20章 奇妙な果実

 アキモトの父が亡くなった。死因は末期ガンだった。あの、シュワルツェネッガーやスタローンやマ・ドンソクくらい筋肉ムキムキの身体が強そうな男が死ぬなんてイシカワには信じられなかった。4日前、父の工場で父と一緒に酒を飲んで楽しそうに話していたので余計ショックだった。

 村議会でクリハタが言うには安定ヨウ素剤で放射能は半減するが確実に無くなる訳ではない。しかも、癌になったら今の村の医療技術では切除しか出来ない。他の臓器にガンが転移したらどうすることもできないと釈明した。会場は絶望に包まれた。安定ヨウ素剤でなんとかなると思っていた者が沢山いたからだ。「嘘つき!」とクリハタやヨシダにヤジを飛ばす者もいたが、彼らは謝るばかりだった。「もう少し、早く安定ヨウ素剤を製造できていたらこんな事にはならなかったかもしれません。本当に申し訳ありません」と深々と頭を下げたクリハタに対して、村民や入植者達も「この状況なら仕方ない」と思ったらしく、それ以上ヤジを飛ばす者はいなかった。

 アキモトの父の他の者の葬式と同じで小ぢんまりした物だった。アキモトの母はもちろん、自分の娘のように接したアキモトの恋人エリカもアキモトも、ただ畳の模様を見るかのようにうつ向いていた。イシカワ家族もどう接していいか分からなかった。

 イシカワはリーと共にアキモトを励ますし落ち着かせる為に葬儀会場から連れ出し一緒にマリファナを吸った。

「大丈夫か?」と聞くと。

「まあね。ただ、ガンだなんて知らなかった。母親には言っていたらしい。俺には心配かけたくなくて黙っていたんだ」

 アキモトの父が癌だと分かったのは水爆が破裂してから1ヶ月後の事だったらしい。肺に痛みを感じて病院に行くと肺がんだと診断されたらしい。医者の話によれもう手遅れだったとか。

「まあ、仕方ないさ。こんな世の中だからな」とマリファナを吸いながらアキモトは言った。

 悪いことはまだ続く。イシカワ家の犬ジョンが死んだ。いや、殺した。

 最初に異変に気づいたのは母だった。ジョンを撫でている時に、首輪の内側にニキビのような物があった。母はダニに噛まれたのだろうと、そのニキビを指で摘んで潰した。それから1週間後、身体中にそのニキビのような物ができた。しかも親指ほどの大きさの物がいっぱいできた。それにジョンの様子がぐったりして弱々しく唸るばかり。母親が動物病院に連れて行くと悪性腫瘍、つまりは癌だと言われた。手の施しようがないとか。この症状は他の動物でも起こっているらしく獣医もどうして良いか分からないらしい。母は「治療はできないのか?」と聞くと「何もできません」と獣医は答えた。薬品は全て人間用に回されて、しかも摘出するには腫瘍が大きすぎるとの事だった。「安楽死しかありませんが、その薬品も人用に回されています。どうすることもできません」この頃、村では「安楽死」が出来る法律ができた。放射能による癌の患者が多すぎて、しかも今の医療設備では治療のしようが無いからだ。「どうしますか?私達がジョンくんを安楽死させることもできます」と悲しそうに獣医が言った。「でもクスリがないんでしょ?」と母が答えると、「私が斧で首をハネるです。それしか方法はありません」と言った。「家族で話し合って決めます」といって母はジョンを抱えて家に戻ってきた。

 イシカワ、リー、父、母は話し合った。イシカワは覚悟していた。随分前からジョンの元気が無かったからだ。やはり、被爆し癌だったのか。だが、このまま苦しませるのも可哀想だ。いっそ殺したほうが良いのかもしれない。

「俺がやる。ジョンの首をハネる」そういったのは父だった。その場に居た家族全員が異議も何も言えなかった。みんな、イシカワと同じことを思っていたからだ。

 父とイシカワとリーは自称工場に斧の刃を研いだ。父の利き腕は義足なのでイシカワとリーが手伝った。なるべく早く苦しまずに死なないように切れ味よくする為に丹念に研いだ。3人とも無口だった。もう、これ以上刃が研げないくらい薄くすると3人はリビングへ向かった。母親がジョンにスパムをスプーンを使って食べさせていた。ジョンはスパムが大好きだった。スパムが食卓に出るとはしゃいで自分にくれと尻尾を振ってイシカワ達の足元に顔を擦り寄せていたのに。だが、今のジョンはスパムを食べる元気すらない様子で、いくらスプーンで母がジョンの口元にスパムを近づけても無反応だった。イシカワはジョンの頭を撫でた、続いてリー、そして父。

「かあさん、後は俺に任せろ」とイシカワがジョンを抱いた。まるで猫のキコの用に軽くて驚いた。こんなに痩せてしまったなんて。イシカワはショックだった。イシカワとリーが裏庭に出て、ジョンの半壊した犬小屋の前にジョンを置いた。ジョンは弱々しく立ち上がった。父が左手に斧を持って部屋から現れた。

「お前らは見ないで良い。俺がカタを付ける」と言ったが、イシカワもリーもその場を離れなかった。ジョンの最後を見守る事を選んだ。

「よし、行くぞ」と弱々しい声で父が言うと左手でジョンの首に狙いを定め大きく斧を振り上げた。そのまま、斧は持った左手は動かなかった。

「駄目だ、できない」と父はその場で震えた声で言った。ジョンは父の目を弱々しい目で見ていた。

 イシカワは居ても立っても居られないくなった。父から斧と取り上げると、両手でつかみ思いっきり斧を振り上げジョンの首振り下ろした。イシカワの手に斧を伝って硬い感触が、恐らく骨に当たったのだろう。「キャン」と鳴くジョン。一回では首をハネるのは無理だった。もう一度、今度はさっきよりも力を込めて斧を振り下ろした。ジョンの首をはねて頭が地面に落ちた。

「すまなかった。後は、リーと俺で彼を埋める。家に行って安め。イシカワ何も感じなかった。部屋に戻ると母が居間で座っていた「ジョンは楽に死ねた?」とポツリとイシカワに聞くので「うん、一瞬だった。即死だったよ」と嘘をついた。イシカワは部屋に戻る途中の廊下にキコを発見して抱きしめた。父とリーはジョンの穴を掘りジョンの遺体を埋めた。


 キタヤマ隊長の様子もおかしい。体調不良と言うよりは精神的なモノに思えた。元気がなく虚ろな目をしていた。きっと疲れているのだろうとみんな気にしていなかった。というのも、村の死者数は増える一方だった。ここ2ヶ月は週間で平均10人台くらいだったが今週だけで20人になった。中には自分たち部隊が救助した入植者達も多数含まれていたからだ。イシカワもショックだった。

 それに、キタヤマ隊長の身なりも少し変だった。ブーツが泥で汚れていたり、指先の爪の間にドロが付いていたり、任務中に眠そうだったり。いつもと違っていた。ギバ曰く「山の方に住む女とよろしくヤッているだろう」と言っていた。マキタはそれを聞いて「あんた最低ね」と言ってその場が笑いに包まれた。そういえば、キタヤマ隊長の浮いた話は聞いたことがなかった。結婚していたという噂も聞かないし、誰も隊長にそれを聞こうともしなかった。それに村は隊長のプライベートの噂話をしているどころでなかった。

 一番最初に助けた生存者、元気そうだったハセガワが突然癌で死に、ナカガワさんは自分の住居で首吊り自殺したのだ。遺書によると未来に絶望したということだった。イシカワも隊員も無力感を感じていた。自分たちが連れてきた入植者が死ぬ度にもっと早く彼ら彼女らを発見出来れば、汚染や被爆が少なく済んだのではないかと思ってしまう。セラピーの先生に相談したって気休めにしかならなかった。だが、自分には幸いにもアズサがいる。彼女がいるだけで安心する。彼女が居なければ自分は今頃、自殺していたかもしれない。

 遠征が終わって次の日のこと、アキモトの父親の死、ジョンの死、入植者の病死や自殺が続き耐えきれなくなったイシカワは精神が壊れそうだった。それを心配したアズサが、駅前のマーケットに行こうと誘ってくれた。朝イチでイシカワはアズサと向かった。イシカワはアズサが居てくれるだけで辛い事が忘れる事ができて、少しは気分が落ち着いた。アズサはこの終わりかけた世界の中で唯一、イシカワの支えになってくれる存在だ。彼女は、イシカワに心配をかけないように無理して微笑んでいるようにも見える時もあった。そう思うと彼女に申し訳なく思った。

 イシカワとアズサがマーケットへ手を繋いで歩いていると、神社に人だかりができていた。「何かしら?お祭り?」とアズサ。お祭りなんてあったけ?とイシカワは思った。だが、人だかりが気になって見に行くことにした。人混みを縫うように抜けて人だかりの先頭にイシカワ立つと彼の視界に信じられない光景が広がっていた。「アズサ、これは見るな」と言ってアズサの目を塞いだ。イシカワの視線の先には、首吊り死体が2体、若い男の者と若い女の者。しかも、衣服がボロボロだ。その死体にの顔には見覚えが有った。2人共外国人技能実習生の若者だ。そう、若い女性の方は総長のヤッている農家に来ていた外国人実習生。もうひとりの方の若い男は、リーの友達だったはずだ何度か話した事があったが、愉快な仲間達の一人タナベの農家で外国人技能実習生だった確かインドネシアからの着た青年だった。


 週1回の村議会の際。警察の発表によると、あの二人の死因自殺と言うことで処理された。ウソつけ、あんなにボロボロの殴られたような痣が顔にしかも衣服がボロボロだったのに自殺なんておかしい。誰かが暴行した際に、偽装で首吊り自殺に見せかけたに違いない。「おかしくないか!アレはどう見たって暴行の跡が有ったぞ!」と村民の一人がヤジを飛ばした。すると警官は「遺書がありました。二人共今後の未来に不安を抱えていたようでして」と実に歯切れの悪い感じだった。

 噂によると、あの外国人技能実習生のベトナム人女性はグエン。総長が所有する農家で外国人技能実習生として雇われていて、総長のお気に入りだったとか。

 グエンは、最近インドネシア人の外国人技能実習生のムティア青年と恋仲になったらしい。それを面白く思わなかった総長と、外国人技能実習生の事をよく思わなかった愉快な仲間達が殺したと噂されるようになった。

 総長はあまり屋敷の外に出ないので、どう考えているのかはともかく、愉快な仲間達は外国人技能実習生をあまり良く思っていないのは知っていた。特に水爆破裂後は特に酷く、「アカ」と言ってはパワハラ、セクハラが酷かったらしい。

 イシカワは嫌な予感がした。愉快な仲間達のシンパは意外と多いことを最近噂で聞いたからだ。このまま、何も起きなければいいが。とりあえず、リーにご信用に手のひらサイズのハンマーと、スイスアーミーナイフを渡した。それと科学技術省で一緒に働くクリハタにリーから絶対に目を離すな。帰る時は絶対に一緒に帰ってくれと頼んだ。クリハタはうなずいた。

 次の週も死者が続いた。

 首吊り自殺事件から2週間目の月曜日、タイからの外国人技能実習生、アナという女性だった。林道で首吊りの形で発見された。服装は胸元が露わになり股から血を流していた。恐らくレイプをされた跡に殺されたと思われる。

 さらに3週目の水曜日、フィリピンから来た男女がの外国人技能実習生がジョセフ、モニカが農場の木の枝に首吊りの状態で発見された。明らかに暴行の跡があり複数の痣が身体にあったとか。

 また4週間目、木曜日、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムからきた男女の外国人技能実習生、6名が首吊り状態で見つかった。

 警察は一貫して自殺だと判断した。全てに遺書があると一点張り。

 「おかしいじゃないか!」と叫ぶのは、ジョセフ、モニカの外国人技能実習生を受け入れていた農家の主人ノノムラ。彼の話しによれば彼らはとても元気そうだったという。それに、二人は恋人関係で子供もできていたらしい。それに暴行の跡があるのに、なんで自殺として片付けるんだと猛抗議した。イシカワもヤジを飛ばした。すると、ヨシダがマイクを警官から取り上げて言った「みなさま、どうか落ち着いてください。水爆以降、村の中で自殺は頻繁に発生しています。これは私の推測ですが、最初の外国人技能実習生のグエンさんとムティアさんの自殺をキッカケになって連鎖的に外国人技能実習生の間で自殺が流行したのでは無いかと思われます。恐らくですが今、この地球上でなんとか文明を維持している場所は、この村しかありません。外国人技能実習生達の皆様の故郷は消滅したと考え帰る場所を失くして深い絶望に陥ったのではないでしょうか」とヨシダはシャシャリ出てきた

「じゃあ、なんで、暴行の跡やレイプされた跡が彼ら彼女たちにあったんだ。おかしいだろう」と農場主のノノムラが叫んだ。

「それは、きっと、カラスの仕業です。この際だから言いますが、これは警察から聞いた極秘事項なのですが。それに外国人技能実習生の中には虐待を受けているものもいると聞きました。もしかすると、その痣ではないでしょうか?」イシカワはコイツはなんて卑劣なやつだと思った。まるで農場主のノノムラさんが彼らを虐待しているかのように先導している。コイツはやっぱり最悪な奴だ。許せない。

「みなさん、どうかパニックを起こさないでください。きっとこの騒ぎもそのうち収まるでしょう。」とヨシダが言って村議会は閉幕した。

 イシカワはリーが心配でクリハタと相談した。クリハタにリーに在宅ワークをさせるように頼んだ。するとクリハタもリーをとても心配しているらしくそれに応じた。次の日リーの部屋に試験管と実験道具一式が届いた。実家なら安心だ。右手を失くしたオヤジであっても、武器ならたくさんある。斧にチェインソー。オヤジもリーを息子のように可愛がってるからもし奴らが来ても相手を殺す気で抵抗するに違いない。きっとこれで少なくてもリーだけは大丈夫だ。

 他の農場主も同じことを考えたらしく外国人技能実習生を持つ農場主は斧やナタで武装し、彼らが外に出る時は一緒に行動することになった。

 それから次の週には首吊り殺人は起こらなくなった。これで外国人技能実習生狩りも終息したかと思った。さすがの警察も恐らく首謀者であろう愉快な仲間達とそのシンパも、村民や入植者達に怪しまれるだろうと思ったのかは分からないがまだ油断はできない。

 事件がが終わって2周間目のある日、イシカワは遠征先で4人の生存者を発見し入植者として受け入れ、科学技術省に頼まれていた機械部品の調達に成功し大きな達成感を抱きながら帰った。しかも今日はアズサが家に泊まりに来る日なのでとても楽しみにしていた。家に入ると、誰も居なかった。誰もいないの?と叫んでみても返ってくる返事はない。もしかして、自分抜きでマーケットに行ってご飯でも食べに行っているじゃないかと思った。仕方ないので、部屋でニュー・オーダーのアルバム「ムーブメント」を聞いていると、玄関の戸が開く音が聞こえた。下に降りてみると、玄関で父と母とアズサが暗い顔をしていた。

「なんで、俺を待たないで外食しにいったんだよ」とイシカワがいうと、父は「リーが死んだ」とつぶやいた。

「おい、趣味の悪い冗談はやめろよ」とイシカワがいうと、母は涙目になった。

 父の話によると、父がリーに気晴らしに一緒にマーケットに行った時の事だった。一緒に、メトロポリス2号店でコーヒーを飲みリーがトイレに行ったきり帰って来なかったそうだ。それから父はリーを探し回り、警察に通報すると3時間後に林道の大きな木の枝で首を吊っていいるのを発見したそうだ。リーの死体には複数の痣がついていたとか。

「あの時、一緒にトイレに行っていればあんな事にならなかったのに」と無表情で父は言った。

 その後遺書が近くに落ちていたと警察が発表したが、内容までは教えてくれなかった。

 リーの葬儀は小ぢんまりした物だった。参列者はイシカワと両親、クリハタ率いる科学技術省の面々と同じ遠征部隊の面々、アキモトとその恋人ヤマザキ、アズサ。仲間の外国人技能実習生達は外に出るのが危険な為、手紙をよこした。

 父は相変わらず自責の念に囚われていた。あの時、一緒にトイレに行っていればと、あの時喫茶店に行かなければと。

 母はジョンの死の後に、息子のように可愛がっていたリーが死んで相当ショックを受けたのだろう。リーが死んで以来、焦点が定まらない目でなにもない所をただ見るだけだった。

 アキモトは終始泣いていて、クリハタ放心状態だった。

「なんで、こんなに才能もあって真面目な青年が殺されなくちゃいけないんだ」とクリハタはポツリと呟いた。

 リーの棺を見ると顔の左頬に死化粧では隠せない程の大きな痣があった。葬式の際は常にアズサが手を繋いでイシカワを落ち着かせようとしたが、怒りは収まらない。これの何処が自殺なんだとイシカワはヨシダ村長や警官や総長と愉快な仲間達とそのシンパに怒りを覚え憤慨した。いつか、アイツラに復讐してやる。

 葬中の食事会でキタヤマ隊長に呼ばれ外に出た。

「大丈夫か?」

「大丈夫です。いや、大丈夫じゃありません。今スグにでも武器庫に行って銃を持ち出して、ヨシダと警官と総長のお友達とそのシンパを殺してやりたいです」

「気持ちは痛いほどわかる。だが、今は踏ん張りどきだ。それにアイツラがやった証拠はない」

「隊長も見たでしょ?リーの頬の痣を。アイツラに決まっています」

「俺も、そう思う。一連の外国人技術実習生狩りも絶対にヨシダか総長、それの愉快な仲間達のが関わっているに違いない。恐らくはシンパ達のスケープゴートにされたんだろう。ガス抜きの一種さ。かつての国内外の政治家や権力者がよくやるようにな。最近死者数が増えてるしな。自分たちに火の粉が降るのが怖いのさ。だが、シンパが誰なのか確かめるまでは手を出すな。実は総長、愉快な仲間達、ヨシダ、警官、以外にも沢山のシンパがいる。今それを探っている所だ」

「シンパは、そんなに沢山いるんですか?」

「お前が思っている以上にな。あらゆる地位に関係なく村民や入植者の中にもいる。中にはシンパには思えない様な奴までいる。まあ、少なくても俺たちの部隊には居ないから安心しろ」

「誰が、そのシンパなんですか?」

「まだ、証拠を掴んでいる最中だ。言えない」

 総長を始め愉快な仲間達、ヨシダ、警官、以外に沢山のシンパが紛れ込んでいるのか。イシカワは気が狂いそうだ。いったいアイツラを殺すのに、どれだけの銃と弾丸が必要なのかと考えた。少なくてもヨシダに票をいれたヤツはシンパに違いない。だとすると、イシカワの母もヨシダに票をいれたはず。だが、票を入れたからと言ってシンパとは限らない。

「もう一度言うぞ。お前がシンパを探ろうとするな。お前の友達や部隊の連中、それに恋人のアズサさんにも危険が及ぶ。いいな、それともし復讐する時は気をつけろよ。我を失い、奴らと同じになってしまう」

「どうやって、そのシンパを探せばいいんですか?」

「俺の忠告を聞いてなかったのか?いいか、お前は普通に生活しろ。シンパに気付いていないふりをして生活しろ。もし総長グループやシンパが近づいてきたら、シンパになったフリをしろ。フリが上手く行ったら内部から破壊するんだ。それと、もし俺に何かあったら、マキタに相談しろ。彼女には教えてある」

「なにかあったらてなんです?怖いこと言わないでくださいよ」

「俺はもう、年だし被爆してる可能性だってあるからな。まあ、皆いつ死んでもおかしくない。そういう意味さ」

 リーの遺体の火葬が終わった。リーの骨を拾骨し骨壷にいれた。彼が総長のシンパのガス抜きのオモチャに使われたと思うと悲しくて仕方ない。涙すら出ない。これからも外国人技能実習生狩りは終わることなく続くのだろうか。だとしたら停めなければ。

 だが、リーの死を最後に、外国人技能実習生狩りは終わった。突然一夜にして外国人技能実習生17名全員が消えたのだ。村中で逃亡説が流れた。だが、トンネルを通った形跡もければ山には塀が設けられていて24時間警備兵が監視している。もちろん手薄なところがあるのでロープを使って塀を越えた可能性もある。海から逃げた説もあったが、沿岸警備隊が監視しているし盗まれたボートもない。全員泳いで逃げた可能性もある。全員殺された説も流れた。イシカワにはどれが本当か分からなかったが、無事に村を抜け出していればと祈るばかりだ。

 そして、また異常な日常生活始まった。


 村民の死者、20名。

 外国人技能実習生12人自殺(?)。 

 外国人技能実習生17名逃亡(?)

 入植者4人 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る