水瀬、女子校へ逝く

華雅女子学園 第一話

 お昼休みが終わりかけた頃、校内放送が鳴った。

 『1年A組水瀬悠理、面会です。1年A組水瀬悠理。大至急職員室へ』


「僕?」


「今度は何したの?」

 ルシフェルがポットからお茶を出しながら訊ねた。


「わかんない。ここんところ『仕事』はなかったから」


「そうだね」


「何だろう。すごく、イヤな予感がする」

 ご飯を食べていた水瀬は、不思議そうに立ち上がると、職員室へ向かった。

 



●10分後 明光学園応接室 

「……」

 理沙には、職員につれてこられた目の前の女子生徒が誰だかわからなかった。


 無論、岩田もだ。

 こんな目の覚めるような美少女に用はない。

 (少なくとも、高校卒業したら是非とも用を持ちたい)

 というのは岩田の男としての本心だが。

 

「あ、あのね?ごめんなさい。1年A組の水瀬悠理君をお願いしたんだけど」


「あの、これが水瀬ですけど」


「え?」

 理沙は、じっと目を凝らして少女を見つめる。

 窓からの光を受けて輝く銀色の髪、宝石のような瞳。ほんのりピンク色の唇。

 どこか似ている気はするが、どうしてもあのバカと同一人物には思えない。


「今、実はですね?」

 職員は言葉を濁した後、水瀬に言った。

「水瀬君、自分で説明しておいて。じゃ、私、仕事があるから」


「薄情者ぉ……」


「あ、あの、君?」


「あのね?」

 水瀬は経緯を簡単に話した。


「ふうん……つまり、校長からの禁を破って、無期限で女装して登校する罰を負っている。と?」


「そういうこと」


「何?女子更衣室でも覗いた?」


「ち、違うもん!」


「それにしても―――」

 正直、御歳40の岩田は呆れるしかなかった。

 前々から女の子みたいだと思ってはいた。

 だが、実際に女装していると断りがなければ、女の子で通らない方がおかしくなっている。


 (全く、近頃の若いモンは)


「まぁ、いい」

 岩田は無理にでもそう思うことにした。

 考え方によっては僥倖だ。

 こっちの方が都合がいいといえば都合がいい。

「折り入って、君に頼みがある」

 

 

 

 

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