9章 戦闘
10月に突入した。相変わらず外は8月の夏のように蒸し暑かった。雨は豪雨のように突然降っては止んでを繰り返していた。村民や入植者の間では大気中の放射能が雨に大量に含まれているに違いないと考え雨が降る度にパニックになった。村も雨が降る度にスピーカーを使って屋内に避難してくださいと警報を鳴らした。
10月の第3週の月曜日10回目の遠征。
今日はの目的地は藤沢との駅周辺だ。湘南に出るのは初めてだった。いったいどうなっているのか検討もつかないが、きっと、いつも通りだろうとイシカワは思った。
1台につき4人が乗りハマー軍用車両1台、その後ろに続くのが軍用トラックが1台に2人乗る。
ハマー軍用車両の先端に三角状に突き出たバンパーを溶接士に点けてもらった。軍事用トラックにもだ。三角状のバンパーの先端に障害物が、乗用車くらいならブツかると右か左に流れるように吹き飛んでいく。
今日の先頭のハマー軍用車両を運転するのはイシカワだった。正直先頭のハマー軍用車両には乗りたくない。キタヤマ隊長曰く「ロケットランチャーで撃たれても大丈夫だ」とは言うが本当なのだるか?本当に着弾しても大丈夫なのだろうか?不安でならない。
後ろの席にササキとマキタが座っていた。そして助手席にキタヤマ隊長。
キタヤマ隊長は必ず先頭を走るハマー軍用車両の助手席に乗る。周りを見回し生存者が居ないかをチェックするのだ。キタヤマ隊長は必ず生存者を見つけるプロだ。実践で養われた経験からなのか、それとも才能なのか分からないが、何度も生存者を見つけている。アキモトの恋人、エリカも隠れていたにも関わらず、急に止まれと叫ぶと彼女に近づいていったのも彼だ。人の痕跡みたいな物が彼には見えるのだろうか。
それと先頭のハマー軍用車両を運転するのが嫌な理由はもう一つある。それは路上に放置してある死体を轢かなくては行けない事だ。中には不思議な事に道路の真ん中で突っ立ったまま皮膚が炭化した遺体もある。あれを引くと木炭を砕いたように粉状になるものもあれが、表面だけ炭化している轢くと茶色い肉片が散らばるものまである。最近は慣れたが、こんな事に慣れてしまった自分が嫌になる事がある。その時は、酒とマリファナで感情を麻痺させることにしている。
丁度、藤沢駅の前の国道を走っているときだった。前方にボロボロのワンピースを着た髪の長い若い女が立っていた。生存者だ。イシカワはブレーキを踏んで、「隊長、生存者です!」するとヘルメットをかぶり防護服を着てドアを開け外に出た。
その女性は10メートル先に立っていた。とても怯えていた。
明らかに武器を持っていなかったので、肩に銃をかけて、ゆっくりと近づく。ただでさえ黄色い防護服にアサルトライフルを持っている奴を警戒しない人間なんて居ないからだ。特にこの世界では。
それに、生存者が女性の場合は男を警戒する。女性であるマキタが最初に近づくのが慣習になっていた。
マキタは近づくと、女性は凄く怯えた表情をしていた。これもよくあることだ。
いくら顔が目元の部分が透明のシールドであっても近づかないとマキタが女性なのか分からない。なので、マキタは普段は薄化粧だが、遠征中は自分が女性だという事を相手に分かりやすくするために、ワザと化粧を濃くしている。
女性まで5メートルの所までマキタが近づいた。
イシカワはあることに気づいた。彼女の足元、くるぶしに何か光るものが見えた。キタヤマ隊長もその光るものに気付いた。「みんな銃を構えろ!」と叫ぶと銃声が聞こえた瞬間、イシカワは胸に殴られた以上の強い衝撃を走り後ろに倒れた。クソ、撃たれた。
イシカワの視界の中でキタヤマ隊長とマキタは10時の方向の倒壊仕掛けている5階建てのマンションの5階に向かって撃っていた。そうだ防弾ベストを着ていたんだ大丈夫だと自分に言い聞かせた。イシカワが立ち上がろうとしたその時、ガラスが割れるような音がして瞬間的に後ろを向いた。すると、ボロボロの格好をした青年がイシカワを見下ろすように立っていた。左手にジッポライター、右手に防虫スプレーを持って立っていた。左手のジッポライターを擦って火をつけると、右手のスプレー人差し指を押した。すると視界が真っ赤になった。炎だ。手作りの火炎放射器だ。イシカワはパニックに陥りHK416アサルトライフルの引き金を引いた。すると目の前の青年右の頬骨の下に小さな赤い穴が空き左の前頭部がゴム風船のように膨らみ弾けて中から赤い血とピンク色をしたミンチ状になった脳髄が飛び出した。
殺してしまった。でも今はそれどころではな無い。あのマンションに目をやると、マキタがHK416アサルトライフルの下部に取り付けてあるグレネードランチャーで狙いを定め、引き金を引いた。狙撃者が居る部屋にグレネード榴弾を撃ち込んだ。地響きのような音がしてから建物の中から真っ赤な肉片とチギレた右足が外へと飛び散って地面に肉片をばら撒いた。
銃声は止んだ。しばらく、永遠に感じられるほどの沈黙が続いた。
「みんな、大丈夫か?」とキタヤマ隊長が叫ぶとイシカワは我に返った。眼の前に自分が殺した青年が前頭部がパックリと大きな穴を開けて、イシカワを凝視していた。ショック状態なのか何も感じなかった。
ふと左の地面を見ると、防護服の顔をフェイスシールドが真っ赤になった人が倒れていた。
防護服の顔の部分を剥がすとそれはササキだった。彼はヘルメットをするのを忘れていたのだろう。ヘルメットをしていなかった。弾が後頭部から入って右の頬骨を貫通したのだろう。ササキの顔の右側半分の肉が外側へと飛び出ていた。顔の右側がグシャグシャだった。左顔にササキの面影が残っているが、イシカワが知っている彼の顔ではなかった。どうにかしなくちゃ。まだ生きてるかも知れない。イシカワは、シールドの内側にへばり付いたササキの顔の肉片をかき集め、イシカワが知るササキの顔に戻そうとした。いくらやっても、知っているササキの顔には戻らない。すると急に右肩を叩かれた。振り向くとギバがいた。
「もういい。やめるんだ。ササキは死んだ」防護服の透明なフェイスシールド越しにギバは悲しそうな目でイシカワを見ていた。
イシカワは、手をとめた。そうか、ササキは死んでしまったのか。そう思うと急に、また何も感じなくなった。
マキタは女性に近づいた彼女はうずくまり泣いていた。ごめんなさいと何度もさけびながら。彼女の踝を釣り糸で何重巻かれていてその先に壊れかけた電柱に括り付けてあった。
彼女の名前はナツキさん、聞き出した情報によると、これは生存者を捕まえる為の罠だった。
相手は15人ほど、年齢は8歳から上は50代からなる略奪者グループで銃を持っているものは4人、しかも聞く限りだと武器はアサルトライフル2丁とリボルバーピストル2丁と金属バット、斧、日本刀。グループはこの近くの奇跡的に残ったボーリング場をねぐらにしているらしい。それと、下は15歳から上は29歳までの女性を5人、性奴隷のように扱っているらしい。
キタヤマ隊長は震える彼女にジャケットを渡した。みんなを見渡した。
「どうする?やるか?残り13人だ。俺は行く。みんなはどうする?」
全員うなずいた。
車から防弾用の透明の防弾ガラスの盾を2つ持って、ボーリング場は戦闘のあった所から歩いて10分のところにあった。相手にバレないように、車は使わず徒歩で行った。マキタはナツキさんを守るために車で待機した。キタヤマ部隊が1時間戻ってこない時は村に帰り新しい部隊を呼ぶことにした。
外観は焦げていてボーリングピンの看板が真っ黒になっていたが中はキレイらしい。中は20レーンが有るほどの広さだとか。
外で防護服を脱いだ。戦闘の際、邪魔になるからだ。それに、皆が自分が被爆しているに違いないと思っている。いくら防護服を着ていようと、村だって相当な放射線量に違いない。キタヤマ隊長、カトウ、ギバ、イシカワ、シミズで行くことにした。扉をの前に立ち、カトウが透明の大きな防弾シールド左手に持ち、右手に銃の下部に小さなライトを付けたSig320ピストルを構えた。後ろの隊長も透明な防弾シールドを左手に、右手に銃の下部に小さなライトHKVP9ピストルを構えているキタヤマ隊長。その後ろにアサルトライフルを構えたギバ、イシカワ、シミズの順に銃を構えた。
ギバ、イシカワ、シミズはスタングレネードを持っている。使うのは初めてだ。
スタングレネードは非殺傷兵器だ。しかも、このスタングレネードは米軍の最近式の物で手のひらサイズで小さくいが、強烈な閃光と轟音で相手を襲う。これを食らった相手を20秒間、強い光により視界がボヤけ、轟音で耳鳴り、強烈な頭痛と吐き気を催し動けなくなる。
「いいな、絶対に女性は撃つなよ。わかったな。それと、奴らが銃を持っていても、撃つ素振りがなければ撃つなよ。わかったな?それとフルオート(連射)するなよ。女性に当たる可能性がある。全員セミオート(単発)で撃てよ」と小声でキタヤマ隊長は言った。アサルトライフルを持つみんなが、銃のセレクターをセミオート(単発)に変えた。
みんなうなずいた。キタヤマ隊長が右の拳を上げて、扉を開けた。イシカワとギバシミズがスタングレネードのピンを抜いて3つをボーリング場に放り込んだ。キタヤマ隊長は扉を閉じた。すると中から轟音としが鳴り響いた。「突入!」キタヤマ隊長の合図で、カトウとが先人を切った、それにみんな続いた。
男たちは中央で中に入ると頭を抑えながら皆が項垂れていた。建物右端に女性が4人居た。
中央付近に固まっていた13人の男達が耳鳴りと頭痛と吐き気で項垂れている。中には吐いていた者もいた。
その内の中のライフルを持った男が強烈な耳鳴りと頭痛と吐き気に逆らうようにアサルトライフルをこちらに向けてこちらに狙いを定めようとする。
「パン」「パン」「パン」と短い間隔で3発の銃声がボウリング場に響き渡った。
カトウはアサルトライフルを持っていた男をSig320ピストルで胸に3発撃ち込んだ。男は後ろに倒れて痙攣していたが、彼はまだ銃のグリップを手に触れようとした。するとカトウはSig P320ピストルでその男の頭を撃ち抜いた。
一番左にいた男がリボルバーピストルを持った。強烈な頭痛と口元に吐いた形跡のがあるその男は、身体の起きた異変に逆らいこちらに向かいプルプルした両腕で銃を握りこちらを狙ってきた。
「パン」と1発、乾いた銃声がボウリング場に響いた。
キタヤマ隊長がHKVP9ピストルでリボルバーピストルを持った男のの頭を撃ち抜いた。
他の者達は、スタングレネードのひどい頭痛と酷い耳鳴りでと吐き気、しかも、イシカワ達が重装備をしているのを見て諦めたのか震える両手を上げた。
「腹ばいになり、両手を後ろに回せ」全員の両手を結束バンドで両手を縛った。
「コイツラどうします?殺しますか?」とギバ。
「殺してやりたい所だが、一応捕虜だ。裁判にかける」と無表情でいうキタヤマ隊長。
イシカワは女性たちのいる。建物右端に行った。そこには女性たちが、しかも全員裸だった。犬用の首輪が付けられていて、踝と釣り糸で縛られていて、それが原因で血が出ている者も居た
戦死者1名。
入植者5名。
捕虜11名。
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