村上舞
ここまで一緒に廊下を歩いてきて、水瀬が村上舞から受けた印象は、『同性にモテるタイプの女の子』。
長く艶やかな黒髪をリボンで束ねている。
別に筋骨隆々とした男勝りというわけではなく、むしろ、グラマラスな、男性にとって魅力的な部類に入る。
そういう意味では、丁度、ルシフェルに似ていた。
運動神経抜群
マジメだけど思いやりがある。
いわゆる完璧万能人間。
だから、同性、こと、後輩からはやたらとモテる。
高校1年にして、上級生からまで『お姉さま』と呼ばれるルシフェルは、かなり近いキャラだ。
ただ、水瀬はここに一つだけ付け加えることにした。
曰く「人使いが荒い」
結局、室内に突入した水瀬が不審者の両腕をへし折り、逃げ出した所を舞が片端から叩き伏せることで事態は終わった。
廊下での格闘。
舞の活躍を見たがっていた取り巻き達にとって、これは願ってもないことだけに、その興奮も普段より高いようだ。
不審者が動かなくなると、すぐに取り巻き達が、歓声を上げて舞を取り囲んだ。
「お姉さま、おつかれさまでした!」
「これ、タオルです!使ってください!」
「ジュースあります!」
結局、舞は取り巻きに囲まれ、身動きできない。
仕方ないので、不審者を縛り上げ、駆けつけた警備員に引き渡したのは水瀬だ。
「?」
水瀬が気になったのは、取り巻きでも舞でもない。
その群れから離れるようにして、じっと舞を見つめている女子生徒の存在だ。
安堵故か、泣きそうな顔をしている女の子。
(あの子、確か)
生徒会室で書記として説明された上条うららだ。
「あっ」
水瀬と視線があった途端、うららは驚いたようにその場から逃げ去った。
「?」
夕方、白銀寮内ロビーの隅にある公衆電話ボックスで、
「それ、どういうことですか!?」
水瀬が電話に怒鳴っていた。
『だ、だからね?』
あきらかに申し訳ないという声色が電話から聞こえた。
『あなた、お父様の水瀬少将から、勘当されたでしょう?』
「ですけど!ここには命令で来ているんですよ?しかも水瀬家の養女って肩書きで!それでなんで?仕事ですよ?送っておいて、お金が絡んだら知らん顔って、どういう了見ですか!?」
『あのね?日菜子殿下がね?“いい機会だから、水瀬にお金を稼ぐことの大切さを知ってもらいましょう”って』
「僕がどんなに苦労して普段の仕事しているか、殿下はご存じないのですか!?」
水瀬は滝のように流れる涙そのままに、怒鳴った。
「学費の一切を何で僕に払えだなんて!」
『ま、それはほら、とにかく、水瀬少将も――』
「そうだ!お父さんやお母さんは!?ついでにルシフェル!息子というか弟がこんな思いしているのに、何で誰も何もしてくれないんですか!?」
『少将は―――気を確かにもってね?“水瀬家の家名を貸してやる代金をまず支払え”って。で、遥香様は、“悠君が写真送ってくれないから知らない”ってスネちゃって。ルシフェルさんは―――えっと、何だかわかんないけど別件で忙しいって』
「……」
『もしもし?悠理君?聞いている?っていうか、生きてる?』
「も、もう家出したい……」
『と、とにかく、日菜子殿下からね?そこにいる限りの食い扶持は与えてやれっていわれてるから』
「はぁ?」
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