23章 Noah's Ark Project
朝の5時に村を出発して、イシカワ達は山梨への遠征途中だった。丁度今は134号線で三浦半島を出て車窓から、かつて江ノ島だった所を気持ちを落ち着かせる為にもぼんやりと眺めた。江ノ島は見る影もなく江ノ島の象徴であった展望台は焼け焦げ上部の方は完璧にに吹き飛んでいた。もし、原水爆が破裂しなくて、アズサと一緒に江ノ島でデート出来たら良かったのにと妄想した。だが、皮肉なことに原水爆がなければアズサとは恋愛関係になれなかったに違いない。そう思うと複雑な気持ちになった。
今回はポチ公ことイヌカワ遠征部隊と警察遠征部隊と合同遠征作戦だ。それに、警備兵が3人追加した。前方にハマー軍用車両2台、後ろに軍用トラックが2台、更に後ろにハマー軍用車両が2台。計6台。今回の遠征は山梨にある大手ネット通販の大型物流倉庫から物資を調達するのが任務だ。大型倉庫が残っていればの話だが。イシカワは先頭車両を走るハマー軍用車両の後部座席に座っていた。隣にはギバがいつものように退屈そうに外を眺めていた。
運転席にはマキタ。助手席にはポチ公隊長ことイヌカワ。後ろの2番目に走る軍用ハマーには警官遠征部隊の面々が4人。顔しか知らない奴らだ。その後ろの3番めと4番目を走る軍用トラックを2台を運転するのは入植してきた女性の警備兵が2人。5番目にハマー軍用車両にキリシマとアライと警察部隊の2人組。一番最後尾のハマー軍用車両に、オカダと顔を観たこともない者達が3人。おそらく総長のアーミーだろう。装備品を観てわかった。奴らグロックピストルを腰のホルスターに挿しているからだ。
イシカワはSwatchの腕時計を見ると針は7時20分頃を指していた。134号線を走り、藤沢辺りでの事。
「無線連絡。緊急事態。特別部隊応答せよ」と無線が鳴った。
「はい、こちら隊長のイヌカワ。どうしましたか?どうぞ」
「入植者の子供が拐われた模様。至急、上ヶ丈山村に戻れ」
マキタはハマー軍用車両のブレーキを踏んだ。車が停まって、後ろの車両群も止まった。
「おい、どうした。急に停めるな。無線を聞いただろう?早く村に戻らなくちゃ」とポチ公隊長ことイヌカワがいうと、マキタは左手に小型なリモコンを持って言った。「違います。後ろの車両が大変な事になるんです」と言うとリモコンのスイッチを押した。
後ろから大きな爆発音して周囲を爆音が轟いた。マキタはホルスターからSig320ピストルを抜きイヌカワ隊長の額に銃口を向けて引き金を引いた。イヌカワの額に小さな穴が開いた。そして、マキタは銃を構えながら後部座席にいるイシカワとギバに向かって、それぞれ3発づつ胸元を撃ち抜いた。
シミズの代わりにオカダという警備兵をしていた男が入ってきた。彼は背は190センチはあるだろう大男だった。隊員全員が彼の今まで見たこともなかった。おそらく入植者ではない。というのもこの男無口だ。殆ど何もしゃべらない。ポチ公隊長に命令された時に「ハイ」としか言わない男だった。なのでイシカワは総長の所にいる警備から派遣されたのではないかと思った。おそらくシンパだ。
オカダが隊に入ってから任務中に隊員たちは無駄口を叩くのをやめた。監視されているような気がしたからだ。それに、ポチ公隊長まで、無駄口を叩かなくなった。おそらく、オカダの方がポチ公隊長より序列が上なのだろう。しかし、イシカワはそれどころではなかった。村の事なんてどうでも良くなっていた。この村は狂っている。コイツラを救う暇などない。アズサが気がかりで他のことが考えられなくなっていた。彼女はいつまで生きられるだろう。彼女の家が暴漢たちが襲いにかかり火炎瓶を投げられたらどうしようと、任務中は心配で悪い方向にしか考えられなくなっていた。
イヌカワ隊長になってから終礼が行われっるようになった。全く面倒くさい。
「5日後、我らの部隊と警官遠征部隊は山梨にある大型物流倉庫に行くことになった。悪路も考え一週間を予定している。それまで身体を休めろ」
山梨だって?なんで、そんな遠い所に行かなくちゃいけないんだ。そう言えば最近物資も生存者も少なくなってきた。その影響だろうとイシカワは思った。貴重な1週間を無駄にさせた奴を撃ち殺したかった。
イシカワは武器庫に銃と装備品を置いてから自転車に乗ろうとした時のことだった。
「イシカワくん。ちょっといい?」マキタだった。しかも小声で。
「なんですか?」
「後で、私の家に来て」
飲み会でも行うつもりなのか?それだったらお断りだ。アズサと過ごせる時間はあと僅かだ。飲み会なんて天秤にかける程の意味もない。
「いや、アズサが待っているので」
「気持ちは分かるわ。でも、来てもらわないと困る。スグに終わるから」
「なんです、いったい?」
「キタヤマ隊長の事よ。それと大事な事」
キタヤマ隊長の事だって。何かわかったことでもあったのか?
「これから1時間後に来て。それと、この事は誰にも言わないでね」とマキタが言うと自転車に乗って彼女の家の方へと帰っていった。
イシカワは迷った。正直これ以上、村の事に関わりたくなかった。どうせろくな目にあわないからだ。この村でイシカワ個人が出来ることなどもう何もない。しかし、キタヤマ隊長の事は気になる。彼の死は未だに殺人だと疑っている。それに彼には良くしてもらった。彼がいなかったら、もしかすると絶望して自殺していたかもしれない。それに、キタヤマ隊長とも約束した。「なにかあったらマキタに」と。自転車のペダルを猛スピードで漕いだ。一旦アズサの家に行き、アズサに軽く事情を説明してスグ戻ってくると言うと、マキタの家へ向かった。
マキタの家の庭には5台の自転車が停まっていた。呼ばれたのは自分だけじゃないのか?マキタとギバの自転車は一発で分かった。自分と同じあの最初の遠征の時にもらったマウンテンバイクだからだ。それと、キリシマとアライのママチャリもある。あと、1台の自転車は誰のだ。検討がつかない。見慣れないママチャリだった。少し、不安になった。もしかして、マキタがシンパでそれに自分を取り込もうとしているのではないかと。だが、キタヤマ隊長が言っていたようにマキタを信じることにした。自転車を停めてドアをノックしするとマキタが出てきた。「遅刻よ」とマキタが言ったので腕時計を見ると10分遅れている事が分かった。
「すみません。一旦、アズサに会いに行ったので」
「別に怒ってないわよ。来てくれてありがとう。さあ、入って」と言うと家の中にいれてくれた。1階のリビングにはマキタの両親がいた。あまり面識はなかったが随分と老けた印象があった。軽く挨拶をして2階にあるマキタの部屋に入ると、ギバ、キリシマ、アライ、そしてマキタの彼氏であるイクシマが畳の上に座っていた。中央のちゃぶ台には大きなラジカセが置いてあった。
「イシカワくん座って」と言われるがままにイシカワ座った。
「みんな、来てくれてありがとう。実は皆にやって欲しいことがあるのよ」とマキタが話し始めた。
それは、総長と愉快な仲間達との飲み会から話が始まった。帰りキタヤマ隊長が総長の書斎に行くと、総長からある提案をされたらしい。自分の下につかないかと。つまり、シンパだ。キタヤマ隊長は何をすれば良いんですか?と聞くと、まず入植者を選別する事、それと自分にとって邪魔な或いは自分に不利な状況を作らないように手を貸して欲しいというのだ。キタヤマ隊長は迷ったがシンパを内側から潰せば村の怪事件もスケープゴートもなくなるかも知れないと考えた。その為に総長グループに潜入することを選んだ。総長達は毎週会議をし、どう自分たちに怒りの矛先がこちらに向かないかと、どう自分たちが村の中で有意に立てるかを議論したようだ。その結果が、公開処刑、外国人技能実習生狩り、それに、被爆者狩り、入植者狩りだったそうだ。まず、総長が支持を出してヨシダに上手く演説してもらい種火を付け、シンパ以外の一部の愚かな者の村民がそれに乗り、愉快な仲間達は複数のシンパに命令して負の連鎖が巻き起こった。しかも、何より怖かったのはシンパの数は10人以下もいなかったことだった。実際に総長が指示して起こした事件は3件だけだった。1件目は略奪者の少年を公開処刑に投票するようにヤジを飛ばし、5人の性奴隷にされていた女性に少年に虐待を受けていたと嘘の証言させた事。あのオオタニ少年は実際には5人の性奴隷にご飯を配り献身的に彼女たちをサポートし時にはかばい女性たちからも可愛がられていたこと。2件目は1番最初の外国人実習生の首吊り殺人。他の外国人実習生はシンパの仕業ではなく名もなき村民たちによって引き起こされた。そして、入植者狩り。これに関しては壁に落書きをしただけだったという。
イシカワは聞いていて怖くなった100人以上は愚かなシンパが紛れ込んでいるだろうと思っていたのに、シンパは10人以下もいなかったのか。じゃあ、他の悪事、リーが殺されたのも、入植者狩りも、毎日のように入植者やアズサの家の壁に怪文書の張り紙を貼っているやつも総長と愉快な仲間達とヨシダと10人以下のシンパ以外の村民がやっていたということ。
「じゃあ、キタヤマ隊長が死んだのはスパイ行為がバレてころされたのか?」とギバが言うと「あれは違うわ。アレはキタヤマ隊長の自殺だった。彼は耐えきれなくなったのよ」
キタヤマ隊長が自殺した後に、家のポストにキタヤマ隊長から手紙が届いていたそうだ。遺書を読むと以下のようなことが書いてあった。キタヤマ隊長は良かれと思い武器を調達したが、警察部隊に悪用されていた事を知った。警察遠征部隊の隊長が笑いながらキタヤマ隊長に言ったらしい。「楽にしてやる」の名目で警察が取り仕切る遠征部隊は生存者を探すかたわら、身体に著しく酷い怪我を負った者や被爆者だと思われる人物を射殺しては遊びのように憂さ晴らしをしていたようだ。ソレを知ったキタヤマ隊長は耐えきれなくなった。自分が武器を調達したあまりに、関係のない人々を殺す道具を悪魔のような奴らに渡してしまったことに自責の念を感じ、それに怪事件やスケープゴートに手を染めている者の殆どが村民であったことに絶望したようだ。
イシカワは、だから楽な自殺の仕方。つまり口で銃を加えて引き金を引くのではなく、コメカミを撃って自分に対しての武器を持ち込んだ罪を自分で罰したのかもしれないと。
「それに、まだいろいろあるわ。最近流産が多いでしょ?あれね。流産じゃないの。奇形の子供なのよ。だから、奇形の子供が生まれると母親に黙って処理。つまり殺していたのよ」
「じゃあ、あの医者もシンパて事?」とアライ。
「キタヤマ隊長の遺書には、医者がシンパとまでは書いてなかったからわからない。でも、この村は狂っているわ」
「シミズさんもやられたてことですよね?俺、面会した時に彼はベルトをしてなかった。自殺防止用の為に押収されたて言っていたのに、警察発表だとベルトで首をつったて」
「たぶん、シミズさんも被害者よ。総長はシミズさんをマリファナを売っていて嫌っていたから、もしかすると警察が自発的に点数稼ぎで殺されたかもしれない」
「じゃあ、どうすればいい?クーデターでも起こそうってことかい?」とギバ。
「違う。私達逃げるのよ。出来るだけ入植者の子供と女性を連れて。それからマレーシア軍に救助されたら、上ヶ丈山村の住民もマレーシア軍に救出してもらう」
「待って、マレーシア軍だって?どうゆうことだ?」
マキタはちゃぶ台の上のカセットテープの再生ボタンを押した。「こちらは、マレーシア海軍です。マレーシアは首都クアラルンプールに核攻撃を受けましたが、その他の地方都市は大丈夫です。マレーシア政府の決定で現在、北半球の生存者を保護しています。難民として受け入れる用意があります。本日の北緯33度、東経169度」ストップボタンを押した。
「なんです?これ?マレーシアは大丈夫だったんですか?」とキリシマは驚いた表情で言った。
「たぶん、首都以外は核攻撃を免れたのよ。この放送は今日の朝6時に無線で流れてきたものよ。毎日朝6時と夜の19時に流れるの。毎回緯度経度が違うし、日本語の他に英語と韓国語と中国語とロシア語とスペイン語でながしてるわ」
「チョット待って、その放送が、イタズラでない証拠はあるのか?」とギバが聞いた。
「ある。この無線に応答している会話を聴いた。しかも、マレーシア軍が応答していたわ。韓国語だったから内容までは分からないけど。でも、賭けてみる価値はあるでしょ?今の村を見てみなさいよ。このままだと入植者が大量虐殺されるかも知れないわ。それに総長の構想だと彼らを、そのうち奴隷のように扱う計画があるらしい」
彼女の言うことは正しい。このままだと村民たち入植者たちへの暴力がエスカレートしている。しかも、入植者を奴隷にする計画だと。恐ろしい。俺たちは総長の手のひらで転がっていたのか。知らずの内に自分たちは奴隷商人になってしまっていたのか。なんて最悪なんだ。しかし、この放送が本当なのか?だがイタズラにしてはよく出来ている。
「なんで、この放送の事を村の誰も知らないですか?」とイシカワは言った。
「無線を持っている人は皆が知っているはずよ。実は、無線を所有している人に警察から箝口令がしかれているのよ。キタヤマ隊長がそう言っていた。たぶん、総長の考えだわ。村民も入植者もこれを知ったら急激に減ると自分の地位が危ういと思ったのでしょう」
イシカワは思った。じゃあ、自分もこの事を知っていたのか。父も名の無き愚か者だったと言うことか。
「何人このノアの方舟に連れて行く気だ?それに誰を選んで連れて行く気だ?」ギバはいった。
「軍用トラック2台使って60人。入植者の子供。村民の子供は除外するわ。たぶん、村民の子供にまで手を出したら本当に内戦状態になるのは、総長だって分かっているはず。だから大丈夫。それと妊婦を優先的にそれとあの、略奪者に囚われてた5人の女性。彼女たちヨシダに強制的に肉体関係を求められているのよ。レイプと言ってもいいわ」
そんな事があったなんて知らなかった。だが、ヨシダならヤリかねない。なんて卑劣なやつなんだろう。
「それから、身体が腕や足が欠損した入植者の女性。最初に私達が救出したハラさんを覚えてる?右手を切除した。彼女と他にイシカワ君の友達のアキモト君の恋人のヤマザキさんも連れて行く」
「ヤマザキさんも連れて行くんですか?アキモトは知ってるですか?」
「もちろん。彼もノアの方舟計画を知っていたみたいよ。だから、本当は二人で漁船で逃げるつもりだったみたい」
イシカワは全然知らなかった。アキモトはそんな事を隠しているなんて。でも無理はない。誰が密告するか分からない。それに遠征部隊の自分なんてシンパと思われても仕方ない。
「あとは、これは苦渋の決断だけど、癌の人は連れていけない。本当は連れていきたいけどマレーシア軍がどれほどの医療設備が揃っているかわからないし、途中で死ぬ可能性だってあるから」
マキタはイシカワの顔を見て言った。「ごめんなさい。アズサちゃんは連れていけないわ。もっと早くこの計画を実行に移していたら」
「いいんです。しかたありません」感情を隠して返事をしたがイシカワは完璧には隠しきれず震えるような声で答えた。仕方ない。手術後アズサはどんどん弱っていった。医者の告知通り。たぶん手術は失敗だった。それにたとえ手術が成功していたにしても、長い船旅で彼女が身体が耐えられるか怪しい所だ。それに、本当にノアの方舟計画があるとは限らない。自分にそう言い聞かせた。
「船はどうするんですか?」とアライ。その通りだ。60人が乗れる船なんて何処にあるというんだ。少なくてもこの村には数十台の漁船と河川哨戒艇数台だけだ。
「ちゃんと、計画してあるわ」
すると、マキタの恋人のイクシマが本を取り出したページをめくり、皆に見せた。そのページには大きな漁船の写真が載っていた。イクシマはイシカワを覗き込むように目を見ると言った「イシカワさん。あなたが小田原の周辺にあった倉庫で見つけて試しに動かした船って、これですよね?」
イクシマの話しによれば、定員30人の500トンの漁船らしい。その場にいた全員がこの船だと言ってうなずいた。
確かに2隻同じ物があった。「でも、1隻は動きましたが、もう1隻は動くか分かりませんよ。それに、もう誰か使ってるかも知れないし」とイシカワは言った。
「確かにそうね。でも、その時は下田市に逃げる。あそこなら多分受け入れてくれると思う。それに受け入れてもらえなくても、小田原で無線連絡したらマレーシア軍が来るかもしれないしね」
「なんで、ここから直接マレーシア軍に連絡しないの?無線連絡して救助してもらったほうが良いんじゃないの?」とキリシマ。
「確かに、それも考えた。でも、この無線誰が聴いているか分からない。それに救助に来てくれるまでに何日かかるか分からない。もし奴らにバレてみなさい。どうなるか分かるわよね?」
確かに、みんな山道か道路の道の横に生えてる木に首を吊るされて終わるだけだ。「だから、考えたのよ。子供を優先して乗せる。この船に。そして、マレーシア軍に救助を要請して村に来てもらう」
「肝心な事を忘れてないか?まず、どうやってこの村からトラックで子供たちを40人を連れ出すかだ。それに両親の了承はとってあるのか?」とギバはいった。
「親には了解済みよ。入植者の皆はやっぱり怖がってるみたいよ。警官遠征部隊に救助された人は特にね」
それから、マキタは脱出作戦を語りだした。
実は、マキタは総長と愉快な仲間達のに潜り込んでいた。キタヤマ隊長の紹介で愉快な仲間達のシンパに紛れ込みくだらないパワハラ・セクハラの嵐の会議と称した飲み会に潜入していた。それで、彼女はプレゼンをした。山梨の村に大きな物流倉庫がある。そこに行けば、物資も手に入るし住民達も安心する。となのでイヌカワ部隊と警察部隊で合同でその倉庫に行きましょうと言ったそうだ。すると、総長は大きくうなずき、君に任せると言ったらしい。
「それと、どうやってトラックに60人の女性や子供達を入れるかについてだけど、ワタナベさんを覚えてるでしょ?最初の駐屯地まで来て軍用トラックで物資を持ち帰った人」
イシカワは久しぶりにワタナベさんの存在を思い出した。確か、彼は70歳だということで、遠征部隊を離れて車両基地の警備兵をしている。
「彼に頼んであるわ。夜の車両は警備は彼しかいないから」
「彼がシンパじゃない証拠はあるのですか?」とキリシマ。
「ないわ。でも協力してくれるって。それに、彼には孫がいるのよ。その孫を連れて行くのが条件で引き受けてくれたわ」とマキタは言った。
イシカワは思った。どうやって、今や収容所のように壁に囲まれた入植者達をトラックまで運ぶんだ?24時間アサルトライフルを持った警備兵が4人は張り付いている。どうやって抜け出すだとマキタに聞いた。
「入植者たちは穴を掘ってトンネルを作っていたのよ」
マキタの話によると、キタヤマ隊長はノアの箱舟計画を知る前に、入植者用の住居の回りに壁ができる前から秘密裏に入植者達に穴を掘らせてトンネルを作らせたそうだ。その時はのキタヤマ隊長のプランは村民がパニックを起こして襲いかかってきた時にトンネルで入植者を逃し、軍用トラックに出来るだけ乗せて村を出る計画だったらしい。その、トンネルは200メートル先の軍用車両が置いてある車両基地の近くの茂みまで繋がっているとか。
「だから、大丈夫よ。上手くいく。たぶん」少しだけマキタが不安そうに言った。
「それで、出発前に私達で警備兵を捕まえて、警備兵を縛って森に放置する。交代の警備兵が来るのが朝の7時だから時間は稼げるわ」
「なんでそんな事しなくちゃいけないんですか?」とキリシマは言った。確かにそうだ。普通にトンネルから逃げればいいはずだ。
「あのトンネルは今後も使えるかもしれない。トンネルの存在を知られたら困る。それに、私達に親たちが子供を拐われたと被害者だと思わせる必要がある。だから、実行の際には親たちを縛り付けて必要があるのよ」
確かに、トンネルは使える。今後、村民が暴走する確率はかなり高い。それに子供の両親が進んで子供たちをマキタ達に託したとなれば両親達に攻撃の矛先が向かう。
「それで、皆に聞きたい。みんなもくる?」とマキタが言うと、ギバとイシカワ以外が手をあげた。
「腐ってもこの村は俺の村さ。俺は残って内側から総長達をぶっ壊すことにする。もちろん、手伝うよ」とギバ。
イシカワは迷った。アズサの事だ。アズサが連れていけないのであれば意味がない。だが、アズサの命が短い。死んでしまう確率ののほうが高かった。せめて最後まで彼女と一緒に居たかった。独りよがりかもしれないが、彼女も死に際に自分が居たら安心して最期を迎えられると思ったからだ。それにもしアズサが完治する可能性だってある。その時はアズサとアキモトと一緒に漁船に乗ってノアの方舟計画に行けばいい。
「イシカワくん気持ちはわかるわ。でも、」とマキタが言ったが途中で彼女も言うのをやめた。彼女はイシカワの目を見て事情を察したのだろう。
「僕は今回は行かないけど、手伝いますよ。後で、アズサの体調が良くなったらアキモトと漁船に乗って向かいます。それに、もしマレーシア軍が援助しに来るかもしれません。それまでギバさんと、この村を守る人が必要です。ギバさん一人だと皆不安でしょ?」とイシカワは言うと、その場にいた皆が笑った。「おい、イシカワお前調子に乗りすぎだぞ。俺一人でもこの村をどうにでも出来るさ」とギバは笑いながら言った。
「どうやって、警察部隊を負かすつもりですか?」とキリシマ。
「C4を使う。軍用車両をリモートで爆破するの」
「でも、キタヤマ隊長はハマー軍用車両は最新式で、地雷を踏んでも壊れないって言ってましたよ」アライは言った。確かにそうだ。あの最新式のハマー軍用車両はキタヤマ隊長曰く、ロケットランチャーでも壊れないし手榴弾は愚か戦車用の地雷を踏んでも壊れないとのことだった。
「そこはちゃんと考えがあるから大丈夫。それと、ギバさんとイシカワくんにはちゃんとした役目があるから。覚悟して」
「なんですか覚悟って?」
決行日、計画通りに事は進められた。深夜にマキタ、キリシマ、アライは、酒瓶を持って酔っ払ったふりをして彼ら4人の警備兵達に近づいて、隠し持っていた警棒で腹と頭を殴り気絶させ、両腕を後ろにした状態で結束バンドで二重にし縛った。足にも結束バンドで両足を結んだ。叫ばれると困るので口に布を詰めた。村民達に入植者達の親達を怪しまれないように、頬や腕や足に警棒で殴り結束バンドで両足両腕を結束バンドで拘束し口には布を入れた。5人の略奪者の被害女性と、アキモトの彼女含む身体が欠損した女性が5名、子供が40人。深夜3時に入植者達が作ったトンネルを抜け、ワタナベに先導によりトラックの荷台に入れて帆を降ろした。
イシカワは、奴らにそれがバレるのでは無いかとヒヤヒヤしていたが、ポチ公隊長のツマラナイ朝礼の後、4台のハマー軍用車両と、女、子ども達が乗った2台の軍用トラックが村を出た。
「痛いなバカ!3発も撃つことないだろう」とギバは痛そうに胸元を押さえた。
「ごめんなさい。1発だと逆に怪しまれるでしょ」とマキタは少し笑って言った。
笑い事じゃない。かなり痛い。イシカワは防弾ベストを着てアサルトライフルで撃たれた経験があるが、あの時より痛かった。至近距離でピストルを3発も食らったんだ痛いはずだ。それに、3発も撃ち込むなんて聞いてない。少し、マキタに対して怒りを覚えた。
「さあ、後ろを確認しに行きましょう。もしかしたら死んでないかも知れないし」
事前にワタナベがハマー軍用車両の中にC4を仕込んでいた。車外に取り付けて壊れなかった場合戦闘になる。だが、車内でC4プラスチック爆弾を爆破すれば車内にいる人間は木っ端微塵になる。それがマキタの作戦だった。
用心に越したことはないのでHK416アサルトライフルを構えて車両からイシカワ、マキタ、ギバは出た。2番目に走っていたハマー軍用車両はC4は分量を間違えたのだろう。屋根とドアが吹き飛び肉片が散らばっていた。久々に肉片を見たのでイシカワは吐きそうになった。
3台目と4台目の軍用トラックに乗っていた女性警備兵はグルだったので問題ない。3人向かって親指を立ててニンマリと合図を送ってくれた。5台目に走っていたキリシマとアライが心配だ。上手く殺せたただろうか?確か、キリシマとアライは人を殺すのが始めてのはず。
イシカワはHK416アサルトライフルを構えながら5台目にハマー軍用車両に近づく。ギバとマキタが車両に照準を合わせる。車両のドアが開くと、キリシマとアライが居た。
「頭を一発。ピストルで撃ってやりましたよ。」と笑ってはいたが声が震えていた。無理もない。初めて人を殺す時はみんな同じようになる。自分やキタヤマ隊長、マキタ、カトウがそうだったように。たとえ相手がどんなクソ野郎でもだ。アライも同じで、「簡単でしたよ。引き金を引いただけですから」と穏やかな顔しながら震えた声で言った。
一番最後尾のハマー軍用車両を見ると、2台目の爆破したハマーと違いガラスはクモの巣状になって内側に真っ赤な血がベットリとついていた。きっと、あんなに窓ガラスに血が付いているのであれば死んでいるはずだ。確認の為にイシカワがドアを開けようとしたその時、ハマー軍用車両が急発進し5台目のハマー軍用車両ケツにブツカリ停車した。
「みんな。怪我はない?」とマキタが聞くとみんな大丈夫みたいだ。ワタナベはC4プラスチック爆弾の分量を間違えたらしい。まだ、中に誰か生きている。しかも運転できるくらいの怪我だ。みんなが車両にアサルトライフルの照準を合わせた。全員生きているのか?でも、あのハマー軍用車両の窓ガラスは血まみれだぞ。どうなっているんだいったい?
しばらくして運転席のドアが開いた。それが一瞬誰だか分からなかった。というのも顔の左半分の皮膚が剥げて骨が露出し、左手は肉が剥げて骨と歯がむき出しになっていて、右腹から白い腸が飛び出ていからだ。よくよく顔を見るとそれはオカダだと分かった。なんで、あの状態で生きているのか不思議だ。しかも、運転までした。
オカダは右手で20式アサルトライフルをこちらに向けた。「ドン」と聞き慣れない低い銃声が辺りを響き渡っりオカダの頭が吹き飛んだ。キリシマがHK417バトルライフルでトドメをさした。
イシカワ達は、ハマー軍用車両の中にまだ生存者がいる可能性がある。ドアを開けると、残りの3人生きていたが、腕や足が吹き飛び肉片が車内に散乱していた。防弾ベストとヘルメットのおかげだろう。胴体は大丈夫なようだ。吐き気を催しながら、イシカワが楽にしてやろうとピストルをホルスター抜こうとしたとき、「後は私がやる」と言ってマキタがSIG320ピストルで残り3人の頭を順番に撃って回った。
さすがのイシカワもこれにはショックを受けた。一瞬で苦しまずに殺せると思っていたからだ。
「ちゃんと、ワタナベさんにC4の分量を教えておくべきだったわ」とマキタは無表情で言った。せめて、殺すんだから楽に殺してやろうと考えていたのだろう。
小田原付近の倉庫に着いたのは2時間後だった。倉庫の扉を開けるとあの船がまだあった。よくよく倉庫を調べるとドラム缶に入った燃料も信じられないほどあった。それに保存食も。
軍用車両からイクシマとその相棒のマツオ、それに子供と女性が達が降りた。
イクシマとマツオは2船籍を調べた。どうやら使えるらしい。船にウインチのワイヤーを取り付けて倉庫から出して着水した。それを見ていた子どもたちは大喜びしていた。子供達と女性たち船に乗せるのを手伝った。縄梯子で甲板に乗せなくちゃいけなかったからだ。子供は縄梯子の途中で泣き出す子もいれば、アスレチックで遊ぶようにスイスイと登っていた子供もいた。中には義手、義足の者もいたので苦労した。
イシカワはアキモトの彼女、エリカが義足なので背中に背負って甲板まで縄梯子を使い送った。「彼のことよろしくおねがいします」と彼女は頭を深々と下げて言った。「大丈夫です。そのうち僕もアキモトと方舟計画に行くつもりですから。ご心配なく。アイツは弱虫な所があるけど根は強いやつですから」と笑いながらエリカに言った。
子供たち女性たちの乗員を全て船に運び終わった。昼の12時だった。
マキタとキリシマとアライと2人の警備兵は港に降りて、イシカワ、ギバが乗っていたハマー軍用車両に向かってアサルトライフルをマガジンが空になるまで連射した。キタヤマ隊長が言った通り窓ガラスはヒビすら入らなかったがボディーの塗装が所々ハゲ、弾丸がめり込んでいる箇所も何個かあった壊れてはいないようだ。
「おい、3発も撃たれて、まだ痛いぞ」とギバはマキタに向かって笑いながら言った。「何?不満なの?じゃあ、もう1発撃とうかな」と言ってマキタはギバに握手した。
「あなたも、よく頑張ったね。あなた達村に帰ったらきっと英雄よ。取り逃したとは言え、追いかけたんだから」とイシカワに向かいマキタは言った。
「本当、マジで3発は痛かったですよ。イラッとしましたよ。僕もアズサが、完治しらたら後から行きます」イシカワはマキタと握手した。
マキタ、キリシマ、アライ、たちと握手して回った。
「そうだ。イシカワくん。これ渡しておくわ」とメモ帳の布端をもらった。紙には数字が書いてあった。
「これは周波数よ。もし、マレーシア海軍に救助されたらモールス信号を使って連絡するわ」
「でも、誰かにバレるんじゃ?」
「大丈夫よ。もし、マレーシア軍がこの村を救助しに来る可能性がある場合は、ポチ、と打つ。マレーシア軍が私達を救助して村に援助を断られた場合はバカ、アホ、クズ、クソてだけ打つから。それに、もしマレーシア軍じゃなくて誰かのイタズラだったらファックて送っておくよ。無線を持っている村民も警察も、誰かがイタズラしたに違いないと思うはずよ。毎週金曜日の23時に送るわ」と笑いながらマキタは言った。
「モールス信号で酷い言葉を打つと、教えてくれたキタヤマ隊長が怒りますよ」とイシカワは笑いながら答えた。
「それと、アズサさんの事。ゴメンね。もっと早くこの計画を思いついて、実行に移していたら」
「いいんです。気にしないでください。誰がいつ癌になるかなんて分かりませんから。この世の中じゃ」
そして、船は出港した。甲板にいる少年少女と女性たちと部隊員はイシカワとギバが見えなくなる場で手を振っていた。
船が見えなくなると、イシカワとギバはハマー軍用車両に乗って暇を潰すことにした。あまり、早く帰ると怪しまれるからだ2日追いかけて逃げられた事にしているからだ。そうすれば、村の連中も漁船で追いかけては来ないだろう。
ギバは内ポケットから銀色のシガレットケースを取り出した。マリファナだった。
「あれ?まだ持ってたんですかマリファナ?」
「ああ、シミズが捕まった時に隠し場所を教えてくれたのよ。1000本分はあるよ。お前にもやるよ」と言ってマリファナをもらった。久しぶりだったので頭がくらっとした。
「後でお前にマリファナを半分やるよ。アズサちゃんも気分が楽になるだろうしな」
「ありがとうございます。ところで、なんでギバさんはあの船に乗らなかったんですか?本当に総長を殺すつもりですか?」
「本当にノアの箱舟計画があると思うか?俺はあると信じてる。いや、あると信じたい。だが、身体が持たない。ていうのも俺も癌でさ、先が無いんだ」
イシカワはギバが癌だと聞いて驚いた。全くその素振りはなかったし言動もなかったからだ。
「あと、どのくらい持つんですか?」
「さあな。医者の話だと半年て所だ。年を取っている方が癌の侵攻が遅いんだとさ。若い内に早くガンで死ぬのも嫌だが、長くジワジワと死ぬのも嫌なもんだ」
「摘出手術はしないんですか?」
「しないよ。もう、疲れちゃったよ俺。腎臓だろ肝臓だろ、右の肺までヤラれてるらしい」
イシカワは何も言えなくなってしまった。また一人仲間が減ってしまうなんて。
「だから、俺は総長の友達に入ろうと思う。それで奴らを皆殺しにする計画だ。それと、こんな事は言いたくはないが。イシカワ、アズサちゃんが完治してようが、亡くなろうが、あの村を出るんだ。いいな。ノアの箱舟計画でもいいし、下田市でもいい。アズサちゃんと友達と逃げろ」
「なんで、総長を殺してあの村を出なくちゃ行けないんですか?僕も手伝いますよ総長達を殺しますよ」
「お前だって、これ以上人を殺したくはないだろう?それに、問題は総長と愉快な仲間達とヨシダと警官だけの問題じゃない。村全体が狂ってる。自分の身を守るためなら逃げ出してもいいのさ」
村民11人死亡。
殉職者10人。
脱走兵5人。
誘拐60人。
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