小学校時代に作った秘密基地が古代遺跡扱いされている件

乱狂 麩羅怒(ランクル プラド)

第1話 秘密基地が遺跡扱いされてる件





◇◇◇


 小学校の頃の夏休みは退屈だった。ちょうど、タケもすみれも帰省中で遊び相手がいなかった。

 そんな時は、ノートに落書きをしていた。自分の妄想を書き込んで楽しんでいたが。完成させると、虚しくなった。


(……俺の妄想が全部本当になればいいのに)


◇◇◇


 朝、目覚めると、どうして目が覚めてしまったんだと絶望してしまう。眠り続けることができれば、会社に行くことも、働くこともないのに。そう思った回数は数えきれない。


 満員電車に揺られて、理不尽な上司に怒られて、疲れ果てた状態でまた満員電車に揺られて、スーパーで惣菜を買って、それを酒で流し込んでまた眠る日々。


 周りの人間は出世や結婚で、人生を上手く乗り切っているのに、自分はなぜかうまくいかない。年齢=彼女いない歴の童貞野郎まっしぐら。劣等感で現実を直視できなくなってからは、他人と比べるのを辞めて、何も考えないようにしていた。


 何も考えなくなってからは、日常がすこし楽になった。いい処世術を見つけたと思って、しばらく経ったある日の朝だった。

 

――次のニュースです。S県の山間で新たな遺跡が発掘されました。


 出社前、コーヒーを啜りながらニュースを眺めていると、映し出された映像で、思わず吹き出してしまった。


 その遺跡は俺が小学校の頃に作った秘密基地だったからだ。


(一旦落ち着こうぜ。俺)


 動揺した心を落ち着かせるために、大きく深呼吸をした。もしかしたら夢の中にいるかもしれない。試しに頬をつねってみるが、もちろん痛かった。


(どうして俺の作った秘密基地が遺跡扱いされているんだ?)


 俺は考えたが、答えが出るわけがなかった。


§


 休日に遺跡へ向かうと、やはり、小学校の頃に自分が作った秘密基地だった。入り口に自分が考えたオリジナルマークを彫った木の板が掲げてある。


(うわっ、昔の俺、イタいことしてるな……)


 若干の面映おもはゆさと懐かしさを感じつつ、どうして遺跡扱いされているのかスマホで調べてみるが、岩宿遺跡以来の、日本史が変わるかもしれない大発見だと書かれたネット記事や、そこには魔物が住んでいるという書き込みばかりで、なぜ遺跡扱いされているかは書かれてなかった。


 YouTubeでは俺の秘密基地を探検した動画が上げられていた。他にもSNSでは突如出現したダンジョンとして扱われて、中を探検するのが流行っていた。ラフな服装で気軽に入る者や、勇者姿で大剣を持って入る者も居る。

 しかし、彼らは入り口途中の扉にかけてある南京錠が開けられず、そこで引き返してゆく。


 その南京錠は確かに俺が取り付けたものだ。


(鍵は実家にある、扉の向こうは、自分が宝物だって思ってたガラクタが置いてあるはずだ。)


 不意に、ひらめきが脳内を駆け巡る。


(どうせ何もない人生だ。ちょっとは面白おかしいことにチャレンジしてみようか……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る