第3話 適当に投稿した攻略動画がバズってる件




 家に帰り、あらためてモンスターを動画で確認すると、美しい四つ足に、黒く艶かで筋肉隆々の胴体、真っ赤に染まった獰猛な瞳の犬だった。


 それは初めて見たはずなのに、憶えがあった。


 と言うのも、あのモンスターはブラッグドックと言って、俺が黒歴史ノート『精霊たちの黙示録アポカリプスオブスピリッツ』に出てくる敵だ。


(まさか……俺の思いついた敵が本当に出てくるなんて……いったいどういうことなんだ?)


 しかし、この疑念を突き詰めても答えは出ないので、さっそく撮れた動画を編集して、ダンジョン攻略動画としてサイトに投稿した。


 再生数は100回を超えたぐらいで、それ以上は伸びなかった。


(さすがに再生数は回らないな。まあ、初めてのことだし、仕方ないか……まあ、いいや。どうせ考えてなにもわからないのだから、考えるだけ無駄だ)


 明日も休日だ。あとはのんびり過ごそうと思い、パソコンの電源を落として、冷蔵庫からビールを取り出し、テレビをつけた。



§


(おいおい、再生数100万回超えだと?)


 翌日、動画の再生数を確認すると、予想外の数で驚いていた。


 さらに驚いたのは、俺の後に続いて、他の配信者が倉庫の奥を攻略する動画をあげていたことだ。見てみると、どうやら、ブラッグドッグがどうしても倒せない様子だ。


 あの勇者姿の大剣野郎も、そいつに噛みつかれて、病院送りになったらしい。


 動画のコメント欄には俺を名指しにして、先駆者として崇め奉る内容のものが多かった。一部に至っては神扱いである。そんな俺に攻略動画を上げてくれという書き込みがあった。


 メールアプリには50を超える通知が表示されている。俺の動画の概要欄に載せておいたアドレスを見て送ってきたのだろう。


 それらの内容は動画を応援するものは僅かで、誹謗中傷するものがほとんどだった。俺は自分の人生でこれほどまでに怒りに支配されるとは思わなかった。


件名:遺跡調査について


内容:突然のご連絡失礼致します。日本考古学研究所、研究所長の相沢と申します。貴殿の動画拝見致しました。新たに発見された遺跡(私たちはS県新遺跡』と仮に呼んでいます)は従来の日本史が大きく書き変わる可能性のある重大な資料です。貴殿の如く素人探検家たちが、気軽に踏み荒らしていい場所ではありません。このようなごっこ遊びをしたいのであれば、他に適切な場所があろうかと存じ上げます。

貴殿の今後のご活躍を心よりお願い申し上げます。


 俺は自分のこめかみを指で押さえて、怒りを抑えつけた。


(怒るんじゃないぞ……まだ怒るような時じゃない。この相沢はいい大学を出て、高尚な仕事をしているのかもしれないが、俺の黒歴史を勘違いして古代遺跡扱いしているアホ丸出しなヤツだ。っていうか……)


 俺は再びコメント欄に目を通すが、誰も中二病が暴走した黒歴史だと指摘する者はいなかった。


(……まあ俺の黒歴史だとバレていないから問題ない。動画は100万再生を超えていたから、いい金稼ぎになるだろう。そうだ、お金の為だ)


 全ては金の為だと思い、現実から逃避した。動画を収益化して、彼女を作って、バカデカい家を買って、海外旅行に行くんだ……。


§


 今日はブラッグドッグの討伐動画を投稿するつもりだった。


 職場ではしがないサラリーマンだが、家に帰れば、ダンジョン攻略の先陣を切る先駆者パイオニアなのだ、ヘッヘッヘッ。


(いかんいかん、性格の悪さが出てしまった)


 我に返って、ダンジョンの前で、カメラを回す準備をする。顔が出てしまわないように、ヘルメットにしっかりと固定した。


 顔を出していたら、アンチに見つかったら何されるかわからないからな。


(だけど、一番の理由は、顔のある主人公よりも、影で暗躍する孤高のNo.2感が出てカッコいいからだ)


「おーい! たーちゃん!」


 俺のあだ名を呼ぶ声が聞こえた。


「?」


 振り返ると、同い年ぐらいの女が俺に向かって手を振っていた。黒髪は肩ぐらいまで伸びていて、すらっとした体型をしているが、乳はでかい。この人の顔よりも乳の形を先に覚えてしまいそうだ。


 可愛らしい顔立ちをしていて、目元はキリッとしているのに、どこか優しい印象で、悪くない。え゛え゛や゛ん゛え゛え゛や゛ん゛ハ○ウッドザコシショウ風で


「えっと、どちら様ですか?」


 俺が言うと彼女は驚いた様子で硬直していた。


「えっ? 私のこと忘れちゃったの?」


 彼女は自分の顔を指差した。


「えっ?」


 正直覚えがなかった。だけど、よく考えると、俺のあだ名を知っているから、少なくとも学生時代に関わりのあった人物であるはず……。


「私だよ。山田すみれ。覚えてない?」


 その名を聞いた瞬間、思い出が走馬灯のように駆け巡った。


「まさか、すーちゃん?」


「そうそう。秘密基地、一緒に作ったじゃん」


 すみれは小中学校とボーイッシュな見た目だったから、あまりの変わりように驚きを隠せない。


(なんか……めっちゃ女の子っぽくなってる)


「懐かしいなぁ、中学の卒業式が最後だったっけ」


「たーちゃんの動画見たよ。なんか、私たちの作った秘密基地がダンジョン扱いされてるらしいね」


 すみれの言葉に一瞬固まった。


(よくよく考えると、コイツはこの秘密基地の詳細を知っているのだ。まさか、ここに俺の黒歴史が眠っていることを知ってて、バカにしにきたのか?)


「たーちゃんは今から秘密基地に潜るんでしょ? 私もついていっていい?」


 すみれは目を輝かせながら言った。


(……俺はコイツの性格をよく知っている。良くも悪くも、裏表のない素直な奴だ。だから、俺の黒歴史をイジるようなマネはしないだろう)


 それにコイツはとんでもないアホだから、俺たちの作った秘密基地が実は本物の遺跡だったんだと勘違いしているに違いない。


「構わないけど、そんな格好で大丈夫か?」


 すみれは長袖Tシャツにジャージだった。


「じゃーん。軍手も持ってきてるから。それにランタンもあるもんね~」


 すみれはそれらを取り出して、俺に見せつけるように振ってみせた


(……コイツってこんなに可愛らしい仕草をする奴だったっけ?)


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