第2話 閉ざされた扉が開けられる件
電機量販店で配信機材を買い揃えて、我がダンジョンの前に仁王立ち、腕を組んで、睨みつける。
(シャレにならない値段だったけど、休日に遊ぶ金も彼女もいないので金はあるッ)
汚れてもいいようにオレンジ色の作業着を着て、ヘルメットにライトとカメラを取り付けて被り、ダンジョンへと足を踏み出した。
踏み出した一歩はスローモーションになり、壮大なBGMが流れ始める。
♪~前奏(31秒)~♪
―アークッ、ステーアウェイク、ジャストゥーヒィィイーブリーゼェェン゛⤴︎♪ ///
ワチュゥ、スマイワーユアースリーーペン⤵︎~♪
ワイユファーラウェーエンドリーミン~♪(ねっとりボイス)
元々、ダンジョンは実家の裏山で見つけた洞穴を秘密基地に改造したもので、入り口は狭いが、中は広くなっている。そこにはかつて、家で使わなくなった家具や炊事道具を持ち込んで、生活できるようにしていた。
壁一面には自分の書いた落書きでいっぱいになっていて、当時ハマっていた漫画やゲームの主人公やヒロイン、気に入ったワンシーンを見よう見まねで書いていたが、今見ると下手くそオブ下手くそで、直視できたものじゃない。
しかし、研究者グループはこれをありがたがって研究しているから、俺の落書きですから時間の無駄ですよと言いたい。
だけど、言ってしまえば、俺の恥ずかしい黒歴史が世界中に発信されてしまうので、言えるわけがない。
秘密基地の奥に、人一人が入れるサイズの横穴があったので、当時、父に手伝ってもらい、そこを倉庫にするために、扉と南京錠を取り付けた記憶がある。
俺はその鍵(小学校の頃、ネブカドネザルの鍵と呼んでいた)を持って、カメラを回して、配信を始めた……同接数は5人程度。初めての配信だ。5人も見てくれている。
俺は南京錠を手に取り、ネブカドネザルの鍵をさして、経年で錆びついた錠をなんとか外し、
§
とはいっても、所詮倉庫なので、面白いものなど何もない。夢中で拾い集めたエロ本や、黒歴史が書かれたノート『裏・死海文書―約束された場所で―』が置かれていた。
古代の日本には封印されたダンジョンが存在し、下層に近づくにつれて、敵が強くなる。最下層には首が13本あるドラゴンがいて、『王者の印』を守っている。それをを手に入れると願い事がひとつ叶う……
(なんて痛々しい物語なんだ……)
見返してみると、恥ずかしい気持ちが勝るが、懐かしむ気持ちも出てきて、カメラを回していることも忘れて、次々とページを巡っては思い出に浸っていた。
この秘密基地は俺ひとりが作ったわけではなくて、もう二人の友だちと作ったものだ。
ひとりは竹内和馬(あだ名はタケ)という名前で、高校までずっと同じクラスだった。運動ができて、顔もカッコいいから。モテていた。ちょっと嫉妬してたけど、いい奴だし、親友だったから、それでも一緒に遊んでいたけど、卒業して以来は、連絡を取っていない。
もうひとりは山田すみれ(あだ名はすーちゃん)。
小、中学校と同じクラスで、たけとすーちゃんとよく遊んでいたのだが、すーちゃんだけ別の高校に進学したので、それ以来連絡を取っていない。
ちなみにすーちゃんの容姿はボーイッシュで、ちょっとゴツめの体ツキだったので、よく男の子に間違えられていた。とりわけ可愛いわけでもなかったので、男子からは男扱いされていた。
秘密基地を作ろうと言い出したのは俺だった。二人はそれに賛成して、俺が指揮をとってあーだこーだいって作りあげたものだ。
(ふたりは元気にしてるかな……)
ノスタルジックな思い出に浸っていると、不意に獣の呻き声が聞こえてきた。
はじめは野犬が迷い込んだのかと思ったが、よく聞くと、倉庫の奥から音が聞こえてくる。
俺は首を傾げた。倉庫はそこで袋小路になっているはずで、先には続いていないのだ。
音が反響しているのかと思い、入り口を見るが、何もいない。
気になって奥を覗いて見ると、ゾッとした。
(倉庫の奥に続きがある……)
俺は気になって、黒歴史ノートたちをカバンに仕舞い、そろりそろりと奥へ歩くと……
「ヴォォォォオ!」
そこに犬の形をしたモンスターがいた。あまりに恐ろしい様相に腰が抜けそうになり、慌てて倉庫の扉を閉めて、秘密基地の外へ飛び出した。
(アカンアカン、ほんまにアカン)
とりあえず、あのモンスターの正体は後で考えるとして、すぐに家に帰ろう。
俺はすぐに機材を引き上げて、家に引き返そうとした。横目で同接数を確認すると、数が2万を超えていた。
(おいおいおい、マジかよ……これってすごい数なのか?)
俺は配信の知識がないから、凄い事なのだろうけど、いまいち実感が湧かなかった。
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