第7話

そこから何日か、僕は緑川さんの行方をさがすことを完全に諦めて、家でだらだらして過ごしていた。普段できないからと、スマホのゲームに1万円以上課金して遊んでいたのだが、2、3日もするとそれも飽きてしまい、昔の友達にかたっぱしから連絡して飲みに誘ってみる事にした。


しかし、28の社会人ともなると家庭のある奴も多くてみんな中々つかまらない。ようやくいいよと言ってくれたのは、高校の時に野球部で一緒に二遊間を組んでいた健二だった。健二がショートで、僕がセカンド。強豪校から見たらそれほど上手いコンビではなかったと思うが、僕らはお互いに協力することで何度もピンチを乗り越えてきた。


今でも忘れられないのは最後の大会になった夏の都大会の3回戦、5対5、9回ウラ2アウトランナー1、3塁の場面で、普段だったら何でもないゴロがショートに転がった。しかし健二が投げたボールを僕は取ることが出来ず、結果サヨナラ負けを喫して僕らの夏は終わった。エラーは健二についたけど、あれは本当は僕のエラーだったんじゃないかとずっと思っている。部活のメンバーで集まると、みんな

「お前らのせいで負けたんだからな~。」といじってくるが、僕らはいつも言い返すことが出来ずにただ苦笑いするだけだ。




金曜の夜、待ち合わせの新宿東口へ行ってみると、そこは予想通りとんでもない数の人たちでごった返していた。僕が柱の所でスマホを見ながら待っていると、改札から健二が右手を挙げながら歩いてくるのが見えた。180cmを超える長身でがっしりしているから、人が多くてもすぐに分かる。ワイシャツを着て腕にスーツをかけているから、恐らく仕事終わりなのだろう。

「久しぶりだな、1年ぶりくらいか?」と笑いながら健二は言った。

「うーん、そんなもんかな?いや助かったよ、有給取ったはいいけど誰もつかまんなくてさ。」と僕は答えた。

「感謝しろよ。飲むのいつもの所でいいか?」と健二は尋ねた。いつもの所というのは、2人で新宿で飲むときに決まって行くチェーンの居酒屋だった。とびきり美味しいという訳ではないが、何を食べてもハズレがないし、甘いたれをつけて食べるチーズ餅が結構うまい。


東口を出て歩くと、夏の新宿の街は独特の熱気に包まれていた。上手く表現出来ないのだが、新宿の熱気は池袋とは違うし、渋谷とも違う。それは実際に歩いてみないと分からない独特な熱気なのだ。

僕らは歌舞伎町の横を通り抜け、居酒屋がたくさん入ったビルの5階へ上がった。入ってみるとさすがに華金だけあって客席はすでに埋まっていたが、そのうち空くと思うと店員に言われたのでそのまま待つことにした。少しすると確かに団体客のおじさん達がわいわいと出て行き、僕らは奥の方の割と静かな席に座ることができた。

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