7章 凱旋パレード

イシカワが乗る軍用トラックがトンネルを抜けて村に入ると、そこはお祭り騒ぎだった。まるで、ワールドカップで優勝した時のような凱旋パレードと化していて道の端に村民が村のシンボルが印刷された旗を振って喜ぶかのように騒いでいた

 村の中心につくと、また仮設の壇上が作られていて、キシベ村長の有り難くも長く眠気を誘うようなクソ素晴らしい演説から始まり、議員のクソ素晴らしい演説で幕を降りた。イシカワいち早く家に帰って寝たかったが、町はお祭りモード。

 みんな隠し持っていたであろう、酒を惜しみなく飲み交わした。


 次の日、右腕が膨れ上がったハラさんは、医者達の診断で右腕を切断する緊急施術を行った。医学の知識のないイシカワからみても仕方ない事だと思った。ハラさん自体は元気そうだった。彼女もまた治療のしようがないと諦めていたのだろう。

 イシカワは4人から聞いた略奪者グループの話をキタヤマ隊長に報告した。

 その場には、イシカワ以外に、キタヤマ隊長、マキタ、ギバ、カトウ、シミズ、ササキがいた。

 キタヤマ隊長の推測だと恐らく、略奪者が警察署に侵入し銃を持っていったにかもしれない。30年ほど前に、テロ対策の一貫で警察署内に自衛隊が昔使っていた「89式アサルトライフル」が配備されたのだそうだ。それを使って略奪を繰り返しているに違いない。

「マジか、やっぱりな。まるでマッドマックスだ」とギバ。

「でも、こっちは村民たいして2倍くらいの銃があるんですよ。襲いに来た所でたいしたことないんじゃないか?」とササキが言った。確かに、ササキの言う通りだ。多少村民達に被害が出るかもしれないが、痛い目に遭うのは略奪者グループだろう。

「確かに、そうだな。軍人の悪い癖がでた。考え過ぎかもしれない。まあ、俺は元軍人じゃなくて元自衛官だけどな」というと、その場のみんなが笑った。

「でも、略奪者がいるのは事実でしょ?事実を隠すのは良くないわ」とマキタは言った。

 その通りだ。でも隠すわけにはいかない。事実、もしその略奪者たちが昨日、調べなかった米軍基地の隣の自衛隊基地で銃を見つけて村を襲ってきた人死が沢山出る。

 カトウが口を開いた。「そうだ、バリケードを起きましょうよ。トンネルの所に。それと山の上に壁を作りましょう。それで何人かの軍事訓練した警備兵を配置すれば、住民も安心しますよ」

「でも、山の上に壁作る必要あるのか?だって村の反対側の山肌は土も木も吹き飛んであれを登るのは難しいぞ」とシミズが呟いた。

「用心のためですよ。もし、略奪者達がフリークライミングとかボルダリングの選手だったら越えられますよ」

「あら、私が攻めてくるていうの?」とフリークライミングが趣味のマキタは笑いながら言うとその場が和んだ。

 それから、しばらくみんなで話し合った結果。

 1,略奪者グループが村の外に複数いる可能性がある事。

 2、バリケードをトンネル。

 3、山の上に壁を作る。

 4、海からも侵入される可能性があるので、海岸にバリケード及び船で監視すること。

 5、住民に銃の使い方を教えて交代で警備すること。

 6、生存者がいるかもしれないので、定期的に村の外に出て生存者、および物資を調達する為に遠征すること。

 7、武器庫を作ること。6箇所に分散して24時間体制で警備する。略奪者グループが侵入した際に1箇所の武器庫を抑えられたら終わりだからだ。

 イシカワはここで一つ不安に思うことがあった。果たして、住民全員に銃の扱い方を教えて大丈夫だろうか?違う方向へ暴力が発展しないかということだった。というのも、初めて銃を撃った時にイシカワはなんとも言えない全能感を味わったからだ。これが間違った方向へ行くと大変な自体になるのではないかと考えキタヤマ隊長に聞いてみた。

「確かに、その危険があるな。でも、緊急事態だしな。どうしていいか本当の所、自分にもよくわからん」

そのあとスグにキタヤマ隊長が村長と議員に掛け合い土曜日だというのに異例の緊急村議会が住民を交えて行われた。


 緊急村議会は、いつもの恒例のキシベの演説からスタートしたが、「お前の演説はいつも長くてツマラナイだよ!」とヤジが飛んで、住民たちはそれに拍手した。

みんな自分と同じことを思っていたんだなとイシカワは思った。

 キシベの演説はスグに終わった。

 キタヤマ隊長とカトウとナカガワが演壇に立つと、拍手の嵐だった。なぜ生存者の代表にナカガワを選んだかと言うと、彼女は原水爆以前結婚式の司会の仕事していたからだ。人前で話すのには慣れているから選んだ。

 キタヤマ隊長が遠征結果を、ナカガワは「略奪者」と遭遇した時の体験談を、そして、カトウが考案したバリケード計画を発表段取りだった。

 キタヤマ隊長は今回の遠征の結果を報告。非常食と水は単純計算で村民たちの半年分はある事、無線機が10台。トランシーバー1000台、放射能用防護服が100着。軍用トラック8台、ハマー軍用車両6台、武器、HK416アサルトライフル500丁、20式アサルトライフルが200丁、HK417バトルライフル100丁、Sig P320ピストル500丁、VP9ピストル200丁、ベレッタ92ピストルが100丁。M60マシンガン10丁、MP5サブマシンガン100丁、MP7サブマシンガン100丁、アタッチメント式のグレネードランチャーが50丁、それに弾丸が百万発。それに、弾倉が一万個、手榴弾が2000個、最新式のスタングレネードが5000個、C4プラスチック爆弾が1500個。防弾ベストが1000着。それを6箇所の武器庫に保存して有事のさいには使えるようにしておくこと

 そして、壇上に生存者を代表し、ナカガワさんが横浜、川崎で経験した「略奪者」の存在を語った。ナカガワさんが話し終えた。

 キタヤマ隊長は、今スグにトンネルの前に警備兵を置くべきこと、遠征部隊を送り、米軍、並び自衛隊基地にある、食料と武器と物資を、「略奪者」に取られないように、先回りして物資をかき集める事、そして、4人のような生存者達を保護することを目的に、遠征部隊を増やすことを提案した。

 みんなは困惑していた。不安だった。その「略奪者」がこの村に来たらどうしようと。それに、前回の町議会時から1週間も経たない内に、放射能の影響で10人死んだ。それと体調不良者が200人、それに自殺者が5人。人口が減っていった。このままだと村全体が壊れると噂が出回っていたのだ。 

 そして、カトウがバリケード計画を話そうとした時。

 「略奪者はここにも来るかもしれない」そう、急に声を荒げたのは議員のヨシダだった。

 「我々は食料と武器を手に入れました。ですが、略奪者の魔の手が迫っています。そこでですが、みんなが手を取り合いその略奪者を倒そうではありませんか!そして、この村を日本一、いや世界一の素晴らしい美しい村にしようじゃありませんか!」

 会場内は拍手喝采。キタヤマ隊長の時より拍手がすごかった。まるでビートルズが来日コンサートをしているみたいだった。

 「それと私からの提案ですが、山の天辺に壁を作りましょう。そして、道路と鉄道のトンネルにバリケードを作りましょう!」

 これは危ない。このヨシダという奴は危険だ。キタヤマ隊長や俺達の特にカトウくんが提案したバリケード計画案の功績を自分の出柄に持っていった。コイツは思っていた以上に恐ろしい奴だ。きっと、イシカワは、その内に何か恐ろしい事になるに違いないと考えた。

 周りを見渡してみた。すると総長とその仲間たちの立って大きな拍手をしていた。いつもふんぞり返って座っている総長が立って拍手までするなんてなんだか嫌な予感がした。


 沿岸警備隊はとりあえず漁師に20式アサルトライフルとピストルで武装してもらった。漁師と沿岸警備隊を兼任してもらった。20式アサルトライフルを使わせたのはHK416アサルトライフルより耐水性に優れた銃らしい。ピストルはVP9かSIGP320かベレッタ92の中で好きなものを選ばせた。

 次の日から、村民が一丸とカトウくんが提案して、ヨシダが盗んだバリケード計画が始まった。自然とみんなはバリケード計画を「ヨシダ計画」というようになった。アキモト、クリハタ、リーも駆り出されと木材はトンネルの向こうにある爆風で倒れた気を使った。

 まずはトンネルの穴の部分に木でゲートを作った。木で外枠を作り二重構造にしてその中にコンクリートを流し込んで補強した扉を入り口と出口に。一日で作り上げた。

 それとトンネルの入口の横に車両基地を作った。最初の遠征に参加した最年長のワタナベさんが管理することになった。70歳には遠征部隊に入るのは体力的に難しいとキタヤマ隊長が判断した。

そして山の天辺の方だが高さ3メートルのある木材で作った壁は作り上げるのに3ヶ月はかかった。

 入植者用に木造2階、20部屋の建て建物を北の空き地に作り始めた。それまでは、空き家や広い家やテントで我慢してもらった。後に2ヶ月程度で完成した。トイレと風呂は共同だったが今の技術力では仕方なかった。

 木造の武器庫は6箇所に建設。念のために壁と扉を二重扉にした。1日で出来上がった。


 その頃、キタヤマ隊長率いる部隊でイシカワは米軍基地へ行き船を操縦できる漁師の者6名に河川哨戒艇を操縦してもらい上ヶ丈山村へ船を持ち帰ってもらった。

イシカワ達はは隣にある、自衛隊基地に向かった。

部隊は二手に別れた。キタヤマ隊長率いる部隊は基地に。警官2人アマミヤとイヌカワが率いる部隊は共に生存者を探しに横浜の当たりに向かった。

 今後は遠征部隊は月曜日にキタヤマ部隊が、木曜日に警官部隊が遠征する事が決まった。これは、村の外の放射線量が高い可能性がある為、隊員の被爆を防ぐ為だった。村の外と村の中でそんなに放射能線量が違うかは疑問だった。なぜなら基地にあったガイガーカウンターは全て壊れていたからだ。しかし、爆心地に近いほうが線量は高い可能性があるのは専門家ではない者だって何となくわかった。それにイシカワは週に1度だけ働けばいいので、その部分に関しては運が良いと思った。

 イシカワは、なんでまた自分が行かなくちゃいけないんだと愚痴ると。キタヤマ隊長はまだ村民に銃の扱い方を教えていないからだと言った。たったアサルトライフルを30発、ピストル15発を撃っていないのに。そのへんの銃を撃った事ものない者とあまり変わりないじゃないかと反論しようとしたが怒られるのが嫌なので心に秘めておくことにした。それに、あの警官コンビ、悪い人間ではないだろうが頼りない。もし本当に戦闘になったらキタヤマ隊長がいたほうがいい。運が良かったのかも知れないと思うことにした。

 今回は防弾ベストと放射能の防護服を着ていた為、視界も悪く暑くて吐きそうになった。村の外へ遠征に行く際に防護服を着るように決めたからだ。だが、村だって汚染されているに違いない。意味が有るのかとイシカワは思った。

 自衛隊の基地も同じく誰もいなかった。今回はプラスチック爆弾を持っていたので簡単に鉄の扉を吹き飛ばした。

 中には、20式アサルトライフルが200丁、VP9が200丁、防弾ベストが500着、手榴弾1000個にC4プラスチック爆弾が100個、ロケットランチャーが50個、それに、大量の保存食が数え切れないほどあった。それと戦車を見つけた。

「うわー、凄い。戦車だ!これも持っていきますか?」と無邪気に騒ぐカトウ。

「戦車は運転が難しい。だから放っておけ」キタヤマ隊長はいった。

 戦車の他に、軽装甲機動車が4台あった。エンジンをかけてみたがやはり駄目だった。使えなかった。「これは使えない」と諦めた。

 倉庫で休憩した。もちろん、シミズさんが持ってきたマリファナをみんなで吸った。

「シミズさんはマリファナ以外に何か作ってないんですか?」とササキさんは訪ねた。

「昔はLSDも作ってたけど。あれ、結構作るの面倒くさいし、麻薬取締局に目を点けられる可能性が高いからやめたよ。ササキちゃんはLSDやったことあるの?」

「いや、ありませんよ。薬物は一度も手を出した事はありません。この前が初めてです」

「ササキちゃん、陶芸家だろ?芸術家なんだからLSDくらいヤラなきゃ駄目だよ。今度作ってやるよ」

 みんな、笑った。というのもササキはシミズ以上にクスリに手を出してそうな雰囲気を醸し出していたからだ。みんな、意外に思ったのだ。

「よく言わるですよね。お前、薬をキメてるだろって友人に。東京行くと必ず職質に遭うし」マリファナのせいもあってからかゲラゲラ笑った。

 そして話が変わって、ヨシダの話になった。カトウの発案なのに。キタヤマ隊長が言うならまだしもヨシダが横取りした事について、みんな怒っているらしい。

「アイツ、何様のつもりだ?カトウ君の案なのに」とイシカワが愚痴った。

「いいんですよ。僕が言った所で誰も聞いてくれなかったかもしれないし」とカトウくんは言った。

「いや、そんなことはないは。急にアイツ出てきやがって。村中でバリケード計画の事を「ヨシダ計画」て言っているみたいよ」とマキタさんは怒っていた。

「アイツは危険だ」とポツリ愚痴ったのはキタヤマ隊長。

「アイツのような政治家は自分の利益になるためなら何だってする。アフガン、イラクに攻撃を賛成した政治家達と同じ目と臭いがする。よく監視すべきだ」


 帰り道、ハマー軍用車両を運転していたカトウは道の中央で、手を広げている若い男性を見つけた。「自衛隊ですか?」と聞かれたので少し迷ったが、違います。と答えた。遠征して自衛隊の装備を持ち出して村に帰る所だと伝えると。私達も連れて行ってくださいと言った。私達って、この男しかいないじゃないか?と思っていると瓦礫に隠れていた母親らしき女性と、小さな少年がいた。3人共無傷だ。名前は父がハヤシ・リョウタ。エンジニアをしていた。母の方はハヤシ・マキコ学校教師、子供はハヤシ・ケンタ小学校2年生だ

 話を聞くと、横須賀在住で、原水爆が破裂した時に偶然運良く助かったのだと言う。カトウは親子を乗せることにした。

 ハヤシ夫婦は、上ヶ丈村につくなり泣き出した。まだ人が住める所があったのねと。


 その後2時間ほど経ってから、横浜から警官が率いる部隊が帰ってきた。

10人の男女が、高校生達だった。男4、女6だ。もともとは17人いたらしい。

 バトミントン部の大会の為に藤沢行くため横浜駅の地下で待ち合わせをしていた際に原水爆が爆発。建物が吹き飛び瓦礫に埋もれたが、なんとか瓦礫をかき分けて出てきたらしい。

 その後、略奪者に遭遇し、7人の男女が捕まったらしい。逃げ延びた10人は瓦礫の中を根城にして隠れながら暮らしていた。コンビニ跡地から食べれそうな物を食べて生活していたとか。

 この高校生がいう略奪者グループは4WDを3台乗り回しており人数は分からないがアーチェリーやボーガンを武器にしていたらしい。

 前聞いた略奪者グループはと違う。略奪者グループは複数いるに違いない。

 

 村民10死亡、自殺者5名。

 入植者、13名。

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