第1話 出会い

僕、岬 凛と黒木 彩菜さんとの出会いは中学の卒業式を終えた春休みのとある一日だった。

その日、僕はやっているカードゲームの特典が付いた漫画が欲しくて街中の本屋を探し回っていた。元から幅広く読書が好きだった僕は街の本屋をある程度把握していた。そのため知りうる限り回ったが、穴場の本屋ですら売っていなくて困り果てていた。

とういのもその特典のカードと相性が良いカード、それも自分が使っているデッキと相性の良いものが昨日発表され、皆こぞってそれを求め出したのである。

軒並み自転車で行ける本屋に行ってしまい諦めようとして自転車を押して歩いていた。

スマホで本屋を検索してももう行ってないところは無いなぁと残念がっていると、スマホをしていたせいかいつも通らない道を歩いているのに気付いた。僕は少し戸惑いながら元来た道を戻ろうと後ろを振り向こうとした時に、目の前の店が目に入った。

『黒木書店』

お世辞にも綺麗とは言えない看板とぱっと見くらそうな店内、しかし営業中とドアには貼られていた。

どう考えても目当ての物はなさそうだけれど入ってみることにした。

(案外レアモノとか置いてそうだしね…)

そうポジティブに考えながら戸に手をかけて開こうとする。意外と重くて苦戦しながらその戸を開くと店内はとても薄暗かった。

壁際の棚には文庫本や単行本が所狭しと並べられており、中央の陳列棚には見た感じ新品の漫画と比較的話題作の本が並んでいた。

 そして古本の独特な匂いがした。

カウンターには店員さんと思われる女性が一人座っており、僕が入っていたのをドアベルで感知したのか

「いらっしゃいませー」と一言声をこちらの方に投げかけた。

ダメ元で漫画を探すとなんとしっかりと置いてあった。それも欲しいと思った枚数分が!

僕は上機嫌でその漫画を手に取りカウンターの店員さんのところに持っていった。

「すいませんこれくださ…」

カウンターに本を出そうとすると今度はカウンターに置いてあった物に目が釘付けになってしまった。

一昔前のカードパックが置いてあったのだ。一昔前の、今では手に入りにくいものが。

「あ、すいませんこれとこれお願いします」

僕はそこからお小遣いの足りる範囲でパックを取ってカウンターに出した。

「ありがとうございますー」

そう言う店員さんの顔を見てまた驚いた。

とても可愛い同い年くらいの少女だったのだ。その可愛らしさから僕はとても緊張してしまった。

「全部で2000円になります」

僕はお金を払って商品を受け取る。

「昨日の新カードと相性良いですからね」

そう言いながら商品を渡された。

「そ、そうですね、ぼ、僕剣士デッキ今使ってるので…」

店員さんから話題を振られたことに吃りながら答える。

「剣士デッキだとやっぱこれ使いますしね。

また来てくださいね」

とても可愛い店員さんだったこともあり、ドギマギが収まらぬまま帰路に着く。

家路では商品が買えた喜び以上に店員さんが僕の脳を占めていた。


僕はお小遣いが入るとまた例の書店屋にチャリを走らせた。

この前カウンターに置いてあったパックを買うためだ。

前回と同じように店に入りカウンターにあるパックを手に取る。

前回の結果はあまり芳しくなかったから今度こそは何かしら当てたいという気持ちでそのパックを店員さんに差し出す。

「また買いに来てくれたんですね。ありがとうございます」

前来た時のあの少女が今日も店番をしていた。

「ここ以外じゃ買えそうにないんですよ、これ」

お金を払いながら買ったパックをここで開封する。

「ふふ、そうですよね。けどこの店は来る人もお爺さんお婆さんくらいで誰もパックを買いませんから、仕入れはその弾で止まってそのまま在庫です」

僕も初めて存在を知ったレベルの本屋だから、他にカードをやってる人に知られてなくてもおかしくないと納得しながらパックを剥いていく。

「あ、これは!」

「何か当たりました?」

手元のパックからはその弾の1番の大当たりのカード、『不敗の聖天使』が出ていた。

僕自身は使わないけど中学生のお小遣いからしたらかなりの高額に位置するカードだ。

「わぁ!不敗天使じゃないですか!良いですね!」

手元のカードを覗き込むように近づかれ、驚いた。やはり女の子と至近距離で話したことのない僕はドキドキしてしまう。

「て、店員さんも決闘戦記やってるんですか?」

「ええ、やってますよ。…といってもデッキは持ってても対戦は全然したことないんですけどね…」

「それなら今度対戦しませんか!」

僕はついテンションを上げて聞いてしまった。中学3年になってくると自然とみんなカードゲームをやらなくなっていく。

僕は好きだから辞められないけれど皆はそうでないらしくそれがとても寂しかった。

だから僕は対戦相手が欲しかったんだ。

…この時のそう、"誰でも良いから"対戦相手が欲しかったんだ。

「え、いえ、私春休み中は毎日ここの店番ですし」

「だったらここでやりましょうよ!明日デッキ持ってくるので!」

「は、はい…わかりました」

「明日またデッキ持ってきます!パックありがとうございました!」

押し切る形で対戦の約束を決めてそのまま帰路に着く。

そして強引に女の人を誘ったことを思い起こすと迷惑だったのではと不安になりだしたりと色々考えては悶えてしまうのであった。

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