26章 仲間入り
翌日、緊急で村議会が行われた。
「皆さん、大変な事件が発生しました。漁師兼沿岸警備隊のアキモト、その母親は略奪者のスパイでした。略奪者グループと無線を使い連絡を取り合い、上ヶ丈山村を村を襲う計画があったのです。重武装した略奪者たちは海から上陸し、村を襲う計画だったようです」とヨシダ言うと、会場はざわめきだした。
「しかし、安心してください。それに気づいたイシカワ隊長率いる特殊部隊がそれを阻止しました。」とヨシダが言うと会場は拍手喝采になった。
「それでは、今回の上ヶ丈山村を救った立役者、いや、主人公であり村の英雄でもあるイシカワさんから事の経緯を説明していただきましょう」
と言うと、ヨシダの隣で座っていたイシカワが立ちマイクを渡された。イシカワはそれまでと違った堂々たる振る舞いで壇上の中央に立って言った。
「皆様。先程のヨシダ村長の話を聞いて、さぞかし不安になったでしょう。私の友人であった、アキモトの様子がおかしかったのに気付いた事が始まりです。アキモトの恋人が誘拐され、ショックだったのだと思っていました。でも違いました。彼の部屋に遊びに行った時に、モールス信号のメモ書きを見つけました。そこには日時と緯度経度。つまりは、深夜3時、場所は漁港でした。海からの侵入経路と思われる内容の物だと直感しました。私は、ヨシダ村長に相談し秘密裏に諜報部隊を設立しました。10名からなる特殊部隊と、10人の沿岸警備隊で構成された部隊です。
皆様も知っている方はいらっしゃるかも知れません。私とアキモトは古くからの友人、いや親友でした。絶対に自分の勘違いであって欲しいと願いました。しかし、違いました。メモに書かれた時間。漁港で見張っているとアキモトとその母親が漁船に乗っていました。すると南から4隻の見慣れぬ船がこちらに向かって来たのです。
もしや、入植者グループかもしれないと思い、スピーカーや無線でその船籍に呼びかけると、向こうから銃を発砲してきたました。こちらも50ミリ機関砲とグレネードランチャを使い交戦し2隻の船を沈没させ、2隻は逃げるようにして帰って行きました。
アキモトに事情を聞く為に彼の漁船に行くと、アキモトとその母親が私に銃向けて来ました。私はアキモト親子を撃ち殺してしまいました。そうするしかなかったのです。アキモトは親友です。たとえスパイでもです。今でもあの殺してしまった事を後悔しています。もっと違う方法で彼をスパイにするまで追い詰めた物は何だったのかを自分に問いかけています。彼をおそらく恋人さらわれたショックからこの様な異常行動に出たのだと考えられます。そう考えると、あのときマキタ率いる誘拐犯を取り逃がした自分が許せません。もしマキタを捕まえ恋人であるエリカさんを救助できていればこんな悲劇はなかったと思うことがあるからです」とイシカワは既存とした威厳を持った立ち振舞で結果報告を言うと村議会に集まる村民と入植者、特に村民は割れんばかりの拍手した。
「その、逃した2隻の船はどうするんだ?もう一度襲って来るのではないか?」とある村民が叫んだ。
「大丈夫です。相手の拠点。いや、基地の場所を特定したからです。アキモトの部屋から見つかった膨大の量のモールス信号の資料と、途中で銃撃のショックで亡くなった捕虜の証言から、彼らは40人からなるグループで、大島に居ます。海賊のように各地を船で彷徨い、虐殺や強姦略奪を繰り返して居たようです。先の戦闘2隻を破壊したので、残り20人のグループと思われます。なので、今夜2時に大島にに対して奇襲攻撃を仕掛けます。隊員は私を含め特殊部隊が10名と大島に上陸する予定です。これで略奪者を殲滅します」とイシカワが言うと拍手の嵐だった。「いいぞ!やれやれ!」と叫ぶものや「頑張れ!」と叫ぶ者もいた。
この演説、事件報告は全てでっち上げだ。総長とヨシダにイシカワが提案した。仮想敵が外にいるほうが、入植者を仮想敵にするより都合がいい。いつ、入植者不満が爆発しクーデターに発展するかもしれないと総長も考えていたらしい。アキモトには申し訳ないがスパイになってもらった。死人に口なしだ。
夜の12時。哨戒艇2籍、イシカワ隊長率いる特殊部隊(総長の警備と警官)と10人と向かった。遠征部隊は入植者が多いので彼らにバレるとクーデターが起きる可能性があるとイシカワの提案だった。海に目をやると、まだ、看板やら、横転したタンカーやを見つけた。時折、炭化し水を吸ってブヨブヨになった死体を3体は見かけた。もう死体なんてとっくに魚の餌になっているものだと思っていたのでビックリした。
2時間しない内に大島に着いた。深夜2時。上陸するとやはりマキタの恋人である漁師のイクシマが言っていたように、暗がりで観る限り大島には誰も居なかった。漁船一つなかった。皆がノアの箱舟プロジェクトに行ったのか、それとも違う所に行ったのか。建物の窓ガラスは吹き飛んで全て割れているが、建物は壊れていない。上ヶ丈山村村よりはるかに住みやすそうなのに。この島にも東京や神奈川から死体が振ってきたらしく、時間経過のせいもあって道路のシミにしか見えなかった。
この部隊は皆グルなので、戦闘する気なんてなかった。皆で一様住民がまだ潜んでるかもしれないので交代で見張りを立てて漁船で寝た。
朝になり大島を探索した。物資は殆どなかった。犬も猫も畜産の牛や豚や鶏もいなかった。有ったのはお土産屋に絵葉書とキーホルダー。一瞬持って帰ろうかと思ったがフザケてると思われるのでやめた。やはり島民たちは皆一斉に逃げたのだろう。食料と言えるものは何一つなかった。ハワイにでもいったのだろうか?マレーシアにでもいったのだろうか?建物が壊れていないのに誰も居ないのは不思議な光景だった。
大島に生存者が居ないことを確認すると皆でお互いを撃ち合った。もちろん防弾ベストを皆着ている。これもアリバイ作りの為だ。4回も胸を撃たれているイシカワは背中の脇腹を撃つように頼み撃ってもらった。相変わらず防弾ベスト越しに撃たれるのは痛かったが4回目なので、想像を絶する様な痛みではなかった。
隊員の中には泣き出すものもいた。無理もない。本当に痛いのだから。面白かったのは総長の警護隊の強そうな奴を撃った時に、彼もその痛さから泣き出していた。彼は攻撃をしたことはあっても攻撃をされたことがないのだとイシカワは思った。
それと、血が出ている物がいるとその戦闘が激しかったことがアピールできるとクジを引き、当たった者に腕や足にナイフで切り傷を付けた。大丈夫。動脈静脈は切らなかったし、ナイフもちゃんと消毒した。中には間違って6針は縫うハメになった隊員もいるが、村までは持つだろう。
銃撃戦ごっこを終えると上ヶ丈山村に引き返した。昼の12時には上ヶ丈山村に着いた。みんな歓迎ムードだった。隊員の撃たれた後や血を流した隊員をみていかに激しい戦闘だったかをアピールした。
それから、イシカワは略奪者グループがネットワークを作り存在してこの村を狙っていると村議会で演説した。
村議会の帰り道、イシカワはアキモトの家に寄った。鍵はかかってなかった。電気をつけると、居間に茶色くなった血の跡があった。ここでアキモトとアキモトの母を袋叩きにしたのだろう。
「おーい、キコ!」と叫んで家中を探すとキコは二階にいた。2日間ご飯を食べていないので機嫌が悪そうだった。よしよしと撫でてキコを猫用のキャリーバッグに入れて家に戻った。キコにスパムをあげるとむしゃむしゃ食べた。相当お腹が好いていたんだろう。再びキコに会えてイシカワも嬉しくなった。もう一生会えないと思っていたからだ。
それからというものイシカワは変わった。総長と愉快な仲間達とヨシダ村長のグループに入った。アキモトとアキモトの母を殺した事もすっかり忘れた。何かが吹っ切れたのだ。
イシカワは総長と愉快な仲間達可愛がられた。ちょうど、彼らにとっては孫世代だからだろう。中には東京や横浜で孫を亡くした者もいる。自分たちの孫にイシカワを重ねたのだろう。
愉快な仲間たちとは、アキモトの遺品としてもらった漁船に乗って釣りをしたり、総長の家の敷地内にある使っていない工場の様な建物で行われる闘犬に連れてもらった。しかも、その闘犬に使われう犬は、いわいる土佐犬とかといった闘犬用の犬ではなく、普通の犬だった。ゴールデンレトリーバーからヨークシャテリアからチワワから雑種まで普通の犬を餓死寸前まで餌を与えず虐待して闘争心を植え付けお互いに殺し合いをさせて、どちらが勝つかを賭けるのだ。観客席を見ると知った顔が何にかいた。警官はもちろん、議員の者たち、マーケットを取り仕切っている温厚そうなオヤジまでいた。イシカワは最初はジョンの事を思い出し心が傷んだが、これもなれてきた。自分が賭けた犬が負けると悔しがり、券をビリビリに破いた。
村長のヨシダとも上手くやっていた。一緒に、メトロポリス2号店でコーヒーを飲んだり、他愛のない話しをした。ヤツはお調子者だが思っていたより良いやつだった。
総長の提案でイシカワは隊長から、村で新しくできた階級、軍曹に選ばれた。車両基地に使っていた場所に新しい仮設だが軍隊基地を創設した。そこで、遠征部隊に指示を出すのが役目だ。「外部に略奪者グループがネットワークを作って襲ってくると」デマを流してしまったので、イシカワは特殊部隊を引き連れ定期的に彼らには略奪者グループに戦闘した適当に撃たれたフリをしてもらった。時々生存者を連れて帰ったり物資の調達をさせた。に今まで分散していた武器庫を一つにまとめた。入植者達や村民にスパイがいて、もしクーデターを防ぐためだ。これはイシカワの提案だった。総長は「君は天才だ」と言ってイシカワを褒めた。
毎週、金曜日の夜。総長の豪邸でどんちゃん騒ぎの飲み会が行われた。そこには総長と愉快な仲間達と村議会員の連中と警官がいつも居た。もちろん、毎回イシカワは参加することにしていた。その際、色んな事をイシカワは知った。
ある日クリハタがイシカワに茶色い瓶を渡してくれた「プレゼントさ」と彼いった。
「なにこれ?」
「安定ヨウ素剤だよ」
「安定ヨウ素剤なら毎月配ってるじゃないか」
「ああ、あれね。偽物だよ。タダの砂糖さ」
「え?そうだったの?」
「うん、安定ヨウ素剤作るの苦労するんだよ。だから村中の人たちを安心させる為のモノさ」
「安定ヨウ素剤は誰に配ってるの?」
「一部の人だけだよ。重要な人材にね」
「それと、水道だけど飲まないほうがいいよ。安定ヨウ素剤なんて散布してないから」
そうだったのか、嘘だったのか。道理で死者数が減らないわけだ。
「なあ、お前、リーの殺人にも関わってるのか?」
「あれは違う。僕がリーを殺すわけない。彼は何者かに殺された。誰に殺されたかは未だに分からない。彼ほど真面目で村につくしてくれたし、友人だったしね。本当に悲しいよ」
「外国人実習生の大量失踪はどうなんだ?」
「さあね。僕には分からない」
それから驚いたことがある。料理を運んでくる配膳係の男に見覚えがあった。キカワだ。あのヨシダを切りつけた男だ。ヨシダはキカワを見るなり「おう!元気にしてるかキカワちゃん」と旧友と再会したように彼と握手した。
「君が僕をカッターで切りつけてくれたおかげで、無事に選挙に勝てたよ。ありがとう」
選挙中にヨシダが切りつけられたのは全て演出だった。今は総長に頼み込みキカワは総長の敷地内で料理を作ったり掃除をしたりと仕事をしているらしい。
総長は酔が酷い時に「あの、グエンめ。私があんなに可愛がったのに裏切りやって殺しても許せん」と自分が殺すよう指示していたにも関わらず怒ることがあった。そんなに、根に持つタイプなのか。もう、随分昔の話なのに。
深夜12時になると、恒例の「チョメチョメタイム」が始まる。要は総長が抱える娼婦たちとセックスできる時間だ。毎回きれいな女性と愉快な仲間達とヨシダとクリハタと警官と客人をセックスで持て成すのだ。少なくても女性は20人はいるらしい。
イシカワ何人かの女性とセックスした。時には2人の女性と同時にセックスをしたこともあった。だが、一番最初に相手にしてもらったミキさんを積極的に選んだ。総長は「おまえ、そんなにミキが好きか?」というので「はい」と答えると「そうか、好きなだけしろ」と微笑みながら言った。
イシカワはミキと部屋に入るとキスをし、彼女の身体を舐め回すようにキスをするのが恒例だった。彼女は28歳。イシカワと同い年だ。ボブカットで色白で背は170近くある。まるでモデルのような体型だった。胸は少し小ぶりで乳輪は少し大きくピンク色をしていた。くびれていてお尻は丸く引き締まっていて足が長かった。
ミキとは色んなセックスを試した。今までしたことのないような体位でやったり、何回できるか連続でできるか試し、時間をかけてじっくりやって次の日の夕方までセックスを楽しんだこともあった。ミキはアズサとは似ていなかった事もあり必死にアズサを忘れようとしていたのかもしれない。彼女とはセックス以外にも会話を楽しんだ。彼女はとても話し上手でいい子だった。
最初はイシカワに対して敬語だったが普通に話してくれるようになった。イシカワに恋人のように接してくれた。もちろん彼女は仕事として接してくれているのは重々承知の上でだが、そう接してくれるとイシカワも気分が落ち着く。
「ツバサ、今日も元気だね」
「ごめん疲れた?」
「ううん、ここジイサンばかりでしょ?だから勃たない人もいるし、スグ終わるか、道具を使ったりして痛い時もあって疲れるし、赤ちゃんプレイを強要してくるやつもいるし、私に幼稚園児の服を着せる奴もいるしで仕事とはいえ、気持ち悪いわ」
「そうなんだ」
「だから、私、ツバサの事好きよ。若いし、元気だし、変なことしてこないし、優しいし。それに、女の子慣れしてない所もいいよ」
「女の子慣れしてない所は褒め言葉じゃないよ」とイシカワ笑いながらいうと、ミキも笑った。
「他のヤツから酷い扱いを受けたりはしてないの?」
「たまにいるは。あの取り巻き愉快な仲間達と警官は特に。もう、嫌な感じ。偉そうで、していて楽しくない」
「そういえば、ミキはいつこの村に来たの?入植者?」
「違うは原水爆より前にいるよ」
ミキの話だと、六本木で元々は高級コールガールをしていたそうだ。彼女はセックスを仕事として割り切っているようで、自分のやっている事を恥じている様子はなく堂々としていた。それが3年前に総長の取り巻きにスカウトされて上ヶ丈山村の総長の豪邸の専属の娼婦になったとか。金土日の3日だけ村に来て、高級コールガール時代の2倍の給料をもらえるのでここで働く事にしたとか。客の殆どが総長が連れてきた、客人。政治家や官僚や大企業のお偉いさんから芸能人にワイドショーの司会者にマスコミ関係者。それに中には大臣や総理大臣までいたとか。とにかく総理大臣は最悪だったとか。彼女がそれ以上言わなかったので聞かなかった。とても不快な思いをしたのだろう。最近では、あのイシカワの様な村のVIPや総長の警備相手に仕事をしているらしい。
「総長とはしないの?」
「総長はそうね。私が言ったて言わないでね。なんか違う性癖があるらしいのよ。それが何かは分からないけど」総長はなにか、もっとやばい性癖でもあるのか?とイシカワは思った。少し漫画的なステレオタイプかもしれないが、権力者は異常な性癖を持っていても。まあ、不思議ではない。
ミキはこの屋敷の事を色々と教えてくれた。いつも宴会の時にいる四隅にいる黒いスーツを着てHK MP7サブマシンガンを持っている男たちは、元自衛官の特殊部隊にいた者、元フランス外人部隊にいた者や海外の民間軍事会社でイラクやアフガニスタンで実戦を経験した者もいるらしい。アサルトライフルを持った者が4人、サブマシンガンを持った者が4人に警備をしている。しかも、読み通り原水爆以前からこの屋敷に居て銃を所持していたらしい。拳銃は全員グロック17で統一してあった。
「ねえ、ツバサくん最近本当に元気になったね。精神的な意味で」
「そう?なんで?」
「最初あった時、ボロボロだったは。服装がとかじゃなくて精神的に。でも、元気になってよかった」
「そう?多分、ミキのおかげだよ。ミキといると楽しいからだよ」これはイシカワの本心だった。しかし、ミキはセックスワーカーとして仕事をしてくれていても、心の何処で悪い事をしている気になった。
「ありがとう。私もよ。でも、時々悲しそうな目をする時があるわよ。よく、その悲しそうな目を見ることがあるの。お客さんで奥さんに先立たれた人がする目に近い」
すると、ミキはイシカワを抱きしめて頭を撫でてくた。ミキはやさしい。いや、優しいくする演技が上手なだけかも知れない。だからいつもイシカワはミキを指名する。もし、ミキの言うと通り、他の客が最悪でイシカワの事をミキが好いてくれているのあれば少しは助けたいと思っていた。
前に、ミキにここを離れようとは思わないの?と聞いたことがある。「どこに?」と聞かれてイシカワ何も言えなくなった。確かに、もうマレーシアまで行かなければ上ヶ丈山村以外の場所は荒れ地しかないのだから。
周囲の村民たち特に入植者たちはイシカワ軍曹はついに総長グループに取り込まれたとのだと思われた。
イシカワは金曜は飲み会とセックス。土曜は休みで日曜は総長の敷地でパターゴルフ大会を総長と愉快な仲間達と村長のヨシダと警官と議員もクリハタとやって、水曜日は総長の愉快な仲間達とヨシダ村長と沖に出て釣りを楽しんだように思い込ませていた。
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