13章 Downward Spiral

 悪いことは続く。それは食卓での出来事だった。父がツナ缶のプルタブを開けようとプルタブの穴に中指を突っ込んで引っ張ろうととした時、突然中指がチギレた。そしてフローリングに落ちた。イシカワ含め母もリーも何が起こったのか分からなかった。

 あまりにも異常な光景だったからだ。父は全然痛そうにしてなかった。中指がチギレた事すら最初は気づかなかったくらいだ。

「お父さん、指が、中指がちぎれてる」母は無表情に感情なく言った。

 すると父親はやっと自分の中指がチギレてフローリングに落ちていることを知ってそのまま倒れてしまった。母親はもう捨てようと思っていたいちごジャムの空き瓶に父の中指を入れた。

 イシカワとリーと母親は病院に父をリアカーに乗せて連れて行った。

 医者の診断結果は被爆により右の手のひらが腐っているとの事だった。イシカワは特に父親の右腕に痣や皮膚の変色がなかったのになんでだと、医者に聞いた。すると、医者にも分からないと言われた。

 なにせ、資料が少なすぎる。遠征隊は図書館や大学跡地や書店跡地を見つけると小説から研究レポートまで回収して村の図書館に寄与していた。医療関係の学術書や、特に放射能の被害の研究レポートは必ず病院に送ったが、なにせ広島、長崎、ビキニ環礁の水爆実験、第5福竜丸、チェリノブイリ、東海村臨界事故、福島原発と過去の放射能が人体に与える影響被害に関してのデータが少ないのだ。なのでどうして良いかわからないという。

 父はスグに手術し、右の手のひらの関節を切断することになった。手術後、1日で目を覚まして元気そうな様子だった。

 イシカワは何か右腕に変わった様子はなかったのか?と聞いた。

「あの日、水爆以来、右の指先痒くて堪らなかった。そのうち、段々指先がの感覚が鈍くなた」と父は言った。

「なんで早く病院に行かなかったんだよ」とイシカワがいうと「どうせ、何も出来ないさ」と愚痴った。

 

 その後も、不幸は続く。

 アキモトの恋人、アキモト実家同棲中だったエリカの右足を切断することになった。最初ここに入植した際はなんとも無かったが、徐々に歩行困難になり、数ヶ月すると右足の膝のしたが紫に変色してきた。

 病院に行ったが、医者もどうして良いか分からなかったが、エリカさんは切断することに同意した。右の膝下の切断は1時間とかからなかった。あっという間だっった。

 それからしばらくして、クリハタ率いる科学技術省のエンジニアチームが、イシカワの父に義手を、エリカに義足を作りプレゼントした。

 父の義手は、木製で先端に2つの鉤爪状鉄がついていて、それが肩の肘の部分に取り付けてあるワイヤーと連動している。肘をを動かすとワイヤー引っ張られ先端の2つの鉤爪が開いたり閉じたりするものだ。それで物を掴めるようになっている。「どうだ!フック船長みたいでカッコいいだろう!」と自慢していた。本心なのか、自分を落ち着かせる為なのかはわからない。

 エリカさんも同様に木製の義足を喜んだ。外を歩いて散歩が出来ると楽しそうにイシカワに言った。

 最近は、死者数が落ち着いてきたようだ。村議会でも、医者の発表によると週間でピークは30人だったが最近は10人以下に減ってきてはいる。しかし村民、入植者問わず子供も大人も老人も男女も関係なく身体を切断するケースや体調不良を起こすケースは増えている。それに体調不良を訴える村民や入植者含め半分近く。

 このまま、死者の数が増えないことを祈るしかない。

 

 村民の死者数4人。入植者の死者数4人。

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