12章 独白
「水爆以来、あの飛んできた原型を留めない死体や、遠征中に見た黒焦げの死体、それに、昔よく言った横須賀の瓦礫と課した風景が、時々夢の中で出てき来ました。しかし、段々異常な状態慣れてきた時の事。私はある青年を撃ち殺してしまいました。相手が自作のスプレー缶を使った火炎放射器で襲ってきたからです。もちろん正当防衛です。だけど、その時私は放射能防護服を着ていたました。その防護服は耐火もありました。彼の頭の上半分が吹き飛ぶを、この目で見ました。まるでスローモーションの映像みたいに頭が膨れれて脳の肉片が地面にばらまきました。
本当に彼を殺す必要があったのかと思うときがあります。それに、同じ部対の隣にいたササキさんが死んだ事悲しいです。もしかしたら自分がもっと冷静なっていれば、救えたのかも知れないと思うととても苦しい気持ちになります。裁判で分かったことなのですが、彼の名前はヤマダという青年で年は私と同じ25歳です。彼は横浜でさまよっている所を『略奪者』グループに拾われて子分のように扱われていたそうです。
ヤマダを撃ち殺して以来、毎日彼が夢の中に出ます。あの時撃ち殺した時と同じ映像です。しかし、彼の顔は夢の中では私の顔になっています。もし、私が、この村に住んでいなかったら、彼ら略奪者達ののリーダーが言っていたように、同じような人から略奪を繰り返し殺し周り女性をレイプしていたと思うととても怖いです。
そんな私をみんな英雄扱いする。とても、気持ち悪い。私は相手がどんな人間でもあっても人を殺してしまったのに。あと、あの略奪者グループの8歳の少年オオタニ君が公衆の面前で絞首刑になった事。公開処刑の事、彼が絞首刑になってジタバタしながら15分かけて死んだ光景が頭から離れません。彼も夢に出てくることがたまにあります。もちろん、相手は極悪非道な連中だから殺すのも仕方ないと自分に言い聞かせますが、どうしても脳裏から離れません。マリファナをいくら吸っても、酒をいくら飲んでも彼らが夢に出てきます。どうしたらわすれられるか分かりません」
精神科医のオオクボはイシカワの独白中にカルテに色んな事を書いていた。
彼女は警察コンビが指揮する遠征部隊が戸塚で彼女を見つけて保護したのだ。この村で唯一の精神科医だ。
元々は横浜の病院で心療内科で医者として勤務していた。ちなみに心療内科と精神科医は違うらしい。だがこの世の中でそんな違いはもうどうでも良くなっていた
オオクボさんの後ろにノートにメモしている若い女性はキクチさんだ。彼女は、キタヤマ隊長率いるイシカワが所属する部隊が逗子で発見した女性だ。彼女は当時大学生で心理学を勉強していた。なのでこのままオオクボの後継者、或いは精神科医として育てるつもりだ。彼女を発見した時は、髪はボサボサでボロボロのワンピースを着て、穴だらけのスグにでも壊れそうなコンバースのスニーカーを履いていて、しかもかなり怯えていた。なので、キクチが元気そうに仕事をしているのを見るとイシカワも嬉しくなった。
あの水爆が破裂して以来、村民も入植者たちもかなりの精神的なダメージを負った。死体の片付けをした者。肉親を亡くした者。子供を失った者。恋人や旦那や妻を亡くしたもの。それに、希望を失った者。数々いる。なので村に1つしかない精神科医はキャパシティがパンパンだ。最近ではそれに対処するために、オオクボさんやキクチさんが、中学生から40代までの10名に心理学を教えて新たな精神科医を育てる週3回の勉強会まで行われている。
外科医も同じだ。中学生から40代までに30人に毎週3回は勉強会を開いて医者や看護師を増やす。今の医者だっていつ死ぬか分からないからだ。
勉強会に参加した者は兵役(警備兵や遠征部隊)が免除される為もあってか、応募人数が多い。
このセラピーをススメてくれたのは、キタヤマ隊長だ。遠征終わりに彼の家飲みに誘われた時に、彼にススメてもらった。彼もまたあの戦闘で心に傷を負った一人だった。
「お前も、苦しんでいるだろ?俺もそうだ。いつも、考えてしまう。もっと違うやり方があったのでは無いかと。もちろん、あの時は女性達を救うために仕方なかった。それにあの略奪者達を放ったらかしにすればもっと被害が出るだろう。だが、やっぱり、後味が悪い。昔、イラクに派兵された時に大量に自殺者が出た時に俺は何も出来なかった。上官は精神論の問題にすり替えた。南スーダンで戦闘したって言う話覚えてるだろ?あの時もそうだ。相手を撃ったの確認出来たが、相手が死んだかまでは分からなかった。でも、あの時ボーリング場でリボルバーをプルプルした両手で持ったあの男を本当に撃ち殺す必要があっただろうかと、いつも思う。俺は防弾のシールドを持っていたんだからな。そのシールドを使って相手を殴れば良かったという思いが頭から離れない。お前も相手を撃ち殺してから、何か選択肢があったとではという思いに取り憑かれてないか?」
イシカワは少し考えながら言った。「はい、自分がしたことは過剰防衛だったと思います。それに、ササキさんを救えたかもしれないのにと思います」
「いいからセラピーに行け。少しは楽になる。難しい問題だから人に話す事が出来ないだろ?とにかく行け。実は、ここだけの話しだ。マキタもカトウも行ってる。
あのギバとシミズのバカコンビも行っている。戦闘に巻き込まれると人を殺したか殺してないか関係なく心に傷を負うものだ。だからお前も行くんだ明日」
「明日ですか?」イシカワは急だったのでビックリした。
「勝手なことして悪いが、予約してある。朝の10時だ。寝坊するなよ」
イシカワは全てを話し終わった。すると、オオクボはカルテを見なが「典型的なPTSDね」
PTSDとは心的外傷ストレス障害の事だ。極端なストレスを感じると、例えば震災や戦争などで経験すると鬱や不安障害になるらしい。
「あなた、映画好きみたいだけど『ランボー』とか『タクシードライバー』を観たことある?」
「はい、何回か見ました」
「あの『ランボー』も『タクシードライバー』も、そのPTSDよ。アナタは水爆を経験し、しかも、戦闘中に仲間を亡くし、人を殺してしまった。その相手が例えどんな悪人でも心に後遺症だ残るのよ」
自分がランボーやタクシードライバーのトラビスのようになってしまうのかと思うと少し怖かった。
「でも、安心して。『タクシードライバー』のトラビスは本当はヴェトナム戦争に行ってなかった説があるのよ」
「なんですか、先生は映画マニアなんですか?」
「まあ、広く浅くよ。それに、アナタのやっている事、つまり遠征でどんだけの生存者を助けたか分かる?キクチさんもその一人でしょ?今では、キクチさんはとても元気になってるわよ。良い事の方に目を向けて見てはどうですか?」
キクチさんは微笑んで言った。
「あの時は本当にありがとうございます。今では仕事まで出来るくらい回復しました。それもイシカワさんのお陰です。あの時救助されなかったら、私は餓死するか略奪をしたか、自殺したかもしれません」
キクチさんはイシカワに向かってお辞儀した。
「なにか、趣味は無いの?」
「そうですね。ゲームと映画鑑賞と音楽鑑賞。まあ、水爆以来音楽以外は聞けないし、ゲームもテレビからボードゲームに変わりましたけどね。そうだ、最近陶芸をはじめました。その戦死したササキのお父さんから陶芸を習っています」
「そう、熱中できるものが出来てよかったわ。後は、打ち明けられる人ね」
「打ち明けられる人というと?」
「あの体験や、アナタのネガティブな感情を相談できる人の事よ。私達はあくまで精神科医だから。本当は、アナタが信頼できる友人や、恋人なんかが良いと思うわ」
イシカワは考えた。両親には心配かけたくない。友人のアキモト最近、恋人が右足が炎症を起こしているらしい(放射能の影響かも知れない)ので心配をかけたくない。それに、クリハタとリーは例の科学技術省で忙しくてあまり合う機会がない。遠征部隊員はどうだろう?しかし、その話をしたが為に余計トラウマを刺激する形になるのではないかと心配した。
「まあ、当分は私達が話し相手になるから安心して」
「はい、わかりました。そうだ、クスリとかはもらえるんですか?」
「それなんだけど、やっぱり物資が足りなくてね。今は本当に精神的に危険な人にしかあげられないの。本当に申し訳ありません」
自分より深刻な人がいるのか?それはそうだ。今まで自分の事しか考えてなかったけど、子供を失った親や、恋人や旦那や妻を失ったもの、それに、レイプされ虐待された者もこの村にはたくさんいるから仕方ない。
「いま、アナタの友達のクリハタさんが率いる科学技術省の人に頼んで抗うつ薬を作ってもらっているのよ。最近、入植者で薬剤師の人が入ったの覚えてます?」
多分それは警察コンビの遠征部隊が連れてきた生存者に違いない。少なくてもイシカワ知らなかった。
「だから、今は少し趣味に熱中して気を紛らせて。それから、本当はこんな事をススメるのは良くないんだけど、今は緊急事態だから、マリファナを吸って気分を落ち着かせるのも手よ。それからお酒もね。だけど、どちらもやり過ぎないで。身体も精神おかしくなるから」
診療室を出ると待合室に沢山の人が居た。見覚えのある者から、見覚えのない者まで。
病院を出て、イシカワは村の中心に行こうと思った。気分転換だ。歩いているとあの処刑台が見えた。急場しのぎで作った11台の処刑台。死体は一日そのまま吊るされていたとか。
小学生くらいの少年から老人まで、その死体に石を投げて遊んでいた連中がいるらしい。中にはその死体のデッサン画をしていた物が複数名いたとか。タダの趣味で描いているのか、それとも後世に、この野蛮な処刑方法を伝え二度とこの様な蛮行を繰り返してわならないという想いで描いているのか。理由は分からない。
やはり、死刑であろうと晒し者にするのは異常だ。この村は狂い始めている。
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