2章 ブラック・レイン

 イシカワ、両親、アキモト、クリハタ、リーで議論を重ねた。その結果、雨が止むまで、実家から外に出ない事に結論が至った。

 電気は通っていないようだ。ガスはプロパンガスだったので使えた。水道も使える。色も普通の透明だ。貯水池及び浄水場は上ヶ丈山の標高400メートルの位置にある。汚染している可能性があるので誰も飲みたがらなかった。

 イシカワ達は家の部屋中点検して回った。雨漏りがないかそれと、使える物がないか。雨漏りの方は心配なかったが、割れた窓ガラスから黒い雨が侵入していた。なので、父の趣味の日曜大工で使っている自称工場から青色のビニールシートを持ってきて、窓を塞いだ。

 飼い猫の「キコがいないと」母親が泣き叫ぶので皆でキコを探した。すると、母の部屋の押し入れの奥に隠れていた。イシカワがキコに触れようとすると、キコは珍しく威嚇してきた。危うく引っかかれそうになった。恐らく相当怖かったのだろう。イシカワでもアレが本当に核攻撃なのかする分からないのに、猫からすれば揺れと熱と轟音でおかしくなるのも当然だ。キコが落ち着くまで、しばらく放っておくことにした。母にキコは無事だと伝えると安心した表情になった 

 使えそうな物は懐中電灯と、電子タバコする前にイシカワと、父親が持っていたジッポライターに100円ライター。それに防災道具一式。非常食、コンビーフやツナやサバやトマトの缶詰に大量のイチゴジャム。

 イシカワは思った。外部と連絡を取らなければならない。それに今、この国で、イヤ世界で何が起きているのかを知らなくてはいけない。何が起こっているとか分からなければ対処も出来ない。

 イシカワが持っていた歴代の3台のMacBookPro、iPad、iPhone、すべて使えない。電源すら入らない。あんなに無理して高い金払って買ったMacBookProが一台も使えないなんてと怒りが湧いてきた。父親の使っているiMacもKindleも同じく電源すら入らない。リーが使っているSurfaceも同じく電源すら入らない。それに両親とアキモト、クリハタ、リーのスマフォも同じく使えない。クリハタが持っているスマートウォッチもアキモトが持っているGショックもだ。だが、イシカワが持っていたSwatchの黒い腕時計だけは動いていた。テレビも何もかもデジタル機器はすべて使えなかった。すべて電源すら入らなかった。ラジオをつけたがノイズが入るばかりでどこも番組が聞けなかった。固定電話も使えなかった。

「デジタルの物は使えないよ。昔、聞いたことがある。核爆弾が爆発すると、その強力な電磁波で、デジタル機器は駄目になる。アナログの物も駄目になる奴があるらしい」と、アキモトは言った。彼はそれを「ディスカバリーチャンネル」で見たらしい。さすが、ケーブルテレビ中毒だとイシカワは感心した。


 イシカワの家から、クリハタの家まで国道を挟んで40メートルほど。

 クリハタは両親が心配でたまらなかった。その時、リーが思いついた。懐中電灯の光でクリハタの家光を当て、クリハタの家がそれに気付いて、クリハタ家側から光が来れば少なくても生きている証拠だと言ったのだ。

 流石リーだと思った。イシカワは彼をいち早く養子に迎えて家の家長にすべきだと。

 懐中電灯を取り出し、クリハタは窓ガラスから家に向かって光を、モールス信号のように(みんなモールス信号は知らない)点滅して家を照らした。全く反応がない。クリハタの実家は、イシカワの家から見る限り無傷そうだが、アノ時クリハタの両親はたまたま外にいて、飛んできた障害物や死体に当たり死んだのかも知れないと、その場にいたみんなが思った。

 それから20分経過した。すると、弱々しいがクリハタ家の二階の窓ガラスからこちらに向かって、点滅した光が見えた。

 クリハタは安心した。少なくても両親は生きていると。

 みんな喜んだ。他にも生きている者がいる。それだけで嬉しかった。イシカワは急にアキモトの事が心配になった。アキモトも両親の事が心配でたまらないはずだ。

「アキモト、お前の所もきっと、大丈夫だよ」とイシカワが言った。

「知ってるよ。お前だって知ってるだろ家の両親は?アイツラだったらハルクだって素手で倒せるくらいの奴らだ。こんなんでくたばるはずがない。アイツラ200年は生きるよ」

 アキモトの両親は父も母もアキモトに似て図体がデカイ。アキモト以上にデカイ。シュワルツェネッガーかスタローンかマ・ドンソクのように筋肉がムキムキだ。それに村の祭りで毎年行われている「腕相撲大会」では65歳にも関わらず誰も勝てないくらい身体は強い。

 アキモトは笑いながら言ってはいたが、完璧には感情を隠しきれてはいなく、目元が不安気だった。

 急に父親が思い出したように母以外のイシカワを含め4人を呼んだ。自称父の工場だ。その工場は広さは十畳ほどで、壁にハンマー、ノコギリ、ドリル、チェーンソー、ナタなどの器具ががまるで、10代の少年少女達が好きな、ロックスター、ラッパー、アイドルのポスターを貼るように建に替かけてあった。

 父は、部屋の隅にある布のシートを掴むとシートを放り投げた。そこには赤い色をした、恐らく金属の長方形の1メートルはある物があった。

「これは、自家発電機だ。実は、母さんには内緒で買っただけどな」

 父が説明によると、この発電機は最新式で灯油でもガソリンでも動くし、ソーラパネルにつなげる事も出来るハイブリット発電機だとか。父は新しいオモチャを自慢するすように言った。

「灯油が切れたら使えないじゃん。それにソーラーパネルなんてないじゃないか」とイシカワが言うと、父は反対側の壁を指差した。そこには布に包まれた大きな長方形の、大きさにして縦3メートル、横1メートルはあるものだった。

 一番近くにいるリーにその布を取るように命じると、そこには紫色に輝くソーラパネルがあった。

「これはな、温室用に使おうと思って買ったんだ。まあ、母さんに内緒で買ったけど、今なら許してくれるだろう」

 父は元々、電気技師だった。横須賀の工業高校の電気科を卒業後、上京し電気技師として働いていた。そこで母と出会い結婚したのだが、お爺ちゃんが病気になり、農家を継ぐためにこの家に戻ってきたのだ。

「それにだ、俺はアマチュア無線1級を持っている。電源が入れば無線が使える。誰かに助けを呼べる」

 そういえば父はハム無線機を持っていた。趣味だが時々、自称工場に行き無線で無線仲間と話して遊んでいるのをよく見かける。

 しかも最近、昔使っていた無線機が壊れて、新しいのを母に黙って高い無線機を買ったことで母がヒステリックに怒っていた事を思い出した。もしかしたら自分達は助かるかも。

 父は、発電機を家に配線するのをイシカワ達に手伝わせた。父が配線を終えると、部屋中の照明が一斉に光りだした。

 父はもちろん、母もクリハタもアキモトもリーも、もちろんイシカワも喜んだ。

 もしかして、救助隊が来るかもしれない。

 父は自称工場でハム無線をいじった。すると自称工場から「クソ!」とデカイ声が家中に響き渡った。

 イシカワとアキモトは父の自称工場へ行った「どうしたオヤジ」

「コイツも、駄目だ使えない」

 父が言うにはこの無線機、デジタルの物らしい。無線機にはデジタルとアナログがあって、父が新しく買ったのはデジタルのハム無線だったらしい。

「古いアナログの無線機は捨てたの?」とイシカワが聞くと、まだ残してあるらしい。だが、修理が必要だ。修理はたぶんできる。部品さえアレばな。と父は悲しそうに言った。

「もしかして、家にあるかも」とアキモトは言った。というのもアキモトの両親は漁師なので、無線が家にあるとの事だ。その無線が、デジタルなのかアナログなのかは分からないが。

「よし、雨がおさまったアキモトさんの家に行こう」父は希望を見出したのだろう。急に笑顔になった。

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