第18話 初めての勉強を楽しむ

 次の日。

 私はいつも道理の時間に起きて朝食をとる。

 普段ならこの後は自由時間なのだが、今日からは勉強が始まる。

 今まで怠けていた分億劫だが前の世界でのことを考えると午前中だけの勉強だと考えると随分と楽になる。


 朝食を終えたあとはリジと共に自室へと戻り、今日入ったばかりの豪華な机へと座る。

 初めは客室用の簡素な部屋だったが、この前から着々と豪華な家具が揃い始めている。

 新しく入った机を眺めているとドアを軽く叩く音がした。


 「失礼します。ミランダです。

 入ってよろしいでしょうか?」


 どうやら私に付けられた教師が来たようだ。

 リジと目配せをし、私は打ち合わせ道理の言葉を返す。


 「どうぞ入って下さい。」


 本来ならもっと言葉を崩して話さなければいけないようだが、日本に生まれたものとしては初対面の人にタメ口で話すものなのか?と思ってしまうのでこうした。

 後ろからリジの『打ち合わせと違うじゃないですか』という声が聞こえたような気がしたが気のせいだろう。


 「お初にお目にかかります。レン姫様。

 わたくし、姫様の教育係になりました、ミランダと申します。

 アルフレッド王子の時期奥方として厳しく指導させて頂きます。」


 ミランダと名乗った女性は部屋に入ってくると同時に跪き挨拶をした。

 優しそうなおばあちゃんのような人だがきっと怒ったら怖いタイプだ。

 って…姫様!?

 それって私のこと…だよね?


 「あの、顔を上げて下さい。

 それと姫様と呼ぶのはやめていただきたいんですが…」


 私がそう話しかけると、ミランダは少し顔を上げて、

 「姫様はアルフレッド王子の婚約者様であると同時に国王様の未来のご息女でありますので。」


 …あ、これ変えてもらえないやつだ。


 「さあ姫様。早速お勉強を始めましょう。

 席について下さいませ。」


 私が流されるように机の前に座ると、ミランダはすっと立ち、持ってきた荷物を机の端に置く。


 「時間も限られていますし早速始めましょうか。

 レン姫様は、こことは異なる世界からいらっしゃったのですよね?

 それならばこの世界の一般常識から教えていかなければいけないですね。」


 そう言うとミランダは私の前に一つの分厚い本と紙を数枚置いた。


 「こちらの本が今回の教科書でございます。

 学習したものはこちらの紙は学習したものを忘れないようにメモを取るものです。

 姫様はこちらの世界の言葉が始めから分かっていらっしゃるようなので早速本編へ入りましょうか。」


 確かに私はこの世界の言葉がわかる。

 今、目の前にある教科書の表紙も何か記号のようなよくわからない文字が並んでいるが読めるのだ。

 知らないはずなのに目に入った瞬間自動で翻訳されているようだ。

 努力しなくても文字が読めるというご都合主義なのだろうか?でもどこかで引っかかるような…

 まあ、良いことだな。私は困らないし。

 ご都合主義最高!


 「姫様?早速始させて頂きますよ。」


 ………


 そこから、長い長い昔話が始まった。

 簡単にまとめれば、

 この世界は光の女神と闇の男神が作ったもので、二人には火、水、風、地、雷の属性を持った子供がいた。

 人間の文明が発達していったある時、自分達の作った世界を大切にしない人間に怒りを覚えた闇の神がこの大陸を滅ぼそうとした。

 それを阻止するために光の神は既に闇の力に侵されていた大陸の半分と人間の住む世界を隔て、人間界と魔界が生まれた。

 光の神は人間界と魔界を隔てる壁を作るのに精一杯で、自分の土地を守れるほどの力は無かった。

 そこで、子どもたちに土地を分け、それぞれに加護を与えるようにと命じた。それが、人間界の5つの大国の成り立ちである。


 その間魔界では直接手を出せなくなった闇の神が魔物を生み出し、世界を隔てる壁の僅かな隙間から魔物を放出していった。

 これが今人間界に魔物がいる理由らしい。


 一回じゃなんだかよく分からないがとても壮大なスケールのファンタジーだということは分かった。

 私は話の中で少し引っかかったところをミランダに聞いてみる。


 「5つの大国というのは、どんなところなんですか?」


 私が質問するとミランダは驚いたように少し目を見張り、嬉しそうに答えた。


 「それはですね、子である5人の神がそれぞれ別の場所に加護を与えていったことで、その土地でそれぞれの文明が発展していき、次第には国になっていったのです。

 わかりやすく言うとこの国は風の加護を受けた大国の1つですが気候が穏やかで暖かいでしょう。」


 確かにそう言われてみれば私が来てからはずっと春のような気候だが、これが加護のものだとするとここには季節がないのか?


 「では、季節がないということですか?」


 「季節…気候が年間のうちに変わることですか。

 昔と言ってもほとんど記録に残っていないようですが、異界からやってきた者が強大な魔法により一部の土地の気候を変え独自の文明を発達させていき、その者がいなくなった後も文明が続いているようですね。

 少なくともエルメイア王国で気候が変わることはありません。」


 異界からやってきた者…

 私と同じだ。

 私と違って元から魔力量が多かったのかな?

 この世界では異世界があることが普通でそこから人が来てもすぐに信じてくれる。

 それは、過去にも同じことがあったから?文献が残っていたのか?

 この勉強も、もう終わりだ。

 終わったあとは昼食を取り自由時間だ。

 ここは王城。きっと大きい図書館がある。

 一般人じゃ読めないようなものも…


 口元が少しずつ上がっていくことがわかる。


 『この立場をうまく利用してやる。』


 そう、心の中でつぶやいた。

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