28章 Space Oddity

 90日目だ。つまり3ヶ月目。完璧に見失った。自分が何処にいるのか分からない。マレーシアまで付けるかかは怪しい。風は極端で無風のもあるが風が強すぎて帆を支えるフレームが壊れそうになるのでそのときは外した。食料もたまに釣れる魚ばかりだ。それは見たことのないまるでエイリアンの様な深海魚みたいた形をしていたが、味は美味しいもの、マズイもの様々だった。食べた後吐き気や下痢をする魚もあった。


 キカワがMP7で襲いかかってきた時に、右腕を撃たれたがかすり傷だった。救急箱にあった針で自分で縫った。7針は縫うかすり傷だった。弾丸は着弾し無線が半壊した。聴くことは出来るが応答することはできなかった。窓ガラスが全て割れていたし、船室に気温10度以下の風が流れ込んできた。とても寒かった。その時に、村に引き返しておけば良かったかもしれない。マレーシア海軍の無線で聴くと本日は北緯31度。東経151度。

日本に近い。そのまま行くことを選んだ。方磁石と六義分を使って目的地へ向かった。予定だと30ノットで3日半で付く位置にマレーシア軍が居るはずだった。

しかし、いくら周りを双眼鏡で周りを見てもマレーシア軍どころか誰もいなかった。六義分の使い方をお間違えたのか。最悪だ。仕方ない。明日頑張って見つけよう。寒いし疲れている。その時は寝ることにした。

 次の日だ。嵐が漁船を襲った。見たことの無いような大きさの、目測で単純に5階建て大きさは有るだろう波が冷たい水をお土産を投げ入れるかのように割れたガラスから容赦なく流れ込んでくる。排水ポンプでは追いつきそうに無いくらい水が流れ込んできた。イシカワはこのままだと沈没するのでは無いかと考えた。軍用のレインコートを着ながらバケツで船内に流れ込んできた水を入れ外に吐き出すが意味をなさなかった。1日続いた。

 あまりの激しい格闘の末に、嵐が収まった頃には、そのまま寝込んだ。気づくと4日は寝ていた。

 イシカワは目を覚ますと身体中が寒かった。外気が寒いからではない。悪寒だ。風邪を引いていた。粘度の強い黄色い鼻水は止まらず、痰をが喉に絡まり何度も海に痰を吐き出した。こんなの悪いことが起きる序章だった。体温計が無いのでイシカワの体温は何度なのか知るよしもなかったが、幸いにも風邪薬が救急にあったのでそれで対処することにした。

 水が船室に流れ込んせいで、無線機が完璧に壊れた。防水の設計だったがキカワの撃ち込んだ弾丸が空けた穴から水が侵入したのだろう。使い物にならない。たとえ変わりの部品があったとしても修理の方法が分からない。それに、保存食が12個入った箱が2個と水も500リットル1ダースの箱が2個波に持って行かれた。

 それに一番の痛手は六義分が流された事だ。六義分なければ自分がいる場所も、分からない。分からなければ、プランB(そんな事は考えてなかったが)マレーシアにすらたどり着けない。それともと悪いことに気づいた。甲板に固定してあった燃料タンクの5個の内、2つに穴が空いていた。おそらく、キカワとの銃撃で開いた穴だと思われる。2つの燃料タンクは空だった。残り3つだ。プランBは完璧に終わった。プランAつまりマレーシア海軍に遭遇する可能性も低くなった。それに、嵐に巻き込まれてだいぶ流されたに違いない。絶望的だ。

 急に、セラピーでオオクボ先生が言った言葉が頭の中に響き渡った「良い方の面を見ましょう」。そうだその通りだ。イシカワは船内を隈なく探った。保存食は30日分はある毎日半分に食べれば大丈夫だ。それから母の作ったイチゴジャムが5瓶残っている。釣具だってある。魚を食べれば生きられる。水は50日分は有る。それに雨が降るから水はきっと大丈夫だ。それに、コンパスは一つ紛失したが、予備のコンパスを持っていたおかげで方位が分かる。キタヤマ隊長の言っいた通りだ。「コンパス絶対に予備を持っていけ」ちゃんと話を聞いていてよかっかたとイシカワは思った。マレーシアは南西の方角にある。これならたどり着けるかもしれないと少し希望が出てきた。それに、軍用のトランシーバ。これは周囲は5キロまで先まで使える。水平線の端まで5キロ。もし船舶を見つければ連絡を取れるかもしれない。それとウォークマンとカセットテープが20個。イシカワの選曲した物とアキモトが選曲した曲が入っている。それと事前に図書館から盗んできたサバイバル方法の実家にあった子供頃買ってもらった魚の図鑑と小説。ちゃんとビニール袋に入れなかったせいで水分を吸ってフヤケているが乾かせば読めそうだ。あと、銃器と弾丸。HK416アサルトライフル1丁マガジンが4個弾丸は100発。グレネードランチャーはキカワとの戦闘の際に弾丸が無くなったのでただの筒になってしまった。VP9ピストル2丁とマガジン4個に弾丸100発。あと、ギバから貰ったショットガンと弾丸40発。照明弾用のピストルと照明弾4発。これで、海賊がに遭遇しても大丈夫だ。本当に海賊が居るのであればだが。イシカワはそれから4日間、救急箱に入っていた銀色の保温シートに身を包んだ。この銀色の保温シートアルミで出来たシートは体温を保持してくれて低体温症をふせいでくれる。しかも、風邪であればなおさら。必需品だ。シートに包まっている間、汗が滝のように流れた。右の撃たれた跡がズキズキ脈打つように痛みんだ。ただ、今はイシカワに出来ることはただ身体を休める事しか出来なかった。体調が良くなり次第行動するしかない。

 4日後、風邪は治ったようだ。だが、撃たれた右手がこぶし大に大きく腫れコブのようになっていた。皮膚の表面は紫色をしていた。痛みを感じなかった。痒いだけだった。炎症を起こしているに違いない。海水のせいなのか。それとも外気や海水に含まれた放射能が影響してるのか。それとも普通にバイ菌が入ったのか。とりあえず処置する事にした。ナイフの先端を焼いて消毒し、大きく腫れ上がったコブににナイフの先端で刺した。すると中から白っぽい緑色のした悪臭のする膿が顔を出した。思っきりコブを押すと甲板に膿をぶち撒けた。酷い臭いがした。まるで腐っているみたいな臭いでイシカワは吐きそうになった。だが、これで終わりではなかった。2週間もするとまた膨らみ初めてこぶし大とまでは行かないがその半分くらいの大きさにまでコブが成長する。その度にナイフの先端で穴をあけては膿を出すのが恒例行事になった。

 釣りは、1週間に一回魚が釣れればいいほうだ。やはり原水爆の影響で魚の数が少なくなっているのだろう。それともイシカワが釣りが下手なだけかもしれないが。釣れた魚は様々。イシカワは魚の種類について詳しくな為サバイバル本と魚図鑑で何の魚か調べたが半分の種類は何の魚か分からなかった。残り半分は殆どが深海魚だ。食べられるか疑問だったが、これも生きるためだ味にこだわっている暇などなかった。ガスコンロが生きていたので焼いて食べるのが習慣だった。生だとお腹を壊す可能性が有るからだ。焼いてもお腹を壊す事もあったが仕方ない。

 相変わらず南西を目指し、燃料を無駄にしたくなかったので、風が強い日は帆使い、風がない日は燃料を使って南西を向かった。

 イシカワは空腹から来るせいなのか、絶望から来るせいなのか悪夢を見るようになった。今まで、彼が殺してきた人々が夢に現れる。最初に殺した青年、アキモトとその母親、屋敷で銃撃して総長と愉快な仲間達、黒スーツの警備の4人の男、警官2人、遠征部隊の隊長、村長のヨシダ、執事のスドウ、そしてキカワ。皆、イシカワが殺した時の姿で血を流し身体が欠損した姿で、ただイシカワを見ている。別に幽霊を信じているわけではないが、幽霊や亡霊というのはこういう事なのだと彼は思った。自分がどんな理由であろうと殺してしまった罪を無意識に無理やり蓋を閉めて隠しているが、それが時々夢や起きている時に意識に流れ込んでくるのだと。どうしたら、この幽霊や亡霊を成仏できるのだろうか?セラピストのオオクボさんなら何かアドバイスをくれるかもしれないが、ここにはいない。亡霊たちと向き合うしかないのかもしれない。

 2ヶ月目のこと。Swatchの腕時計の日付の機能が正しければの放しだが、いくら南西に進んでも周囲に見えるのはただの水平線。何もない。ついに燃料が切れて、帆で風まかせに南西を目指していた。少なくてもフィリピンには近づいているはずだ。フィリピンは核攻撃後どんな状態なのか全く分からなかった。村に居た時フィリピンからの無線連絡がなかったから。もしフィリピンにたどり着いたら物資を調達してマレーシアに行こうと考えていたから。でも全く見えない。今分かっているのは、ここが太平洋だということ、そして自分は南西を目指している事だけだ。

 気候は暑い日もあれば気まぐれに大雨が振って水の確保も出来たがスグに止んでしまう。風が強すぎて波が荒れる日もあれば、信じられないほど暑い日の翌日には零下を下回り雪が降る日もあった。完璧に自然が狂っているに違いない。気を紛らすためにカセットウォークマンで音楽を1日1時間聴いた。電池を節約するためだ。相変わらずアキモトの古めのヒップホップが多いい。ノートリアスBIG 、2パック、トライブ・コールド・クエスト、スヌープドッグ、ウータン・クラン、Nasばかりだ。イシカワはアキモトがヒップホップばかり入れるに違いないと思ってロックや最近のヒップホップをばかり入れていた事が正解だった。キュアー、デビッド・ボウイ、レディオヘッド、ヴィンス・ステンプルス、タイラー・ザ・クリエイター、ケンドリック・ラマーなど色んな種類を聴いた。それに、アキモトの選曲のカセットテープを聴くと彼を殺してしまった事を思い出す。なので、あまり聴くのが悲しくて聴けなかった。

 漂流70日目。イシカワは周囲を双眼鏡で見回していると、南東にヨットを見つけた。生存者か!と嬉しくなったが、もしかすると海賊かも知れないと思って緊張した。とりあえず、VP9ピストルをズボンの後ろの隙間に隠し、予備の弾倉を4本ポケットに、そして、ギバからもらったショットガンに散弾を込めてM65フィールドジャケットにの脇に隠した。ゆっくりと帆を調整し、南東に有るヨットに近づいたが、相手が警戒しているのか誰も乗っていないのか、逃げようともしないし、こちらに向かってこようともしない。ヨットは漂っているだけだった。ヨットにたどり着くと4人用の小さなヨットだった。甲板には誰も乗っていない。おそらく船室に隠れているのかも知れない。

 イシカワは船室を叩いたモールス信号で「怪しいものではありません」とヨットを使えるくらいならモールス信号くらい分かると思ったからだ。しかし、応答がない。いくら怪しいものでは無いと言っても向こうは怪しむはずだ。それにこの船は日本の船籍かどうか、怪しい。なので、単純にSOSと5回叩いた。やはり中からは反応がない。ヨットの窓ガラスから中を覗く事にした汚れていて袖で拭いた。中には風船のように黒く膨れ上がった物が見えた。嫌な予感がした。扉を空けた鍵はかかっていなかった。悪い予感が当たった船室には4体の死体があった。

 死体は親子の者と思われる。死後何日かは分からないが。久々に嗅いだ酷い腐敗臭で船室を出て海に向かって吐いた。

 イシカワは口と鼻に布を巻いて船内に入った。船室の中央にメモ帳があった。ぱっと見た感じ、スペイン語だった。おそらく父親だと思われる一番でかい死体のジーンズの尻ポケットに入っている財布を見ると、彼の名前は「AlfonsoMendez」日本語で発音するとアルフォンソ・メンデスでいいのかは分からないが、メンデス一家だ。嫁だと思われる遺体はMónica、多分モニカだ。長女と思わるティーンエイジャだろう娘はMariana、たぶんマリアンナだろう。そして小学生と思われる長男はDavidだった。これは自分でも分かったデビッドだ。スペイン語で発音するとなんと言うのかまでは分からなかったが、皆首にカミソリの刃で深く切られた跡があった。おそらく絶望して自殺したのだろう。ヨット内に使えるものがないか、物資が無いか調べたが食料はなかった。それと、無線も使えなかった。デジタル無線だったようだ。ヨットはエンジン付きだったが燃料もなかった。

 イシカワはこのヨットに移る事にした。帆がアキモトの漁船よりはるかに大きい。こっちのほうが便利だし、船室は特に損傷が無かったので雨風をしのげる。漁船から物資をヨットに移し替えた。といっても対した量は無い。あと僅かな食料と水と雨を貯める用の空のペットボトルと武器だけだ。運び終えると、メンデス一家の遺体を片付けた。遺体はかなり重たかった。途中船室の右側にメンデス一家のA4サイズほどの大きさの写真が額縁に飾ってあたのを見つけた。褐色の肌でカメラに向かって幸せすに笑顔を浮かべて写っている。とても幸せそうな家族だった。なんとも言えない気持ちになった。こんあ幸せそうな家族がこんな最期むかえるなんて。

 死体に手を合わせ、合掌してから全て海に流した。これで成仏出来るだろうか?宗教がちがうから成仏という言葉が当てはまるかは分からないが。遺書も一緒に流そうかと思ったが、もしかすると肉親や知り合いが生存してるかも知れないと思って取っておくことにした。

 それからいくら何度か船籍を見つけた、巨大な貨物船だろう横転していたり、中には、アメリカ船籍の漁船だろう。船員内で食料が尽きて斧や銃で殺し合った形跡があった。もちろん、燃料も食料もなかった。イシカワはせめて、彼らが居た事だけでも忘れない為に、免許証や身分証になるものを持ってヨットに戻った。

 

 80日が過ぎた。完璧に食料が底をついた。雨も振らないので水も確保出来ない。自分の小便を空のペットボトルに入れて飲んだ。最初は吐きそうだったが、次第に慣れた。

 ある日のこと、ヨットの周りをサメのヒレがグルグル回っていた。サメを捕まえれば食べられるかもしれない。そこで、思いついた自分はアサルトライフルを持っている事を。ヨットの船室に生きHK416アサルトライフルを持ってマガジンを確認し、予備のマガジンを二個ポケットに入れてサメに向かってマガジンが空になるまで連射した。サメに何発か弾丸が着弾したらしく血を流し周りは真っ赤になった。まだ、サメは動き続けている。これは成功する。と確信したイシカワはマガジンを交換してもう一度フルオートで連射してサメを撃ち続けた。するとサメは動かなくなった。そして、サメは深い海の底へと沈んでいった。

 イシカワ笑いが止まらなくなった。なんて自分がバカなんだと。彼は自分に呆れてイラつきHK416を海に投げ捨てた。こんな物のせいで狂った世界で更に狂ってしまった。笑いは1時間以上は続いた。


 漂流100日目。多分100日目。もう、日にちなど数えていなかった。もしかしたら日付変更線を越えてるかもしれないので日にちなんてもう関係ない。右腕は右の指先の先端まで紫色に変色していた。痛くも痒くもなかった。母が作ってくれたイチゴジャムも底をつきた。ウォークマンの電池は切れて、音楽は聴けないし、最初は励みになった「ライフ・オブ・パイ」も「火星の人」も今では絶望を誘う本でしか無い。釣りをしても、魚は釣れない、雨も振らないので水も確保出来ない。小便すら出ないので小便すら飲めない。こんなに周りに水が広がっているというのに海水というだけで飲めないとなという皮肉だろうか。

 イシカワは自殺を考えていた10日前からだ。もう、いくら南西の方角に行ってもマレーシアにはたどり着けない。それにこっちには銃がある。ギバさんからもらったショットガンで頭を吹き飛ばそうと考えたが、それはギバさんに申し訳ない気がしてやめた。なのでVP9ピストルで頭を一発撃つことにした。何度グリップを握って引き金に指をかけても引くことが出来ないでいた。他人や友人を殺せたのに。もうダメだ。甲板の上で空を眺めた今日は雪と違って温かい。丁度いい温度だ。おそらく20度半くらいだろう。空もきれいだ。絵に描いたような真っ青だ。死ぬにはいい日だ。アズサの元へ行こう。漂流中アズサの事をすっかり忘れていた。なぜだろう。アズサもイシカワと同じで、アノ世も来世も信じていなかったが、今の彼にはアズサがアノ世で待っているという事だけが唯一の救いだ。VP9ピストルを握りしめたが、急に意識飛びそうなくらいの強烈な睡魔が襲った。死ぬ前に一回寝てからにしよう。この狂った世界では寝ることが平等に上下性別関係なしに得られた唯一贅沢だからだ。最後の贅沢を味わって死のう。それからでも遅くはない。

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