第24話 秋の森の探索

 季節は過ぎて秋を迎える頃

 相変わらず野うさぎは姿を現さず、少しずつ野ねずみも姿を見なくなってきた。

 野ねずみは繁殖力も高い。それが森の中にもいない。

 うさぎはいる。

 だから、肉に困ることはない。

 ただ、何かがおかしい。


 野ねずみがいなくなって、畑を荒らされることがなくなったと農家の面々は喜んでいた。

 肉に困るわけでもないから多くの村人は気にしなかった。

 グリューやジールも、いないならいないでうさぎを狩ればいいだろうと言っていた。

 だが、森の中の野ねずみや野うさぎがいなくなるのは一体なぜだ。


 ハルは気になっていた。

 長くこの村で狩人をやっていた。

 だから、この村の野うさぎの多さは嫌というほど知っている。

 うさぎやねずみは繁殖力が高いから、罠を仕込むと驚くほど引っかかったこともある。

 それがいなくなる?

 確かにカイの狩りは見事だが、いなくなるほど狩ってはいなかった。


 カイも気になっていた。

 カイはこの村に来てまだ一年と少しだが、去年の秋の野うさぎと野ねずみの多さは憶えている。

 実際に森に入って気配を探れば嫌というほどいた。

 だが、これが森の恵みでもあるので獲りすぎないように気をつけて狩っていたのだ。

 むしろ今年の春先はオオカミも減って、野うさぎは増加していた。

 それが夏から急に減った。

 オオカミたちは平原のうさぎをたまに追いかけるようになって、本当に森の中に野うさぎも野ねずみも減ったのだろうと思われた。

 ハルに言われて森の中に罠も仕掛けた。

 たまに野ねずみが捕まっていたが、捕まったであろう野ねずみを何かが食べたような跡もあった。

 オオカミや狐、熊が捕食することもあるだろう。

 だが、それとは違う何かの痕跡もあった。明らかにオオカミや狐の牙の跡ではないし、熊が食べ散らかした跡でもない。

 それが気になっていた。

 ハルからも何かが起こっているのではないかと言われている。

「何か」がおかしいのはわかっているが、「何」がおかしいのかがわからない。


 毎日森に入る。

 狩りをしない日も森に入る。

 多分何かがいる。今までいなかった何かがいるんだと思う。

 それは一体何なんだ。




 秋の日は短いし、森の変化が気になるところだが、村長のダリルとの戦闘訓練は月に一度続いていた。

 今日はダリルとの手合わせの日。

 カイはあらかじめカッツ、グリュー、ジール、ドリンにお願いをして、今日の西門担当のロンにも依頼をした。

 今日の手合わせは弓を使うので、街道や西門の外の花畑はいいが、森の方には来ないで欲しい。


 そして、ダリルと二人で森へ移動する。

 その間も索敵をして、花畑の方に人がいないかを確認する。

 いつも花畑の手入れをしている人たちも今日はキャロという野菜の収穫で村中の人が手伝いに行っている。だから、今日は西門の外の方に来る村の人はいない。

 こちらに来るとしたら狩人見習いのカッツか、俺とダリルさんの訓練を見に来るグリュー、ジールぐらいだ。

 だから、今日ダリルさんにお願いした。


 森の入り口にからくり時計を置く。

 ただ、今日はセットしない。


「今日は使わないのか?」

「ダリル村長」

「どうした?」

「許可をもらいたい」

「…」


 村長が無言でこちらを見ながら話を続けるようにうながす。


「村長と約束してから、俺は一度も使っていない。だけど、最近の森の様子は異常だ。ここで使わないと俺はきっと後悔する」


 村長にも何度かハルさんが意見を言っていた。

 俺が見つけられない異常を元ダイバーの村長なら見つけられるかもしれない、と。


「二週間ほど前にのぉ、儂も森の中に入ってみた。カイとハルが異常を感じていると聞いてな。確かに野うさぎはおらんかった。野ねずみもな。この森で野うさぎを見ないのは儂も初めてかもしれん。だが、何の異常も見つけられんかったわ」

「村長でも?」

「あぁ、何も見つけられんかった。だが、何かはおるの。この地に今までおらんかった何かがの」


 村長も気になって森の中を歩き、地面についた跡を探ったらしい。だが、これといった痕跡をみつけられなかったという。

 俺と同じだ。

 だが、オオカミ、きつね、熊の気配がそれほど変化したようには思えない。

 野うさぎが減ると言うことは、何かしらの捕食者がいるはずだ。

 野うさぎを食べて、野ねずみを食べる何かが。


「カイ、お主が力を使ったとして、見つけられるのか?」

「正直、一年近く使っていないから、どれだけ使えるかわからない。ただ、俺たちの目の届かない何かを見つけられる可能性はある」

「そうか」


 そういうと村長は森の奥に向かって歩き始めた。


「街道から見えるところはまずいだろう。もう少し中に入るぞ」

「いいのか?」

「むしろこちらからお願いしたい。今回に限り、腕輪の話は無しだ。このまま放置する方がまずい」

「わかった」


 俺とダリル村長は森の奥に入る。

 普段ならハルとノアがつけた印にそって森に入り、白い布がついた大木までが狩人以外が入れるエリア。

 そこからさらに先に入り、赤い布がついた大木まではハルとノアの狩りの範囲。

 ここから奥には二人とも入らないようにしていたという。

 ダリル村長はその赤い布の木を越えてさらに森に入る。

 もう街道は全く見えない。

 少しずつ奥から水音が聞こえる。


「もう少し先まで行くとイケーブ川の川沿いに出る。川に沿って川下に歩けば森を抜けて村の北の川沿いに出る。もっとも途中に滝があるから、下流から上流に向かうのは難しいが、滝の辺りまで行けば村が見える程度に外縁に近くなる」


 ハルたちが作った道がなくなり、獣道を踏み分ける。

 川に向かって動物たちが歩く道なのだろう。

 熊の跡がある。

 少しガサガサと音を立てて川に向かう。

 川の方で何かが逃げていく気配がした。

 ここで向かってこられると非常に面倒なので、逃げてくれるならありがたい。


 川沿いまで来て、一度気配を探る。

 ここまで深い森の中で気配を追うのは初めてだ。

 どうやらさっき逃げていったのは親子のオオカミらしい。

 母親と子供だろうか。

 川の上流の方に行ったようだ。

 どうやら野うさぎがいないから川の魚を食べようとしていたようだ。


 他に何か気配、これは…きつねうさぎか?

 きつねうさぎは賢くて気配を消すのがうまい。

 きつねよりもよほど見つけにくい。

 きつねうさぎがまだいることに少しほっとする。


 だが、野ねずみや野うさぎはいない。

 あとはきつねが二頭

 川の中には魚が数匹

 森の入り口の方に何か気配があるが、あれはうさぎか?

 ここから森の入り口を抜けた平原の方は気配が薄い。

 それだけ何もいないのかもしれない。

 逆に森の奥は気配が雑多だ。それと大きな木のうろに鳥がいる。

 グリグリ鳥だろうか。

 あんなところに巣を作るのか。

 だが、あの巣は熊に狙われそうな位置にあるな。

 どうやって逃げているんだろう?


「カイ、どのぐらい見えたか?」

「森の入り口の方にうさぎが数匹ときつねが一頭、川の上流方面に親子のオオカミ、あと魚が多数、もう少し奥に熊がいそうだな。下流方面にいのししが三頭、親と子供が二頭だな。それからイノシシのすぐそばの穴の中にきつねうさぎが一匹、きつねうさぎのいる木の上の方にグリグリ鳥の巣がありそう。このぐらい」

「ふむ、儂より少し狭いだけだな。ずいぶんと索敵範囲が広い。森でそこまで見えるのであればからくり屋敷でも通用しそうだの」

「本当か?」

「ああ。ダイバーになってもそこそこいけるだろうの。今後も訓練するといい」

「ありがとう。で、村長はどこまで見えた?」

「カイとほぼ変わらんが、川上の熊のさきにはシカがおるの。それときつねうさぎの巣はかなり広くて、奥にもう二匹おるようじゃ。それとグリグリ鳥の巣があちらのほうにも複数有るの」


 さすが、村長。俺よりも索敵範囲が広い。

 そんな村長でもわからないのか。


「さて、カイ、儂はしばらく背を向けておる。儂は何も見ん。こちらに近づく獣もおらん。存分にやれ」


 そういうと村長は俺に背を向けた。

 俺は森の奥に向かって片膝をつき、地面に両手で触れる。

 そして相棒を呼ぶ。



 焔舞

 …承知。久しいの。力を振るうのは。



 魔力をゆっくりと放出する。

 細く細く紡ぐ。

 紡いだ細い糸のような魔力を網のように自分を中心に半円球状に展開していく。

 村長の方にはいかないように。

 ゆっくりと半球を大きく、大きく広げていく。


 森の中、川の中、地面の中、木の上。

 半球状の魔力は地面の奥にも広がっていく。

 木の上にも。

 そして少しずつ遠くへ、遠くへ。


 地面の下には俺の知らない世界があった。

 縦横に広がる穴

 木の根に沿うように

 時に木の根をくぐって、複雑な穴が開いている。

 これは野ねずみの巣か?

 だが、野ねずみはいない。

 これほど広いのであれば相当な数の野ねずみがいたと思うのに。


 きつねうさぎの巣も広い。

 村長が言うように奥に子供がいた。

 親が穴の途中で見張っている。

 かなりの警戒度合いだ。

 俺の魔力が一瞬触れそうになるとピクッと動いて子供の方に向かっていった。

 親が子供の首を加えて手前に連れてくる。

 もう一匹も。

 かわいそうに。俺の魔力に触れてこの巣は安全ではないと考えたようだ。


 だが、それでよかったのかもしれない。

 きつねうさぎの子供のいた部屋の方に向かって別の穴が伸びようとしている。

 元々は奥にあった野うさぎの巣から、きつねうさぎの巣に向かって穴を掘っている奴がいる。

 これはなんだ?

 そいつも俺の魔力に触れると慌てて後退していった。

 だが、こいつが気になる。


 地面の下

 俺たちから見えない巣穴

 巣穴の多くがなぜかつながって巨大な巣穴になっている。

 あのきつねうさぎの巣も巨大な巣穴にもう少しでつながりそうになっていた。

 そして巨大な巣穴の中には野うさぎも野ねずみもいない。

 土の中に新たな捕食者が現れている。

 そいつが野うさぎと野ねずみを食べているのか。


 索敵範囲をさらに広げる。

 どんどん広げていくが、空っぽの巣穴が広がるだけだ。

 時折新しい巣穴。

 小さな巣穴にいるのはきつねうさぎ。

 きつねうさぎは巨大な巣穴につながらないように逃げているようだ。


 すると、そのとき逃げるきつねうさぎの親子を見つけた。

 地下の巣穴を必死で逃げている。

 子ウサギも後ろをついていく。

 早い。

 きつねうさぎは捕食者から逃げられるのか。

 だが、その逃げる先の出口にはオオカミがいる。

 俺は少しだけ魔力を動かして出口のオオカミに魔力で触れる。

 オオカミはびくっとするとその場を離れた。

 そしてきつねうさぎの親と三匹の子供は巣穴から出て逃げていった。

 だが、そのあたりでどこを掘ってもあの巨大巣穴にぶつかるだろう。


 俺は巨大巣穴に絞って魔力を伸ばしていく。

 何がいる?

 何だ?

 さっき触れたものは。

 こいつが野うさぎと野ねずみの捕食者だ。

 巣穴の奥へ奥へと逃げていく。

 こいつを退治するには巣穴に水でもいれればいいか?

 いや、逃げる、時折、穴を掘って横の穴に逃れながらすごい速度で逃げていく。

 この速度で巣穴に横から接近して子から先に食べたな。

 親は逃げて、逃げた先で子を産んでもこいつにまた食われたな。

 その割には小さい。

 こいつだけじゃないはずだ。

 この細さ

 これは蛇か?

 だが、蛇が穴を掘るか?

 と、そいつが止まった。

 いったんこいつを確保する。


 探索用の魔力を土壁に沿わせ土で実体化させる。

 そのまま土を硬質化させて網の形にしてそいつを捕まえる。

 繊細な魔力操作が難しい。

 土を操るのはあまり得意ではない。

 焔舞はその名の通り、火や熱を操るのが得意な精霊だ。

 実体化させた土を操るが、そいつがすり抜けそうになる。

 少し魔力の形質を変えて熱を起こす。

 熱でそいつを誘導する。

 逃げる先はさっきのきつねうさぎの出口。

 川の少し上流側。

 だが、そいつは地面から出ようとしない。

 これ以上近寄せると燃えてしまう。


 と、村長が動いた。

 川上の穴のそばに行くと穴に手を突っ込んでそいつを引っ張り出した。


「村長」

「カイ、こいつはイゴールモニター。トカゲの一種だ。こいつはまだ小さいがな」

「トカゲ?トカゲが土の中を掘り進むのか?」

「イゴールモニターだけではないはずだ。こいつは共生関係にある。こいつは穴の中を素早く動けるし、地面も多少は掘れるが、穴をよりうまく掘るのはこいつと共生関係にあるデビルウィーセル。いたちだな」

「こいつもずいぶんうまく土を掘って俺から逃げていたぞ。イタチ?」

「イゴールモニターは長く土を掘ることが出来ないからな。カイからは逃げ切れまいて。こいつは野ウサギや野ねずみの内臓を好んで食べる。そしてイゴールモニターが食べない野うさぎや野ねずみの肉を食べるのがデビルウィーセルだ。こいつらが出ると野うさぎや野ねずみが全滅することがある。そして、野うさぎや野ねずみが全滅するとオオカミや熊が互いに食い合い、やがてその森から出て別の森に移動する。その大移動は災害に匹敵する。だから、こいつらを見つけたら即座に討伐することが大切だと聞いている。だがな…」

「だが?」

「こいつらはこの辺りにはいないはずなんだ」


 村長が言うには、イゴールモニターもデビルウィーセルもイケーブ地域にはいない。

 もっと南のロイヴェ地域とホールエ地域にいるとされていた。

 ロイヴェ地域とイケーブ地域の間にはロイド山脈とロブ湖があり、ロイド山脈とロブ湖の間を抜けて北上したとしたら、イケーブスよりもっと南の森が先に被害に遭うはずだ。

 今居るこの森はイケーブスの北にあり、イケーブスから少し離れた南の森はイケーブコ、イケーブフ、イケーヴォの村が見ているはずだという。


「その三つの森に異常があったとは聞いていない。南の森からうさぎが戻ってくるときに一緒に来たのかもしれないが、そうだとしたら、南の森はすでにやられているはずだ。だが、そんな話は来ていないのぉ」


 イケーブ地域にいないトカゲとイタチ


「カイ、こいつを捕まえたときの状況を教えてくれ」


 俺は穴の中を脱げるこいつを魔力で追跡していたら急にこいつが止まったことを村長に話した。


「デビルウィーセルを逃がすために囮になったな…デビルウィーセルを捕まえないと穴を掘られて、また野うさぎや野ねずみがやられる。カイ、穴の奥をもっと探索できないか?こいつらが一組とは限らない」


 そう言われて俺は再度魔力探索を始める。

 先ほど追い込んだ穴の先、その穴の先は分岐している。

 その一つ一つに探査の網を広げる。

 魔力を細く、細く、そして無数に分岐させる。

 穴の奥へ、奥へ

 それぞれの穴はやがて地下の大きな岩に当たり、一つの大きな穴になる。

 大きな岩に隙間が空いている。

 雨が作ったのかもしれない。

 亀裂のような穴が岩に空いている。

 かなり大きい岩に空いたこの隙間も大きい。

 その中に・・・いる。一匹ではない。


「イゴールモニターは五匹いる。それと、これがデビルウィーセルなのか?こいつら…二十は居るな。二十四か?」

「多いな。野うさぎと野ねずみが全滅するわけだ」


 その大きな穴の中には一つのコロニーが出来ていた。

 デビルウィーセルが野うさぎと野ねずみの作った穴につなげ、イゴールモニターがさらってきて、コロニーで殺して食べる。

 そういう仕組みが出来ている。

 今まさに野ねずみの一家が三匹のイゴールモニターに連れてこられ、イゴールモニターに喉笛をかみ切られ、食われている。


「カイ、手段は問わない。そいつらを全滅させられるか?」

「手段は問わないんだな」

「手段は問わない」


 ここだけなら簡単だ。

 狭い岩に空いた穴

 穴自体は頑丈だが、魔力の糸は穴の中に這わせ終わった。

 穴の向こう側に漏れがないかを確認する。

 奥にもう一組居るな。

 そいつらの奥まで魔力を伸ばす。

 その先にも穴は続いている。


「村長、穴に集中する。周辺警戒を任せていいか?」

「任せよ」


 半球状の魔力の空中部分を消す。

 地表と地下に集中する。

 ぐんっと魔力が伸びる。

 穴の奥の方には出口がある。

 出口の先にもう一組、いや二組居る。

 その二組のそばのはを揺らして二組を穴に潜らせる。

 そして奥の出口を塞ぐ。

 出口も多い。

 野うさぎや野ねずみの巣につながっているからだ。

 だが、地表側の魔力を切って地下に集中したおかげで、すべての穴の奥まで一気に魔力を行き渡らせる。

 出口が多いが、この穴のすべてに魔力が巡る。

 たまたま穴から外に出ている奴らがいたら見落としもあるかもしれないが、この巣の中にいる奴らはすべて魔力の網で囲った。


 燃やす!


 焔舞に俺の意思が伝わる。

 そして、一気に穴の中は焔に包まれた。


「カイ!この森は水源を守り、命を育てる森だ!木は燃やすな!」


 穴の出口から火が漏れたのを見て、ダリル村長が叫ぶ。

 わかっている。

 細かい火の調節は焔舞の得意技だ。

 木の根は魔力で保護している。

 奴らは逃さない。

 穴からは空気を送り続け、そこから抜けようとする奴らは風の塊で再度穴の奥に押し込みながら燃やし続ける。


 やがて、イゴールモニターとデビルウィーセルは燃やし尽くされた。

 後には何も残らなかった。

 すべては穴の中で灰になり土に帰っていった。


 俺は再度地表に広く魔力を這わせ、穴を見つけては中に魔力を伸ばす。


 いた。

 野うさぎだ。

 こっちは野ねずみ。

 その巣穴の奥に不審な穴がないか探る。

 無い。

 きつねうさぎたちはうまく逃げていた。

 野うさぎや野ねずみは森の奥で生きていた。


 さらに探る。

 奥に一頭

 これはデビルウィーセルか?

 風の刃で切りつける。

 こいつは地表にいたから、そのうちきつねが掃除してくれるだろう。


 俺の索敵範囲にはもう…いや、さっきのデビルウィーセルの連れがすぐ横の穴の奥にいそうだな。

 だが、届かない。

 少しだけ森の奥に入るか。


「カイ?」


 急に立ち上がった俺に村長が声をかけてくる。


「俺の探索範囲の奥ぎりぎりにデビルウィーセルがいた。その横に穴があるから、その穴まで索敵したいが、ここからでは届かない」

「どっち方面だ」

「あっち」


 俺と村長でさらに奥に入る。

 そして、奥の穴でイゴールモニターをみつける。

 これは夫婦か?

 卵があるな。

 よくこの卵をデビルウィーセルに食われないものだ。

 共生関係にあると卵も守られるのか。


 だが、この夫婦も卵も燃えてもらう。

 魔力をさらに伸ばすと北の端をすぎて魔力が森の外に出た。


「ここから森の北の端までみたが、もういない。あとは西だ」

「森の北の端まで探索したのか。それはすごいのお」


 そう言いながらも西に走る俺に軽々とついてくる。

 この森の西側はどうだ?

 西の方には…いないな。

 もっと西にいるかもしれないが、そこまでいくとイケーブエの方が近くなる。


「イケーブスの範囲までは多分索敵できたと思う」

「どこから奴らは来たと思う?」

「多分南か北だ。ここから西には居ない」

「南か、北か…南…じゃろうのぉ」


 ふぅ

 俺は息を深く吸って吐いた。


「今日はここまでだ。俺も少し疲れた。明日もう一度探知をかけようと思うけど」

「儂は今日しか時間がとれん」

「明日は西から始めて東の方へ行くことにするよ」


 そう言いながら、二人で森を駆ける。

 先ほどの探知の影響でこの森の中はほぼ把握できた。

 村長もここまでの経路で探索していたようだ。まったく迷い無く俺の横を走っている。


「イケーヴォとイケーブコに鳩を飛ばす。南の森もやられているかもしれないからの」

「そうだな。南の森のバランスが崩れていないといいんだが」


 そう言いながらいつもの森の出口まで戻ってきた。


「ところで、カイよ」

「なんです?」

「こんな風に疲れているときに襲われたときの対応練習にちょうどいいとおもわないか?」


 その一言が頭の中に染み渡って、意味を理解すると同時に俺は村長から距離をとった。


「いい反応だのお。まだやれるのではないか?ん?」

「鬼か、まじかよ」


 ふふっと笑った村長は


「もちろん、真剣だとも。疲れているときにどれだけ動けるか把握しておくのは大事なことじゃての。それとここからは魔力は無しじゃ」




 その日、村に帰った俺は門番のロンの顔を見た瞬間に倒れたらしく、ロンがダンとジールとグリューを呼んでくれて、みんなで病院まで運んでくれたらしい。

 ダリル村長は、やり過ぎだと医者の先生に怒られたらしいが、ちょっとした訓練じゃよ、カイも思ったよりも軟弱者じゃの、と言い残して、普通に村長としての仕事をしに役場に戻ったらしい。

 まだまだ村長には適わない。



 後日、村長が飛ばした鳩の返事が返ってきた。

 南の森で、デビルウィーセルが発見されて、大規模な森狩りが行われた。

 ただ、土の中は探索が仕切れず、イゴールモニターの天敵とされるアナグマを連れてきて追い立てたらしい。

 結果、イゴールモニターもデビルウィーセルも居なくなったが、アナグマにまでやられて野ねずみも野うさぎもほぼいなくなったらしい。

 そのアナグマはオオカミと熊に捕食されたそうだ。


 イケーブスの北の森は俺と村長が奴らを退治してから少しずつ野うさぎと野ねずみが増え始めて、少しずつ生態系が戻りつつあるが、捕食者であるオオカミ、きつね、熊の数を減らさなければ野うさぎも野ねずみも増えないし、鳥たちもうさぎやねずみの代わりに捕食されて数を減らしつつあった。

 そのため、オオカミ、きつね、熊を積極的に狩り、野うさぎや野ねずみの代わりにシカやイノシシの肉を村には納めるようにした。オオカミやきつねや熊を減らしたことで魚も取れるようになり、野うさぎ肉が減った分を穴埋めできた。

 森の中のバランスをとるのは難しく、野うさぎや野ねずみが増えるまでは下草を狩るといった手入れも必要だった。

 だが、少しずつ少しずつ野うさぎも野ねずみも増え始め、森の動物たちのバランスはどうにか取れ始めたように見えた。


 春の終わりからおかしかった森は秋の終わりには元に戻りつつあった。

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