プロローグ

「黒木さーん、対戦しよー」

ガラガラと戸を開きながら小さな古本屋の扉を開く。ドアベルがリンリンと僕の来店を店内に知らせる。古本の独特な匂いが鼻に入ってくる。

「いらっしゃい岬君。そんなに大きな声出さないでも聞こえますよ」

所狭しと並んでいる本棚の奥からエプロンを着た黒髪の少女が、呆れたような声と共に出迎えてくれる。

黒木彩菜さん、同じ高校の同級生でこの小さな古本屋の一人娘だ。

長い黒髪はとても美しく、右目の下の泣きぼくろが印象的なやや吊り目ガチな子だ。

 この古本屋で偶然彼女と出会い、彼女と僕は同じカードゲームをやっていたからここで対戦するようになった。

「ここは曲がりなりにも本屋ですよ?貴方専用フリー対戦ルームじゃなくて」

そう言いながらも彼女は座っていたカウンター席の近くの机にかける。

「ごめんごめん、けどたまに買ってるでしょ?おすすめの本とか、それにここのパックとか」

「もっとお金を落としてください」

膨れながら彼女は言う。彼女とのこの軽い会話がとても心地いい。

お互いの山札をシャッフルして対戦の準備をする。

「「ゲームスタート」」

掛け声と共に彼女との対戦が今日も始まる。

この古本の匂いのする時間は、僕にとって最高の時間だ。

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