19章 総長と愉快な仲間たち
季節は2月だというのに相変わらず8月の様に蒸し暑かった。原水爆が世界中で破裂したんだ。それは気候も変わっても不思議ではないとイシカワは思った。「第2世代」入植者用の住居も予想より早く完成して、風力発電機も少しずつだが山の上に設営されインフラが整ってきた。食糧問題も温かいせいか食物がよく育った。死者数は相変わらず毎週10人台をキープし、放射能による体調不良も200人台、手足の切断を余儀なくされた者は10人台。それが当たり前すぎて誰も村民や入植者達はその話題をしなかった。
もう何回遠征に行ったのか数えられないくらい遠征に行って上ヶ丈山村に帰った時の事だった。遠征で調達した物資や保存食を倉庫に入れ、武器庫に武器を戻す時にキタヤマ隊長の元ににヨシダ村長が警備を引き連れてやって来た。ヨシダはキタヤマ隊長に何やら話している。イシカワは含め隊員たちが何事だろうと思った。ヨシダが直接、基地に来るのは初めてだったからだ。イシカワはなんだか嫌な予感がした。
ヨシダが帰って、キタヤマ隊長は少し困惑した表情をしていた。そして隊員に集合をかけて言った「実は、マツモト氏からの招待で、彼が主催する飲み会に来ないかと言われた」マツモト、総長の事か。イシカワは行きたくなかった「総長と愉快な仲間たち」とは直接的には面識がなかったが、どうせろくなやつじゃない。それにアズサとデートするのに忙しい。
「なんで、あんな奴らと飲まなくちゃ行けないんですか」先人を切って隊の皆の気持ちを代弁してくれたのがマキタだった。隊の皆もそうだそうだと文句をたれた。
「おれ、アイツラ大嫌いなんだよな。いつも、偉そうにしやがってさ」とギバは言った。ギバはよく居酒屋で「愉快な仲間たち」と遭遇するらしい。「愉快な仲間たち」が入ってくると気分が悪くなりスグに居酒をでるとか。
「俺も嫌いだ。アイツ俺がマリファナ売っている事をバカにしてやがる」とシミズは人づてに聞いたらしい。
「私も、あの愉快な仲間たちとたまたま居酒屋で一緒になった時セクハラめいた発言をしてきたので嫌です」とアライ。その時は旦那が怒って喧嘩に成りかけたとか。
「あいつら、クズですよ。家の農家の作物を安く買い叩こうとしてオヤジと揉めたことがあったんですよ」とキリシマ。
みんな何かしら「愉快な仲間たち」とは問題を抱えている。
イシカワの家も例外ではなかった。イシカワの父は「愉快な仲間たち」に喧嘩を売られて、スナックで喧嘩になったことがあるらしい。それからというもの、「愉快な仲間たち」の方が権力があるらしくイシカワの父はスナックを出禁にされた。
「だがな、仕方ない。俺も行きたくないが、政治家と権力者は何をしでかすか分からない。しかし、こっちだって奴らを利用できる可能性がある。このまま、断ればもしかするとこの隊が解散されるかもしれないぞ。そうすればあの総長グループとヨシダが暴走する可能性だってある」とキタヤマ隊長は低い声で言った。確かに、キタヤマ隊長のいうことにも一理ある。
「どうせなら皆殺しちゃいましょうか?」とギバが笑いながら言ったがギバなら、もしかしたらヤリかねないと思って皆笑えなかった。それを悟ってかギバは「冗談だよもちろん」と言った。
結局30分の井戸端会議の末、明日の飲み会に行くことになった。
「いいか、気を抜くなよ。アイツラどうゆう理由があるか分からないが、絶対に何かしかけてくるぞ。もしかしたら取り込まれるかも知れない。気を抜くな。アイツラを利用するつもりで行くんだ。いいな?」とキタヤマ隊長のシメの言葉で井戸端会議は終了した。
家に帰ると食卓で父と母とリーとアズサがご飯を食べていた。今日はアズサが来る日だったのを忘れていた。今日の夕飯は白身魚のフライだった。母とアズサが作ってくれたらしい。最近、この何の魚か分からない白身魚が多い。アキモトに何の魚なのか?と聞いても、アキモトにも漁師をしている彼の父親にも分からないらしい。噂では新種の可能性もあるらしいとクリハタは言っていた。最初はみんな気味悪がって食べなかったが、最近は村民も入植者達も気にせずに食べるようになった。味は鯛に似ていて美味しい。正直母親の料理よりアズサの作る料理のほうが好きだ。多分アズサに対するバイアスがかかっての事だと思うが、彼女の手料理を食べれると嬉しい。特に彼女が作るラザニアは最高だ。しかし、チーズ不足が続いているのでなかなかラザニアが食べれない。早くチーズ不足が解消されればいいとイシカワは思っている。
食事が済んで、イシカワの部屋に行き、アズサとリーと3人で陶芸を2時間ばかりして過ごした。アズサもリーも陶芸はかなり上達している。それに加えてイシカワときたら相変わらず下手くそだ。ササキの父さんに会う度にもう少し頑張れと笑いながら言われる始末だ。
イシカワは陶芸をしてる最中に明日、飲み会があってアズサの家に行けないと言った。「え?じゃあ、私も連れて行ってよ」とアズサがいうので、総長と愉快な仲間達の主催の飲み会だよというと。彼女は断った。
アズサ曰くあの連中、特に愉快な仲間達は村中の若い女を見かけてはセクハラめいた発言をするは、お尻を触られた高校生の女の子までいるらしい。やはり最悪な連中だ。
その話を聞いていたリーも「愉快な仲間達」の悪い噂話を教えてくれた。リー曰く、「愉快な仲間達」が所有する農場で働く外国人技能実習生は日々、男には恫喝や、女性にはセクハラが日常茶飯事だとか。それに、水爆以降は彼ら彼女の事を「アカ」と呼び「お前アカのせいでこうなった」罵るのだと。全く許せない連中だ。時代錯誤もいいところだ。
イシカワは「愉快な仲間達」は水爆前から関わらないようにしてい為、そこまでひどい連中だったとは思いもしなかった。威圧的で男尊女卑でパワハラ・セクハラのオンパレードで差別主義者。そんな奴らと明日飲み会をしなくては行けないのかと思うと気が思うくなった。仮病でも使ってアズサの家に隠れようかとも思ったが、キタヤマ隊長の言うことも正しい。「こちらがアイツラを利用すればいい」そうすれば村の暗部が少しは良くなるかも知れないと考えることにした。
次の日、飲み会の時間19時までアズサと過ごした。出来るだけ飲み会に行く不安や緊張感を和らげるためだ。その日アズサは学校が休みだったので朝から一緒にいれた。なので余計に飲み会に行くのが嫌になった。なんでわざわざ最低な奴の飲み会に行かなくてはいけないんだ。なんで昨日ちゃんと隊長に断ると言えなかったのか後悔した。
飲み会30分前、出発の時間だ。マウンテンバイクで村の東側へ走って20分。途中気分を落ち着かせる為にマリファナを吸いながら自転車を漕いだ。
大豪邸だ。門から豪邸まで目測で100メートルはある。門には若くてガタイのいい背の高い男が2人。おそらく門番だ。顔を見たことがないので、おらく入植者だ。黒いスーツに身を包み、20式アサルトライフルを自慢げに見せつけるかのように、右手でグリップを握って銃口を下に向けていた。とても威圧的に見えたので引き返そうかと思ったがキタヤマ隊長と約束してしまったし、今更引き下がれない。門の10メートル先でモジモジしていると、門番の一人がイシカワの方に向かってきた。「イシカワ様ですね。どうぞ、待合室がありますのでそちらまでお送りします。自転車は私が責任を持って預かります」と言ってイシカワのマウンテンバイクを持って門まで歩いた。なんでこの男が俺の名前を知っているんだと不思議に思った。門に付くと門番が門を不規則なリズムでノックした。モールス信号だ。この頃にはイシカワはモールス信号を習得していたので何を伝えたかわかった「来客だ。開けろ」すると門が開いた。そこにもガタイのいい背の高い見知らぬ顔の男が2人がHK416アサルトライフルを持っていた。もう1人の持ってるHK416にはグレネードランチャーが付いていた。もちろん、グリップを右手に向け銃口を下に向けていた。「イシカワ様です。待合室にお願いします」と言うと一人の警備を屋敷へ連れて行ってくれた。庭は京都の修学旅行で見たような日本庭園のようで門から豪邸までの小道には大きな池とそれを跨ぐように小さな木の橋があった。その橋を渡り、豪邸のドアをノックした。これまた同じさっきと同じモールス信号だ。
すると、中からまたしても見覚えのないグレーのスーツを着た初老の男が出てきた。「私、執事をしていますスドウと申します。イシカワ様ですね。お待ちしておりました。飲み会は始まるまで待合室へどうぞ」と言ってイシカワを彼の右の腰をに注目した。何か膨らんでいる。恐らくピストルを持っているのだろう。なんでこんなに警戒しているかイシカワには分からなかった。もしかしてキタヤマ部隊が攻撃してくるのではないかと勘違いしているのか?それと逆で、キタヤマ部隊を虐殺するつもりなのか?
「こちらが待合室です。皆様と時間までお待ち下さい。コーヒーと紅茶、クッキーを用意してありますので、もし、よろしければお時間までどうぞ」というと引き戸を引くと、中は畳が十畳の和式部屋だった。部屋の中にはギバとシミズ以外の隊員がいた。「みんな、早いですね」とイシカワが言うと、「ちょっと早く来すぎた」と答えた。ちゃぶ台の上にチョコチップクッキーがあったので一つまみすると、とても美味しかった。しかも温かい。わざわざ飲み会の待合室の為に置くクッキーの為に手作りを出す高待遇。
「コーヒーも美味いぞ。この豆はきっと良いやつに違いない」とキタヤマ隊長は感心していた。
「なんでこんなに高待遇なんですか?」とイシカワはキタヤマ隊長に聞いた。
「わからない。ヤバイことを頼まれるのかも知れないな」と答えた。そう思うとイシカワは怖くなった。いったい自分たちは何を指示され何をやらされるのだろうか。もし、それが卑劣な行為だったら、それを断れるだろうか。
飲み会5分前。ギバとシミズは一緒に来た。「おい、すごい家だな。なにして儲けたんだ?ヤクを売ったてこんなには儲けられないぞ」とシミズは言った。
ギバは大きなちゃぶ台の上にあるクッキーを見つけると、他には何も見えないかのようにクッキにを掴み口に放り込んだ。「うまい。しかも焼き経てだ」それからクッキーを5つ食べ、ジャケットのポケットにクッキーを5枚いれた。イシカワも含めて皆それを見て呆れた。シミズでさえ呆れた。
ノックする音が聞こえて、戸が開くと執事のシミズが立っていた「お時間になりました。客間にご案内します」というと廊下を歩いた。かなり広い家だ。客間に付くまで1分はかかっただろう。その客間までに壁にはバロック絵描や浮世絵が飾ってあった。
執事が大きな襖の前でノックして言った。「お客様をお連れしました」と言うと、よし、入れと襖越しに聞こえた。襖を開くとそこ30畳ほどある旅館の宴会場くらい広いく畳で見たとこな無いくらいの長方形の長い長方形のちゃぶ台があり、一番奥のに上座に総長ことマツモトが座っていた。右にには30代の女性が和服を着てこれまたキレイな女性が右に立っていた。左に20代の若いキレイな女性が立っていた。顔には見覚えがなかった。総長の席の奥に床の間があって、掛塾を置くスペースに駆け塾(達筆過ぎてなんて書いてあるか分からなかった)と日本刀、1番大きい日本刀が上段一本、後はその3/4ほどの日本刀が6本飾ってあった。
総長の周りの席は隊員ように開けてあるだろう空席の赤いふかふかそうな座布団が、それと下手側の席に総長の愉快な仲間達、6人と村長のヨシダが座布団の上にす座っていた。総長の仲間達は町で歩いている時のような偉そうな態度ではなく、少し緊張しているようにも思えた。それに何よりも驚いたのは部屋の四隅に見慣れない顔、門番とは違うを黒いスーツに姿の男がレイバンのサングラスをしてMP7サブマシンガンを銃口を下にして構えて立っていた。イシカワは殺されるのではないかと思ったが銃口をこちらに向ける気はなさそうだ。何をそんなに警戒しているのか?それとも自分の力を誇示したいだけなのか分からなかった。こんな席で楽しく飲めるはずないだろうと思った。総長は相変わらず威厳を保ったような表情をしていたが、急に立ち上がり口を開くと表情が緩み、穏やかな声色で言った
「この度はキタヤマ隊長、それに隊員の方々。お忙しい中、お越しいただきありがとうございます。私はマツモトという者です。今回は是非ともキタヤマ隊長含め隊員の方の日頃の労を労いたくお招きしました。これ以上話すとツマラナイ長いスピーチになってしまうので、このぐらいにして皆様席にお座りになってください」
キタヤマ隊長が席を挟んで向かい合わせにマキタが総長の隣だ。隣にイシカワが席を挟んでギバがその真中に、シミズがとキリシマが向かい合わせに、そして新人のアライが一人で向かいの「愉快な仲間達」の一人タナベというオッサンだ。
総長は「皆さんビールでよろしいですか?」と聞くとキリシマが「すみません。僕はアルコールが受け付けない体質なので違う飲み物が良いです」と言った。「そうですか、コカ・コーラかオレンジジュースどちらが良いですか」と聞くのでキリシマはコーラを頼んだ。
そう言うと、総長の両端に立っていた女性が部屋を出て1分すると瓶ビールとコーラを持って現れた。20代の女性が「愉快な仲間達」とヨシダ村長にのコップにビールを御酌する。
30代の女性は総長にビール瓶を渡すと、総長がキタヤマ部隊全員にビールをお酌した。「いえいえ、そんな、結構です。」というと、総長は「是非とも私に御酌させてください。部隊の皆様のお蔭でこの村の文化生活水準は今や世界一です。どうか、私にさせてください」といいビールをコップに御酌した。キリシマにはコカ・コーラを御酌した。
「もう一つ、飲みかえを始める前に言いたい事があります。それはキタヤマ部隊で殉職された、ササキ隊員、カトウ隊員の為に黙祷を捧げたいと思います」と総長が言うのでその場で1分間、黙祷をした。
「では、飲み会を始めましょう。隊員の皆様どうか硬くならず。リラックスして飲んでくれると幸いです。さあ、飲みましょう。乾杯」と言うと飲み会が始まった。
最初は、少し重苦しい雰囲気だったが、徐々に盛り上がった。
しばらくすると、2人の和服のの女性が料理を持ってきた。タイの刺し身の盛り合わせ、フグの刺身の盛り合わせ、伊勢海老、神戸牛のステーキ、それにローストビーフ、と水爆以来、いや水爆以前でもイシカワが食べたことの無いような料理まであった。
「これは家の地下室にある冷凍庫に保存してあったものです。まだストックはありますがね。皆さん遠慮なく食べてください」
キリシマはローストビーフ目が無いらしく貪るように食べていた。
「美味しいですか?」と総長が聞くと「もちろんです」とキリシマ。
「後で、皆様にお土産にローストビーフをローストチキンをあげましょう。刺身類は傷むの早いですから。今回は勘弁してください」と総長は言った。
コップが空になると、愉快な仲間達が一人ひとりの隊員たちのグラスに酒に御酌し始めた。しかも村長までもが。みんな、村で偉そうに歩いている時と違い、腰が低い感じだった。イシカワは余計に気持ち悪く感じた。
総長はわざわざ立ち上がり隊員一人ひとりの場所に行き。「ありがとうございます」で始まり最近の村の話をした。当たり障りのない話を皆にしていた。それから「これからも村のためによろしくお願いします」と言って頭を下げていた。
そんな時にシミズはいつもの癖でマリファナに火を付けると「バカ者!」とでかい声で総長が言った。場の雰囲気が一変して戦慄が走った。総長はしばらくして緩んだにこやかな表情になり言った。「怒鳴ってしまってすみません。わたしはどうも大麻が嫌いで。客人に失礼な物言いをしてしまい真の申し訳ありません。」と言って頭を下げた「代わりにですが、葉巻はいかがですか?隊員のみなさも吸いたい方がいましたら、どうぞ」イシカワは少し怖かったが全員葉巻を貰うことにした。2人の和服を着た女性が大きな木箱に入った葉巻を持ってきて隊員全員に渡した。木箱の中にはシュワルツェネッガーが吸ってそうな大きな葉巻が10本入っていた。隊員全員が葉巻の吸い方を知らなかったので戸惑っていると、総長が葉巻の吸い方を教えてくれた。まず、先端をギロチンカッターで切って火を付けるのだという。みんなさっきの恫喝にビビったのか隊員皆が葉巻を吸った。
「どうです?美味しいでしょう?キューバ産です。キューバも恐らく、核攻撃を受けて消滅しているので、これがキューバ産葉巻を吸う最後の機会になるかもしれません」と総長は言った。
イシカワは、あることに気づいた。ここのカースト制度についてだ。もちろん総長がトップで、次に愉快な仲間達(この愉快の仲間たちの中に上下関係があるかまでは推測できなかったが)の次に村長のヨシダだ。彼が恐らくこの総長グループの一番下だ。愉快な仲間達のコップがからになると酒を御酌して周り、総長の所も同じだ。それから、この和服を着た若い女性。全く見たことがない。こんな村でこれほどの美人がいればまず噂になるだろうに。この二人の女性は水爆前から、総長の家で暮らしていて外にも出なかったのだろうか。
四隅を見てみると相変わらず、部屋にライトがついといるが夜だと言うのみレイバンのサングラスをかけた右手にMP7サブマシンのグリップを握って銃口を下にに向けている。スーツの右側少し盛り上がっているのでホルスターに拳銃をいれているに違いな。それにスーツのサイズが身体に比べて少し大きい気がした。防弾ベストを下に着ているのだろう。一人の、イシカワから見て向かい右側の隅っこに居た警備が流石に疲れ肩を凝ったのかMP7サブマシンガンのグリップから手を放し右肩を上下させた時、スーツで隠されていたホルスターに入ったピストルがちらりと見えた。それは、イシカワ達が押収したピストル、VP9やSig320やベレッタ92とは違う拳銃だった。恐らくアレはグロックだろう。なぜ、イシカワがそれを知っているかというと「コールオブデューティー」でグロックばかり使っていたからだ。なんで押収されていないピストルがここにあるんだ。もしかして、コイツラ核攻撃前から銃を所有していたのか。
イシカワが警備を見ているのに総長は気づいたらしい。イシカワのもとに来た。「実は私は怖がりでね。あなた達を信用しているが、いつ狙わるのではないかとヒヤヒヤしているんだ。多分老人の被害妄想だと思うが。居心地の悪い思いをさせて申し訳ない」と穏やかに言った。
「いえ、銃は普段から慣れていますのでお気遣いなく」とイシカワは心にも思ってない返事をした。
それに、猫をかぶっているだけなのか?酔っ払っているが愉快な仲間達は全員失礼な態度をしていない。女性隊員にもだ。噂では奴らが酔うと男にはパワハラを女にはセクハラをしかけてくるというのいうのに全くその素振りはない。イシカワは、この愉快の仲間たちが飲んでいる姿を見たことが無かったのでアレはタダの噂話だったのかと思うくらいだった。それとも、年齢のせいで元気が無くなったか、原水爆以降心を改めたのか。すると、イシカワ、マキタ、キタヤマ隊長の前に、酔っぱらい完璧に出来上がった。ヨシダ村長がやって来た。
「なあ、君たち戦闘を経験して人を撃っただろ?どんな気持ちだった?楽しかったか?胸がスカッとしたか?」と聞いてきた。イシカワ含め皆が黙っていると。総長がヨシダの背後に立ち、彼の頭を引っ叩いた。
「この、愚か者。客人に向かってなんて失礼で無神経な事をいうんだ。今スグ土下座して謝れ!」会場は静まり返った。ヨシダは泣きながら申し訳ありませんと何度も土下座しながら言った。イシカワもマキタもどうして良いか分からなかった。
「いえ、そんな謝らなくても大丈夫です。マツモトさんもヨシダさんもお気にせずに飲みましょう」とキタヤマ隊長もどうして良いか分からなかったらしく、普段見たことないようなオドオドした口調でいった。
「本当に、申し訳ありませんでした。ヨシダには後で叱りつけますので。私も怒鳴りつけこの場の雰囲気を壊してしまいました。どうかお許しください。しかも2回も。さあ、楽しく飲みましょう」
それから2時間宴会が続いた。総長がロレックスの腕時計を見た。
「皆様。今日はどうもありがとうございました。私達の飲み会に着ていただき大変うれしいです。皆様にも恋人や家族がいるでしょうに。及びだてして貴重な時間を我々と過ごしていただき誠に感謝します。今日はこのへんでお開きしましょう」と総長は言うと、総長含め、愉快な仲間達、ヨシダ村長、2人の和服の女性が立ち上がりお辞儀をした。それに四隅にいる警備の連中もお辞儀していた。
「そうだ、キタヤマ隊長には大変申し訳無いのだが後1時間くらい2人で話したいことがあるのです。一緒にわたくしの書斎に着て頂けませんか?」というと少し困った顔をして「わかりました」とキタヤマ隊長は言った。
イシカワは少し心配だった。キタヤマ隊長が何をされ、何を要求されうのかと。
帰りに執事のスドウから全員にお土産をもらった。中にはローストビーフ、缶詰、カニ缶、桃缶、キューバ産の葉巻、アサヒビールしかも高級ヤツが2本。ビールの代わりにキリシマにはコカ・コーラと高級オレンジジュースの瓶入っていた。
帰り、みんな自転車を押しながら歩いた。今晩あった飲み会の話をした。あの総長と愉快な仲間達について話した。まず、口を開いたのはギバだった。
「あいつら、愉快な仲間達は完璧に猫を被ってやがるな。俺が前に居酒屋で遭遇した時とは偉い違いだ」とギバが言った。
「今日は少なくてもセクハラめいた事や発言はなかったはね、なんだか、みんな酔っていたけど紳士的なふるまいだった」とアライ。
「まあ、俺はマリファナ吸って怒られれちゃったな。総長はあんなに腰が低いからつい調子に乗っちゃたな。総長がマリファナ嫌いだってこと忘れるくらいに穏やかだった。余計ビビったよ。穏やかさと恫喝を上手く使う。あれは相当なヤリ手だぞ」とマリファナを吸いながらシミズは言った。
「自分なんて、あんなに美味いもの食ったの久々だったからアイツラに引き込まれるかとヒヤヒヤしましたよ」とキリシマは言った。イシカワもそうだった。最初は悪そうで怖そうな人間が優しく接してくれると、普段優しい人より高感度持つ。まるでヤクザの手口だ。でも、世界の殆どのあらゆる所でそういった事が繰り返さられ取り込まれて行くのだろうとイシカワは思った。
「あの、フィクサー説て本当だったのかな?噂知ってるでしょ?総長は日本の10本の指に入るフィクサーだっていう説」
このフィクサー説はこの村から、お爺ちゃんの世代より前から伝わる噂話だ。総長、つまりマツモト家の家系は代々日本の政治を裏で操っていたと言われている。それは日中戦争の時も太平洋戦争の時も、マツモト家が裏で糸を引いていたとか、戦争が終わった後は進駐軍とも繋がりを作り、総理大臣になった者は必ずマツモトの家に行き挨拶するとか、政治家だけではなく官僚に検察、裁判官、大企業の社長からヤクザから右翼の大物まで総長のコネクションが有るとか。それに、村中の住民が、この村で高級車を見る時は必ず総長の家の方角へ向かって行ったのを何度も目撃していた。
イシカワは噂はともかく、総長をタダの、田舎の金持ちが調子に乗っているだけだと思っていたが、あの大豪邸。でも、少なくても今は村長のヨシダを子分にしていることは事実だ。
「そう言えば警備が持っていたピストル見た人いる?」と聞くとキリシマとマキタが手をあげた。
「あれ、私達が押収したピストルじゃないわ」とマキタ。
「そうそう、あの拳銃真四角スライドピストルでしたね。僕らが使っているピストルじゃなかった。でも、遠かったし、SigかHKのピストルを見間違えた可能性だってありますよ」とキリシマ
「あれ、多分、グロックだよ。僕はプレステ6のゲームでグロックを使った事があるから分かるんだ」とイシカワが言った。
「グロックか。日本では珍しいな。少なくても普通の警察は使っていない。警察や自衛隊の特殊部隊がグロックを使っている部隊があったらしいけど、最近じゃあVP9ピストルだ」さすがギバだ猟師だけあって銃には詳しい。
もしかして、あのグロックは原水爆が破裂する前からあの屋敷に在ったということか?それとも警察率いる部隊が何処かで押収したグロックかもしれない。
「それと、あの人達だれ?宴会場に居た4人の警備の人と、2人の和服着た女性。執事の人。村で見たことある人いる?」とアライが聞くとみんな首を横に振った。こんな小さな村なら名前や何者か知らなくても顔くらいは見覚えがあるものだ。
「入植者たちかな?警官部隊が連れてきた」とキリシマが言ったが、イシカワは違うと踏んだ。どうみても立ち振舞が慣れていたから。きっと昔からあの屋敷にいたに違いないと。
それから話はキタヤマ隊長の話になった。皆隊長の事が心配だ。何か頼まれ事をされているのではないか。それも、とてもヤバイ頼まれごとを。
後日、隊員たちは総長と何を話したのか聞くと「些細な世間話を少ししただけさと」言った。イシカワ含め皆は信じられなかった。
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