11章 裁判

 11月に突入した。8月の真夏ように、蒸し暑く。相変わらず時折突然ゲリラ豪雨が村を襲った。村民たち入植者達は慣れてきたようで、雨が降る度に村中に警報がなったが、屋内にわざわざ避難する者が少なくなってきた。


 これが裁判と言えるものなのか、イシカワには分からなかった。政治家であり村長であるキシベが裁判長なんて、三権分立に反してはいないかとそれに検事もいない、被告の弁護士フジカワも主張し、彼と同じ意見を持つものも多かったがヨシダは「今は緊急事態です」と繰り返すばかり。裁判を傍聴した事もないし、それによくよく考えたら2週間で裁判なんておかしい。いくら緊急事態だとしても逮捕?いや、捕虜になってから裁判を始めるにはもっと時間をかけても良いはずだ。裁判をしたこともなかったイシカワでもこの裁判はおかしいと思った。


 裁判は裁判員制度が採用された。その場でクジで栽培員が10人決まった。ぱっと見中年が多かった。男女比は男7に女3。一番上が70代のジイさん。一番若くて20代の青年だった。見たことのあるものから知らない者まで。

 まず、ナツキさんをはじめとした女性5人の原告の弁護人であるヨシダは彼ら略奪者グループ全員に死刑を請求した。

 これには村民や入植者達は驚いた。8歳の少年であるオオタニ君も含めての事なのかと。

「いや、待ってください。オオタニ君もですか?」被告の弁護士フジカワが言った。

「そうです。勿論です。それは後で事情を話します。フジカワさん原告たちの請求をお願いします」

 フジカワ弁護士は原告達に略奪者グループに、終身刑。オオタニ少年には少年法を適応により10歳以下なので刑罰を受けないと主張した。


 証言1、最初の被害者。ハセガワ、エンドウ、ナカガワ、ハラ。 

 まずは、ハセガワから始まり、エンドウ、ナカガワ、ハラからなるグループが「略奪者達」に襲われた時の事を証言した。その時、ハセガワさんの50人いたらしいが、横浜の路上で「略奪者達」に襲われた。いきなり先頭を歩いていた中年男性が銃声と共に、倒れた。それから、二人、三人、四人と銃声と共に倒れていった。

 最後尾にいたハセガワ、エンドウ、ナカガワ、ハラは、ビルの瓦礫の隙間に隠れた。すると、30人の「略奪者達」は特に男と中年女性を銃撃したり、金属バットで叩いたり、日本刀をで斬りつけた。そして、残った5人の若い女性をレイプして回ったらしい。

「その略奪者達がこの場に居たら指を指してください」そうすると全員彼ら略奪者達を指さした。」「その時、オオタニ少年は何をしていましたか?」とフジカワ弁護士が聞いた。

「いや、何をしていたかまでは分かりません。逃げるのに必死だたで。ただ、少年がいたとだけ記憶しています」とハセガワ、エンドウ、ナカガワ、ハラは似たような事を証言した。


 証言2、 ナツキさん含むボーリング場で発見した女性5人。オオタケ・カヨ、ヤマカワ・ナナ、シマダ・サワ、ヨシモト・エミ。下は15歳から上は29歳

 それぞれ横浜や、横須賀、鎌倉、藤沢で捕まった。

 略奪者達は女性たちを罠の道具に使い他の生存者を殺したり略奪したりするのを目撃。それと略奪者達から女性たちは毎日のようにレイプは虐待を全員から受けていたと証言した。

「ヨシモト・エミさんにお聞きします。あなたも、その虐待やレイプをされましたか?」

「はい、彼らに身体中を触られて、私の性器に入れられました。とても痛くていつも泣いてました。」

 エミさんはその場で泣き出した。裁判どころでは無かった。無理もない彼女はまだ15歳なのだから。心理カウンセラーのオオクボさんが付き添っていたが、彼女提案でドクターストップがかかった

 イシカワは聞いていて辛かった。15歳の少女がレイプされるなんて。聞いていると気持ち悪くなった。コイツラ全員殺すべきだったと。

 そして尋問はヤマギシ・ナツキさんへ

「8歳の少年。オオタニくんもですか?」と弁護士ヨシダが聞く全員うなずい。

 それに、オオタニ少年は楽しんで人を殺していたと証言した。

 イシカワは変だと思った。オオタニ少年は彼女たちのお世話係だと聞いていたからだ。だが、直接聞いたわけでもないし。それに、その時は彼女たちは混乱していたのかも知れない。

 反対尋問の際、フジカワ弁護士が女性達に聞いた。

「本当にこのオオタニ少年が人を殺す所を目撃したんですか?どこで、どうやってですか?」

「あらやる所です。横浜、横須賀、藤沢で。彼は手斧を持って、まず被害者の足を切りつけてから倒れた被害者を斧で頭を叩き割りました。笑いながらやっていました」

「彼に性的な虐待、レイプをされたのですか?」

「はい、オオタニにも性的なイタズラをされました。とても言いにくいのですが、性器にペットボトルの口を入れられたり。意味も無く殴られたり」とナツキが無表情で言った。

「ナツキさん、貴方が警察で証言した供述書によると、オオタニくんは人を殺した所を見たことがないし、あなた達のお世話係で、ご飯を運んだり、身体を吹く用の濡れタオルを渡したりする係だと書いていますが」

「もちろん、オオタニくんは最初は私達のお世話係でした。でも、環境の影響でしょうか。略奪者グループのマネをし始めました。なので、言い出せなかったのです。彼が更生するかも知れないと思いました。でも考えが変わりました。この世の中で更生など無理です。警察署では、真実を話せなかった事を申し訳なく思っています」

「ですが、警察の取り調べの際になぜ、それを言わなかったのですか?」

「異議あり。裁判長。フジカワさん。あなた、なんて失礼な人なんですか!被害女性を侮辱する言葉です。セカンドレイプと同じですよ!」とヨシダが言うとみんなが拍手した。

「みなさん、どうですか?前の政府では少年犯罪に関しては非常に甘かった。これを機会に改ませんか?この少年は、楽しんで人を殺すは、女性をレイプする。更生できると思いますか?どうですか?」とヨシダが言うとまたしても拍手の嵐になった。

 イシカワは驚いた。オオタニ少年が殺人を楽しみ女性たちにレイプまがいの性的イタズラと虐待をしていた事を。確かに、政府が崩壊して街は瓦礫とかしたら生きるためにそうなるかも知れない。しかし、それ以外にも怖かった事がある。8歳の少年を死刑にしろという主張に盛り上がっている傍聴人の多さだ。中にはオオタニ少年と同じくらいの子供や孫が居る人もいるはずなのに。


 証言3、キタヤマ隊長と率いる調達部隊員。

 藤沢駅周辺の道路でナツキさんを保護する際に、銃撃を受けて交戦。その時の状況。イシカワは青年を射殺した事。マキタが半壊したアパートからアサルトライフルで攻撃を受けてグレネードランチャーを打ち込み爆死させた事。拠点として使っていたボーリング場にスタングレネードを放り込みカトウとキタヤマがピストルで略奪者2人を射殺した事を各隊員が話した。

「イシカワさんに聞きたい事があります。アナタは任務中につまり、戦闘中にヤマダという青年にライターと防虫スプレーで作った簡易の火炎放射器で襲われたといいましたね」とフジカワ弁護士。

「はい、その通りです」

「過剰防衛だと思いませんか?アナタたち遠征部隊は外で活動する際は放射能用の防護服を着て活動すると聞きました。その防護服ですが、耐熱性も備えてなぜ、あなたは発砲する必要が有りましたか?」

「自分はそうは思いません。急に後ろにいて簡易の火炎放射器を持っていました。それに、銃撃戦の最中でした。正当防衛だと思っています」とイシカワは言ったが、本心は違った。あの時、もう少し冷静になって防火性も兼ねている事を思い出して、引き金を引かずに銃のストックで殴ればよかったと思うからだ。なぜ、本当の事が言えなかったのだろう。キタヤマ隊長や仲間達は正当防衛だとかばってくれるが、心の何処かであの時、冷静になっていれば違う選択肢があった違いないと今でも思う。

 それから話はマキタさんへ、アサルトライフルで攻撃してきたホシという略奪者になぜグレネードランチャーを使ったのか、過剰防衛ではないか?聞かれて「5階建ての狭い窓にいるアサルトライフルを持った敵に狙撃され、相手をアサルトライフルで狙い撃ちするのが困難で仕方なく使った」と主張した。

 そして、ボーリング場での出来事へ。

「キタヤマ隊長、そしてカトウさんに聞きたい。スタングレネードを使いましたね?」とフジカワ。

「はい、突入の際に使いました」

「その、スタングレネードというのは強い閃光と轟音で相手を強烈な難聴と頭痛と吐き気を催し、20秒は身体の自由が効かなくなる非殺傷兵器だと聞きました。間違い有りまえんか?」

「はい。間違えありません」

「なのに、なぜキタヤマ隊長とカトウさんは2人の略奪者。エガワさんとタカハシさんを射殺したのですか?」

「確かに、スタングレネードを使用すると相手を強烈な難聴と頭痛と吐き気を催し、20秒は身体の自由が効かなくなる非殺傷兵器です。しかし、ボーリング場の会場が広かった事。それに確実に自由が効かなくなるわけではありません。略奪者2名は銃をこちらに向けて来ました。なので私もカトウも撃たざるおえませんでした」

「異議あり!裁判長。フジカワ氏の質問は略奪者達の罪の責任転嫁にキタヤマ遠征部隊の粗探しをしているようにしか思えません。略奪者達から彼女たちを救った遠征部隊に対する侮辱です。許せまえん」とヨシダは言った。まさかイシカワが毛嫌いしていたヨシダにかばわれるとは自分が情けなくなった。


 証言4、略奪者達。11人。

「最初は、略奪をするつもりは無かった。警察官だった。治安を維持しようと勤めた。だが、次第にエスカレートしていった。生きていく為に」とリーダー格のカワイという40代の中年男は言った。

 彼ら略奪者達はあの日、カワイ、エガワ、タカハシ、ホシは横浜の戸塚の警察署で土曜日の休日にこなしていた。原水爆の警察署も被害を受けて崩壊した。瓦礫の中で助かった彼らは外界と連絡を取る為、警察署内の瓦礫の中から無線機とトランシーバーを発見したがどれも壊れていた。その変わりん警察がテロ対策用に政府が配置した89式アサルトライフルを2丁と弾丸とマガジンを複数発見したとか。

「最初は、どうしていいか分からなかった。無線は壊れているし、恐らく核攻撃を受けていると思った。その間、生存者を救助し自衛隊かアメリカ軍が救出に来るまで待つ事にした。治安維持の観点から銃は必要だと思った。」

 最初警官達は10名居た。戸塚周辺で生き残った生存者を保護していたそうだ。60人は保護したとか。

「本当に外は大変だった。回りの建物も警察署同様に瓦礫の山。焦げて完璧に木炭の様になっている大量の死体数々。生焼けで臓器が飛び出た遺体たち。助けようとした女性の腕を掴んだら腕の皮膚がベロリと剥がれてピンク色のした肉が露出した。次第に、警官仲間も放射能の影響か死んでいった。1週間経たずに生存者もだ気づくと40人まで減っていった。食料も瓦礫とかしたスーパーで食べれそうなインスタント食品を探し回る日々でした」

「なぜ、あなた達は略奪者達になったのですか?」とフジカワ弁護士が聞いた。

「あれは、小競り合いから始まりました」

 カワイが言うには、半壊したスーパーを見つけたそうだ。その頃生存者は40人。あそこに食べ物が大量にあると思い入って見ると。スーツ姿の5人の中年が既にそこを占領していたそうだ。相手は金属バットや鉄パイプ武装していた。カワイグループが食料を分けて欲しいと言うと拒否された。

何度も頼み込みんだがダメだった。カワイは有ることに気づいた。自分たちにはニューナンブ・リボルバーピストル2丁と89式アサルトライフル2丁を持っていることを、銃を彼らに向けて食料品を分けるように言った。しかしそのスーツの4人組は拒否した。「どうせ弾など入っていない」と一人スーツの男が鉄パイプで襲いかかって来た時にカワイは引き金を引いた。すると、仲間の警官たちも同じく無我夢中で引き金を引いたそうだ。そして、警官グループは何かが吹っ切れた。

「あの時に、自分たちが持っている力に気づいてしまった。それからは、しばらく食料が尽きるまで半壊したスーパーを拠点に、略奪を繰り返した。あなた達には村の住民には分からないでしょう。あなた達は外でどんな事が繰り広げられていたか。あなた達は運が良かった。食料も大量にあるし、銃器も沢山あるしインフラだって整ってる。私達は運が悪かった。そうするしか生きていけなかった。それから、近隣に生存者が少なくなると点滴と拠点を変えて最終的に藤沢のボーリング場を拠点にした。あそこはまだ生存者が多い。死んだものからも勿論。生きている者からも食料を略奪していった」「あなた達は生きる為にやったと言うことですね」とフジカワ弁護士。

「はい、そうです」

「証言によると、あなた達は生存者を見つけてはレイプし、その後撃ち殺した人もいたそうですね。ここで疑問なんですが、なぜあの5人の女性たちを生かして奴隷のように使っていいたのですか?」

「それは、彼女たちが健康で美人だったからです。他にレイプした女性は酷い火傷や怪我をしていました。なので、レイプした後に楽にしてやりました」

「では、なぜ女性を虐待し、レイプをし、罠の道具に使っったのですか?」

「最初は、レイプも虐待もしなかった。15歳のエミちゃんも自分の娘の様に扱いました。だが、次第にエスカレートいっていった。この世界で若い女性と共にしていて、しかも、この世を支配している全能感があった。理由にはなならないかもしれないが、全能感や多幸感で性欲をコントロール出来なくなっていた。それに、彼女たちを罠の道具にしたのは、とても都合が良かった。というのも、ボロボロの姿の女性が道の真中にいたら、こんな世の中でも放ったらかしに出来ないからで。生存者の男性も女性も警戒心を特には若い女性がちょうどいい。今では彼女たちに申し訳なく思います」

「最後にお聞きします。先程、女性達の証言にオオタニ少年が彼女たちに対して性的な虐待、及び略奪の際に笑いながら楽しそうに生存者達を殺したとあります。本当ですか?」

「違います。絶対に違います。オオタニくんには人殺しを手伝わせた事はありません。略奪の際に居た事はあっても彼には武器すら持たせなかった。それに女性たちには可愛がられていたし。オオタニくんには女性たちにご飯を運ぶ事しかさせてなかった。信じてください」

 反対尋問が行われた。ヨシダは容赦ないかった。

「カワイさんに、お聞きします。確かに外の世界はひどい状態。あらゆる村に来た生存者や遠征部隊から瓦礫と死体の山だと聞きました。あなたが出た行動も生きていく為に仕方なかったかもしれない。しかし、どうしても理解できない。なぜ女性達を虐待とレイプして裸にし首輪を付けたのですか?侮辱極まりない行為だと思いまえんか?」

「それは、あなた達の遠征部隊との銃撃戦で死んだホシの提案でした。ホシは私達の序列で言えば2番目の力を持つ男でした。警察時代の同僚でした。以前はそんなやつではありませんでした。ですが、彼も気が狂ってしまったのでしょう。彼女たちを裸にし犬の首輪をつけようと言ったのです。私はそこまでしなくても良いと思っていましたが、グループの指揮をあげる為に仕方なく黙認しました。それくらい私達グループは気が狂い初めていたのです」

 それから、略奪者グループのスギモト、ハマダ、シノダ、サカグチ、タケウチ、ワダ、コンドウ、ムラタ、ニシノ、が尋問と反対尋問が行われた。みんな、警察官グループと横浜、横須賀、藤沢で出会い仲間になって殺人、略奪、レイプ、女性5人を奴隷にし虐待やレイプしたことを証言した。そして、一貫して彼らはオオタニ少年には人殺しをさせてないし、奴隷として虐待やレイプをしていないといった。

 イシカワには本当のことは分からなかったが、略奪者達はオオタニ少年を全力で守っているような印象があった。だが、本当の事は分からなかった。この狂った世界は以前とは違う。8歳の少年だって人を殺す可能性もあれば虐待する可能性だってある。むしろ、8歳だからこそ虫を殺すように人を殺せるのかもしれない。

 オオタニ少年が証言台に立った。オオタニは緊張した面持ちだった。終始虚ろな目で村民達を見ていた。フジカワ弁護士の尋問が始まった。

「オオタニさん。あなた戸塚で略奪者グループに保護されたと証言されましたね。その時はどんな状態ですか?」

「僕は、朝起きたら住んでいたマンションが壊れていた。瓦礫をかき分けて出ると黒い色の雨が降っていて、町中に黒焦げになった死体が沢山あった。怖くてどうしていいか分からなかった。食べ物もないし、黒い色の雨を空のペットボトルに貯めて飲んだけど、口に含んだ瞬間に気持ち悪い味がしてその場で吐いた。それが4日間続いて、カワイさん達に拾われたんだ」

「彼らはなんていいましたか?」

「警官だって言ってた。だからこれで大丈夫だと思って安心した」

「オオタニくん。君は、人を殺したり女性に性的なイタズラをしたりしたという証言があるけど、そんな事をしたのかね?」

「僕はそんな事していません。確かにカワイさん達が人を殺すのを見たけど。生きるために仕方ない事だと言われたし。お姉ちゃんたちを殴ったことはない。食事を運んだり、身体を拭く用のアルコールとタオルを渡しただけです。それにお姉ちゃん達は僕には優しかった」


 ヨシダは反対し尋問を行った。

「オオタニくん。君はカワイ達に助けられて沢山の人殺しを見たのかな?」

「はい、沢山見ました」

「オオタニ君もそれを真似しようとは思わなかったの?」

「そんな事しようとは思いませんでした。それに、僕は見張りが担当だったし」

「見張りが担当だった?」

「はい」

「では、取り逃がした生存者を殺したのではないでしょうか?オオタニくん」

「だから、殺してないっよ」

「5人の女性は嘘を付くでしょうか?君はまだ8歳。善悪の区別が付いていなかったのでは?知らず知らずの間に人を殺して、女性に性的なイタズラをしていたのではないでしょうか?」

「異議あり!裁判長。もし本当に、オオタニ少年が善悪のつかない状態にあったとすれば、年齢も考慮し、精神鑑定をして刑法39条により心神喪失を主張します」とフジカワ弁護士が叫んだ。彼はきっとこの少年だけでも救いたいと思ったに違いない。

「裁判長。いいですか?確かにオオタニくんは刑法39条に適応するかもしれません。しかし、今は緊急事態ですよ。核攻撃を受けてみんなが精神をおかしくしています。村の住人も、村の外の生存者もです。そんな事を言ったら、この忌まわしき略奪者達は全て刑法39条に当てはまってしまう。それでもいいんですか?」とヨシダは力説すると会場内で拍手が起こった。

 裁判長のキシベはフジカワ弁護士の主張を却下した。オオタニ少年は人前に出て皆に注目され緊張しパニックを起こしているのか、それとも自分の置かれている立場がわからないのか。無表情だった。イシカワには分からなかった。この少年がもし本当に人を殺し周り、女性たちをレイプしていたとしたら果たしてこの少年をどうするべきか。たとえそれが環境のせいだとしても。ヨシダの主張のように処刑すべきなのだろうか。

 裁判は1日で終わった。異例の速さだ。裁判に詳しくわないいイシカワですら早すぎると思った。シミズは「こんなお粗末な裁判を見たことがない」と言っていた。色々と彼は裁判に詳しいらしいが理由はあえて聞かないことにした。

 2時間後、判決が出た。全員死刑。陪審員達の中でオオタニ少年の事をどうするか議論の的だったが、複数の陪審員の主張により全員死刑になる事が決まった。

「死刑の方法はどうするんだ?」とある村民が言った。

「薬物がいいのでは?」とある村民は言うと、すると違う村民は「ただでさえ村に薬品不足なのに死刑囚に使う余裕などない」と言った。確かにそうだ。最近、白血病や末期がんで死ぬ者が増えている。施し用のない村民や入植者に安楽死の薬を渡したほうがいいとイシカワは思った。

「皆さん、私に提案があります。絞首刑はいかがですか?医療品など彼れに使う必要はありません。それに、いくら弾丸があるからと言っても何時また有事が起こるか分かりません。弾丸を無駄には出来ません。なので、絞首刑が一番良いと思います。処刑台を作るのにそう時間は掛からないでしょう」とヨシダが言うと会場内で割れんばかりの拍手が起こった。

「出来るだけ早く処刑場を作り処刑を行いたいと思います」


 それから2日後、村の西にの端にある空き地に高さ5メートルの30センチの厚さの正方形の角材を使って作った処刑台が11個作られた。それは鳥居の様に長方形で上のフレームにロープが結んでありロープは高さ2メートルのところで輪っかになっていてその下に急場しのぎで作ったと一発で分かる様な背の高い1メートルの木製の台があった。一番右端の木製の台は他のに比べて1,5倍はある大きさだった。おそらくオオタニ少年のだろう。こんなお粗末な絞首刑台は西部劇でも見たことが無かった。建物まで作る時間は無いとの理由で処刑台は野ざらしだった。

 キタヤマ部隊の全員と警察遠征部隊の連中が呼ばれた。その他にも村長始めヨシダにフジカワ弁護士、それに被害者達。そして、野次馬までいた。ちゃんと建物を作らなかったせいだ。これでは公開処刑だ。これが文明と言えるだろうかとイシカワは愚痴った。キタヤマ隊長は何も答えなかった。彼も色々と思うことはあるらしい。

 警察官2人と20式アサルトライフルを持った警備兵2人と共に11人の略奪者達が処刑会場へ連れてこられた。外野はヤジを飛ばし、彼らに向かい石を投げる者もいた。警官は囚人達を台に乗せ首にロープを巻いた。イシカワはオオタニ少年に注目した。彼は泣いていた。裁判所ではあんなに冷静だったのに、ロープを首に巻かれてやっと死ぬ事を理解したようだった。正直見ていられなかった。それから、死刑執行人が33名現れた。皆頭に布袋に目の位置に穴が開いている。下は皆同じで格好で白い柔道着の様な服を着ていた。処刑をする際にロープの33本の内に10本が囚人が乗る台に括り付けてあって、33人の死刑執行人が一斉に引っ張って誰が囚人を殺したか分からなくする為だった。これは2日前の裁判の終わりに決まったことだ。住民から番号が書かれたくじ引き、次の日にそのナンバーが公民館で発表されリストに書かれた番号の33人がロープを引く事になった。もちろん死刑執行人は匿名だ。33人一斉にロープを引っ張った所で、台を引く感触で誰が引っ張ったのか本人には分かるのでは無いかとイシカワは思った。こんなの意味がない。どうせなら頭に一発、銃殺にした方が楽なんじゃないかと。

「最後に言いたいことはありますか?」とキシベ村長は言った。

「最後に言わせろ」と言ったのは略奪者達のリーダー格のカワイが言った。

「俺達は確かに酷いことをしてきた。だが、もしお前らがこの村の外で原水爆を経験していたらお前たちだって俺達みたいになるんだからな。自分たちだけ文明人を気取りやがった挙げ句に公開処刑かよ。それにオオタニまで殺して、見世物にしやがって。お前たちはオレたちと大差ない糞だ。恥をしれ」

 回りは沈黙に包まれた。彼の言っていることにも一理あると思ったも者がイシカワが思っていた以上に多かったようだ。

 「処刑開始」とキシベ村長の合図と共に33人の死刑執行人達がロープを引っ張った。囚人たちの乗っていた台が引っ張られて倒れ、囚人たち11名の身体が下に落ち、首で身体を支える形になった。殆どの者がジタバタと最後の足掻きのように身体を動かしていた。中に糞尿を漏らしている者もいた。そして、ひとり、またひとりとゆっくり動かなくなった。首をつられた状態で最期まで身体をジタバタしていたのはオオタニ少年だった。目からは大量の涙がこぼれ出て眼球は充血し糞尿を垂れ流していた。それは15分も続いた。

 それを見た被害者の女性の中には泣き崩れていた者もいた。おそらくオオタニ少年に愛憎入り交じる感情があったのだろうとイシカワ思った。

「きっと、ロープの長さと高さが足りなかったんだ」とキタヤマ隊長はつぶやいた。彼曰く、絞首刑の際は囚人の身長と体重を図り、即死させる為にロープと長さや、高さを計算しないとあの様に苦しみながら首の骨が折れても苦しみながら死ぬらしい。弾丸なんて腐るほどあるのにワザワザ絞首刑を選んだのはなぜなのか。もう、誰も殺したくは無かったが、オオタニくんの苦しむ15分間を見ていると今スグにでも自分のピストルで彼の頭を撃って楽にしてあげたいと思ったくらいだった。


 長い絞首刑が終わると、中に拍手をする者もいた。後ろを振り返ると複数の村民たちだった。顔をに見覚えのあるものが多数拍手していた。一番うしろで見ていた総長と愉快な仲間達も割れんばかりの拍手をしていた。この村の将来はだいじょうぶだろうか。心配でならない。


 捕虜、11名を処刑。

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