Day12 緊急会議
たどり着いたのは大きな机に椅子が並べられた会議室だった。部屋に入ると各々椅子に座ったり壁に寄りかかっていたりと自由なスタイルをとる。
魔王は奥の席に座った。その後ろに給仕の服を着た数名が控えており、その中にはジャンヌもいた。真緒はこれと言って話が出来る人間がいないことを気まずく思ってジャンヌのそば――魔王の方による。
「では、これより緊急会議を行います」
魔王のそばに控えていたローブを着た小柄なリザードマンが何かしらの書簡を広げながら読み上げる。
「報告によれば、辺境の村が襲われたとのこと。そして、村の住民の数名が人質に取られている模様」
進行役のリザードマンの報告に周りがざわつく。
「人間とにらみ合いをしている現状では、村が襲われたなんてことこれまでもあっただろう。そして…住民が帰ってこなかったこともな」
会議室の中、誰があげた声かは判断できなかった。しかし、言葉の最後には明確な憎悪がにじむ。
その声を皮切りに室内は複数の声により騒々しくなる。
「宣戦布告だ」
声を張ったわけでもない魔王の声が部屋によく響いた。瞬間、会議室は静まり返る。
進行役は一度咳払いをした。
「捕らえた魔族をスタールポルカに存在する闘技場で見世物にしようとしているとの情報が回ってきたのです。攫われた住民は戦闘に秀でた個体ではないにも関わらず、です」
「我々への宣戦布告、そして罠……」
誰かのつぶやきに敵意をむき出した唸り声が混じる。すぐにまた室内は喧噪に包まれた。
魔王の方も何かを考えるように黙り込んでいる。
次第にざわつきは収まっていき、魔王へ視線が集まる。
「直近で勇者の召喚を確認している。しかも複数人だ」
魔王の言葉に緊張が走った。
「……この挑発にのるかどうか、決めるにしてもいまだ情報が少なすぎる。各員情報の収集を行い報告せよ。闘技場の方はどれほどで動く予測だ?」
「手に入れた情報ですと一月ほどです。しかし、向こうに握らされた情報となると……」
「今はそれで構わない、相手の出方をうかがっていてくれ。決定は二周期後とする」
魔王が椅子から立ち上がり決定を通達する。それに従って会場内はまた騒がしくなる。
会場を出ていくもの、その場で周りと相談を始めるもの、多くの群れの移動と停滞により会場内には流れが出来る。
「あっ、ちょっと」
魔王の集団から少し離れたところにいた真緒は移動の流れに押し流される。抵抗をしようとしたが体格のいい魔族には真緒など見えてもいない同然だったのだろう、そのまま気が付けば会議場の外にいた
扉は開放されているため室内に戻ることはできるがこれ以上自分がそこにいても何の情報も得られないだろうし、なにより居心地の悪さによって真緒は会議場には戻らなかった。
かといって真緒が行くべき場所も、行きたい場所もないため結局与えられた部屋に帰るくらいしかやることもないのでおのずと足の向く方向は決まっていく。
「……だい……きっと」
会議場と自室の中間くらいまで歩いてきたところで真緒の耳にかすかな話声が聞こえてきた。この城には多くの魔族がいるために声が聞こえること自体は不思議ではないし特に気に留めることでもないのだがその声色に嗚咽とともに不安がにじみ出ているとなると少し気になってしまい音の下方へ近づき覗き込んだ。
「大丈夫、大丈夫だ。魔王様ならきっと助けてくださる」
そこには祈るように、涙を流しながら自身へ何かを言い聞かせている魔族がいた。手には何かしらの紙切れ、いや写真が握られている。
魔王が助けてくれるとは何のことかと首をひねったが、先ほどの会議では一部の者が捕まっているという話が合った。もしかすると目の前の人物の関係者がその中にいるのだろう。
最初、真緒にとって『魔族』という名称でひとくくりにされている種族はどこか人間と違って悪い生き物だというイメージがあった。町を出て最初に怪物に襲われたのが原因でもあるのかもしれないが。しかし、ここで時間を重ねていくうちにあまりにも自分の知っている人間と変わりのない生活を送っていることを目の当たりにした。
そして今、捕まった同胞に対して祈る姿を目にした。
真緒はそのままその場を立ち去り再び自室に向かう道をまっすぐ歩いた。
――何を見ても、自分にできることは何もない。
真緒も自身にそう言い聞かせた。
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