工のように脆く、羽虫にすら劣る存在だ!」
「へえ? なら、俺を潰してみろよ、でくの坊。お前がミンチ肉に加工される前にな」
地面を揺るがす咆哮を上げてスレッジハンマーを振りかざす怒り狂ったブルに俺は二ッと笑ってSER-95の銃口を向けた。
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