第15話 幼馴染が俺のこと支えてくれて草



 飲み会がお開きになり、完全に出来上がっていた佐々木を無理やりタクシーに乗せて、駅へと向かった。


 電車に乗り、車窓を流れる街灯を眺めていた。


(佐々木が俺の動画を推してくれていて、嬉しかったんだけど……)


 俺は素直に喜べなかった。


(別に佐々木のことを嫌っているわけでもないし、いったい、なんなんだろう……)


 気がつけば、目的の駅についていた。


§


「ただいま」


 玄関を開けると、家の中が真っ暗だった。


「すみれ?」


 俺は電気をつけようとすると、


「わっ! ちょっと待って!」


 すみれの声がリビングから聞こえてきた。


「あざみちゃん、火をつけてよ」


「わかりました」


(なんだ? あざみまでいるのか? いったい何しにきたんだろう?)


「もういいよ、こっち来て! あっ、電気はつけないでね!」


 言われたとおり、リビングに行くと、ホールケーキの上に蝋燭が建てられていた。


「勇次郎、ハッピーバースデー!」


「おめでとうございます!」


 ふたりは俺に向かってクラッカーを鳴らした。


「あ」


 俺は今日が自分の誕生日だということを忘れていた。


(……そうか、俺はカレンダーの日付を確認する余裕すらなかったのか)


 今さら、自分の心に余裕がなかった事に気づいた。


「ほら、はやくフーッってしてよ」


 すみれに促されるままに、蝋燭の火を消すと、パチパチと拍手が聞こえてくる。


「俺の誕生日を覚えてくれてたなんて……」


「あたりまえでしょ」


 すみれが電気を付けた。


「これ、私からのプレゼント」


 すみれは大きめの箱を渡してきた。


「開けていいの?」


「もちろん」


 箱を開けると、トースターが入っていた。


「トースターじゃん」


「新しいの欲しがってたでしょ? それで、毎朝パン焼いてあげるよ」


 すみれはニッと笑った。


「えっ」


「勇次郎はひとりじゃないんだから、だから、落ち込んだ時は私も一緒に落ち込んであげるよ」


 すみれの言葉に不意を突かれて、涙が溢れた。


「ちょっと、勇次郎、何泣いてんの?」


 すみれが肩を叩いた。


(……あの日から自分に余裕がなくて、だけど、どうしていいかわからなくて……だからすみれともギクシャクしてたのに)


「すみれは俺のことを考えてくれたのに、俺は俺のことしか考えてなかったよ。ごめんな、気い使わせて」


 俺が言うと、


「いいよ、気にしないで」


 すみれは笑顔で応えた。


「私からもどうぞ」


 あざみが俺に細長い箱を渡してくれた。


「うわっ。あざみちゃんまで用意してくれたんだ。ありがとう」


「さっそく開けてください」


 あざみに言われるままに開けると、中からマイクが出てきた。


「これ、家の中でカラオケが楽しめるやつなんですよ」


「へえ、後でさっそく使ってみようか……


 今日の夜は、賑やかな夜に塗り替えられた。


「二人ともありがとな」


「「どういたしまして」」



「ねえ、これ見てよ」


 自宅カラオケ中、すみれがスマホの画面を見せてきた。


「どうしたんだよ?」


「どうしたもこうしたもないよ、タケが生配信してるよ」


 見てみると、アルカディアはダンジョンの最下層まで至るルートを開拓したと、ダンジョンの前で話していた。


(やばい、このままだとアイツは王者の印を手に入れて、全ての企業がブラック企業にそめられてしまう)


「今のタケを止められるのは勇次郎しかいないよ」


「でも……」


 俺の弱気を見抜いたすみれは、俺の胸をグーで軽くついた。


「でも、じゃないよ。大丈夫、勇次郎は一人じゃない」


 すみれの目が俺を射抜いた。


「……ありがとう」


 俺は頷いた。


(すみれにここまで言わせたんだ。ここは男として行かなくてはいけない)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る