無気質な少女Aの憂鬱

流流

変わらぬ教室で

私の心は不変不動、常に一定で等速直線的。何も変わることは無い。かと言って感情が無いわけでもなく、ただ全てにおいて無関心。



『世界を変えたい!』などと思ったことも無ければ普通に教室の中で目立ったことすらない。



ましてや、恋などしたことも無い



誰かを思って心を震わせ、脈動を早めるようなことにもなった事がない。そもそも人に対してなにか思い、何かを求めたことなどないのだ。


別にそういう厳しい家庭環境で育ってこういう人間になった訳では無い。普通に生活していて人と関わる上でこんな人間なのだ。



友人には恋というものを知らないからどうでもいいなんて言えるんだと言われた。それはどうなのだろうか


自分は恋などというものをしても変われないだろう、どうしてもそんな気がしてしまうのだ。それとも自分が変われば恋というやつが出来るのだろうか?



午前中に降った雨の余韻を残した平日の午後昼下がり

物理の授業中に曇天の空を光の映らない瞳で眺めながらなんの意味も生産性も無い思考を繰り広げていた。



4月上旬まだまだ冬の余韻は猛威を振るい、身を震わせるほどに肌寒い。


驚異的な寒波がまだ日本に留まっているらしい。朝の天気予報では明日から暖かくなると言っていたはずだ。


本当に春の陽気など来るのだろうか。


天気が、自然が私をいじめに来ているんじゃないかそんなことを思ってしまうほど寒く春が遠く感じた。



今後自然と敵対する事になったら自分はなんの抵抗も許されずあっさりと負けてしまうのだろうなどとくだらない事を考えながら窓の外に視線をやる。



寒い中他のクラスが体育の授業をしている。男子がサッカーをやっているようだ。体を動かすのにはヒンヤリとしていてちょうど良い気温だろう。



雨でぬかるんだグラウンドで泥をはね散らかしながら運動している姿を見ると今日体育なくて良かったと思った。泥だらけになりながら笑顔でボールを追いかけている男子生徒達を見て何が楽しいのだろうと思いながらなんとなく眺めていた。



すると、一人の男子生徒と目が合った。

気がした。



グラウンドからじゃこちらはほとんど見えないだろう。だが目が合った気がしたのだ。


その時彼はニカッととても楽しそうな笑顔になった。

キラキラして見えた。その瞬間心が跳ねた。

心臓が知らない音をあげる。

初めて知ったこの気持ち。それは言い訳できないほどに大きな…。




もう知ってしまった。一瞬前の自分にはもう戻れないだろう。ずっと彼を視線で追ってしまう。





終業を知らせるチャイムが鳴った。ふと我に返る。少し開けた窓の隙間から弱い風が入ってくる。空気はまだ冷たい。指先が冷える。

一瞬前を思い出す。

世界が変わって見えた。



そう、あの瞬間…






春が訪れた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無気質な少女Aの憂鬱 流流 @Water1800

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ