旧校舎にて 第三話

 西園寺夢見とのコンタクトがとれない。

 栗須が手を回し、校内には西園寺を呼び出す放送が幾度となく流れている。

 にも関わらず、西園寺からの連絡は、ない。

 すでに事態発生から1時間が経過していた。

 春菜殿下遭難の方を受けた近衛もすぐに到着する。

 

 その間に、何か、打つべき手があるはずだ。

 何か……

 

 水瀬は、目の前で半泣きながらオロオロする栗須のメイド服姿を見た。

 

 まてよ?

 

 確か、あのメイドさんは言っていた。

 

「この学園の全ての人間の居場所を把握している」

 

 水瀬は、すぐに女中頭の元へ走った。

 

 

「そういうことでしたら、協力しましょう」

 1階の廊下で出会った女中頭は、春菜殿下行方不明の報告を受け、顔色を変えつつも、そう言ってくれた。

 女中頭は、すぐに携帯電話でどこかに連絡してくれた。

「よろしい。そのまま監視を継続してください」

「見つかりましたか?」

「2時間前、旧校舎群に入るのが確認されています」

「旧校舎群?」

「文字通りです」女中頭は言った。

「学園設立当時の建物が保存されているのです。無論、老朽化が激しく、現在は立ち入りが禁止されていますが」

「場所は、どこですか?」

 

 地図を受け取った所で、近衛からの増援が到着した。

 寮のど真ん前の広場に軍用飛行艇を強行着陸させたのだ。

 軍用飛行艇から中から完全武装した1個小隊と共に樟葉が出てきた。

「どういうことだ?」

 樟葉が水瀬に訊ねる声は鋭い。

「西園寺家のご息女と共に出かけられたご様子でした」

「お前は?」

「日奈子殿下のご命令で」

「ああ、メイドのバイトか?全く。春菜殿下も護衛を置いてくださればよいものを」

「ここから車で20分、旧校舎群の付近での確認されているのを最後に」

「本当に、ここは日本か?」

「お金持ちの考えることは、僕にはわかりません」

「ったく。小隊長!」

 

 

 キイッ

 そこにリムジンが横付けされた。

 夢見のリムジンだ。

 

「あら?饗庭様?」

「ああ。西園寺の。いいところに来た」

「何ですの?」

「殿下はどこだ?」

「さぁ?」

 ヒュンッ

 風斬り音がしたかと思うと、樟葉の刀の切っ先が夢見ののど元に突きつけられた。

「ヒッ!」

「お嬢様!」

 西園寺家の執事達が懐に手を入れるが、それより早く、完全武装の近衛兵がすでに全員を照準に入れていた。

「あ、あの―――」

「どこだ?」

「わ、私……」

「すぐに口を割ればよし。割らなければ割らせていただく」

 その迫力に、夢見はその場にへたり込んだ。

 腰を抜かしたのだ。

「あ……あ……」

 顔は涙で濡れている。

 無論、それに温情をかけるほど、樟葉は甘くはない。

 

 殿下と皇室のため。

 

 それが、樟葉達の全てなのだから。

 

「殿下の御身になにかあれば、西園寺家が朝敵になるのですぞ!?そのことを、あなたはどこまでわかっているのか!!」

「!!」

「事は宮内省を経由し、正式に西園寺本家へ抗議させていただく。西園寺家が春菜様を拉致したとな!御身に怪我一つ負っていようものなら、我ら近衛、西園寺の血を根絶やしにすることも厭いませんぞ!?」

「わ、私は単なる冗談のつもりで!」

「冗談のつもりで?」

「き、旧校舎のA棟に放り出してきただけです!私、私は―――」

 

 

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