3章 片付け

 その後、土砂降りの暗い雨は3日も降り注いだ。

 雨が止むと空はまるで、あの分厚く暗黒な雲など存在などしなかったかのように、真っ青だったが、村中に腐敗臭が漂っていた。

 クリハタの実家は大丈夫だった。家の裏側の屋根に飛んできた建物の柱の破片が突き刺さっていたが、両親も、畜舎は無傷、牛、豚、鶏も、アクリル板張りの温室も大丈夫みたいだった。

 アキモトの実家も大丈夫だった。あのデカイ図体をした両親はピンピンしていた。イシカワのオヤジがアキモトのお父さんに無線を見せてもらったが、やはりデジタルの物で駄目だった。しかし、倉庫に、壊れた無線機を2台見つけたのでイシカワの父とアキモトの父親はそれを持ち帰り、使える部品を探して無線機を治すことに集中した。

 アキモトの父はかつて貨物船で通信士をやっていたことがあった事もあり、無線には詳しかった。しかも、英語も話せるらしい。これなら海外とも連絡が取れる。希望が湧いてきた。

 電気は相変わらず復旧しておらず各々の家庭が持つ自家発電機を使ってどうにか家の明かりをつけた。村中がプロパンガスだった為にガスに関しては大丈夫だったが、熱線に耐えられずにでプロパンガスが破裂爆発して吹き飛んだ家が5家あり10人が死亡した。水に関しては上ヶ丈山の標高400メートルの位置にある浄水場があり屋根のついた屋内にあり建物の破損もなかった事から、飲んでも問題ない」と村長のキシベは言っていたが、あの水は山の湧き水を利用していた為、誰も信用しなかった。


 まず、イシカワとアキモトとクリハタとリーも含め生き残った村民が男女年齢関係なく、したことは、村に降り注いだ瓦礫や死体を片付ける事から始めた。

 子供と身体の自由が効かない老人、それに怪我人は免除された。

 村はひどい有様だった。人の形状を留めないの遺体は少なくても1000体以上あった。飛んできた遺体は3日間降り注いだ黒い雨を吸って大きく膨れ上がっていた。飛んできた死体に衝突して死んだ村民もいた。それはもうショックだった。話したこともない名前も知らないが顔を見かけた事のあるその男の死体は、飛んできた死体がブツカッた衝撃で身体が真っ二つになり、中から内蔵が飛び出ていた。

 中には飛んできた死体にぶつかり身体が結合してしまった死体もあった。いくら剥がそうとしても剥がれなかった遺体まであった。

 他にも、死体が2階建ての建物の屋根を突き破り1階にいた中年男性に直撃し死亡した者や、建物の瓦礫の下敷きになって死んだ者。家に車が飛んできて衝突して爆発して死んだ者。木が飛んできた死んだ者。

 爆風の衝撃で崖崩れが起きて5つ民家がえじきになり、5家族が全員死亡した。爆風がトンネルを通り抜け村に侵入し、トンネル周辺に100メートルの民家が10棟が全壊、又は半壊して16人の死者が出た。

 あの時に外にいて熱線の被害に遭い大火傷を負って皮膚が真っ赤になって死んだものが40人。5名が熱線の影響で失明。年齢性別問わず、飛んできた物が衝突した事が原因で死んだ少なくても150人以上いた。それに加えアノ轟音で鼓膜が破れた者が20人。怪我人400人近くは。中には、破片で足が吹き飛んだ老人もいた。

 

 イシカワはクリハタと一緒に遺体回収をした。二人一組がですることが決まったからだ。代わり番こでリヤカーを引いた。村中の車やバイクがデジタル基盤を使っていた為に動かなかった。なのでリヤカーを使うしか無い。

 イシカワは思った。なんでこの村だけ奇跡的に助かったのだろうと?それに他の街も難を逃れた所はあるのだろうか?クリハタに聞くことにした。

 クリハタの推測によるとアレは恐らく原子爆弾じゃなくて水爆だ。広島型の原爆の1000倍はあると聞いたことがあるらしい。

「もちろん、原爆が何発か東京に落ちた可能性もあるけど」

「なんでこの村だけ助かったんだ?」

「たぶん、爆心地が仮に東京だとしたら、遠かったし。それにあの山だよ。上ヶ丈山が衝撃を吸収したんだと思う。まあ推測だけどね」

クリハタが言うには上ヶ丈山は火山岩尖(かざんがんせん)というタイプの山らしい。この種類の山はマグマが固まって丈夫な岩になった物らしい。爆心地から遠かった事と、頑丈で村の外側の斜面も角度が30度くらいで爆風が運良く流れていった事も重なって助かったのではないかと言っていた。

「どこが撃ってきたと思う?あの水爆だか原爆を?」

「さあね、北朝鮮かも、中国かも知れないし、ロシアかも、分からない。そうだ相互確証破壊て知ってる?」

 クリハタが言うには「相互確証破壊」は、例えば、ロシアが核ミサイルを発射する。すると、アメリカが事前に察知して、或いはアメリカ国内でミサイルが着弾すると自動的にアメリカはロシアに核ミサイルを打ち込むシステムらしい。そういえばイシカワはキューブリックの映画「博士の異常な愛情」でそんな事を言っていたのを思い出した。

 そうするとアメリカはロシアと同盟国にも核ミサイルを撃ち込む。ロシアもアメリカの同盟国に打ち込む。それが連鎖的に起きたのだろうと。

「そういえば、最近、またアメリカから、迎撃ミサイルを買ったてニュースになっていたな。やっぱりアメリカから買わされたタダのオモチャだったのか」

「断定はできないけど、多分そうだよ。それか迎撃ミサイルでも防げないほどのミサイルが飛んできたかも知れないけど」

「さすが美しい国だな。コロナの時なんてロクにに保証もしないで、会社も潰れて自殺者を大量にだして、国がしてくれたのは、はした金を一回とアホノマスクを2回プレゼントしてくれただけだもんな。ほんと素晴らしい美しい国だよ」

 イシカワは急に感情的になった。というのも、コロナの時、イシカワを可愛がってくれた大学の0Bの友人が勤めていた会社倒産し無職になり生活保護を求めても窓口に行ったが「君はまだ若い」という理由で突き返されて、挙句の果てには自殺した事を急に思い出したからだ。

「まあ、少し冷静になれ、きっと助かった自衛隊か米軍か、国連か他の軍隊が来て助けてくれるさ。頑張ろうよ」

 クリハタはイシカワが絶望気味になったり感情的になったのを感じ取ったのだろう。

 クリハタはいつもイシカワがネガティブな事を言うと、助言したり励ましてくれる。本当にいい奴だ。

「なあ、放射能だけど、どう思う?ヤバいよな?」

「うん、ヤバイと思う。これからきっと少なくても半分は死んでいくよ。ただ、水爆だった場合は原爆に比べると放射能が少ない」

 クリハタの説明によると、仮にアレが水爆だった場合、原爆に比べると放射能汚染が低いらしい。ただし、被爆する可能性は充分にあると言った。「もちろん、専門家じゃないからなんとも言えない」さすがにクリハタもそれに関しては絶望していたのだろう。こんな悲しそうな目をしたクリハタを見たことが無かったのでイシカワは不安になった。



 遺体を回収するにはコツがあった。舗装した道路に衝突した遺体は特に。まず、遺体に手を合わせる。イシカワは無神論者だったが、あまりに不憫でならなかったのでつい手を合わせお辞儀する。斧で遺体を4分割にする。シャベルでアスファルトへばり付いた遺体を引き剥がす。3日間も黒い雨に曝されていて水分を吸った遺体の断片は思っていた以上に重たかった。それをリヤカーが一杯になるまでやって死体置場へ持っていく。

 それと、財布を確認する。お金を盗むためではない。お金なんて今ではタダの紙屑だから。これは村議会で住民たちと決めたルールだ。誰の遺体なのかを確認する為だ。遺族(遺族が生きていればの話だが)為にだ。それと死者対しての敬意も込めて、復興した暁には石碑に名前を掘るつもりらしい。

 大半が焼けただれていて財布も同じく炭化していた。だが、たまに財布が無事な場合があった。イシカワが見つけた物だと、免許証、マイナンバーカード、健康保険証、社員証、名刺などだ。距離的に近いものだと、川崎、横浜、横須賀の物があった。遠いものだと、新宿、渋谷、港区、杉並、中野。でも殆どが遺体の身分証は焼き爛れて特定には至らなかった。

 恐らく、東京周辺は壊滅状態なのだろうと思った。上京した時に出来た友人たち。元恋人ヨーコ、彼女に新しい恋人が出来たのでフラれたが。それにこの村から離れ上京していった友人たちに、それにイシカワの初恋相手のアズサさんも死んだに違いない。

 

 村にあった漁船はアナログな構造だった為に動いた。しかし、海に目をやると、死体が溢れ数えるのが嫌になるくらい湾を埋め尽くしていた。遺体はの殆どは黒焦げていて海に浸かっていたせいもあり膨れ上がり真っ黒に炭化した皮膚からピンク色や茶色や赤色が節々から飛び出て顔を出していた。漁船はのスクリューに死体が肉片が絡まって漁船は意味をなさなかった。観光客用の手こぎボートを使って死体を回収した。しかも、地元の漁師がいくらかき集めても、次の日にはまた大量の死体が流れ着いた。1ヶ月間は死体が流れ着いた。

 村民達は死体集めを始めた当初は、その人間の形状の跡形もない遺体を見ては、吐いて汚物を路面や地面に吐き出したが、1週間もすれば、みんな慣れ始めていた。死体を見ても何も感じなくなっていた。まるで、遺体が昔からその辺に転がっているのが日常的な事、「普通の生活の一部」だと勘違いするくらいだった。

 村の東の、誰も使っっていない農場があった。そこに村民たちはシャベルを手に取り交代して穴を掘った。ショベルカーを使えば簡単だが、デジタル制御のショベルカーしか村には無かった。村民が100名。3交代で24時間体制で直径にして直径5メートル深さ3メートルの穴を50個は掘り終わるまで5日はかかった。

 そこに1000体以上の遺体を放り込み、燃やした。神社のの神主と寺の坊主がお経を上げながら供養した。果たして、こんな不条理な形で死んでいった死者たちが成仏出来るだろうかと、幽霊もあの世も宗教も信じないイシカワですらそう思った。


 今週の上ヶ丈山村の死者数、234人。

 村に降り注いだ死体1000体以上

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