第5話 幼馴染が俺のこと全肯定してくれて草
「うわっ、きったねー」
すみれは俺の部屋をジトっとした目で見て、言い放った。
「仕方ねーだろ。仕事で忙しいんだよ」
俺は言い訳するが、
「いいから、とっとと掃除するよ」
すみれは適当に受け流して、さっそくゴミ袋を取り出して、テーブル上のコンビニ弁当の残骸や、空き缶を次々とゴミ袋に放り投げてゆく。
俺はその間に、忍者の如く自室に滑り込み、大量のエロゲやオナホをタンボール箱に入れて、クローゼットの中へ隠した。
(これでしばらく誤魔化せるだろ……)
俺はリビングに戻り、すみれを背に台所の掃除を始めた。
(そういえば、幼馴染とはいえ、俺の家に女の子がくるなんて……)
俺はチラりとすみれを盗み見た。彼女の後ろ姿の、特に尻に目がいってしまう。やっぱりおっぱいもいいけど、尻もいいよね……いかんいかん、邪念を振り払って、今は掃除に集中しないといけない。俺は自分に喝を入れた。
(邪ッッッ! 女の
「そういえば、すみれって高校の時は何してたんだ?」
俺は沈黙を埋めるために訊ねた。ついでに、久しぶりの再会なので、何をしていたか気になるし。
「うん? たーちゃんこそ高校の時は何してたの?」
「俺? 別に何もしてなかったな」
「そうなの? 部活とかやってなかった?」
「ああ、一年の時にタケに誘われて、剣道部に入ってたけどダルくなって辞めた」
「へえ、剣道に興味あったんだ」
「いや、そうでもないよ。だけど、タケが誘ってくれたから入ったけど練習が続かなくってな」
俺は苦笑いを浮かべた。
やっぱり辛いことを続けるってしんどいから部活を辞めたんだけど、どうしてブラック企業を続けられているのかはわからない。
「でも、今はちゃんと働いてるんだから私より偉いじゃん」
すみれは言った。
「だろう? 我を
俺は両手を広げると、すみれはわーっと拍手した。
「でも、私の方がもっと偉いもんね」
「どうして?」
「私の方がもっと働いてるー!!」
すみれはそう言って、掃除機をかけ始めた。
俺は指笛を吹いて、すみれを応援した。
久しぶりの内輪ノリだった。案外ちゃんと覚えているもんで、ちょっと感動して、懐かしくなる。ここにタケがいればタケが無理やり頑張っていない内容を言ってオチを作ってくれるのだけど……。
(タケは何してるんだろう?)
「それよりも、ソファーの下からこんなものが出てきたけど、捨てておこうか?」
すみれが持っていたものは新しく買ったエロゲだった。
(なんでだ!? アイツだけゴキブリみたいに逃げ回っているのか?)
「おい! どうしてそれを!?」
俺は彼女が掴んでいるエロゲを取り返そうとするが、すみれがひょいひょいと華麗に避けるので、掴めない。
「たーちゃん。元剣道部のくせに動きが機敏じゃないね」
「うるさいな、はやく返せよ!」
そうこうしている間に足を滑らせて、思わずすみれの方に倒れかかってしまった。
「おわっ」
「ひゃん」
俺たちは、ソファの上で重なり合ってしまった。
流れる気まずい沈黙。すみれは顔を真っ赤にさせて硬直していた。
俺は頭が真っ白になった。彼女は中学生のころから成長し、体つきが明らかに大人になっていることを間近で感じたので、心臓が跳ね上がった。
「いやっ、その私は……そういうこと、したことないっていうか……心の準備がまだできてないっていうか……」
突然、スマホに電話がかかってきた。
「あっ、ごめん、電話だ」
俺は電話のおかげで空気を変えることができてホッとしていた。
着信は公衆電話からで、出ると女の声がした。
―来週の土曜日。市民病院。動画の件で話がある―
「は? どちら様ですか?」
相手は何も答えずに電話を切った。
「?」
「どうしたの?」
「いや、動画の件で話があるから市民病院に来いって言われて一方的に切られた」
「なにそれ、イタズラ電話じゃないの?」
すみれは眉を顰めた。
「かもな」
俺は釈然としないまま、台所の掃除に戻った。
そういえば、すみれの高校時代の話を聞いていないが、また今度でいっか。今は掃除に全集中、掃除の呼吸!!(元ネタ知らんけど)
§
今日撮った、ブラックドッグの討伐動画を投稿すると、再生数が瞬く間に増えてゆき、コメントもたくさんついていた。特にブラックドッグが豆柴に変化したことに、癒されている視聴者が多いらしい。
その内、コメントの中に、日本考古学研究所の相沢のものがあった。
(アイツ。本名でアカウントを登録してるのかよ。アホかな)
相沢:我が国の至宝とも言うべき聖域を貴殿のようなド素人のクソ迷惑系YouTuberが踏み荒らすべきではないと思います。あまつさえ聖域を踏み荒らしているのに加えて、動物をダシにして再生回数を稼ごうとする魂胆が意地汚くて、私は好きではありません。低評価の方をクリックさせていただきました。それでは、貴殿の今後のご活躍を心よりお願い申し上げます。
俺はマウスを思わず叩きつけそうになったが、かろうじて、腕を止める。
(鎮まれ俺の右腕ッッ!! ……誰が迷惑系YouTuberだよ。おまえの方がよっぽど俺に迷惑かけてんじゃねぇか。それになんだよ貴殿、貴殿って……おまえでいいだろ。それに今後の活躍なんて一ミリも願うつもりなんてないのに、コメントにまで書き込むなよ。ああ、クソムカつくな)
「おお、動画すごい伸びてるね」
すみれが自分のスマホで俺の動画を確認していた。
「すごいじゃん。流石たーちゃんだ」
すみれは尊敬の眼差しで俺を見つめた。
(……こいつ、俺のこと全肯定してくれるな)
俺は怒りを忘れて、気持ちよくなった。
「だろ? ちょっと本気出したらこんなもんだよ」
俺はイキって、ちょっと格好をつけた。
(そうだ。誰がなんと言おうと、俺の動画の再生回数に勝てないのだ……やれるもんなら、やってみな)
「つーか、すみれはいつまでここに住むんだよ?」
「ん? そうだね……」
すみれは顎に人差し指を当てて考えた。
「誰かが私のことをお嫁さんにもらってくれるまでかな」
すみれはへへっと照れ笑いをした。
「まあ、俺ならいつでも夫の練習相手になってやるよ」
「もう、察し悪いよ……」
「何が?」
「知らなーい」
すみれはそっぽを向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます