第19話 迷宮都市とは

 イケーブスの村は新年を迎える前に雪が降り始め、年の明けた日も大雪でみんな新年の祭りどころではなく、家や馬車に積もった雪の対処に追われていた。

 イメルダの隊商ともう一つこの村で冬越えをするテリーザという女商人の隊商はそれぞれ新年の祭りで店を出す予定だったが、それも延期となり、その代わりに春になったら、大規模な祭りをしようということになった。


 今日も雪を下ろして、畑につけた小屋根を確認し、庭の小屋の屋根の雪も下ろした後、オーロと二人で怪我をして立てないハルの家の雪下ろしをして、さらに狩人通りの空き家の屋根の雪も下ろした。

 へとへとになったが、空き家の雪下ろしをすると村長からわずかだが報酬をもらえるので、その報酬を俺は『樹木と暖炉亭』に寄ってノンナさんに渡してシチューを買ってきた。オーロはイメルダに渡して、オーロ用のエールと俺用にイケーブシュで仕入れたというピチリのジュースをもらってきてくれた。

 そしたら、なぜかイメルダも酒を持って、俺の家にやってきた。


「カイ、あんたこの村に来てから、誰か人と剣の訓練をしたかい?」


 夕食のシチューを食べ終わり、俺はジュース、イメルダとオーロはそれぞれ自分用の酒を飲んで一息ついたところで、イメルダがそんな風に聞いてきた。


「いや、狩人のハルさんは怪我してるし、グリューとジールには拒否された。だから、今は素振りとかカッツと一緒に弓の練習だけだな」


 この村に来たときにグリューが斧を使うと聞いたので、木斧と木剣で訓練しないかと言ったのだが、俺が早すぎて訓練にならないだろうと拒否された。

 ジールにも同様に断られ、ドリンはグリューとジールよりも狩りとか戦闘は苦手だからと言って受けてくれなかった。

 あとは門番のダン、ロン、コウ、ギンなんだが、カッツの相手ならいいけどカイは駄目と四人全員から断られた。


「カイ。それなら冬の間、ギリーと剣の訓練をしな」


 ギリーさんはイメルダの隊商を護衛している護衛隊の副長さんで、前にも少し稽古をつけてもらったことがある。


「あんた、今のままだと迷宮都市のダンジョン41階にいけそうにないからさ」

「41階?」

「そう。いい機会だから、迷宮都市のダンジョンの話をしようかね」




 迷宮都市

 この世界の中心都市で、文字通りそこにはダンジョンがある。

 ダンジョンの入り口はダイバー組合の奥に設置されている。

 というよりダンジョンの入り口の上にダイバー組合の建物が建てられて、組合に登録しないと中に入れないような仕組みが大昔に作られた。

 なので、ダンジョンにダイブしたいものたちはダイバー組合に加入して、ダンジョンの中に入っていく。


 ダンジョンの低層は五つのタイプに分かれているが、未経験者が最初にダイブすると大抵平原エリアに落ちる。

 ダンジョン内では外で見ないような魔獣と呼ばれる敵が襲ってくる。


 平原エリアの一階には角の生えた角うさぎがいて、初心者は襲いかかってくる角うさぎを討伐しながら下に降りる階段を探していく。

 平原の1階から2階に降りる階段の途中で外に戻ることが出来るが、次にダイブするときには1階と2階の間の階段に行くか、森林、岩場、水場、迷宮のどこかに行くかを選択できる。

 森林1階にはグリーンスネイク

 岩場1階にはスポンジゴーレム

 水場1階にはスライム

 がでてくるが、迷宮だけは特殊で迷宮に潜ると、1階で角うさぎ、グリーンスネイク、スポンジゴーレム、スライムがランダムで襲ってくる。


 これは二階以降も同じで、平原、森林、岩場、水場には決まったパターンの魔獣しか出てこない。

 魔獣は一種類というわけではなく、たとえば、平原9階層ではホフゴブリン一体とゴブリン三の混成部隊が出てくるが、混成部隊が出てくると決まっている場合はゴブリン単独とか、ホフゴブリン単独は出てこないようになっている。

 そして、迷宮だけは同じ階層の他のエリアで出てきた敵がすべてランダムで襲いかかってくる。迷宮九階層ではホフゴブリン一体と岩場で出てくるミラーゴーレムの混成部隊がでてくることもある。


 この平原、森林、岩場、水場、迷宮をノーマル下位ダンジョンと呼んでいる。

 下位ダンジョンは20階層までで、平原、森林、岩場、水場、迷宮のいずれかの20階に到達するとエクストラダンジョンが解放される。

 エクストラダンジョンは墓場、からくり屋敷、塔、研究所、宝物殿と呼ばれていて、このからくり屋敷で俺たちが今使っているからくり時計がドロップするらしい。

 また、エクストラダンジョンでは迷宮のように他のダンジョンの敵がでてくるような場所はなく、それぞれ全く別の敵が出てくるという。


 このエクストラダンジョンのいずれかを10階まで進むとノーマル中位ダンジョンが解放される。

 中位ダンジョンの最初の階層に21階と書かれたプレートが置かれているらしく、ノーマル下位ダンジョンに続く階層だと考えられている。


 中位ダンジョンの地形は溶岩、洞窟、砂漠、海底、迷宮の五つのエリアで、下位ダンジョンと同じく、溶岩、洞窟、砂漠、海底では決まったパターンの敵が出てきて、迷宮には同じ階層の溶岩、洞窟、砂漠、海底で出てきた敵がランダムで出てくる。

 溶岩エリアに行くためには平原20階をクリアしていないといけない。

 洞窟エリアに行くためには森林20階をクリアしていないといけない

 同じく砂漠エリアに行くためには岩場20階を、海底エリアに行くには水場20階を。中位の迷宮エリアに行くには下位の迷宮20階をクリアしていないといけない。


 中位ダンジョンは21階から40階まで続いている。

 が、中位ダンジョン30階から31階に行くためには特定のエクストラダンジョンをクリアしないといけないし、中位ダンジョン40階まで到達して、その上にいくためにはまた別のエクストラダンジョンをクリアしないといけないとなっている。


 そして、41階は採集エリアと迷宮しかない。

 40階に最短到達するには平原を20階層クリア、墓場20階クリア、溶岩エリア40階層クリアの順だと言われている。

 だが、溶岩エリアの先の41階は薬草エリアと呼ばれる採集エリアしかなく、その先に42階はない。

 同じく、洞窟エリア40階クリアしている場合、41階は伐採エリア、砂漠40階クリアしている場合、41階は採掘エリア、海底40階をクリアしている場合、41階は釣りエリアとなっている。

 ここを最終目的地として、採集で生計を立てるダイバーも多い。

 42階にいくためには迷宮エリアを40階までクリアし、エクストラダンジョンの30階をクリアして迷宮の41階をクリアしないといけない。迷宮エリアだけはそのまま50階まで続いているし、その先も続いているらしい。




「結局、1階からずっと先まで続いているエリアは迷宮しかないんだよ。ダンジョンが何階まであるのかわからないし、この先も途中で分岐して迷宮以外のフロアができたりするらしいが、途中で必ず迷宮エリアしかない階層が出てきて、その階層を進むためには迷宮エリアの階層を進めておくしかない。このダンジョンの中心は間違いなく迷宮エリアで、だからダンジョン都市と呼ばずに、迷宮都市と呼ばれているんだよ」


 イメルダはお酒のせいかいつもより饒舌で、いろいろ思い出しながら迷宮の話をしてくれた。

 そうか。ダンジョンがあって、ダンジョンダイバーと呼ばれているのに、迷宮都市であってダンジョン都市ではないのはそういう意味だったのか。


「イメルダはどこまで到達したんだ?」

「あたしはだいたい50階と言っているが、実際は47階クリアで48階到達だね。ここの村長のダリルは41階だよ。採掘エリアでレアメタルを発掘して資金を作ってこの村に戻ってきて、村のためにいろいろ投資して、村長になったんだよ。あたしも時々迷宮都市に行ったときは採掘と薬草採取は行くね」


 47階クリアか。

 41階で終わる人がいることを考えるとかなり高い方なのか?


「前に俺は40階まではいけると言っていたが、41階にいけなさそうなのは何かあるのか?」

「そうだね。カイなら下位の20階層はどこでも楽勝、エクストラダンジョンも墓場か宝物殿なら20階層はいけると思う。中位も、そうだね…溶岩か洞窟なら40階層までいけるとおもうけど、その先の41階に行くために必要なエクストラダンジョン30階層が厳しいと思うね。」

「そうなのか?」

「エクストラダンジョン21階層から30階層では対人戦がある。人型魔獣だよ。カイは狩りをしているから普通の獣タイプの魔獣なら、狩りの要領で狩っていけるだろう。だけど、対人戦経験が少なすぎる。仮にエクストラダンジョン30階層をクリアしたとして、迷宮41階層に出てくるのはアサシンだ。あたしの気配すら読めないカイなら瞬殺されるよ」

「…なるほどな」


 対人戦、それもアサシンか。相手が対人戦の専門職過ぎる。

 俺も里にいた頃はリーザに鍛えてもらったり、デュークやディルと剣の練習をしたり、少し間合いの違う相手と言うことで、イータの長槍に剣で対抗したり、それなりに鍛えていたが、里の頃は魔法を使って良かったから、お互い身体強化をかけて遠慮のかけらもなくやり合っていたからな。それも里に白の癒やし手がいたからで、癒やし手なしで人を切りつけるのは少し躊躇してしまう。


「カイは、人と訓練する場合と獣を狩る場合とで、全く違う動きをすることは知っている。だけど、迷宮に行くのであれば潜んでいる相手の気配を読むこと、相手の先をとること、フェイントに惑わされないことは必須だよ。木剣でもいいから誰かと訓練をしな。あとオーロともね」

「オーロと?」

「オーロの獲物は弓と鞭だよ。どちらも動きを読みにくい武器だからね。森の奥、誰も来ないところまで行って、オーロと全力でやりあってきな」

「オーロ、頼めるか?」

「…仕方ないな」


 オーロは里を出てから魔法を使っていないと言っていた。

 俺のために使わせるのは申し訳ないが、森の奥、誰も来ないところでオーロと全力。

 少なくとも身体強化はお互いにかけてやり合えるだろう。


 この冬、有意義な訓練が出来るといいのだが。

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