第8話 幼馴染が俺の黒歴史をイジってくる件


「キェェェェェエエエ!!!」


 堕天使エルストラートは威嚇するように甲高い声で叫んだ。その叫び声は周辺の空気をピリピリと震わせて、遺跡の壁が少しだけ崩れた。


 堕天使は美しい女性の顔をしているが、高さは2メートルはあり、首輪がついていて、その先には50センチほどのちぎれたチェーンが揺れていた。祭服を纏っているが、背中からはいびつな翼が2枚生えていて、左肩の上には口径の大きな銃身が乗せられていた。腰には抜き身のままの大剣を携えている。


(小学校の頃の俺よ、とんでもないビジュアルの化け物を作りだしてくれたな)


 しかし、こんなところで怯むわけがない。所詮、俺が作り出した敵である。俺より強いわけがないのだ。


 俺はニヤリと笑い、さっそく、堕天使に飛びかかろうとするが、堕天使の背中からカタカタと音が聞こえてくる。


(あっ、忘れてた。コイツから離れてたらやばいヤツだ)


「キャッ、ちょっと、たーちゃん!?」


 俺はじたばたするすみれを抱き上げて、岩陰に隠れた。すると、堕天使の銃口から激しい音と共に無数の弾丸が飛び出した。それはホースから飛び出した水のように地面に線を描き、俺のそばを通り過ぎる。


 その様子を見たすみれは、顔を真っ青にしていた。


「すみれ、ここに隠れておけよ」


 俺は再び堕天使の前に姿を現した。すると堕天使は腰から大剣を取り出して、俺におどりかかるが、黒マントと剣を装備している俺は無敵だ。堕天使の剣をあっさりと払いのけて、挑発するために、目の前に剣先を突きつける。


「断罪してやるよ。お前の罪を告白しな!」

 

 俺の挑発を聞いた堕天使はさらにスピードアップし、負けじと剣を振るうが、俺は感覚的に剣の軌道が読めるために、そのすべての攻撃を交わした。左肩の機関銃を使いたいだろうか、俺は距離を詰めているために、狙いを定めることがでない。


 やがて、攻撃が止まった瞬間、剣を本気で握りしめた。


(1発で決めてやる!)


「ウオオオオオオ!」


 俺は堕天使の首を狙って剣を振るうと、剣は堕天使の首を一文字に切り裂いた。

 力を失った堕天使は崩壊し、跡形もなく消え去った。


「†執行完了†」


 俺は決め台詞を言った。


§


 あとで撮った動画を見返し、恥ずかしさに悶えていた。


(なんであんなにイキってるんだよ!? なんだよ『†執行完了†』って。少年時代の俺、もっと他にいいセリフを思いつかなかったのかよ!?)


「たーちゃん。運動苦手って言ってたけど、そんなこと全然ないじゃん」


「おっ、おう。能ある鷹は爪を隠すって言うだろ」


「たーちゃん、かっこいいね」


 実を言うとあのマントには、どんな攻撃もかわせる動きができるようになると設定が入っている。小学校の頃の俺、それはグッジョブだ。怪我するとシャレにならんからな。


 俺は動画を編集して投稿した。


「もう投稿したの?」


 すみれが聞いてきた。


「おお。投稿したよ」


「『†投稿完了†』だね」


 すみれは俺のマネをした。


「お前俺のことイジってるだろ」


「そういえば、100万再生行ったら、収益の半分くれるって約束忘れてないよね?」


 すみれは言った。


「何言ってんだよ。1000万再生行けば折半してやるって約束だったろ」


「ええっ!? 聞いてないよ」


「いや、俺ちゃんと言ったよ」


 俺はこっそり回していたボイスレコーダーを聞かせた。


「ええ~ずるいよ~1000万再生なんて絶対に無理だよ~。私の不労所得が~」


 すみれは残念そうに机の上に突っ伏して、不貞寝をしていた。



 翌日の朝、すみれはかなり上機嫌で、朝食に気合いが入っていた。赤飯に加えて、焼き魚まで出てくるなんて……。


「いったいどうしたのさ?」


 すみれは何も言わずにニヤニヤしながら、スマホの画面を見せると、俺の投稿

した堕天使討伐動画が1000万再生を超えていた。


 コメント欄には『漆黒の死刑執行官カッコいい』とか『中二病すぎて草』とか『バッドマンみたいでいいね』とか称賛が多数を占めていた。


 俺は頭を抱えた。


(おいおいおい、マジかよ……すみれに収益半分持っていかれるなんて……それより、俺の黒歴史が1000万再生のポテンシャルを持ってるだと)


 俺はすみれとの約束を後悔していた。


 すみれは剣を振り回すフリをして、


「『†執行完了†』」と言った。


「やっぱ、お前イジってるだろ」

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