18章 NewOrder

 年を越えて1月に突入した。相変わらず8月の陽気だ。世界の気候は完璧に狂ってしまっている。


 ヨシダが村長になって、イシカワや遠征部隊の仲間たちが恐れていた自体は起こらなかった。

 彼が村長になってから、言動や立ち振舞がおとなしくなった。もしかすると彼も体調が悪いのかと心配するほどだった。だがそれが良かったのか、ヨシダ村長は、最初は彼に対して疑っていた村民からも入植者からも信頼されるようになっていた。カトウが掲げた案も取り入れて村は少し安定したように見えた。もしかすると、自分の地位が確たるモノになったこともあり死者数は毎週平均10人近くと安定していた。村民や入植者もこのくらいの数字なら慣れてきたようで普通に生活を営んでいた。

 それに、クリハタ率いる科学技術省が宣言通り「安定ヨウ素剤」の製造に成功したと報告した。これにより被爆が軽減されるとの事だ。しかも、村民や入植者、来週には全員に毎月1ヶ月分の安定ヨウ素剤を配り貯水池にも安定ヨウ素剤を散布するので水道水を飲んでも大丈夫だと言った。ヨシダ村長と相談して決めたらしい。会場は盛り上がった。これで被爆者が減り、死者が減って人類は生き残れると希望を見出した。イシカワも同じだった。アズサは爆心地の近くにいた。アズサが助かる可能性が出てきたので大きな拍手をした。

 それから議題は先週、ヨシダ村長をカッターナイフで襲ったキカワは留置所を脱走した話題に変わった。村中がパニックに陥った。もし、武器庫を襲って銃を奪われたら無差別テロをやるかも知れないと憶測が流れたが1週間たっても2週間経ってもキカワは見つからなかった。泳いで逃げたのでは?というものもいれば海で自殺したのでは?というものまで色んな説が流れたが結局見つからなかった。警察の発表では村を逃亡した可能性があるのでパニックに陥らないようにとのことだった。


 遠征部隊はというと、カトウの後任としてアライ・ユズキという30歳の女性が加わった。身長は145センチと小柄だった。彼女はウィンドサーフィンが趣味で、休みの日になると逗子の海岸に行ってはウィンドサーフィンを楽しんだ。イシカワは彼女とは直接面識は無かったがよく、旦那さんと一緒に道を歩いているのを目撃した。いつも日焼けしていたイメージがあった。

 水爆投下時に、旦那が飛んできた建物の瓦礫に衝突して亡くなった。彼女は1ヶ月近く泣いて過ごしたが、新しい仕事。警備兵に配属されてからは何か吹っ切れたのだろうか、仕事を真面目に熟した。努力の成果なのか元々の才能は分からないが射撃の腕は一流で、運動神経もあり体力もある。それに、女性隊員が多いほうが生存者を見つけた時に警戒されない可能性が高い。キタヤマ隊長は彼女を指名すると彼女も喜んで遠征部隊に参加するとの事だった。

 イシカワはアライがあまりにも背が低いし細いので、よくアサルトライフルと装備品を持って逃げたり走り回ったり出来るだろうかと遠征前に思っていたが。実際は、その小さな体を使って遠征先では自分たちが入れないほどの瓦礫の中に入り食料品や物資を機械部品などを持ち帰ってきたり、隠れていた子供達を救出したり、話術や人柄も相まって警戒する生存者を説得するのも簡単にやってのけた。

それに彼女の体つきはとても細いが毎日、運動ジムにあるようなダンベルやチェストプレスなどを使って鍛えているそうだ。物腰も柔らかく気遣いも出来るし機転も利くので隊になくてはならない存在になった。

 この週から、急に生存者が顔を出し始めた。生存者たちの話によると、備蓄していた食料底を着き始めた始めたのが原因らしい。それに、我々が重武装していたこともあり「略奪者」と思って隠れていた者も沢山いたという。それに、その村に行ったら奴隷のように扱われるかも知れないという噂が生存者グループで広まったからだ。無理もない。アサルトライフル持って拡声器でいくら「私達は怪しいものではありません。自衛隊でもありません」と言った所で、政府は消滅状態だ。疑心暗鬼になって当然だ。中には警戒する伊勢原の20人からなるグループがいて、「村には行かないと」と言った。仕方ないのでキタヤマ隊長は僅かな保存食を彼らにプレゼントした。その週だけでキタヤマ隊長はの部隊が30人の生存者を、警察コンビの部隊が30人。その次の週は、キタヤマ部隊で60人、警察率いる部隊が40人。2週間で合計150人近く生存者が入植者になった。それから、変わったケースの入植者もいた。その入植者は漁船に乗って海からやって来た。最初沿岸警備隊は海賊かと思ったが、乗っていたのは二人の青年だった。大島出身の彼らはで漁をしている最中に水爆炸裂。なんと、大島と三宅島の間辺りまで瓦礫や死体が飛んできたとか。瓦礫が船に当たり、壊れたので、1週間かけて棒で漕いで故郷の大島までたどり着いたら。建物が壊れていなかったが村民が誰も居なかったそうだ。それに漁船が1台も無かったとか。三宅島も同じだったそうだ。恐らく、島を離れ何処かに逃げたと思われる。なので保存食もなく彷徨い上ヶ丈山村にたどり着いたとか。この二人の内の一人の青年イクシマはマキタとスグに恋人関係になった。それを知ったのは二人で道を手を繋いで歩いていたのをイシカワが目撃したからだ。あんなにイシカワとアズサの関係をイジっていたので遠征部隊の言いふらそうを思ったが、大人なので、そんなくだらない事はしなかった。

 この新しい150人の入植者達を第二世代と呼ぶことになった。住宅事情が問題になった。入植者用の住居はもうキャパシティをオーバーしていた。なので、新たな生存者たちにはキャンプでとりあえず偲んで貰う事にした。まるで、BBCのドキュメンタリーで見た難民キャンプのようだった。水爆のせいなのか、温暖化のせいなのかその両方のせいなのか1月だというのに相変わらず暑かった。気温が30度を超える日が何度かあった。その御蔭で熱中症で倒れる者もいたが、第二世代の入植者は冬の寒さからは助かることができた。だが時間の問題だ。気候変動でいつ寒くなるか分からないからだ。


 クリハタ率いいる科学技術省が公約通りに安定ヨウ素剤の製造が始まり。水源である浄水場に散布し、毎月1ヶ月分を村民、入植者達に配ることとなった。安定ヨウ素剤は子供も飲めるよに砂糖でコーティングされたピンク色をした錠剤だった。これで自分たちは助かるかもしれない。しかも子供が死ぬことが少なくなるかも知れないと村中が喜び、駅周辺で祭りが行われた。

 イシカワはアズサと祭りに行った。彼女の浴衣姿を見るのが初めてだったのでいつもより、彼女が可愛く見えた。しばらく手をつないで歩いているとクリハタに遭遇した「おい、お前やっぱり凄いよ。ありがとうな」とイシカワが言うと、「こちらこそありがとう。イシカワが遠征で資料や薬品を運んでくれたお陰だよ」と少しクールな感じで答えた。もしや、クリハタ少し調子に乗っているのかと思ったが、彼の偉業を考えれば調子に乗ったて誰もが許すだろう。


 村議会にて。

 ヨシダ村長はは村議会で第二世代入植者達に新しく木造2階建て、20部屋の住居を10棟、それにさらに夜部分に5棟建設することを決めた。

「食料の方はどうなんだ?間に合うのか?」とある村民が叫んだ。確かにそうだ。保存食はそろそろ底を着く。このままだと大変なことになる。

「大丈夫です。上ヶ丈山村は、農業、漁業、林業、恵まれた奇跡の村です。しかも最近、第2世代の入植者の中に建築家の方もいます。なので住居も大丈夫です。それに、服飾関係の方も入植してきました文化的にも発展できます。絶対に食料が尽きることはありません」とヨシダ村長は自信満々に答えた。

「作物が汚染されているかもしれないのに、それを食べろというのか?」とある村民が叫んだ。

 すると、ヨシダ村長はマイクを今や科学技術省のトップになったクリハタにマイクを渡した。「恐らく大丈夫でしょう。最近手に入れたガイガーカウンターによると、この村の放射線量は、奇跡的にも低い。理由は分かりません。風向きの関係かもしれません。しかし、少なくてもビニールハウスで育てた作物に関しては大丈夫です」というと会場が沸いてクリハタに拍手を浴びせた。イシカワは不思議に思った。米軍基地にも自衛隊の基地にもガイガーカウンターが有ったが、全部壊れていた。それに、最近見つけたとはどうゆうことだ。少なくとも自分の部隊では見つけていいない。警察部隊が見つけたものなのか。

 それから、科学技術省の研究成果が発表された。最近風力発電に成功したこと、これにより、バイオ燃料による発電機が必要なくなり、バイオ燃料を車両の燃料代わりに回す計画がある事、それとキタヤマ遠征部隊が藤沢の半壊した倉庫で見つけた大量のソーラパネルを使って発電に成功した。風力とソーラパネルで村はより発展すると発表した。拍手喝采だった。クリハタは場馴れしてきたのか、プレゼンや研究成果の発表がうまくなった。まるで、ロックスターを見るかのように子どもたちはクリハタを見ていた。

 そして、ヨシダ市長の話が終わると、イシカワの父とアキモトの父が壇上に上がって久しぶりの無線で、知り得た世界の状況を発表した。

 ほぼ、世界は絶望的らしい。原水爆の電波障害のせいなのか分からないが、国内では連絡は誰とも取れないとか。海外は韓国のソウル。今は略奪者が町中でグループをなし、内戦状態。アメリカも同じだという。

 もうこの村しか文明を保っている場所が無いのかと村民も入植者もショックだったのか会場が静まり返った。

「皆さん。私達は選ばれし者です。今は踏ん張りどきです。上ヶ丈山村をスタートに人類を文化を再生してしてい行こうではありませんか」とヨシダが勇ましい言葉で演説すると会場はわいた。イシカワ、ヨシダがまた調子に乗り始めたのにイラッとした。

 次の日、ヨシダ村長が村議会で発言したように村の北側の空き地に第二世代入植者用の木造2階建て20部屋の住居を10棟の建設が急ピッチで、警備兵や第一世代入植者と第二世代入植者とが手を組み建設が始まった。通常は一ヶ月かかる所を、3交代24時間かける予定で2週間で出来る予定とか。

 それと、クリハタ率いる科学技術省のが言ったように、日当たりが良い一番より山の北側の200メートルの位置に大量にソーラパネルが設置された。すると、電気の供給が上手くいった。だが、村民全員の家庭が電気を使えるまでにはまだには至らなかった。電気を使いすぎて停電が多発した。それに夜は使えない。当分はバイオ燃料を使った発電機と並行して使うしかないようだ。それと、風力発電の方だが、大型な物を作るのは難しいので小型なといっても10メートルの物と5メートルの物を複数を風通しの良いところ海の近くや、上ヶ丈山の天辺に設置することに決まった。風力発電の方は工事が完璧に終わるまで1年はかかるらしい。

 それから次の週もキタヤマ遠征部隊と警官遠征部隊とで30人の第二世代入植者を見つけた。イシカワは気づけば、人を救う事が喜びに感じていた。だが、あまり沢山の人を上ヶ丈山村に入れすぎると大丈夫だろうかと心配した。元の村民と入植者の間で小競り合いが怒るのでは無いかと心配していた。今の所はその兆しはないが。そのうち下田市であの女性が言っていたように、内戦状態になったらどうしようと。あまり、不安になっても仕方がない。今は自分の幸せに目を向けることにした。

 イシカワは仕事が終わると、いつも真っ先にアズサに会いに行った。今ではアズサも陶芸にハマっていて、一緒に陶芸をするのがたのしみだった。もちろん、他の事をするもの楽しみだったが。形を形成した粘土はササキの実家にある窯で焼いた。この作業は意外と難しい。というのも粘土を形成している時に粘土の中に空気が入っていると空気が熱により膨張して焼き上がった時に割れてしまうからだ。イシカワは何度も窯に入れ焼くと割れてしまった。ササキのお父さん曰く「修行が足りないな」と一方アズサは器用で割れることは珍しかった。「アズサさんの方が陶芸に向いてるね」とササキの父さんは笑いながら言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る