Day9 魔王についての考察

「もう一つ追加しておくなら、“魔王”は作られるから親なんていないけど、他の魔族がみんなそうだとは限らない。個体で勝手に増えてくやつもいるけど、雌雄での生殖で増えていく形態の方が多い気がする」


 そんな事を追加で教えてくれる魔王の言葉に真緒はチラリと魔王の顔を見る。


「あー、あの、うん」

「……今度は何?もう諦めた。ナゼナニ君相手に早く説明を終えるのは無理だって認めよう」


 歯切れの悪い真緒の言葉にまたも小馬鹿にしたような態度の魔王。しかし、今の真緒はそれにくってかかることはなかった。


「うん、いや、これは聞いていいのかなと思って」


 なおも歯切れの悪い真緒の態度に今度は魔王が苛つきを感じ、不信感を表す。


「言うといい。どうせ君程度の質問にそこまで腹は立てないよ。そこまでね」


 今現状苛ついている状況であるがそれに言及する様なものはこの空間にはいなかった。


「……うん、言ったな。怒るなよ。……お前の性別はどっちだ?」


 美人に分類される魔王の顔。体を見てみるとがっしりとした男性のようでもなければ緩やかな女性のようなでもない。不思議な感じを真緒は覚えた。どちらかといえば少年少女などの性差の感じられない印象だ。

 真緒にとって色々あったせいで魔王の性別など気にならんかったが、雌雄の話をされて気になってしまったのだ。だがあまりあなたの性別はどちらですかなんて聞くものでもないし、聞いていいかもわからない。

 うんうんと唸ってようやく決心した真緒の質問に魔王は呆けた後、大笑いした。


「あはは、嘘だろお前!そんなこと、ふっ、聞きたくてもじもじしてたの?」


 笑い声を隠す気もなく、しゃべっている途中にすら笑っていることが感じ取れる。


「し、かたないだろう!」


 魔王の態度に自分はやはり馬鹿な質問をしたと考えた真緒の顔が一気に真っ赤になる。馬鹿にされていること以上に人身の醜態を晒してしまった羞恥心に俯く真緒。


「それより、そのお前ってやつ」


 話題の転換が急務だと感じた真緒は話題を振るが魔王は未だに目の端に涙を溜めて笑っている。その様子を見てそれほど面白かっただろうかと真緒は少し冷静になった。


「ん?」

「名前を教えたのに、未だにお前って呼ぶのかよ」

「あぁそう言えばそうだね。確かナルミマオだっけ?」


 少し違和感のある発音だったが何度か魔王は口の中で真緒の名前を呟く。


「それにしても、真緒ねぇ。どうして、魔王と似たような名前なんだろう、これも運命ってやつかな」


 先ほどの発言おおかげか機嫌の良くなった魔王がニコニコとしながら立ち上がって真緒の方へ歩いてく。


「ねぇ」


 かがみ込んで真緒の顔を覗き込む。地べたに座っている真緒と立っている魔王の位置関係により魔王が覆い被さるようになる。

 驚いた真緒は後へ退がろうとするがいつの間にか魔王に手を取られている。真緒の手は魔王の胸部へ導かれる。


「っ」

「これでわかる?」


 手を引こうにも魔王に掴まれているせいで動かせない。


「それとも……」


 真緒の手が滑り降りていく。腹を撫でるように降る。


「っ!」


 今度は魔王の手が離れ、そのまま真緒は転がるように後ろへ退がる。


「あははは」


 文字通りその場に笑い転げた魔王。真緒は顔を真っ赤にしながら睨むことしかできない。その赤面は羞恥からなのか、それとも怒りからなのか。


「ひぃ、ふふ」


 立ち直った魔王は椅子に戻り座る。笑いすぎて心なしか魔王の顔も赤らんでいた。


「はぁ、笑った。随分初心な反応をしてくれる」

「悪かったな!」

「で、わかった?」


 真緒は魔王に触れた方の手を見る。正直緊張しすぎていた真緒は感触なんて覚えてないし、今も体に熱を保持させる頭はまともに思考できなかった。

 ひらりと魔王は服の裾を掴み捲り上げるように持ち上げる。咄嗟に顔を背ける真緒にまた魔王は笑う。


「どちらでも無いんだ」


 真緒の視線が魔王へと戻る。


「性別なんてない、基本的にはだけどね」

「どっちでも無い……」

「ワタシの個人的な見解としては増える必要もなければ、生まれた時から個体としての強さは保証される以上遺伝的な変化も必要としないせいで性別がないのかもね」


 真緒としてはそんな技術的な根拠を聞くために復唱したわけでもなかったのだが。


「必要がないってだけで、こうやって」


 魔王が指を顔の前で振ると魔王の体は流線を描く女性的なものに。もう一度指を振ると肩幅のあるがっしりとした体に。最後に指を振ると最初の姿に戻っていた。


「ね?」


 ウインクを一つ。目の前で起こる出来事に真緒は呆ける。


「なんだ、今度はそんなに反応が無かった」


 予想のような反応が返ってこなくて魔王は少し残念そうに椅子にもたれかかる。


「は、はは」


 自身の常識からあまりに外れた事態に今度は真緒の口から乾いた笑いが漏れていた。

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