16章 デート
村中は大パニックだった。河川哨戒艇で館山市に向かった7人からなる沿岸警備隊部隊が帰っても来ないし無線連絡もないのからだ。房総半島は治安が悪く隊員たち全員殺害された説。房総半島の放射線量が高すぎて全員即死下説。船が途中で壊れて漂流した説。部隊全員逃亡した説、と色んな説が村中を流れた。イシカワは彼らは館山市の市民に攻撃されたのではないかと考えた。アサルトライフルを持った奴らが街に侵入してきたら攻撃されるに違いない。下田市の様に統制が取れていない場所であるならなおさらだ。それか、館山市の方が環境がよくて隊員達は亡命をしたのかもしれない。
だが、イシカワそれどころではなかった。朝起きると、いやあまり眠れなかったが、昨日誘った事を後悔していた。これは一種の脅迫ではないかと思った。たまたま助けた女性が助けられた男にデート(いや、相手はデートと思っているかはわからない)誘えを断れない状況を作ってしまったのではないかと反省した。
それと同時にデートが出来る事がワクワクもしていた。イシカワが最後にデートしたのは上京していた時に元カノのヨーコとしたのが最後だった。それが4年前。上ヶ丈村に戻ってから一度もデートをしていなかった。
まず、どうやってデートをするだっけと考えた。とりあえず、風呂に入って丹念に身体を洗った。
それから服装からだ。一番キレイなTシャツ、ヴィンス・ステイプルスの「FM!」のアルバムジャケットの絵柄の入った物を着て、一番キレイなブラックジーンズに、スニーカーはアディダスのキャンパスを履いた。
あまりにソワソワしたので最近特に弱ってきた、ジョンを散歩に無理あり連れて行き。部屋にこもり、上半身裸で気分を落ち着かせる為にレディオヘッドやピンクフロイドやニュー・オーダーの暗い曲を聴いた。逆に気分が暗くなりすぎたので、ファンカデリックとクラッシュとケンドリック・ラマーを聴いて気分を調整した。自分ならうまくデートが出来ると。それでも気分が落ち着かなかったので、ロクロを回してササキのお父さんから出された課題の陶芸を制作する事に集中することにした。気づくと30分前だ。アズサの実家まで歩いて丁度いい時間だ。
アズサの住んている実家までは30分。国道を海側、つまり南側へと道なりに行くと着く。12月だというのTシャツだけでも汗だらけだ。水爆以来気候が変化したのだろうか。8月の猛暑のような暑さのだった。こんな時にデオドラントスプレーがアレばといいのにとビショビショのTシャツを着てそう思った。一応タオルを持てきたので身体を拭きながら歩いたが汗の臭いが気になる。いっその事、アズサの実家に着いたら「今日はごめん明日にして」と言って欲しいぐらいだった。それに本当にデートしてくれるだろうか?
15分後、約束の時間より15分も早く着いてしまった。久しぶりにアズサの実家に行くの徒歩で25分ぐらいだろうと思い違いをしていた。
あまり早く行くのは失礼に当たるかもしれない。しばらくアズサの実家の前をウロウロしていると「あら、ツバサくんじゃないの」と聞き慣れた声。
キムラさんのお母さんが買い物から帰ってきた所に遭遇してしまった。マズイとイシカワは思った。「昨日はどうもありがとうね。あの時アズサを家まで送った時に、ちゃんとお礼が出来なくてごめんなさい。まさかアズサが生きているとは思っても見なくて舞い上がってツバサくんにお礼を言うのを忘れていたわ。アズサを見つけてくれてありがとう」とアズサの母。
「いえいえ、これが僕の仕事ですし、アズサさんを見つけたのは僕だけじゃなくて遠征部隊全員の力なくしては出来ませんでした」イシカワは照れながら言った。
「そう言えば、アズサから聞いてるわよ。今日ツバサくんが村中を案内するって」
「その予定なのですが、アズサさん体調の方はいかがですか?」
「あの子は元気よ。コンビーフとスパムの缶詰を2つも開けたは。それに精神的にも元気よ」
「それは、何よりです」
「そうだ、早く家に入りなさいよ」
「いや、約束の時間まで15分なので。失礼かと」
「いいわよ。あの子はそんなの気にしない」
アズサのお母さんはイシカワを家に招き入れ、茶の間に通した。そこにはアズサのお父さんが寝っ転がって本を読んでいた。ツバサに気づいて立ち上がった。「ツバサくん。いや、ツバサさん。昨日はどうもありがとう」
「いや、ツバサさんなんて言わないないでください。これも仕事ですから」
「最近色々と噂はよく聞いてるよ。とっても立派な大人になって。さあ、アズサが来るまでお茶でも飲んで」するとアズサの父がでかい声でイシカワが来た事を叫んだ。「アイツ、時間にルーズな所があるから許してやってくれ」
アズサの両親も農家をやっていた。キャベツとトマトとイチゴとお米だ。キャベツ、トマト、イチゴは温室は壊れなかったから汚染さている可能性が低いが、お米は温室の外なので黒い雨にヤラれている。汚染されている可能性が高い大損害だ。なので気分が暗くなっていた所に、死んだと思っていたアズサが帰ってきたのが相当嬉しかったなのだろう。アズサのお母さんはいつも、微笑んでいる印象があったが、父の方はどちらかと言うと少し威圧的で怖い印象があったが、昨日アズサを見た瞬間から嬉しくて堪らないらしく舞い上がっている様子だった。しばらく、遠征部隊の話を聞かれて会話をしていると。階段を駆け下りる音が聞こえた。
「おまたせ」アズサだった。TシャツにGドラゴンのTシャツを着て、ピッタリな黄色のスキニーパンツを履いていた。
「じゃあ、ママ、パパ行ってくるね!」と言って二人で家を出た。
アズサはハイカットの赤いコンバースのスニーカーを履いていて黄色のパンツとよく似合っていた。昔から彼女はオシャレで美人。なので村中の男子の憧れもの的だっが、いろんな猛者達が彼女にアタックしては玉砕していった。
村の中心地、上ヶ丈山駅周辺まで歩いて10分。いろんな話をした。彼女が高校で英語教師をしていた時、受け持った担当のクラスの生徒たちがどうなったかと彼女は心配そうに言った。恐らく、みんな死んでいるだろうとイシカワは思ったが言えなかった。
まずは、村の商店。いや路上商店を回った。殆どが遠征部隊が持ち帰った物だ。汚染されている心配がないかって?もうみんなそんな心配出来ないほど放射能が日常化していた。通貨、日本銀行が発行するお札は水爆以来意味を失くした。なので、最初は、遠征部隊が回収した服や靴は関しては毎月1人1着、本や漫画は図書館で共有し所有はすることになった。中にはエロ本も含まれていたが、水爆以前の文化を忘れない為に保管することにした。食事は相変わらず週に1回の配給制、主に破壊を免れた村の倉庫に備蓄してあったお米と小麦粉と塩と砂糖とツナ缶と鮭缶サバ缶とコンビーフ缶とスパム缶それとたまにビーフジャーキー。それからレアの物だと大量のカニ缶を回収した事もあったが、一度も配給で見たことが無いので、町の権力者達に横流ししているのでは無いかと部隊の中で噂されている。中には自分の育てた農作物を食べるものも居たが、あまりオススメは出来ない。だが、缶詰だって汚染されている可能性があるのでなんとも言えない。2週間前に遠征部隊が大きな古いアナログの印刷機を見つけて回収した。それでお金代わりにして上ヶ丈山券を村民たち全員に毎月1回は配るようにすることになった。昔の日本円で言えば10万円くらいの価値の券だ。いわいるベーシックインカムだ。それを提案したのはヨシダだった。ヨシダのなす事全てに吐き気を催すほど嫌いだったイシカワでさえも、それに関してだけは、彼がやった功績の中で一番いい事だと思った。それと、警備兵には月10万程度の上ヶ丈山券と、農家にも恐らく大丈夫そうな、水爆の時にビニールハウスが倒壊しなかった作物に対して10万上ヶ丈山程度の券が、遠征部隊に対しては月20万上ヶ丈山程度の券をもらった。
上ヶ丈山券は主に嗜好品に、酒、コーヒー、タバコ、コーラ、ジュース、服、スニーカー、ブーツ、ボードゲーム、レコードなどだ。それにマリファナだ。なのでシミズさんは町でもTOP10に入るぐらいの大金持ちになった。
イシカワとアズサが露店を回った。この村にこんなに人がいるのかとビックリするくらい人がいた。「こんなに生存者がいるのね」とアズサと言って感動した様子だった。「それに、商品も昔の村より沢山あるじゃない」
しばらく二人で歩いていると、靴屋で、アズサが止まった。ビルケンシュトックの靴を見ていた。
「これが欲しいの?」
「うん、昔、買おうか迷っていたのよ」
それを聞いてイシカワは彼女にその靴を買ってあげた。上ヶ丈山券が先週2ヶ月分が一気にもらったからだ。それに彼は上ヶ丈山券を殆どを酒かタバコかレコード、それにシムズさんが特別に安くしてくれてるマリファナにしか使ってこなかったからだ。財政的にも余裕がある。
「ありがとう。いいの?本当に?」
「いいよ。おれ遠征部隊にいるから今は金持ちなんだ。それにお金を使うことも少ないし」
ビルケンシュトックの靴のサイズは若干彼女の足のサイズより大きかったが小さいくて入らないよりはマシだとアズサは言った。
それから二人で喫茶店に入った。最近出来たメトロポリス2号店だ。この喫茶店メトロポリスは、恐らくイシカワの曾祖父の時代からある喫茶店だ1号店はボロく気難しそうなオジイさんが経営していた。壁紙はヤニで茶色に変色し、家具もボロく中年と老人の溜まり場みたいな場所だった。こんな田舎にメトロポリス(大都会)と言う名前をつけた名は店主の皮肉なのかとイシカワは常々思っていた。
メトロポリス2号店は、水爆後、歩いて鎌倉からやって来た元喫茶店の店主の40代の男が経営している。店内は2週間で作ったとはいえなかなかオシャレな内装で壁が赤く塗られ、椅子は全て黒のシックでモダンな物になっていた。老人はメトロポリス1号店で、若者はメトロポリス2号店へ行った。おそらく今やこの喫茶店メトロポリスは恐らく、スターバックスの売上を抜いて世界一の喫茶店かもしれない。コーヒーの味はと言うと普通だった。一応、遠征部隊がショッピングモールやデパートやスーパーの跡地でコーヒー豆を見つけてはメトロポリスに卸売している。イシカワにはインスタントコーヒーとの味の差は分からなかった。
2人はブレンドコーヒー2つとピザを注文した。
「どう、おいしい?」
「うん、久しぶりのコーヒーですもの」
「ピザも上手いよ。食べてみなよ」
トマトはおそらく、缶詰でで作ったソースを使っているのだろう。チーズの方はというと、村の牧場の乳牛とヤギのミルクで作ったチーズだった。汚染されてないかだって?汚染されていない食い物がこの世界にどれだけ残っているのか検討がつかない。みんな徐々に慣れていった。そんな事を気にしなくなっていた。イシカワも同じくだ。汚染されているのであればせめて美味しい物を食べたいとしか思わなくなっていた。アズサにそれを食べさせるのには少し抵抗があったがしかたない。
「ほんとうだ。このピザ美味しい。まさかピザが食べられるなんて思ってもみなかった」
「喜んでくれてよかった」
それから、アズサはイシカワを質問攻めした。あの村民は生きているのか?この村の食料は安全なのか?この村の死者数や、放射能汚染はどうなっているのかなどだ。必ずしも良い返事が出来なかったので、少し二人は暗い気持ちになって沈黙がつづた。
「ねえ、イシカワさんでしょ?」イシカワが声の方向を向くとそこには見慣れた少年が立っていた。誰だこの子は?と思っていると、少年の奥から夫婦がやって来た。そうか、ハヤシ家族だ。今、クリハタ科学技術省で働いていて、イシカワの部隊が救助した生存者だ。
「あの時はどうもありがとうございます。今では仕事もあるし、家族も健康です。あなた達に助けてもらえなかったらと思うと怖くてたまりません」
「いえいえ、仕事ですから。当たり前の事をしただけですよ」
「今は、お邪魔な私達ようですね。では」と言ってハヤシ一家は奥の席へと戻っていた。
「ツバサくん、この村では英雄みたいね」
「そんな事無いよ。それに遠征部隊だって好きで入ったわけじゃなくて、くじ運が悪くて嫌々入隊させられたんだ」
「でも立派だは。色んな人を助けて。それに、村を歩いていて気付いたけど、みんなアナタの事をジロジロ見ていたわよ。モテるでしょ?」とアズサが微笑みながら言った。
「いや、全然モテないよ。それにこんなの一時的なモノさ。そのうちみんなスグ忘れるよ」と照れながらイシカワは言った。確かに村民がイシカワの見る目が変わったのは事実だ。それも、あの略奪者を殺してしまったからだ。それを英雄視されるのはやはり少し気持ち悪かった。だからと言って、村八分にされるもの嫌だったが。
「ねえ、ツバサくん。気づいた事があるんだけど言っていい?」
「なに?」内心何を言われるのかヒヤヒヤしていた。汗臭いとか、或いは自分がアズサさんが好きなことを見抜いていて「あんたなんて無理」て言われるかと。
「指先の爪に灰色の泥が付いてるよ。どうしたの?」
イシカワ指を見た。確かに指の間に爪の間に、灰色の粘土が挟まっている。そうだ。気分を落ち着かせる為に陶芸をしていたんだった。ちゃんと手を洗ったつもりだったのに。急に恥ずかしくなった。
「いや、実は今趣味で陶芸をやってるんだ」
「え、そうなの面白そう」
「うん面白いよ。気分は落ち着くしね」
「私もやってみたいな」とアズサが言ったのでメトロポリス2号店を出て、イシカワの実家に行くことにした。
実家につくと、母親と父親がビックリした。そう言えば昨日帰りが遅くなったので、両親にアズサが生きていた事を教えて無かったのだ。
母親は涙を浮かべながら「よく、帰ってきたね。大変だったでしょ」と自分の娘が生還したかのように喜んだ。父は「とても元気そうで良かった」と言った。アズサは父親の右手をチラチラ見た。ソレに気づいたらしく。「俺な右手を切断することになっちゃてさ。まあ他の所は元気だよ。どうだロボコップみたいでカッコいいだろ」と自慢げにアズサに見せてきた。イシカワはアズサに自分の父親の右手を伝え忘れていた。アズサはどう反応してよいのか分からなかったらしく、愛想笑いをするだけだった。
両親はようやく、空気を読んでくれたらしくアズサとの再会の挨拶を切り上げ、イシカワとアズサは部屋に向かった。廊下でネコのキコを見つけてアズサは抱っこした。アズサは動物好きでもちろん、イシカワのキコとジョンを可愛がった。キコを抱っこしながらイシカワの部屋に入ると、ササキのコレクションのレコードが山積みになっている事に驚いた。
「これ、同じ部隊に居たやつの遺品なんだ。音楽の趣味もあったからもらったんだ。なにか聴く?」
「うーん、どれがいいかな。ツバサくんが決めて」
困った。アズサはK-POPが大好きだったBTS(防彈少年團)とかだ。イシカワは韓国の音楽はヒョゴとSay Sue Meくらいしか知らない。
「ロックとヒップホップどっちがいい?」
「じゃあ、ヒップホップで」
困った末に、チャンス・ザ・ラッパーのアルバムをかけることにした。比較的にポップなアルバムだと思ったからだ。
アズサは、部屋の中央のテーブルにある手動のロクロを見つけた。「アレが陶芸の道具ね。やり方を教えて」
イシカワは、ササキのお父さんから習った陶芸の作り方をそのまま落ち得た。
まず、粘土を捏ねて、丸く棒状にし、ソレを円形にして重ねる。とてもシンブルだ。あとはソレをロクロを回してヘラや棒や手で回る粘土の形を整える。
アズサはとても喜んでいた。「ツバサくんの家庭教師だったのに、これじゃあ逆になっちゃわね」と笑いながら言った。イシカワもとても喜んだ。この村はただでさえ退屈だったのに水爆以来もっと退屈になった。このままアズサが陶芸に限らず熱中出来る趣味を見つかればいいと。
「ねえ、ツバサくん変わったね」
「何処が?」
「なんというか、悲しそうな目をしている気がする。何かあったの?お父さんの右の体外に」
イシカワはビックリした。アズサの前ではなるべく明るく振る舞っていたつもりだったが、彼女に見透かされていた。彼は言おうか迷った。アズサに怖がられっるのではないかと。でも、この際だから言うことにした。
イシカワは、遠征中に戦闘があって一人の青年を殺してしまったことを打ち明けた。しかも、彼が持っていた武器はスプレー缶を利用した粗末な火炎放射器。自分はその時、放射能防護服を着ていてしかも防火性も兼ね備えていたことを忘れていた事。正当防衛とは言え過剰な攻撃をしてしまった事、隣で同じ部隊の仲間のササキが死んでいたこと。それに「略奪者」グループの8歳の少年が処刑される時にかばえなかった事。
全て話し終えると、アズサは悲しそうな目をしていた。もしかしたらイシカワを怖がっているのかもしれない。
すると、アズサはイシカワを抱きしめた。そして、イシカワの頭をなでた。「大丈夫だよ」と耳元で囁いてくれた。アズサからはとてもいい匂いがした。しかも暖かく柔らかかった。イシカワはアズサについ、キスをしそうになった時に我に返った。「ごめん」するとアズサからキスをしてきた。キスが終わるとアズサが言った。「謝らなくていいよ」
イシカワは困惑した。女性からキスされるなんて初めてだったからだ。
「でも、僕たち、付き合ってないし」
「わたしと付き合いたい?」
イシカワは勇気を振り絞った。「うん、前から好きだった。小学生の時からずっと」
アズサは照れた顔をして、「なんとなく気づいていた」と言った。
再びキスをした。そのまま、アズサの胸を触った。急に猫のキコがうるさく泣き出したので部屋から出した。イシカワは再びアズサとキスをしてお互いに裸になった。アズサの身体はとてもキレイだったが、腕の周りと足元に複数の痣があった。下北沢からこの村まで瓦礫ををかき分けて歩いてきた事を物語っていた。そのまま、アズサを抱きしめた。
事が終わった。シミズさんからもらったコンドームが役になった。4年ぶりの事だったのでイシカワはかなり緊張したが、アズサはソレを知ってか知らずか気にしていないようだった。
イシカワはアズサと手を繋いで天井を眺めていた。イシカワは急にマリファナが吸いたくなったのでマリファナに火を付けた。「私にもタバコ吸わせて」とアズサ
「あれ、タバコ吸うの?」
「うん、たまにね。タバコ吸う娘は嫌?」
「いや、僕は気にしないけど、これマリファナにだよ」
「え?マリファナ?どうゆうこと?」
彼女に水爆以降、村では暗黙の了解でマリファナを吸うことが出来ることを教えた。「そうなんだ」と笑いながらアズサは言って、イシカワからマリファナを取ると吸った。
「あまり吸いすぎるとおかしくなるから今日はここまで」と言ってイシカワはマリファナを彼女から取り上げた
「ねえ、私達のした時の音聞こえたかな?」
「え、だって音楽流れてたし」と思ったて気付いた。もうレコードの片面が終わっていたのだ。
「たぶん、大丈夫だよ。家の親耳が悪いからさ」と嘘をついた。きっと両親に聴こえているはずだ。あとで、なんて冷やかされるかと考えると嫌になった。
キスをしてまた盛り上がり、もう一度セックスした。今度はもちろん音楽を流しながらだ。イシカワはこのままずっとアズサと一緒にセックスを続けたいと思った。2回目が終わると夕方だった。
「ねえ、アズサて呼び捨てで呼んでいい?」
「いいよ、ツバサ」
「ねえ、その胸にある痣はなに?」
「これ?撃たれた時のやつだよ」
「撃たれたの?大丈夫なの?」
「うん、防弾チョッキを着ていたからね。でも防弾チョッキ着ていても撃たれると痛いし、痣が残るんだ。人によってはショック死する人もいるみたいだよ」
するとアズサは痣をなでてくれた。
「ねえ、アズサには門限があるの?」
「あるわけ無いじゃん。私もう28歳だよ。なんで?」
「いや、ずっと一緒に居たいなと思ってさ」
二人はまたキスをした。だが、今日はアズサを家に帰すことにした。死んだと思っていた娘が家に帰って来たのだから。夜は少なくても彼女を両親に会わせてあげたい。
家を出て彼女の家まで手を繋いで歩いた。周りは日が沈んですっかり暗くなっていた。相変わらず日が沈んでも蒸し暑かった。「わたし、これからどうしよう?」とアズサが言った。
「どうゆうこと?」
「仕事よ。なにすればいいかしら?」
「最近、原水爆以来、この村にも高校ができたんだ。そこの教師になれば?それとも、僕のお嫁さんになって」とイシカワは調子をこいた。
「まだ、早いわよ。結婚なんて。そうゆうの女の子から嫌われるから止めた方がいいよ」と笑いながらアズサに言われた。
「ねえ、明日も会ってくれる?」
「うん、もちろん。私も会いたい。陶芸教えてね」
気づくともう彼女の実家の玄関前だった。軽くキスをしてお別れした。
それからイシカワとアズサは何処に行くにも手を繋いで歩いた。イシカワが休みの日は必ずアズサにあってお互いの家を行き来する仲になった。アズサの両親にも認められ一緒に御飯を食べ酒をのんだ。それに、アキモトとエリカカップルとダブルデートで漁船で海に出たこともあった。
それに、アズサは高校の英語教師になった。果たして、英語圏の国々がまだ存在するのかは疑問だが。アズサは仕事を得てとても元気そうだった。
遠征部隊の連中ときたら、イシカワを見るなりからかった。あのキタヤマ隊長ですら「このまえ、君と恋人が手を繋いでる所を見たよ。熱々だったね」とまで言った。マキタも「まるで高校生みたいにアツアツね」とからかい、シミズは「コンドームもっといるか?」と会う度に聞いてくる。この村で恐らく一番モテるであろうカトウですら「イシカワさんさんが羨ましいです」と言ってきた。ウソつけ。色んな女に手を出してるくせに。
精神科医のオオクボでさえも、「この前一緒に道を手を繋いで道を歩いているのを見ましたよ。とても幸せそうですね」とまで言われた。確かに、アズサと付き合い始めてから、特に一緒にいる時、一緒の布団で寝る時は悪夢を観なくなった。でも、まだたまにあの悪夢を見る。完璧には立ち直れていない。
でもイシカワは今まで生きていて今が一番幸せだ。最近、村の死者も減ってきているし。病人も減ってきている。いい兆候だ。このまま、幸せが続く物だと思っていた。
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