第4話 モンスターを討伐する件
俺たちはさっそくブラックドッグのいる倉庫奥へとやってきた。数々の配信者の足を足止めし、あの勇者に至っては病院送りにするぐらい獰猛なモンスターだが、攻撃の対処法は至極簡単だ。
こちらから攻撃しない限り、相手を攻撃することはない。
それを知ってさえいれば、何も恐れることはないのだ。
俺たちは倉庫の奥を進む。
「そろそろブラックドッグのいる場所だ」
俺が言うと、
「その犬、動画で見たけど、たーちゃんがよく教科書の隅に書いてたやつだよね」
すみれはニコニコしながら話した。
(うわあああっ。コイツ、やっぱり、俺の黒歴史を知っているのか!!??)
頭を抱えて悶えたくなる。
(いやいや落ち着け。コイツは悪気もなくこう言うことを言う奴じゃない)
彼女は良くも悪くも天然なのだ。
「あの絵上手だったなぁ」
すみれは懐かしむように言った。
(ほら。やっぱり黒歴史を黒歴史と思ってないようなヤツだ)
だけど、俺の心のHPがゴリゴリと削られいるのがわかる。今度、心療内科のカウンセリングを予約しておこう。
「だけど、どうして動画のモンスターが、たーちゃんの描いた絵に似てるんだろうね? しかも、秘密基地ってこんなに奥まで続いていたっけ?」
「なんでだろうね?」
俺はとりあえず茶を濁しておいた。わからないことはわからない。見て見ぬふりをしておけばいい。
「まあ、いいや」
すみれは特に気にせずに俺の後ろをついてきた。
不意にあの呻き声が響いてくる。ついにアイツのお出ましだ。美しい四つ足に、黒く艶かで筋肉隆々の胴体、真っ赤に染まった獰猛な瞳が俺らを射抜いた。しかし、こちらから手出ししない限り、攻撃してくることはない。
すみれはその見た目に怯み、俺の背中に隠れて、服の裾を握ってきた。
(あれっ? コイツってこんな可愛らしいことをするような奴だったか?)
「大丈夫だよ。コイツはこっちから手を出さない限り攻撃してこない」
俺はすみれに言った。
「そうかもだけど、動画で見るより、怖いんだもん」
彼女は怯えて、手を振るわせていた。
「しゃーねーな。サクッと倒してやりますか」
俺はとりあえずイキって指をポキポキ鳴らし格好をつけた(っていうか、今も黒歴史作ってるくね?)。
「ウオオオオオオ!!!」
俺はブラックドッグを剣で切り倒さんばかりの勢いで、カバンの中から、ドッグフードを取り出して、皿に出した。
「たーちゃん。めっちゃ攻撃しそうな体勢からなんでドッグフード? たーちゃんが食べるの?」
「アホか。俺が食べるんじゃないよ」
俺の言葉にすみれは首をかしげるが、気にせずブラックドッグの前に皿を差し出した。
ブラックドッグは警戒し、ニオイを嗅ぎ回るが、食べ物だと分かった途端、皿に頭を突っ込んだ。すると、だんだんと獰猛さはなくなり、毛並みは黒から白へと変化していき、体格も小さくなってゆく。
「コイツは、その世界の食べ物を口にすると、そこの姿に変わるんだよ」
例えばアローラ地方の食べ物を食べれは、アローラの姿になるという仕組みだ。だから、人間の作った食べ物を食べると、普通の犬の姿に戻るわけだ。他にも口にしたものをそっくりそのまま効果までコピーするという設定(いつ使うかわからない)まで用意してある。
(まあ、小学校の頃の俺が考えたとんでも設定なんだけどな)
「へえ。たーちゃんは物知りだねぇ」
すみれは羨望の眼差しを向けてきたので、俺は額に汗を浮かべて、
「まあな」
といって、笑ってごまかした。
ブラックドッグはドッグフードを食べ終える頃には豆柴ぐらいになっていて、俺にめっちゃ懐いていた。めっちゃかわいい。
動画の撮れ高もあったので、秘密基地を出ようとすると、ブラックドッグはしっぽを振りながら外まで見送りに来てくれた。なんて賢いヤツなんだろう。将来アイツは忠犬ハチ公と呼ばれて、銅像が建てられるはずた。だから、ハチと名付けよう。
§
荷物を片付けて、帰る準備をしていた。
「じゃあそろそろ帰るけど、おまえはどーすんの?」
俺はすみれに聞いた。
「たーちゃん家に連れていってよ」
「はあ? 俺の家に?」
俺は首を傾げた。
「……それでさ、しばらく住ませてよ」
すみれは軽く目線を下げて、恥じらいながら言った。
「はい? なんでだよ?」
俺はさらに首を傾げた。
「働かずに実家でダラダラしてたら、ママに怒られて、頭きたからさっき家出してきたんだ」
俺は理由を聞いてこめかみを抑えた。ちょっと落ち着こう。
俺もいまだに漫画も深夜アニメもニチアサのプ○キュアも欠かさず見るし、中二病が時々疼くが、もう立派な大人だ。
だけど、同い年のすみれはクソしょーもない理由で、家出をしたと言っている。
(コイツ、めっちゃガキだな)
「とりあえず、帰ってママにごめんなさいしろよ」
「絶対にイヤ。私は一生働かないって神さまに誓ったもん」
「そんなアホなことを神さまに誓うな」
「他人の意見で自分の本当の心の声を消してはならない。自分の直感を信じる勇気を持ちなさいってスティーブ・ジョブズが言ってたもん」
「スティーブ・ジョブズもおまえの恣意的な解釈に苦笑いしてるだろうよ」
「そんなことより、私もたーちゃんの家に住むからよろしく」
「いや、いきなり言われても……俺ワンルームに住んでるから、もう1人住むスペースなんてないぜ?」
「さっきたーちゃんの実家行ったら、1LDK一人暮らししてて、部屋余ってるから一緒に住めばって言ってたよ?」
俺は心の中で舌打ちをした。
(何勝手に俺のプライベートを具体的に話してるんだよ)
俺は心の中で母親に中指を立てた。
「いや、部屋散らかってるから、また今度にしてくれよ」
俺はどうしても断りたかった。1人だけの時間とか確保したいのもあるけど、一番の理由はオナホとかエロゲとか部屋中に溢れかえっているから、とても見せられたものじゃないんだ。
「いいよ。私が部屋を片付けてあげるし。どうせ世話してくれる彼女とかいないんでしょ?」
グサッ。すみれの言葉が俺の胸に刺さった。
「うるせえ! 50人ぐらいいるわ!」
俺は自分を大きく見せるために叫ぶと、すみれは驚いていた。
「えっ? そんなに……彼女いたんだ……」
彼女の表情がどんどん曇ってゆき、唇を噛んでいた。
すみれのこういう顔を見ると、昔、行き過ぎたイタズラですみれが泣いた時のことを思い出し、罪悪感でいっぱいになる。
「いやいや、嘘嘘。彼女なんていないから。ドッキリでした~」
俺が仕方なくいうと、すみれは涙目になりながら、疑いの目を向けた。
「ほんとぉ?」
「本当だよ。彼女なんていないよ」
俺が断言すると、
「よかったぁ。私は51人目になるんだと思って、びっくりしたよぉ。桐壺みたいに正妻に虐げられるかと思ったよぉ」
彼女は安堵の息を漏らして、俺に抱きついてきた。
「なんて抱きつくんだよ!?」
「あっごめん。つい昔を思い出して……」
すみれは顔を赤くした。昔はよく遊び感覚で過剰なスキンシップがあったけど、今はそんな年齢ではない。
しかし俺はそんなことよりも、すみれがはやく離れてしまったことを後悔していた。
(おっぱいが当たる感覚をもっと堪能しておけばよかった……)
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