第4話

ポカリスエットをぐびぐび飲みながら桜の木を見ているうちに、もしかしたら緑川さんが何かを隠したのは、僕がさっきまで掘っていた所の裏なんじゃないだろうかという気がしてきた。僕が掘っていた所は大通り側で目につきやすいが、緑川さんの性格からして、逆の小道側を選んだのかも知れないと思ったのだ。


僕は大きく伸びをしてから、桜の木の反対側に回り込んでまた土を掘り始めた。なぜかは分からないがさっきよりだいぶ掘りやすい。

掘り始めてから数分が経った頃、僕はスコップに

「ガッ」という手ごたえを感じた。

おお、何かある!と思い僕は夢中で土をかき分けて行った。やがて土の中から姿を現したのは、平べったいブリキの箱だった。お中元でもらう、洋菓子の詰め合わせが入っているような箱だ。


地中から引っ張り出してみると、そのブリキの箱は、想像していたよりずっと軽かった。横に振ってみると何やらカサカサと音がする。と、いうことは何かの紙ものだろうか?


僕はその箱を持ってさっき休んでいたベンチに戻った。表面についている土を払っている時、僕はふいに、

「あれ、この手法どっかで見たことあるぞ。」と思った。

土を掘ったら中から箱が出てきて・・・一体どこで見たんだろう?

浦島太郎でもないし、花咲かじいさんでもないし・・・

しばらく考えている内に、僕はそれが「ショーシャンクの空に」で見た手法であることを思い出した。もしかしたら緑川さんもあの映画が好きなのかも知れない。


僕はドキドキしながら、そのブリキの箱に手をかけた。錆びついていて中々開かなかったが、何とか力でこじあけると、中に入っていたのは手紙と、折りたたまれた絵のようなものだった。

絵を開いてみるとそれは水彩画で、山と綺麗な草原らしきものが描かれている。僕はしばらくそれを眺めてから、手紙を開けて読み始めた。手紙は、彼女のイメージ通りのこぢんまりとした綺麗な字で書かれていた。


「私の高校の同級生の誰かさんへ

このたびは、私のささやかなサプライズを見つけて下さって本当にありがとうございます。あんなに分かりにくい文字を見つけるなんて、あなたはきっと素晴らしい洞察力をお持ちなんだと思います。そんなあなたにプレゼントと言っては偉そうですが、私の一番好きな風景を送りたいと思います。その絵は私の尊敬する母のアトリエの周りの景色です。もし気に入って頂けましたらかざってください。それから私事ですが、卒業後は〇〇美大の弓木先生という方の教室で絵の勉強をしていますので、お暇がおありでしたら是非遊びに来てください 緑川 麗」




家に帰ってシャワーで汗を流してから、僕は押入れから額縁を引っ張り出して、緑川さんの絵をかざってみた。額縁のサイズはやや大きすぎたがまあ仕方がない。大は小を兼ねるだ。


緑川さんの絵を壁にかけてみると、僕の殺風景な部屋が、急に生き生きとした色彩をおびた。自分の部屋とはとても思えないくらいだ。よくよく見てみると、確かに緑川さんが手紙に書いていた通り、草原らしきものの中にちょこんと小屋がたっている。これが恐らく彼女の母親のアトリエなのだろう。


「さて、どうしたものかな。」と僕はつぶやいた。

普通に考えたらこれで謎がとけてめでたしめでたしだが、何となくこれでは腑に落ちない。彼女は今一体何をしているのだろう?緑川さんは大学の教室に是非遊びに来てくださいと書いてくれていたが、卒業から10年が経っている以上、どう考えても彼女はすでに大学を卒業しているに違いない。ただ、もしかしたら弓木先生という人はまだ在籍しているかも知れない。その人が、今の所唯一の手がかりのようだ。

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