第8話

席に着いてとりあえず生ビールで乾杯すると、よほどのどが渇いていたのか健二はひと口でジョッキを飲み干してしまった。

「いい飲みっぷりだな。」と僕が驚いて言うと、健二は

「そうか?最近こんなもんよ。」と答えてニヤッ笑った。


一通りの注文をすませた後、2人でお通しの枝豆を食べていると、

「最近どーなのよ?」と健二が尋ねた。

僕はほかに話すこともなかったので、卒業文集の中に緑川さんからのメッセージが隠されていたこと、三角公園で土を掘ってみたら絵と手紙が入っていたこと、美大の弓木先生を訪ねてみたら緑川さんが行方不明になっていたことを簡単にかいつまんで話した。


健二はビールを飲みながら僕の話を聞いていたが、やがてジョッキを置くと、

「まじか。それはびっくりだな。でもそれ軽いストーカーじゃね?」と言って笑った。僕が慌てて、

「いや、ぜひ遊びに来てくださいって書いてたのは緑川さんの方だからね?」と言うと、健二は

「まあ、安田の何となく気になる気持ちも分かるぜ。」と言って僕の肩に手を置いた。


その時、注文していた焼き鳥が何本か運ばれてきた。

健二はねぎまを手に取ると、昔を思い出すように少し斜め上を見ながら

「緑川さんって、何ていうか・・・異質、だったよな。」とぽつりと言った。

「あの年代の女子って基本群れたがるけど、緑川さんはそういう感じが一切なかった。すごい美人だったけど、男を寄せ付けないようなオーラを出してたよな。」


僕はレモンサワーを持ちながら、

「そーなんだよね。」と相槌を打った。健二の言う通り、緑川さんは同年代の女子とは明らかに何かが違っていた。高校生で既に自分の世界を持っているような雰囲気が、彼女にはあった。

それから僕はふと疑問に思って、

「緑川さんの実家ってさ、高校から近かったっけ?」と尋ねてみた。もし実家が近いのであれば、今でもその近辺に住んでいるのかも知れないと思ったのだ。


すると健二はねぎまをもぐもぐと食べながら、

「いや、緑川さんはそもそも東京出身じゃねえぞ。」と答えた。

「え。」と言って、僕は思わず飲んでいたレモンサワーを吹きそうになった。

「そーなの!?」


健二はさも当たり前だと言うように、

「うん。ほら、高1の最初って必ず自己紹介があるだろ?あれでクラスで1人だけ東京出身じゃなかったからよく覚えてるんだよ。」と答えた。

それで僕はなるほどと思った。僕が緑川さんと同じクラスになったのは高3の時だったから、彼女の自己紹介を聞いていなくても不思議はない。


「そーだったのか。でもさ、高校生から東京に来るって変じゃないか?普通上京するなら大学からだよな。」と僕が言うと

「まあな、そこら辺の事情は俺も知らん。」と健二は答えた。

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