旧校舎にて 第二話

「お、お見合い!?紫音さんが!?」

「そうよ」

 しれっと答える紫音。

「水瀬家は、伝統ある家柄だし、加納重工やいろんな財閥とも関係が深い。ついでに資産あるし、何より今の跡取り、かなり日菜子殿下に目をかけられているんでしょう?だから、それに私を嫁がせて、水瀬家と皇室、ついでに財界とより関係を深めたいっていうのが本音なのよ。きっと」

「思いっきり政略結婚ですね」

「だから、気になるのよ」

「え?」

「だって、好きな人の近くに不審なオンナがいたら、おかしいって、そう思わない!?」

「好きって―――紫音さん?」

 “どこがですか!?”とにかく口から出そうになった言葉を、春菜はなんとか飲み込んだ。

 決して、いろんな意味で、人ごとではないから。

 紫音は顔を赤くしてそっぽを向いた。

「い、いいじゃない!私だって、人を好きになることもあるんだから!」

「……」

 春菜は知っている。

 その恋が、かなわないことを。

 だけど―――

 

「かなっても、かなわなくても、きっと、人を好きになったことは、すばらしい思い出になりますよ?」

 

「何それ。まるで「私が相手にされない」って言いたいみたい」

「そうじゃなくて―――言葉って、難しいですね」

「ふふっ。あなたが口べたなだけよ」

 紫音は、不意に携帯を握りっぱなしだったことに気づいた。 

「とにかく、その水瀬さんを呼んで?なんだかここ、寒い」

「そう、ですね」

 

 

 プルルルッ

 

 不意に水瀬の携帯電話が鳴り出した。

「?もしもし。水瀬ですけど―――殿下?」

 『申し訳有りませんが、―ザザッ――に来てもらえませんか?』

「え?」

 『―――ザザッ』

「あの、電波がよくないみたいです―――救急箱でもお持ちしましょうか?」

 『はい?』

「後ろ、随分賑やかな声が聞こえてますけど?」

 『後ろで、賑やかな、声―――ですか?』 

「肝試しでもやっているんですか?そんなに悲鳴みたいな声あげて」

 『と、とにかく―――プッ』

 電話が、切れた。

 

「もしもし?」

 急に電話が切れた。

 紫音を見るが、紫音の電話も切れたらしい。

「だめね。アンテナが立たない。やっぱり、窓際じゃなきゃダメなのかしら」

 紫音はそう呟くと、窓際に向かって歩き出した。

 春菜も自然とその後に続く。

 そして、

 

 ベキッ!!

 

 大きな音を立てて、床が抜けた。

 

「きゃっ!」

 二人は、悲鳴をあげることもなく、奈落の底へと堕ちていった。

 

 

「栗須さん!」

 メイド服のまま、水瀬は春菜の部屋に飛び込んだ。

「あら?」

 栗須が一人で、お茶を飲んでいた。

「どうしたの?あ。アップルタルトはあげませんからね!?」

「殿下、どちらに行かれたか知ってますか?」

「西園寺様、西九条様と一緒に出かけられたようですよ?どうしたの?」

「殿下との連絡中に通信がとぎれました!」

「!?」

 

 

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