第11話 親友の妹が仲間に加わった件



 俺たちは近くの喫茶店に場所を移した。


「だけど、どうして待合場所を病院に指定したんだよ?」


 俺はあざみに訊ねた。


「それは、今日が私の退院日だからです」


「えっ、入院?」


「実はですね……」


 あざみはスマホを取り出して、動画を見せた。それはダンジョン攻略動画では一躍有名な勇者のチャンネルだ。


「この勇者、私なんですよ」


 あざみは自分を指さした。


「マジで!?」


 俺は思わず目を見開いた。


「めっちゃ、かっこいいじゃん」


 すみれは画面を食い入るように見た。


 動画で見れば男にしか見えなかったのに、よく見ると体つきも若干華奢で、そういえばあざみだと言えなくもなかった。


(……てことは、俺の作り出したモンスターのせいで、親友の妹を、傷つけてしまったのか)


 俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


(他人が傷つくのは知らんけど、知り合いや友だちが傷つくのはダメだ)


「モンスターと戦った怪我で入院してたのか?」


「いえ、モンスターと戦ってる時に、お腹が急に痛くなったから逃げ出して、病院に行ったら盲腸だって診断されて、1週間入院してました。それをSNSで書いたら、なんか尾ひれがついて、戦闘で病院送りの大怪我を負ったってことになってました」


(全然関係ないじゃん! 俺の心配返せよ!?)


 心の中で思うが、言葉にはしなかった。流石に女子高生相手に大人気なさすぎるからな。


「全然関係ないじゃん! 私の心配返してよ!?」


 すみれが言った。


「いや、お前が言うなよ!」


「それでですね。私も田村さんの仲間として、攻略の最前線に立ちたいんです」


 あざみは話を元に戻した。


「どうしてさ?」


 俺が訊くと、あざみが目を伏せた。


「私が勇者になった理由でもあるんですけど、実は兄が行方不明なんです」


「「タケが行方不明?」」


 あざみの話によると、タケの勤める会社から、休職期間が予定より長引いていて、本人と連絡が取れないと実家に連絡があった。


 心配したあざみは母と共にタケの下宿に行くと、中は空っぽで、


―俺は世界を変える力を手に入れるために、旅に出ます。探さないでください―


 と書かれた紙が机の上に置いてあったそうだ。


(アホくさ。今更中二病を拗らしてやがる。べつに大人なんだから心配することもないだろう)


「それで、兄を探すために母が全国を駆け回っているから、私も何かできないかなと思って動画配信を始めたんです。もしかしたら動画を見た兄が連絡をくれるかもしれませんから……」


「なるほどね……」


 俺は腕を組んで考え込んだ。


「だけど、ダンジョンの攻略も一人じゃ限界があるので、なんとか兄の親友の勇次郎さんに力になって貰えないかなと思ってお声がけしました」


 あざみは居住まいを正して俺を見た。


「どうか、協力してもらえませんでしょうか」


 彼女は丁寧に頭を下げた。


「あざみちゃん。頭を上げて」


 すみれが言うが、あざみは頭を上げようとしない。


「あざみちゃんがそう言うなら、私もたーちゃんも喜んで協力するよ。私たちをどんどん頼ってよ!」


「おい!! それは俺が言うセリフだよ!! なんでお前が言うんだよ!! せっかくかっこいいセリフを考えていたのに!!」


「じゃあ、あらためてよろしくお願いします」


 あざみはすみれの方を見て言った。


「なんでだよ!? そこは俺に言うべきだろ!?」


「ちなみに、私たちの仲間になるなら、あざみちゃんの動画の収益の全てを私に頂戴ね」


 すみれはあざみに言った。


「もちろん、全額お渡しします」


「アホかッ!!! あざみちゃんよく考えなよ、こんなヤツに稼いだお金を全部持っていかれるのはどう考えてもおかしい話だろ? 一旦落ち着こうよ」


「いえ、兄を見つけるためです。多少の出費は致し方ありません」


「何言ってんだよ!!! あざみちゃんが稼いだお金だよ? すみれもどうしてそんなこと言うんだよ!?」


「だって働かずしてお金を手に入れられるチャンスじゃん?」


 すみれは真顔で言った。


「いや、働けよ!!」


「たーちゃん、落ち着いて考えて欲しいんだ。アラブの石油王って本人が油田を掘っているわけじゃなくて、採掘権を持っているからお金が入ってくるわけじゃん。それと同じで、目の前に金のなる木があるから、私の権利だと主張してるだけ」


「おまえ、あざみのことを金として見るなよ。親友の妹だぞ」


「親友の妹だろうと、関係ない。私には等しく金づるよ」


「なんかカッコつけた言い方しても無駄だからな」


(こんなに兄思いの良い子をすみれから守護まもらねば……)


「と・に・か・く、あざみちゃんは今日から俺の仲間だ。明日から遺跡攻略を手伝ってもらうからな」


 俺が言うと、


「わかりました、よろしくお願いします!」


 あざみは嬉しそうな声で言った。


「だけど、あざみには申し訳ないんだけど、攻略の最先端は俺じゃなくて、アルカディアチャンネルなんだ。聞いたことある?」


 俺が訊ねると、あざみは首を振った。


「いえ、聞いたことないですね」


「そうか……」


(こりゃ実際にダンジョンに潜ってアルカディアに会いに行くしかないな)


「でも、どうして動画配信なんかしてるんだ? タケに見つけてもらう手段は他にもあっただろうに」


 俺はあざみに訊ねた。


「私……お兄ちゃんが好きなんです」


 あざみは言った。


「お兄ちゃんはRPGゲームや戦隊モノのヒーローが大好きでした。だから、私もだんだん好きになっちゃって、それで、動画配信でお兄ちゃんの好きな主人公になってみようと、勇者を選んだんです」


「そうだったのか」


 俺は本当のところ、あざみが語った兄の好みを理解しきれなかった。というのも、俺は主人公属性というのはあまり好きではない。端的に言うと俺の好みの問題だった。俺はどちらかというと、影で暗躍する孤高の主人公のライバルの方がカッコいいと思っている。だから、死刑執行人というキャラクターを作り上げたのだ。


「いずれにせよ、一緒にタケを見つけよう」


 俺が言うと、あざみとすみれは頷いた。


「かわいらしい勇者ちゃんとコラボすれば、私たちの貯金が潤うね?」


 すみれはさっそくそろばんを弾いた。


「だから、親友の妹を金として見るなよ!」


「いいじゃん。親友だろうがなんだろうが、金になれば私はそれを利用するまでだよ!」


「おまえのそういうところ、本当にクソだと思う!」


 俺たちはギャーギャー言い合いしていると、


「お二人って仲がいいんですね」


 あざみは俺たちを見て言った。


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