第3話

外へ出てみると空には雲ひとつなく、照り付ける太陽が本格的な夏の到来を告げていた。

僕はその光に目を細めながら家に帰り、錆びついた自転車を物置から引っ張り出した。最後に乗ったのがいつだったか覚えていないほど全然使っていない自転車だったが、ペダルをこいでみるとタイヤはちゃんと回転してくれたので何とか使えそうだ。


ギコギコと音をたてながら高校への道を走っている途中、100円ショップが目についたので立ち寄ってスコップを買った。プラスチックのあまり頑丈でなさそうなスコップだったが、100円ショップだしまあ仕方がない。公園の土なら何とか掘れるだろうと僕は思った。


公園は意外なほど遠く、いくら進んでも一向に着く気配がなかった。高校生のころは10分、20分もあれば楽に着いたのに、体力落ちたんだなー、と僕は改めて思った。まだ20代なのにこの有様では先が思いやられる。老人になって自分が寝たきりになっている姿を思い描きながら、僕は汗だくになってペダルをこいでいた。


目的地に着いたのは、結局30分以上も経ってからだった。僕はぜいぜいと息をしながら、自転車を道路脇の柵にチェーンでつないだ。

改めて見ても、三角公園はこぢんまりとした公園だった。遊具は滑り台と砂場、鉄棒だけで、公園の端っこにぽつんと桜の木が植えられている。もちろん時期的に桜は咲いていなかった。


僕は桜の木の前で腰に手を当ててふーっと息をつくと、100円ショップで手に入れたちゃちなスコップを取り出した。

「頼むぞ、お前にかかってるんだからな!」と僕はスコップに語りかけた。


とは言っても桜の木は中々太く、周りのどこを掘ったらいいのか良く分からない。適当に当たりをつけて掘り始めてみたのだが、公園の土は意外なほど固く、プラスチックのスコップでは中々掘り進めることが出来なかった。

夏の太陽が、容赦なく僕の背中に照り付けていた。Tシャツはすぐに汗だくになり、僕は温泉でもらってきたタオルで額の汗を拭いながら、スコップで黙々と穴を掘り続けた。


しばらく悪戦苦闘を続けてから、30cmほど掘り進めて、僕は自分が最初に当たりをつけた場所は恐らく間違いであったのだろうという結論に至った。自分が高校生の女の子だったとして、それ以上深い場所に何かを隠すのはいくら何でも骨が折れる仕事だ。公園の背の高い時計を見上げてみると、着いてから既に1時間が経過していたので、とりあえず一息ついて作戦を練り直すことにした。


僕は近くにあった自動販売機でポカリスエットを買い、ベンチに座ってそれをぐびぐびと飲んだ。

「あー、うまい!」

青いパッケージに書かれた「POCARI」の文字を眺めていた時、中学のころに流れていた綾瀬はるかの爽やかなCMを思い出した。あのCMで流れていた曲なんていう名前だっけ?映像は鮮明に覚えているのに、中々思い出せない。


サビを口ずさんでみて、ようやく僕はそれがMr.childrenの「未来」であることを思い出した。青春の時に流れていたCMって、何故だか大人になってもずっと心に残っているものだ。

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